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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第403話 虎さんのお風呂と幼稚園のプール

 入り江に向かうと今日も長蛇の列が出来ていた。フリッター列が作る手間に比べて人が多いので滞っている。あそこを手伝うかと、見て見ると昨日と変わらず担当はリズだった。


「大変そう?」


「作っても作っても終わらないかも。ヒロは?」


「塩作りは一段落。一個くれたら、手伝う」


「んじゃ、次揚がったのを食べたら手伝って」


 そう言うと、リズが揚げたてのフリッターを一つくれたので、はふはふかりかりと食べて、粉と具材を混ぜて、落とす係をする。バランス良く具材をミックスして、ひとまとめにするのも結構難しく、偏らないように注意しながら、落としていく。火の番から抜けて来たら、油の番とはこれいかに。暑いのには変わりないが、程良く浜を抜ける風が吹くので、涼しいのは涼しい。


 卵を割り、生地を作り、刻んだ具材を混ぜて、ぽとりと落とす。横ではリズが、むむむと言う顔で揚げ具合をチェックしながら、程良く揚がると嬉しそうに油切りの布に乗せて、人魚さんに渡す。受け取った人魚さんは幸せそうにフォークで切り分け、熱そうなのをはふはふと嬉しそうに食べている。あぁ……平和だ。


 そこからは具材が無くなるまで延々とフリッター作りだ。油も樽で持ってきたのに、半分くらいは廃油になってしまった。廃油は持ち帰って石鹸にしてしまおう。折角の植物油だ。少々天ぷらの香りがしても獣脂石鹸よりは匂いは少なめだろう。


「材料が尽きました。次の次の人で最後です」


 そう大声で告げると、後ろの方の人が少しだけ残念そうな顔で、別の列に並び直しに行く。


「これで最後だよ。はい。熱いので気を付けて下さいね」


 リズが最後の人魚さんに渡し終わると、薪を抜いて、砂をかけて消火する。この燃え残りも明日また使う。


「ふぅー。疲れた。でも、皆が喜んでくれると嬉しい」


 リズが良い笑顔で肩を叩く。お疲れ様と声をかけながら、少し疑問に思っていた事を聞く。


「白身のふわふわした美味しい魚が入っていたけど、あれ何?」


「んー? あぁ、あれ。ヒロがマダイって言っていたお魚を刻んで入れたよ」


 それを聞いて吹きだしそうになった。いや、マダイか。時期だし凄い美味しいけど、勿体無い……。昆布〆にして塩で食べたい……。明日在庫が上がったら、貰っちゃおうかな。

 他の皆はまだ、材料が有るので続けているが、材料が切れれば担当分は終了と言う形にしているらしい。海鮮焼き担当のティアナ達はまだまだ暫くは続けないと駄目っぽいけど。


「リズはどうする?」


「ん。特に用事は無いかな。ヒロは?」


「私も無いよ。あぁ、タロとヒメのご機嫌を取っておかないと。放っておいたしね」


「あ、虎さん、また出てきてくれたから。そっちにいると思うよ」


 あぁ、入り江の浜の辺りの人だかりは、その所為か……。リズと一緒に近付くと、虎さんが貰った魚を食べながら、人魚の子供の突進をぽふっと受け止めていた。3歳児程度の突進では小動(こゆるぎ)もしない。

 

『食事は足りている?』


 そう虎さんに聞いてみると、林の方は大型の草食動物もいるし、中小の動物も濃くて、食料には困らないらしい。それに入り江に出てくると、魚を貰えるので、狩りをする必要も無くて、楽らしい。


『太らない?』


 そう聞くと若干憮然とした感情が返ってくる。移動はずっとしているので、カロリーは十分に消費しているっぽいので、その辺りは大丈夫かな。

 タロとヒメは余程気に入ったのか、お腹の辺りでふにゅふにゅとタックルみたいに体を押し付けて遊んでいる。

 んー。臭い移りそうだけど。あぁ、そう言えば、お風呂どうしようかな。


 シミュレータで確認してみたが、深さ五十cmで直径五メートル程度の水を入れても崩壊しない厚さの壁のタライは作れそうだ。過剰帰還も返って来ない。新鮮な海水を入れていれば、一、二歳の子供が遊ぶ場所にも出来るかな。底に水抜きの穴を開けて、入り江の真ん中にどんと作ってみる。大人の人魚さんは唖然とした顔をしていたが、子供達は、何が起こるかワクワクしている。薪の木片とナイフを使って、栓を作り、蓋をする。まぁ、壊れるまで遊べる簡易プールかな。


 温めのお湯を生み深さ四十センチメートル程を満たす。タロとヒメを浸けると、前のペット風呂を思い出したのか、プカァと浮いた後に、ちゃぷちゃぷと犬かきを始める。


『まま、温いの、広いの!!』


『ぱぱ、温い、良いの?』


 お昼から、お風呂に浸かれるのに喜んでいる。

 リズが気を利かして、テントに布を取りに行ってくれる。


『虎さん、こんな感じで浸かる物だけど、浸かる?』


 そう思考で聞いてみると、どうも川で魚を獲る時は川に潜ったりもしていたので、別に濡れるのは嫌いでは無いらしい。

 暫くタロとヒメを泳がしていると、興奮じゃ無い、はっはっと言う荒い息になったので、縁に戻らせて引き上げる。布で拭いてブローする。


『まま、楽しいの!!』


『ぱぱ、楽しい!!』


 二匹がほかほか状態でぺたっとくっついてくるが、ちょっと暑い。


 少し熱湯を足して、虎さんを促すと、のそっと壁を乗り越えて、脚を浸ける。温いのが気に入ったのか、そのままざぶりと、伏せる。私はズボンの裾を引き上げて、紐で縛り、プールの中の虎さんに近付く。背中から始まり、体中を揉み洗っていくが、サイズが大きすぎて大変だ。でも、気持ち良さそうな思考は返ってくるので頑張って洗っていく。お尻の方は弱いのか、ちょっと嫌がったが、一番汚れているところなので、しっかり綺麗にして、完了とする。


『洗い終わったよ』


 『馴致』で告げると、うとうととしていた虎さんが、起き上がり、のそっと壁を出て行く。誰もいない方に向かって行くので、林の方に帰るのかなと思ったら、ブルブルと体の水を払う。おぉ、大迫力。ある程度払うと近付いてくるので、ブローで乾燥させていく。もこもこはしていたが、お風呂に入ったら、ふわふわが加わった。虎さんもさっぱりしたのか上機嫌だ。


「バケツリレーで海水を入れて子供の遊び場にしましょうか」


 人魚さんに言うと、バケツリレーが伝わらなかったらしいので、簡易プールの中のお湯を捨てて、食事を終えた人魚さんを一列に並ばせる。桶を幾つか作り、海から順番に海水を運んでもらいプールに注いでいく。三十分程で深さ三十センチメートル程度は溜まったので人魚の赤ちゃんを入れてもらうと、器用にすいすい泳ぎ始める。壁まで行くと華麗にターンして、母親の方に向かってくる。


「これは……便利ですわね。浅瀬で遊ばしていても急流や波で流される事は有りますので。安心して遊ばせます」


 若いお母さんが赤ちゃんを抱き上げて嬉しそうにする。何か有っても、プールの中ならすぐに対応出来る。澱んだままの海水と言うのも問題なので、1日単位くらいで交換してもらえば問題無いだろう。海水を溜めるのもそこまで苦にはならない。傍を通りかかったベルヘミアに聞いてみたら、いたく感動された。いや、虎さんをお風呂に入れたかっただけなのだが、言うと角が立ちそうなので言わなかった。今後これは、幼稚園のプール的な扱いになるらしい。海水を溜めるのは人魚さんの朝の日課になりそうだ。結構丈夫に作ったし、水を抜けば『剛力』持ちが集まれば移動も出来るだろう。便利な場所に移動させてくれれば良いや。


 運用は村と人魚さんに任せる。炊きだしの方も皆終わったらしく。仲間達が座り込んでいる。太陽はやや沈み始め、赤みを帯び始めた。


 海が徐々に赤くなっていくのは神秘的だな。今回ここに来てゆっくりと景色を楽しむ余裕も無かった。リズと一緒に座り込んで、ぼけーっと海を眺めながら、贅沢な時間を味わった。

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