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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第404話 本当の意味での塩職人の完成

 そろそろ夕ご飯の準備をしようかとリズと話し、プールの横を通ると、丁度人魚さんも食事の時間なのか、子供達を呼ぶ。名前を呼ばれた赤ちゃんや幼児はお母さんが分かるのか、真っ直ぐ泳いで行って、壁の辺りで掬い上げられる。お母さんがそのまま胸を曝け出して、乳をあげようとし始めるので、さっと仲間達の方を向いて、真っ直ぐ歩き始める。


「見た?」


 リズがぼそっと呟く。


「見てないし、前の時も不可抗力だよ。上に何も着ていないとか思っていなかったし。エッチな事は考えていないよ」


「私、そこまで言っていない。あまり言い募ると、(やま)しい事が有るみたいだよ」


「なーい。あの中に製塩所の人の奥さんがいるかも知れないのに、そんな事考えられない」


 そう言うと、少し、膨れていたリズの顔がにこやかに戻る。


「うーそ。ヒロ、そう言うのあんまり好きじゃないしね。でも、赤ちゃん、可愛かったね。ぱちゃぱちゃ泳いでいるのに、スイスイ動き回ってたね」


 その表情に、安堵を覚える。流石に謂れの無い罪を被せられるのは困るので、冗談で良かった。


「尾びれは形としてはもう出来ているから。それに海でずっと泳いでいたから、慣れているんだろうね。私はあまり泳ぎが得意じゃ無いから、羨ましいよ」


「私も少ししか泳げないかな。川では泳いだけど、そんなに広くも無いし」


「また、夏になったら泳ぎに来ようか」


「うん」


 そんな話をしながら、仲間の元に戻る。残っている材料を確認したが、全てまとめてしまって炒め物にしてしまった方が楽だと言う結論に達した。皆、炊きだしで疲労困憊だし、狩りに出る余裕も無い。


「じゃあ、さくっと作っちゃおうか」


 そう声をかけて、夕ご飯の準備を始める。具材に関しては、網焼き用の大きめに切っている具材を炒め物用に小さめに切り直してもらう。貝類はクロッシュで蒸して口を開かせると共に、うまみを含んだ汁を逃がさないようにする。

 網はドルが綺麗にタワシで洗い、また明日も使われる。フィアとロットに村に大麦のどっしりしたパンを買ってきてもらう。小麦の軽いパンに飽きた。砂糖もバターも無いのなら、大麦パンのあの酸味の方がまだ恋しい。油っぽい料理が並ぶなら小麦のパンも嬉しいが、魚介が中心だと軽すぎる。あのどっしりとしたパンと一緒に魚介のうまみを味わう方が良い。ついでに馬車で待っているレイも呼んでもらう。


 調理に使っていた焚火をまとめて鉄板の下に放り込む。ふわっと煙が上がった辺りでオリーブオイルを落とし、貝類を乗せて白ワインを振りかけてクロッシュで蓋をする。蒸し上がるまでに残っていた鳥と鹿を炒める。表面に焼き色が着いたら、野菜類を加えてしんなりした辺りでエビやイカ、魚の切り身、そして、蒸し上がって口を開いた貝をエキスごと一緒に混ぜ込む。最後に塩胡椒で味を調えて、完成。もう、手の込んだ料理も面倒なので、この程度で良いだろう。皿に盛り付けて皆に渡していく。


「じゃあ、今日もご苦労様でした。無事塩が出来たと言う事で、後は仕上げを待つだけです。もう四日程で完成です。それまでは炊きだしを続けようと思っていますが、大丈夫かな?」


 そう聞くと、リズが手を挙げる。


「揚げ物だけど、油が足りないよ。今の調子だと、三日目には尽きると思うよ」


 うん。揚げ物は気にしていた。どう考えても一樽だけだと足りなかった。


「本当はちょっと様子を見て、帰ろうかなと思っていたけど、塩が出来ちゃったからね。仕上がるまでとなると、しょうがないか。揚げ物は後二日で少し油は余裕を持たせておこう。他の料理にも使うしね。ベルヘミアさんには伝えておくよ」


 そう答えると、リズが頷く。


「他には?」


 皆が考え込み、首を振る。大丈夫そうかな。


「他はこのまま続けると言う事で。猟に出てもらっている二人には負担をかけるけど、引き続きよろしく。じゃあ、食べましょう」


 そう告げると、皆がフィアとロットが買って来たパンと一緒に海鮮焼きを頬張る。


「飽きる程味見した筈だけど……美味しいわね……」


 ティアナが呆れ顔で、海鮮焼きを口にしながら言う。


「新鮮な魚介はやっぱり美味しいよ。他の食べ方も有るけど、明日の漁次第かな」


 今回、並行して大量の昆布も干してもらっている。帰りは昆布臭くなりそうだけど、温泉宿のエステで使う分を考えると、幾ら有っても足りないだろう。あぁ、ちなみに、皆の顔に関しては潮風と太陽光も有ってか流石に艶々モードは終了した。帰ったら、絶対にまた行くって言っていたから、付き合う羽目になりそうだ。


 しかし、海鮮焼き、お昼も食べたけど、具材が少し変わるだけで印象ががらりと変わる。パンにエキスを吸わせて、少し酸味を感じながら食べるのも絶品だ。うまうまと食べて、夕ご飯は完了となる。


 人魚さん達も夕方の漁は終わって、皆食事は終わっている。いそいそと村の方に魚を持って跳ねているのは、きっと奥様方なのかな。若い子から少し年配の方まで幅が広い。後ろでは良いなぁと言う視線が突き刺さっているが、その辺りは早い者勝ちなのか文句を言う人魚さんはいない。


 焚火に砂をかけて火を消して、残光の中、テントに向かう。


 テントの中心の焚火に火魔術でさっさと点火して、お風呂となる。女性陣を先に入れて、男性陣が入り終わり、最後に私。


 洗い終えて、ざぷっと樽に浸かり、今日の出来事を思い浮かべる。塩は思った通りの物が出来た。あれならば、売れるだろう。後はノーウェとロスティーの味見に合格出来たら『リザティア』で流通を始めよう。後、タロとヒメ、今日は散歩に連れていっていない気がする。ちょっと魚とか食べ過ぎなので、運動させないと駄目かな。本当は夕方にでも散歩に連れて行きたかったが、プールとか作っていたら、行けなかった。明日は余裕が有るだろうし、連れていこう。虎さんがお風呂を気に入ってくれたのは良かった。濡れた虎さんの臭いも大分ましになったし、ふわふわになっていて、ちょっと可愛くなっていた。これからも、人魚さんと仲良く共存してくれたら嬉しいな。


 そう思いながら、樽から上がり、後片付けをする。


 テントに戻ると、リズが布団の中で待っていた。


「あれ、先に寝ていると思ったけど」


 タロとヒメをスヤァさせた時に欠伸をしていたから、先に寝ているとばかり思っていた。


「んー。中々一緒の時間が無いから。少しだけ一緒にいたいなって」


 リズがちょっと俯きながら、上目遣いで言ってくる。あぁ、可愛い……。


「ごめんね。中々時間が取れなくて。もう少しのんびりするつもりだったんだけど。リズにも、タロとヒメにも悪い事しているね」


「ううん。領主の仕事だから、しょうがないよ。だから、ちょっとだけ、ね」


 そう言って抱き着いてくるリズを抱きとめて、そのまま布団に潜りこむ。海に来てからの色々な事を話合う。人魚さん達の事もずっと観察しているので、リズの方が詳しくなっている。そんな雑談をしていると、こくっこくっとリズが舟を漕ぎ始める。そのままゆっくりと撫でながら、寝かしつける。


 私は布団をそっと抜け出して、時計を確認する。本焚きの終了まではもう少しかかるかな。その間は中々訓練出来なかった、グレイブや魔術の訓練を進める。薄く汗をかく程度まで頑張っていると、大体良い時間になる。ランタンを片手に製塩所に向かう。


「あれ? 領主様、どうなさいました?」


 頭が驚いた顔でこちらを見る。


「あぁ、手は出さないし、口も出さない。君達がやるって言ったんだ。見届けに来たよ」


 そう言うと、頭と二人が真剣な顔に戻る。


「はい。もうほぼ花模様までは来ました。後は最後の仕上げです」


 釜を見ると複雑な模様は大分崩れて、結晶が大きくなって固まり始めている。確かに、もう少しだ。

 頭が率先して、指示を出しながら火を安定して均していく。徐々に模様が完全に崩れ、山が顔を出し始める。


 あ、ここだ……。そう思った瞬間、頭が叫ぶ。


「おっし。完成だ。火ぃ、掻き出せ。急げ」


 あは。きちんと見極めは覚えてくれた。これで明日の味見で問題無ければ完全に任せられる。


「どうでしたか?」


 頭が真剣な面持ちで聞いてくる。


「職人が人に聞くものじゃないよ。明日、自分の舌で確かめたら良いさ」


 そう言いながらも、にこやかに微笑む。その顔を見て成功を確信したのか、三人の顔が明るくなる。


「じゃあ、私は戻るね。また、明日の朝」


「はい。おやすみなさい。領主様」


 職人たちに送られ、製塩所を後にする。テントに戻り、ぐっすり寝入っているリズの横に潜り込む。あの調子なら、量産も大丈夫そうだな。後はラインを増やすのと、施設そのものを増やすのかどうかの検討か。これは領主である私の仕事だ。まぁ、利に聡いノーウェだし、心配は無いかな。そう思いながら、目を瞑ると、一気に意識を失う。あぁ、思ったよりも疲れていたのかな。そう考えようとした瞬間には、もう意識は闇の中だった。

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