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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第415話 久々のネスとの開発談議

 ふと目が覚めるとまだ真っ暗だ。昨日は意識を失うように寝てしまった。布団にはリズが潜り込ませてくれたようだ。手探りで机の方に向かい、スマホを探り出し、画面の明かりで燭台を見つける。蝋燭に明かりを灯して窓に向かう。開け放つと清冽なひんやりとした空気が入り込む。太陽が昇るにはまだ時間がかかりそうだ。空は薄く雲がかかっているが、雨が降りそうな感じでは無い。四月六日は曇りかな。


 そのまま燭台を持って厨房に向かうともう既に活気に満ちていた。あぁ、皆もうこの時間から働き始めているか。そう思っていると、見覚えの有る料理人がこちらを見つけてくれる。


「あ、タロちゃんとヒメちゃんのご飯ですね。少々お待ち下さい。先程狩られたイノシシが入ったので。切り分けます」


 そう言うと、イノシシの肉と未処理のモツを切り出してくる。猟師さん、朝から動いている人もいるのか……。アストもこっちに来たら大変かも。


「と、これもですね。ちょっと時間が無いので、肉が付いていますが」


 身がへばりついた大腿骨を出し出してくる。あぁ、これは喜ぶ……。


「ありがとう」


 声をかけて、厨房を出る。


 燭台を片手に部屋に戻る。皿に分けて骨は隠しておく。

 皿を箱の中に置いて、二匹の顎の下辺りをこしょこしょする。ふにゅんとした顔をした後、目を覚ますと目の前にでんと肉が有る。はっはっと息を荒げしっぽを振る。

 待て良しをして、食事となる。


『イノシシ、モツ、うまー!!』


『イノシシ、モツ、ある!!』


 まだ未処理のモツなので、内容物もそのままだ。狼は草食動物や雑食の動物の消化した物を食べて、必要な栄養素を補うと聞いたので、そう言う意味では未処理のモツは嬉しい一品なのだろう。暗い中で瞳を爛々と輝かせながら、噛み千切っていく。はぐはぐと食べ終わり、満足って顔をするので水を生み飲ませる。落ち着いて、グルーミングをしようとし始めるのに割り込んで背後からひょこっと骨を覗かせる。


『ほね!!かむの!!』


『ほね、好き!!』


 グルーミングもそっちのけで、渡した大腿骨に夢中で噛みつく。肉が残っているのでペロペロとしゃぶってこそいだり、牙を当てて剥したり色々工夫しながら楽しんでいる。そうやって二匹を見ていると、窓から少しずつ光が差し込んでくる。夜明けかな。


 ベッドに近付き、リズの頬にそっと触れる。もちっとした肌をふにふにしていると、リズの目が薄く開く。


「ん、ヒロ。おはよう。昨日大変だったよ」


「おはよう、リズ。何だか知らないけど、寝ちゃった?」


「パタンって寝ちゃって起きないから、もうそのままお布団に入れたよ。大分疲れてたの?」


「かもしれない」


 リズが少し呆れ顔で言った後に、ふっと微笑む。


「ん。頑張っているからしょうがないけど、あまり心配させないでね」


 リズがそう言うと、こちらの肩に腕を回し、キスをした後、そのまま引きながら立ち上がる。

 

 朝の準備を終えて、朝食に向かう。

 食事を食べながら聞いたが、皆は、引き続き訓練のようだ。『認識』先生に聞く限りはきちんと成果は出ているので、継続して欲しい。私自身街中での『警戒』、『隠身』は効率が良いので、なるべく使うようにしている。


 朝食後、リズと一緒に部屋に戻り、外に出る準備を進める。

 タロとヒメは大腿骨の肉を削ぐのに一旦満足したのか、グルーミングを続けている。


 リズはフィアが声をかけて来たので、そのまま外出していく。

 私は久々のネスとの再会にわくわくする。


 執事に外出の旨と昨日処理した決裁済みの書類を手渡す。カビアに渡して最終的に処理してもらう流れだ。

 そのまま玄関から出て、工房の方へ歩いていく。馬車を出すほどの話でもない。歩いても数キロがお腹を凹ますには必要な距離だ。


 てくてくと歩き、がやがやと賑やかな雰囲気になってくる。作業前の腹ごしらえと言うのか、屋台が立ち並び、そこで職人達が朝ご飯を買って食べている。汚れた皿はひとまとめにして、持ち帰って洗うのだろう。シチューとパンの組み合わせが圧倒的に多い。


 喧噪の中を歩き、一際大きな工房の玄関の扉を叩く。見覚えのある、少年と言って良い年齢の若者が出てくる。用向きを伝えると、そのまま応接間まで案内される。ふふ。作業場で応対されていたのが懐かしい。


「おぉ、来たか!!」


「お久しぶりです、ネス。ご機嫌は如何(いかが)ですか?」


如何(いかが)も何も、ご機嫌だ。設備は最新、水車も水量が有るから出力も安定するし、歯車の変更、停車もスムーズだ。言う事は無い」


「良かったです、喜んでもらえて」


「こんだけの設備だ。結構高かったろ?」


「技術系の長が何を細かい心配をしますか」


(ちげ)()え。今日はどうした?」


「あぁ、新しい物の開発をお願いしに来ました。一点は急ぎ、一点は遊びです」


 図面を二枚渡す。


「お前さんの遊びは当てにならんがな……。んー。これは荷台か? それに矢にしては小さい。短剣と言う訳でも無い」


「建物の中で重い荷物を運ぶのに使う荷車ですね。それに、遊び用の玩具です」


「玩具の方が人気が出そうだな……。んー。この荷車の足の部分。前の方は良いが、後ろ、これ刺さるのか?」


 コロの部分か。


「あぁ、それ、無理矢理嵌めちゃって下さい。そうしたら、横に回転するようになります」


「んん? あぁ、それで方向転換させるのか。良く出来てんな」


「侍女達が重い物を持っているのを見るのは忍びないですから」


「それにこっちは矢と言うか、かなり短いな。一応羽根は付いているけど、あれか、クロスボウの流用か?」


「はい。問題は無いかと。大きければ小さめに型を作りなおせば良いかなと」


「ふぅむ。分かった……。で、ここなんだが……」


 そうやって、久々の技術談議に花が咲く。あぁ、やっぱりネスとこうやって開発の話をしているのが一番平和で楽しいな。

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