第413話 新しい御者さんは婚活美女でした
部屋に戻る途中で、ノーウェを案内していた執事とすれ違う。どうも報告が有るらしい。
ばたばたしていたので、きちんと話が出来ていなかったので、そのまま一緒に部屋に戻る。
ネスの件はドルに聞いたので知っていたが、テディも三月末の段階で到着して現場に入ってくれているらしい。フェンと協力して順次、宿関係は掌握してくれているようだ。どこかで会いに行くか、来てもらうかしよう。
それと、ノーウェから新しい馬車と御者も送られたらしい。これは早く言って欲しかった。御礼も言っていない。見送りの時にお礼言わないと。御者ってどんな人なんだろう……。後はロスティー領からジャガイモが送られてきたので、農家に渡して植えてくれたらしい。ロスティー領から来た農家の人が育て方は知っているので任せてしまって問題は無い。ただ、時期的に少し遅い。確か日本でも春植えで二月辺りの筈だ。この遅れが収穫にどの程度影響を与えて来るのか、少し気になる。収穫量が少ないなら、そのまま種芋にしてしまっても良いかな。どうせ三か月程度で収穫の筈だし。
報告を終えると、執事が一礼して去っていく。
ふぅと二人揃って息を吐く。
「皆、集まって来たね」
「そうだね。様子も見に行きたいけど。色々やらないといけない事も有るし、どうしようかなって感じかな」
「ヒロ、いつも忙しそうだしね。私達に手伝える事は有る?」
「『リザティア』関係ばかりだから、大丈夫かな。どちらかと言えば、訓練の方に注力して欲しいと言う思いも有るかな。特に『警戒』と『隠身』に関しては慣れて欲しいし、範囲を広げて欲しい」
「戦いが有りそうなの?」
「現状では無いけど、将来は分からない。オークの動向も有るしね。何か有った場合に、手段は多く持っている方が良いと思う」
「うん。どちらにせよ、訓練はしないと太っちゃう。ヒロ、料理上手だから」
「私と言うより、アレクトリアの方だと思うけどね。私も動かないと、もっと太っちゃうかも」
「でも、あまり食べてないし、忙しそうにしているし……。少し痩せた? 顔が結構ほっそりした気はするよ」
「本当? 自分だとあまり分からないから。そう言われたら、そうなのかな」
「ふふ。程々が維持出来れば良いと思うよ」
そんな雑談をしていたら、ノックが聞こえる。声をかけると、ノーウェが出るらしい。リズと一緒に扉を開けて、玄関ホールの方に向かう。途中で仲間達も合流してくる。玄関を出ると、馬車が停められ、ノーウェが政務の人間に何かの指示を出していた。
「ん? あぁ、見送りかい? 忙しいのにありがたいね。また近々訪問するよ」
「いえ。お構いも出来ず申し訳無いです。馬車も頂いたと聞きました。ありがとうございます。まだ、実物も拝見出来ていないですが」
「はは。忙しい身だから、しょうがないよ。気に入ってくれると嬉しいね。さて、そろそろ出るよ。次は父上の帰還の際になると思う。それまでは壮健で」
「はい。ノーウェ様もお体にはお気をつけて」
「お風呂だっけ? 領地に帰ったら何とかしてみるよ。あれで温もれば、風邪もひかないだろう?」
「湯冷めをすると風邪をひきますので、ご注意下さい」
「はは。それもそうか。じゃあ、色々有ったけど良い風にまとまりそうで良かった。歓迎も嬉しかったよ。また会おう」
そう言うと、馬車に乗り込む。
御者が、ロータリーをゆっくりと巡り、領主館から、広場の方へと進んで行く。その姿が見えなくなるまで、皆で手を振っていた。
「帰っちゃったね……」
リズが少し寂しそうに言う。
「居ると楽しい人だからね。寂しくなっちゃうね」
そう言って肩を抱き寄せる。ぽてんと肩に頭を乗せて来るので、その上に頭を乗せる。
「さて、皆、訓練でしょ。行っておいで。後、レイ。馬車の件、先程聞いたけど、実物の確認と御者の紹介をお願いしたいんだけど」
「畏まりました。今は馬の世話をしているようです。呼びますか?」
「いや、出向くよ。仕事の邪魔をするのも悪い」
「分かりました。では、参りましょう」
仲間達はがやがやと連れ立って、中心の方に向かって歩いていく。カビアは海の村の報告書と旅の間の決裁待ち書類の山の処理に向かった。
領主館の厩舎の方にレイと一緒に向かう。
「昨日の段階で確認はしました。昔の教え子です」
レイが先導しながら言う。
「教え子と言う事は斥候団の人間なのかな?」
「はい。馬の世話も有りましたので、まだ挨拶程度です。あぁ、いました。おーい、テスラ。男爵様がお越しだ」
見ると、ティアナと同い年くらいの女性が馬にブラシをかけていた。こちらを見ると、慌てて、身繕いをして、向かってくる。
髪は赤でショートにしている。すらりと細身なのに、胸元だけが妙に豊かだ。顔立ちも整っているし、軍人さんと言うより、女優とか言われる方が余程納得出来る。
「初めまして、男爵様。テスラと申します。以後、よろしくお願い致します」
「初めまして。アキヒロです。女性とは思っていませんでした」
「斥候団では男女の差はさほど問題にはなりません。そう言う意味では、女性がかなりの割合を占めています」
レイの方を振り向くと、こくんと頷かれる。
「三年程前から引退まで教練を受け持っていました。優秀です……。個人的には王家が手放したのが不明です」
レイが若干分からないと言う顔でテスラを見る。
「教官にはお伝えしていなかったですが、元々ロスティー公爵閣下の領地出身です。今回の募集要項に引っかかったので良い機会かと思いまして希望しました」
テスラが元気に返事をしてくる。
「良い機会?」
「新しい町となれば、住人も新規入植者ばかりです。出来れば素敵な出会いが有ればと思っております」
うわー、ぶっちゃけた。安定した職業より婚活目的か!!
「結婚したとしても仕事の方が優先です。それは基本としてそれを許してくれる相手を探せればと考えております」
はぁぁ……。何と言うか、何故、こう、女性ばかり集まるか?まぁ、男性は男性で普通に仕事が有るし、女性の方が余っちゃうのかな。どうしても体力面では差が出る部分は有る。スキルが有れば補えるけど都合良く生える物でも無いし。でも、女性が御者か……。雨の日とか居たたまれない気がする。レイは無理をするタイプだけど、女の子に無理させるのか……。
「男爵様。こう見えても、一軍を率いての軍事行動の経験も有ります。生粋の軍人ですので、あまりお気になさらない方が良いかと」
レイがこちらの表情に気付いたのか言ってくる。
「テスラ、あの時は最終四百だったか? 一年前のオーク部隊の殲滅作戦の時は」
「そうですね。輜重と斥候の管理も行っていましたから、最終的には七百弱は率いています」
「そう言う意味では、男爵様が想定されている軍機構の将校と考えて頂ければと思います。少なくともそこらの軍人よりは余程経験は積んでいます」
レイが太鼓判を押す。はぁぁ……。また女性が増えるのか……。皆と仲良くしてくれれば良いけど。
「分かった。これからよろしく頼む。後、馬車が新型と聞いたけど」
「はい。そちらに関しては今後教官が主にお使い下さい。こちらです」
厩舎横に行くと、今まで使っていた馬車よりも長い馬車が停まっている。板バネの改良と言っていたので、車軸の方を見るが、バネ部分の積層の組み方が全然変わっている。これ保守性下がっていないのかな……。
「板バネの部分に関してはひとまとめで取り換えが可能となっておりますので万が一の際にも、交換は容易です」
気にしているのに気付いたのか、テスラがフォローを入れてくれる。あー。ユニットとして一式取り替える方式にしちゃったか。積載量増えたって言うから、その辺りも力技にしちゃったのかな。それ以外の部分に関しては大きな変更は無い。幌馬車のデザインもシルエットも大きく変わる事は無い。
「居住性はかなり向上しているかと考えます。また、今後は飼い葉を積載出来ますので、最終的な移動距離は飛躍的に伸びると考えます」
馬車一台を荷物に回せるのは大きいよなぁ。その上で積載量が増えた馬車が増えたんだから。ありがたいと言えばありがたいか。
海からのお土産も、結構量は厳選した。昆布が多いし嵩張るし、塩は塩で結構重い。海との接続を考えても有りか。
「分かった。出会いに関しては何とも言えないけど、レイも問題無いと言っているので、今後ともお願いする」
「畏まりました。今後ともよろしくお願い致します」
そう言って、テスラと握手を交わす。女性陣がまた厚くなる……。先生、男性が欲しいです。思考の端で少しだけ嘆きながら、新型馬車の変更点の説明をテスラから受けた。
「では、私も馬の世話を行います。ここまでご足労頂き、ありがとうございました」
「ありがとうございました」
二人が頭を下げてくるが手をひらひら振って答える。
「気にしないで。馬の世話の方よろしく頼むね。じゃあ、領主館に戻るよ」
そう言って、来た道を戻る。さて、馬の世話をするなら馬車は出せないか。温泉宿の方と鍛冶屋の方は明日で良いかな。
取り敢えず廃油の件はさておき、溜まっている書類の処理と、タロとヒメの散歩をしないといけないかな。そう思いながら、てくてくと歩く。