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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第410話 どんなに優しそうな人でも憤怒相は持っています

 ノーウェと今後に関して雑談しながら、暫くしてハーブティーを飲み終え、席を立つ。


「と言う訳で、向こうも責任のなすりつけ合いで険悪になっているでしょうし、そろそろ終わらせてきます」


「あぁ。男爵側の人間の意味とか不明な部分も有るしね。良いよ。着いて行く」


 レイを連れて、改めて、尋問室に入る。ごく少量の血液が飛び散ったと言っても、それなりに血臭が漂う。


 改めて、両者の間、背後に立ち、告げる。


「で、どちらが、どちらの死体を背負って帰る?」


「こいつが死ねば良い!! 私は伯爵様にお仕えせねばならん!! この生き物に価値は無い!!」


 デブが叫ぶのを細身が呆然と見る。


「ふむ。君に聞きたい事が有る。きちんと答えてくれれば、今後の対応を考えよう」


 細身の方に腰を落とし、目線が合うようにして、話をする。呆然としていた顔に生気が戻る。あぁ、人を蹴落としてでも生き残りたい時の人間の目だ。職位の査定会議で見たよりももっとねっとりとした目だけど。


「今回、何故、君は同行したのかな? 伯爵側の人材だけでもこの襲撃計画は実施出来た筈だよね」


「はい。元々人魚の子供の餌として魚を上納させていましたが、ある日を境に人魚共が消えました。海の魚は金になるので、伯爵閣下に相談したところ、先程の話の通り調査を行ってくれました」


「ふむ。その調査結果が出たとしても、襲撃犯と君に接点は無いだろう? 何故ここまで一緒に付いてきたのかな?」


「男爵様よりは伯爵様の部下の方に同行し、お世話をしろとの命令を頂いております」


 点数稼ぎの腰巾着要員か。


「男爵領の人魚の子供は今はどうしているのかな?」


「あの気持ちの悪い混血は教会にひとまとめにして管理しています。村に入れておぞましい人魚が生まれたら困りますので、飼い殺しです。死んでも誰も困りません。食い扶持が減る分村の皆は喜ぶでしょう」


 それを聞いた瞬間、握りしめていたナイフの柄がぴきりと音を鳴らす。『剛力』は出さないようにしていたのに、力を籠め過ぎた。


「まだ、死者は出ていないのかな?」


「教会の連中が最低限の食事は渡しているようです。死者の報告は上がっていないです。人魚の子なので、住民申請もしていないですし税金の対象にもならないですが、金蔓にもならないので、そろそろ処分を検討する時期だと考えます」


 そう聞いた瞬間、目の前が真っ白になり、ばきりとナイフの柄を割り砕く。中に通っていた鉄芯の部分も完全に曲がっている。

 ノーウェの方を向くと、ノーウェも難しい顔をしながら、小さく頷く。死者が出る前に早急に救出しなければならない。

 これが人間か……?醜いな。日本でも偶に思想に傾倒した愚者は見たがどいつもこいつも醜かった。それと同じ下種の臭いがする。(おぞ)ましい。


「ありがとう。また、聞く事が有るかも知れない。楽にして欲しい」


 頭の中で別人格が勝手に適当な返答を羅列していた。正直、沸騰しそうな怒りを面に出さないだけで精一杯だ。深く息を吸い、吐いて落ち着きを取り戻す。

 デブの方に向き直る。


「で、お前だ。あれは諜報員でもかなりの手練れだった。そんな人材を何故動かした?」


「たかが男爵の村を潰すのに、金がかけられるか。諜報員風情でも動物の扱いには慣れている人間だったからな。北の方でも獰猛なのを買ってきて、調教させた。死んでも動物一匹だ。それに恐れをなして護衛が強化されれば、それだけで無駄金が増える。安い買い物だ」


 あー。この馬鹿、人的コストなんて全く理解出来ていないな。成功すればラッキー、失敗しても動物一匹の代金で済むお手軽テロとでも思ったか……。

 あのレベルの諜報員、しかも捕らえられた段階で情報漏洩を恐れて死を選べるだけの覚悟を持った人材だ。こんな無駄に散って良い人材じゃ無い。諜報員教育や訓練にどれだけの金がかかっていると思っているんだ。それも、民の血税だぞ。文字通り、血の一滴だ。沸騰した頭で残った短剣一本で首を描き切ってやろうかと一瞬考えた瞬間、肩を掴まれる。振り返るとノーウェが静かに首を横に振る。あぁ……。落ち着け。我を失っていた。


「じゃあ、これ以外に動いている策は無いのか?」


「男爵如きが何を偉そうに。町と村だけだろ? その村への経路が途絶えたら村は終わりだ。その時点で管理不行き届きにより男爵の資格は喪失する。後は管理が出来る人間が残っている設備を接収してやれば良い。東の果てだ。誰も手を挙げないだろうしな。伯爵様はお優しいのでな。こんな辺境でも予算が付いている限りは面倒を見て下さるそうだ」


 あぁ、この町がどのような思想で設計されて、何を敵と想定しているかも理解していないのか、この親玉は。ただ、通常時の倍以上付いている予算に目が眩んでいるだけか。しかも横領する気しか無しか……。

 この世界に来て、人と会って、神と会って、どこか優しい幸せな世界って誤解していた。優しくて幸せなのは皆が努力した結果だ。人間にはこんな生物も混じっている。盗賊の時は特別と思っていたが、何の事は無い。当たり前に、屑も存在する。ただそれだけの話だ。


 はぁぁと深い溜息を吐く。聞きたい事は聞けた。


「後の処遇はノーウェ子爵様に任せる。追って沙汰は出る」


「ははははは。男爵風情が、やはりこの程度か。ノーウェ、お前も伯爵様には逆らえまいて。今回の件はしかと覚えた。今後、こんな甘い対応をすると思うなよ、全力で叩き潰してやる」


 デブが吠える。その顔をノーウェが鷲掴みにして、にこやかにぎりぎりと締め上げる。


「おいおい。呼び捨ては酷いじゃないか。こっちも内定では伯爵。君のところの上司と同位だよ? あまり舐めた口は叩かないで欲しいな。後、名前なんだっけ? あまりに無能で覚えてないけど、伯爵領は没収するし、一族郎党皆殺しにするよ。存在する価値が無い。後は、男爵の方だっけ? 民に罪は無いかなと思っていたけど、今の話だと、更生は無理っぽいね。可哀想だけど町と村一つだよね。うん、消えてもらう」


 ノーウェがそう言った瞬間、二人の顔が一気に青褪める。


「ノーウェ子爵様、そのようなご無体、陛下がお許しになられるとは思いません」


 デブが慌てて、捲し立てる。その瞬間、普段にこやかなノーウェの顔が憤怒に変わる。


「下郎風情が今上陛下を語るな! 恥を知れ。貴様らの行いは国の大事を邪魔するばかりか、陛下の思いその物を踏みにじる行為だ。それを陛下がお許しにならない? 貴様らの存在こそが陛下の御心を乱す、害意そのものだ。死して詫びろ」


 そう言い放つと、いつものにこやかなノーウェに戻り、手を放す。


「と言う訳だから、君達は一時こちらで預かるよ。今後、保守派の人間がうちの領地やアキヒロ領に近付いた場合は問答無用で殺害処分とする。これに関しては、即時陛下に奏上する。今回の件で、問題行為を行う事が証明出来たしね。良かったよ。大きな問題が起こる前で」


 そう言いながら、ノーウェが二人の肩をぽんぽんと叩く。


「今まで美味しい思いが出来て良かったね。十分に罪を償うと良いよ」


 そう言ってこちらに目配せして、部屋を出る。私も後を追い、ふと振り向くと、憔悴しきった二人が俯き、身を震わせていた。虚しいな。そう思いながら、そのまま部屋を出る。


 再度応接間に戻ってきて、ソファーに座る。


「さて、時間が無い。人魚の子供達に関しては、急ぎ救出しなければ危ない」


 ノーウェが真面目な顔で言う。


「はい。あの調子ではいつ害されるかが分かりません」


「民までは腐っていないかと思いたかったけど甘かった。あそこの領民は保守派の各地に散らせる。町と村の設備だけを接収してテラクスタ伯爵に任せるよ。時期的に微妙だけど、人は確保できる筈だ。彼も有能だしね。その見返りに、即座に人魚の子供達を救出、確保してもらう。まずはそこまでだ。弱っていれば癒えてから、君の海の村に移動させる。それで良いかな」


「はい。人魚さん達も喜ぶでしょう。一番大事な時期を離れ離れに暮らしたのは悲しい事ですが、出会う事が出来るのなら、まだ少しは救われるでしょう」


「ふふ。救われると良いね。後の件は父上が戻らないと、実際の対応は難しいかな。実行犯はこちらで一旦囲うし、今後領地に保守派が入った時点で報告が上がるように諜報を調整しておく。煮るなり焼くなり好きにして良いよ。侵入禁止の件は鳩を飛ばす。これに関しては、絶縁状と同じだし、明確に害意が有るのが発覚したので書面で済ませられる。これで保守派は国外に道沿いに出る事は出来なくなる。清々した」


「そうですね。もうなりふりを構っている暇はなさそうですし。しかし、陛下の件は珍しいですね。あのようなお顔、初めて見ました」


「あー。恥ずかしい。君も分かっているだろう。陛下には前王陛下の件で、返しても返しきれない借りが有る。その上で、陛下は国を豊かにする為に日夜奔走されている。それをあんな毒虫が名を語ると考えただけで駄目だ。でも、父上に知られたら感情抑制も出来ない愚か者って言われるから、内緒だよ」


「いえ。いつも表情を見せられないので。格好良いかと思いますが。子として見習いたい思いです」


「やめてくれー。君、そう言うところ、根性悪いよね。本気で内緒だよ?」


「分かりました。では、人魚さん達の子供の件はお願いします」


「テラクスティスカへの鳩は念の為持って来ている。書状はすぐに出す。これと進入禁止の件が成れば、最低二件は話が進む。処罰含めての残りは父上が戻られてからだから。父上もトルカとノーウェティスカへの鳩は持って行っている。近付けば知らせてくれる筈だから、それに合わせて、ここに戻ってくるよ」


「では、二件の方はお願い致します」


「うん、急いで対応するよ。あぁ、昼は楽しみにしておくね」


「はは。分かりました。アレクトリアと調整致します」


「ありがたい。それを楽しみにさっさと仕事を終わらせるよ。じゃあ、領主館に戻ろう。政務と調整をする」


「はい。急ぎましょう」


 そう言って、レイを引き連れ、馬車に向かう。人魚さん達の子供が無事でありますように。そして、再会して幸せな暮らしが出来ますように。

 それだけを何かに祈り、馬車に乗り込む。

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