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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第406話 夢への原資

 町の入り口で簡単な検査を受けて、領主館に戻る。今晩は少し休んで、襲撃事件とノーウェとロスティーに対する塩のプレゼンの準備、それに溜まっている政務資料の整理かな。そんな事を考えながら、領主館前で手続きをしていると、見覚えの有る政務団の人間が駆け寄ってくる。


「領主様。ノーウェ子爵様が昨日より、領主館にて内密でお待ちです。お急ぎ下さい」


 耳元まで来て小声で囁かれる。あぁ、ノーウェを舐めていたかも。あんな手紙貰ったら、自分で走るか。迅速解決がモットーだしな。


「お食事の準備は町の門衛より先触れが参りましたので、進めております。皆様の分、ご用意可能です」


「分かった。ありがとう。用意を優先して。皆、自室に戻って。リズ、ドレスに着替えて……あぁ……風呂先に入っちゃうか。ごめん、先にお風呂に入るから、皆、順番に入って。お湯は変えないから、女性陣は綺麗に使ってね。流石にこのべたべたでノーウェ様には会えないや」


 そう皆に告げると、頷きが返る。皆もゆっくり風呂に浸かって食事でも食べて寝られればそれで良い。流石に、移動は疲れる。


 あまりお客様を待たせる訳にもいかないので、急いで部屋に戻り、下着と届けてくれたのか礼服一式がクローゼットにかけられていた。


「あれ。届けてもらったのか取りに行ってくれたのか……。お代どうしたんだろう」


 急いでリズと一緒に、浴場に向かう。途中で会った使用人に礼服の件を聞くと、先に仕上げてくれて持って来てくれたらしい。お代は、私の特許用の貯金から用意してた余剰金から支払ってくれたらしい。


「ありがとう。助かる。後、リズのドレス用に着付けの手伝いが出来る人間を浴場に向かわせて」


 急いでいるので簡単にお礼を言うと、深々と目礼し、使用人が去っていく。


 浴場に入り、栓をして、温めのお湯を一気に生む。皆が入る前に熱いお湯を足せば良い。汗をかいている暇は無い。

 リズと一緒に服を脱いで、お湯を浴びて、頭と体を洗う。リズの方は髪に時間がかかるし、私は汗を引かすのに時間がかかる。


「私、先に浸かっちゃうね。外で涼んでいるから、上がったら教えて。後の人用にお湯足すから」


「分かった。でも、忙しいね、帰って早々。ノーウェ子爵様も突然だね」


 リズが苦笑で酢を頭に広げながら、呟く。


「襲撃の件を手紙で投げたからね。政務をまとめて走ったら、丁度このくらいになるよ。と言うか、昨日から待ってもらっている方が心苦しい」


「うん、急ごう」


 先に、洗い終わった私が湯船に浸かる。瞬間、馬車の移動分の疲れがどっと出て、強烈な眠気が襲ってくる。昨日の夜営の時、中番だったし、来るなぁ……。緊張してても眠気が襲ってくるのは余程だろう。そう思っていると、リズが体を洗い終えて浸かってくるので、入れ替わりに出る。


「んじゃ、上がったら呼んでね」


 そう言って脱衣所で体を拭い、窓際で涼む。徐々に汗が引き始めたところで声がかかる。浴場への入り口にリズが立っているので、そのまま浴場に入って熱湯を足して、湯かき棒で掻き混ぜる。手を突っ込んで大体四十五度程度の熱めだなと言う温度にしておく。どうせ、なんやかんやで用意をしていたら、冷める。

 手を拭いながら、脱衣所に戻るとリズが侍女達に着付けられている最中だった。


「汗は大丈夫?」


「温めだったから、平気。ヒロは?」


「涼んで引いてきたから」


 そう答えながら、シャツを着て、ズボンを履き、礼服の袖を整える。まだ伯爵の正式任命は行われたって聞いていないから、子爵用のシャツと袖飾りで良い筈だ。鏡を見ながら、侍女に背後の確認をしてもらう。

 シャツの襟のもぞもぞが喉元に当たって気持ち悪い。普通のカッターシャツの方が楽だ。


 リズの方を向くと、ドレスは着終り、真珠のネックレスを着けている最中だった。


「綺麗だよ、リズ」


「ありがとう、ヒロ。でも、余裕有るね」


「無いけど、褒めたい時には褒める主義だから」


 浴場の方が応接間には近いので、扉の前で待っていてもらう。そのままホバーで駆けて、ロットの部屋をノックする。


「フィア、お風呂空いた。順番に入って」


 扉前で伝えると、中からはーいと言う声が聞こえる。そのまま自室に戻り、高価な布の包みを取り出す。

 そのまま、浴場まで移動しリズの前でざざっと滑る。足はこの世界に来た時に履いていた革靴だ。


「さて、行こうか」


 焦りを心の奥に隠し、ゆったりと鷹揚にリズに手を差し出す。しずしずとその手を取り、リズが廊下を歩む。応接間の前の廊下で執事が合流し、ノックの上、参上の旨を伝えてくれる。応接室の中から、懐かしい声で応答が聞こえる。執事が、扉を開けたそこには、相変わらずのニヤニヤ顔のノーウェがいた。


「お久しぶりです。ノーウェ様。ご機嫌は如何(いかが)ですか?」


「はは。相変わらずで安心したよ。うん。良いかな。報告の分は、ちょっと気になっているけどね。そう言えば、その服揃えたの? あぁ、この町に店を出したね。あそこ良いでしょ。王都のお気に入り。フェンに言って引き抜いてもらったら、店主本人が来たから驚いたよ。でも、王都に行くよりこっちの方が近いから、助かるけどね」


 一気に言い切る。相変わらずだ。苦笑を浮かべながら、席を勧める。上座のソファーに座ってもらう。同時に、グラスに入ったハーブティーを出してもらう。氷は先に侍女に渡しておいた。入浴で喉が渇いているし、もう四月だ。冷たい飲み物も乙な物だろう。


「君は本当に魔術士っぽくない魔術士だよね。冷たいお茶かい? んく……。うん、香りも高い。これ何かな? 私も知らない」


「カモミールとミント、レモングラスのブレンドです。そろそろ暖かくなってきましたし、爽やかな香りと冷たいお茶と言うのも良いかと」


「男爵如きの考える事じゃ無いよそれ。普通もっと汲々しているからね。君らしいけど。美味しい。葉が有れば持ち帰りたいかな。お願いして良い?」


「はい。後でお包みします」


 にこやかにアイスブレイクの雑談を楽しむ。別に無くても良いのだが、どうせ重い話になるのは見えているので、まずは軽い話からだ。


「相変わらず、リズさんも良く似合っている。こんな娘が出来るんだから、親冥利に尽きるよ」


 ノーウェがそう言うと、リズが恥ずかしそうに頬を染めて俯き、ありがとうございますと小声で呟く。


「いや。鳩が来た時は驚いたよ。襲撃に関してはあまり心配していなかったけど、いきなり人員増の願いかい? と言う事は?」


 ノーウェの言葉に合わせて、布の包みをテーブルに置き、解く。目の細かい麻の小袋の口を開くと中から、純白の粉が姿を現す。土魔術で小皿を生み、少量を皿に乗せてノーウェの前に出す。


「現物です」


 両者の喉を鳴らす音が静寂の中で響く。私の夢を叶えるのは、この合否の判断次第だ。ノーウェがそっと右手の小指を塩に触れ、口に含む。目を瞑り、舌を動かした後、大きく目を見開く。


「海から塩を取る。なんて言葉が有るけどね。手が届きそうな物に手が届かないって意味だけど、君は手を届かせちゃうか……。塩、だね。それも極上の塩だ」


 ノーウェが大きな溜息と共に、万感の思いを感じさせながら目を瞑る。


「君が塩ギルドから身を守れなんて言うから、本気なんだろうと思っていた。でもね、出来る出来ないで言えば、難しいかなって思っていたよ。人類の長年の夢だったからね。そうか、出来ちゃったか……」


「はい。お約束しましたから。ノーウェ様とロスティー様と共に語り合った夢の、その原資です。私はこれを以って、この地に夢を実現させます」


「はは。君の約束は重いね。どんな夢だって現実にしちゃうんだろう。分かった。増員の件、及び設備の増築は即時に対応する。生産予測は?」


「現在、三本の製造ラインで日産百キログラム超です。外部の枝条架の処理に合わして余裕を見た上で、ラインを増やすとします。これで最低でも十二本はラインを組めます。現設備での釜屋の増築で日産八百キログラム弱の予測です。無理をしたら、十八本までラインは増やせるでしょう。ここまでいけば晴れが前提になりますが。これで千キログラムは超えます」


 そう言うと、ノーウェが驚いた顔をする。


「おいおい、日産で一トン弱かい? 年間で三万人分くらいは余裕でまかなえるのかい、あの設備だけで?」


「はい。薪が供給される限り、永続的に塩は生産出来ます。半年もすれば、現地で薪は生産出来ますので、そこからはあの村だけで塩作りは完結しますね」


「岩塩鉱床なんて目じゃ無いね……。効率が良すぎるよ。ちなみに、枝条架って言ったっけ? 生産元の設備自体はどこまで増やせるの?」


「今の村の設計ならば、十棟ですね。なので、年間で三十万人分の塩はあの村だけで生産可能です」


「あはははははは。生産量の桁が違うね。効率もだ。東の国への関税自主権の件が本気で生きて来るのか……。村そのものの規模拡大は?」


「いずれ、あそこが塩の生産地とバレるでしょう。その時に防衛出来るだけの対応は必要となります。それさえ適えば、海沿いに無限大に広げられます」


「塩だけで、世界を制する事が出来そうだね。そりゃ、塩ギルドを敵に回す話になるか……。分かった。父上と調整を進める。まずは釜屋の増築と増員は急ごう。村の拡張自体は申し訳無いけど、人員が間に合わない。もしかすると、軍を駐留させた方が良いかもしれないからね。現時点では、守り切れる現環境を維持させて欲しいね」


 あぁ、やっぱりそこを見ているか……。この世界でも足を引っ張る馬鹿はいる。その馬鹿相手に甘い顔は出来ない。売られた喧嘩は叩き潰すしかない。


「しかし、これ、美味しいね。何だろう。塩は塩なんだけど、これだけで味を感じる。でも、何の味かと聞かれたら表現出来ない。でも、美味しい」


「そうですね。元々岩塩は海が固まった物が長い年月をかけて、塩味の部分以外を削り取られた結果です。海水塩はその削り取られた部分を含みます」


「それが、この複雑な味を作り出しているのか……。実際に料理にしたのを試してみたいね」


 ニヤニヤと笑いながら、ノーウェが言う。


「先程戻って来たばかりです。流石に今晩は無理です。まだ、少しは滞在されるでしょう? 明日の晩には塩の美味しさを感じて頂けるものを用意致します」


「それは嬉しい。いや、味見した瞬間から、これが料理になった場合にどうなるのか気になってね。実物が食べられるなら、僥倖だよ」


 そう言うと、ノーウェの表情が一気に剥落する。あぁ、ここからが本題か。


「はぁぁ、折角こんな美味しい物を完成させてくれた君には申し訳無いけど、馬鹿の話もしないと駄目だね」


 ノーウェが心底嫌そうに、口を開く。

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