第409話 通商路破壊目的のテロ活動でした
『リザティア』の入り口、南門の横に衛兵の詰め所と警察設備が建築されている。馬車を駐車場に止めて、私とノーウェ、レイで門衛に事情を説明したところ、ノーウェを知っている人間が即座に応接室に誘導してくれる。
「少々お待ち下さい。暴れるので、拘束しております」
衛兵が困る程に暴れているのか?不審な顔に気付いたのか、誘導してくれた人間が否定する。
「いえ。訳の分からない罵詈雑言を叫んでは、設備を殴る蹴るを繰り返すので、拘束しました。万が一も有りますので、尋問もそのまま行って頂きます」
聞くだに会いたくない人種っぽい。疚しい事が無ければ大人しくしておいて、後で訴えるなりなんなり、この世界なら可能だ。領主が間違っている場合も多分に有るので、重犯罪の現行犯でも無い限り、きちんと弁護人が付いた状況で裁判は行われる。重犯罪の現行犯でも、証人の正当性はきちんと確認される。前の盗賊の件も、現行犯で貴族を襲った盗賊を捕縛したのをノーウェの部下が確認したから、確保、移送が出来ただけだ。厳密には抵抗行為が見られたので、処刑できる権限までは有するが、使う気が無かったのとどちらにせよ引き渡しで済むと考えたからだけど。
「お待たせ致しました。用意が出来ましたので、ご案内致します」
そのまま誘導の人が尋問室に誘導してくれる。
部屋に入ると、壮年の細身の男性と同じような年齢の太った男性が二人、椅子に拘束されている。手足も紐で縛られている。ただ、紐の間に布が噛まされていたりと、結構な対応だ。気を遣われるくらいなら暴れないで欲しいなと思いながら、頷くと誘導の人が猿轡を外す。と同時に意味不明な奇声を上げ始める。なんだ、これ。全く翻訳が機能していない、意味が不明だ。ノーウェの方を振り向くと首を振られる。あぁ、理解不明なんだ。
「貴方達は収賄容疑で拘束されています。現状認識は出来ていますか?」
そう問いかけると、太った男性の方が口を開く。
「男爵風情が、訳の分からん事を抜かすな。この拘束を外せ。そして急ぎ伯爵様に連絡を取れ。このような無礼が通るか。即刻この領地ごと潰す」
あぁ、こっちが伯爵の部下の方か。で、未だに喚き散らしているのが男爵の部下か。
「はい。こちらが収賄に関わる、証書です。二人のお名前と罪状が記載されています。大変恐縮ですが、即時処断の対象です」
「うるさい、黙れ。拘束を外し、自由にしろ。伯爵様に連絡を取れ。聞いているのか? 耳も聞こえんのか?」
あ、面倒臭い。あれだ、話を聞かない人間だし、こっちを舐めきっている。何を言っても無駄か。
しょうがないので、二人の間まで歩いて行って、懐から、ナイフを二本取り出す。
「そうだ、さっさと拘束を解け。追って沙汰は出す。だが、この領地は接収するし、お前は国から追放だ。命が有るだけありがたく思え」
何だか、ご機嫌で喋っているデブと細身の男の間に立ち、思いっきりナイフを振りかぶり『剛力』を全開にして、拘束された掌にナイフを突き刺す。ヅガンと言う音が部屋に響き、ゴキンと言う骨の砕ける音と、腕置きが軋む音が響く。ナイフは鍔まで刺さっている。正直最後に腕置きが折れないように手加減しちゃったけど、もう、折っても良かったかな……。
二人が一瞬何が起こったのか理解出来ない顔でいたが、掌に刺さっているナイフと痛みを頭が理解したのか、物凄い悲鳴を上げ始める。
「黙れ、糞。これ以上、口から糞をひり出すな。こちらの言う事だけに答えろ。それ以外と私が認識した場合は、再度刺す。何度も何度も何度もだ。終わりは無いと思え」
そう言いながら、抉ってからナイフを抜き、神術で傷を癒す。骨折も含めて、跡形も無い。
両者は目を見開き、こちらの方を見ていたが、何を勘違いしたのか、デブの方がにやっと笑って、叫び出す。
「はん。証拠も残せんか。もし指一本でも傷つけて見ろ。伯爵様が黙って……」
デブが何かを言っている瞬間に再度振りかぶり、ナイフを根元まで突き刺す。
「聞いていたか、糞。口から糞をひり出すなと言った。お前らが、糞をひり出す限り、延々これが続く。証拠が残せないんじゃない。ただ、痛みが新鮮であればそれで良いだけだ。過剰帰還に期待するな。幾ら休んででも続ける」
再度こじり、ナイフを抜き、神術で癒す。細身の方はどこか別の世界に旅立ったようで、物々と何か言っているが一旦無視しよう。
「この領地に入った理由は?」
「観光もくて……」
ヅガンと言う音と共に腕置きからみしりと嫌な音が聞こえる。引っ繰り返すか。抉り抜き、再度癒す。細身の方はごめんなさい、ごめんなさいと呟くだけになっている。
「この領地に入った理由は?」
「男爵如きに言う……」
ヅガンと言う音と共に腕置きからバキっとどこかが折れた音が聞こえる。傷を癒し、椅子を百八十度引っ繰り返す。
「この領地に入った理由は?」
「……」
無言になった瞬間、再度刺す。何の躊躇も無い。部屋の中は、その度に悲鳴が響き渡るだけだ。癒して、再度問う。
「この領地に入った理由は?」
「待ってくれ、まだ何も喋って……」
この期に及んでまだ糞をひり出すので、振り被る。
「話す。話すから待ってくれ」
デブが慌てた口調で懇願して来るので、一旦ナイフを下す。
「この領地に入った理由は?」
「伯爵様の命令だ。男爵領で飼育していた人魚が姿を消した旨の報告を受けて、調査を開始した。西側にも確認したが同じく姿を消した旨しか報告が来ない。テラクスタ伯爵様にも伺ったが、そもそもあそこは人魚とは不可侵故に存在そのものを知らんと言う。故により東と言う事で、お前の海の村に偵察を出したが、悉く姿を消す。人外の魔物と共謀し何らかの悪事を計画している。伯爵様はその正義の心で、この男爵領の接収及び人魚の殲滅を指示為された」
あー。なんだ、こいつ。これ、日本の政党でもこんな話している馬鹿いたな。正義とか笑う。
欲望しかないじゃないか。金回りが良くなりそうな男爵領が有るから難癖付けて接収したいだけだろ。人魚さんの話が後に出る時点で透けて見える。
しかも、飼育……か。
「で、村までの道に諜報員と猛獣を置いた理由は? お前らの指示だろ、あれ」
「……」
黙るので、再度ナイフを振りかぶる。
「待て!! 村への道はあそこしかない。襲撃を繰り返せば、護衛に人員と金を割くだろう。それが続けばいつかは負担となる筈。そうなれば、海側の村は立ち行かなくなる」
んー。護衛コストを上げて、海の村を干上がらせたいと。あそこに人魚さんがいるかもってだけで、人の領地に手を出してきた訳か。塩の件はばれていないなこれは。海の村は金食い虫だから、陸路をある程度邪魔されるだけできつくなると思い込んでの犯行だった訳か……。
「ふざけるな。お前らの諜報員は死んだ。その死体を担いで移動させたのも私だし、穴を掘って弔ったのも私だ。死体を担ぐ重さは知っているか? 知りもしない人間を弔う虚しさを知っているか? 選ばせてやる。どちらが、死体を担ぐ? 好きに決めろ」
そう言って、尋問室から、監視員だけを残して、応接間に戻る。
「さて、伯爵の指示と明確に言い出しましたが、潰せます?」
ソファーに座り、上座のノーウェに問う。
「潰せるよ。あそこの伯爵真っ黒だし、保守派の侯爵と折り合いが悪くてね、孤立している。王都近くだし、隣領は王家派の子爵だった筈だから陞爵させて、合併させちゃえば良いかな。王家派へも恩が売れるし。男爵領の方は、テラクスタ伯爵が接収しちゃうしかないかな。あそこ孤立しちゃうしね」
いとも簡単にノーウェが言う。
「その辺りの影響の吸収は大丈夫でしょうか?」
「父上が帰ってくれば、開明派としての対応が出来るから、可能かな。名代だとそこまでは無理。現状内定が出ていても子爵だしね。あの二人は暫く、こっちで預かるよ。いやしかしお見事。さっさと片付いて幸いだよ」
「しかし、これ以降もこの手の行為は増えるんでしょうか?」
「いや。事実が露呈したからね。開明派連名で、アキヒロ男爵領に手を出した場合一切の斟酌をせず、全面的に叩き潰すって形で、国中に投げておくよ。これを押してまで手を出してくるなら、全面戦争だね。一回膿を出しても良い頃だとは思っていたし、良いんじゃないかな」
ノーウェがにやにやと言う。はぁ。役者が違う。取り敢えず、ロスティーが帰るまではこの二人を預ける事にしよう。
しかし、飼うってなんだ。相手は人間だぞ?こんな事を考えている人間が同じ国に存在する事に虫唾が走る……。
「んー。悪い顔しているよ。清濁は黙って呑もう。その上で、しっぽ出した馬鹿は切っていけば良いさ。少しずつでも幸せになれるなら、まずはそこを目指そう。大きな変化は軋轢を生むだけだしね。積極果断に対処していけば、被害も最小限に食い止められる。こっちも何をしているのかは分かったから、対処の仕様も有るしね。君が焦っても仕方ない」
いつものノーウェの表情で諭された。若干納得のいかない部分は感じながらも、しょうがなく、お茶を飲みながら頭を冷やす事にした。