表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
402/810

第399話 フリッターと塩作りの中工程

 荒焚きの現場から出ちゃうと、やっぱり両手の筋肉痛が疼痛を発してくる。もう、釜の前だとテンション上がっているから痛みを感じないけど、落ち着くと痛い。何も触れなくても痛い。じくじくとした痛みに耐えて平然とした顔を保つ。


 周囲では人魚さん達が楽しそうに各料理を待っているし、順番が回ってきた人魚さんは土魔術で作った簡易皿と簡易フォークで美味しそうに食べている。

 ベルヘミア、ガディミナ、ポリミリアと一緒に雑談しながら、列で待っていると順番が回ってきた。


「リズ、大丈夫? 大変じゃ無い?」


「全然平気。揚げ方も分かって来たから、大丈夫」


 そう言いながら、鉄製の網のお玉で揚げ玉を取り出しながら、次のかき揚げモドキフリッターを作ってくれる。イカやエビ、貝を粗く刻み、生地と混ぜて、揚げる。生地には香辛料やハーブを混ぜている。ポテンと塊を油に投入すると、一瞬沈みそのまま表面に上がってきてじゅぶじゅぶと水分を弾けさせる。周囲にはハーブの香りが強く立ち込め、胃をきゅっと締める。あぁ、思ったよりもお腹が空いていたのかな。徐々に水分が抜けて、気泡が減ってきたら、油切りの布に乗せられる。


「はい。お待たせ、ヒロ」


 皿の上にお玉で乗せてくれる。箸で割り、中を確認するがしっかり中まで火が通っている。ベルヘミア達と一緒に食べる事にする。


 箸で切り分けて、口に含む。瞬間、爽やかだったりコクが有ったりとハーブの共演が口の中で広がり、鼻に抜ける。噛んだ瞬間素材の水分がじゅぶっと口にうまみと一緒に広がる。イカも瑞々(みずみず)しく、ぷつりとした歯応えが気持ち良い。エビはどこまでも甘くぷりぷりした食感と共に口を幸せにさせる。マテガイの深いうまみ、アサリのさっぱりとしながらも濃厚な味、そしてハマグリの出汁が口の中で混然一体になり、踊る。美味しい。生地に付けた程良い塩加減が、おかずというより、もうそれだけで完成された一品として、楽しませてくれる。はふはふと湯気を口から発しながら熱々の揚げたての揚げ物を頬張る幸せ。何物にも変え難い。ベルヘミア達も食べた瞬間、驚いた顔をしている。


「複雑な味ですが、濃厚なのに、爽やか。これ、幾らでも食べられますね……」


 代表して、ガディミナが呟くように呆然と評価を口にする。ふと気づくと、ポリミリアはフリッターの列に再度並んで手招きしている。次をご所望か。笑いが込み上げてくる。私は元々小食なので、このフリッターで満足だ。野菜も刻んで入っていたし、栄養的には問題無いだろう。残り二人を列に誘導し、私は釜に戻る。


「お昼、どうぞ。変わります」


 村長とカビアは村長宅で昼ご飯のようだ。火を管理していた作業員に声をかけると、嬉しそうに釜の傍を離れて部屋を出て行く。釜の中の海水はやや赤みを帯びながら、ぼっこぼっこと大きな泡を生みながら、沸騰している。火を均し、全体が均一に熱せられるように調整をする。荒焚きの時はそこまで気にしなくていいのだが、本焚きの時はかなり火加減がシビアになってくる。その予行演習も兼ねている。


 結局人員を交代しながら、夕方までかけて荒焚きを完了させる。窓を開けて冷たい空気が入り、蒸気が逃げると、皆がほっとした顔になる。


「さて、昨日の荒焚き分を濾過しましょう」


 広めに作った坂道を皆で釜を抱えて上る。釜自体の重さも有るので、相当の重労働だ。全員に『剛力』が生えているのは伊達じゃ無い。力持ちで我慢強い人間を選定したんだろうな。そう思いながら、濾過槽にゆっくりと荒焚き分の液体を流し込む。煮沸消毒し、真水で何度も洗った砂利、砂、木炭、竹炭の層を抜けると、真っ赤に近かった液体がほの赤い、ややピンク色の液体になって下の鍋に貯まる。


「じゃあ、この釜は真水で綺麗に洗って、明日の荒焚きに使います。本焚きは十六時間。時間との戦いです。それに細かい調整が必要になってきますので、十分に皆休んで、明日の為に英気を養って下さい」


 そう言うと、作業員達はへたり込む。やはり重労働は重労働だ。人員増は急務だな。襲撃の際の手紙には人員増の件も含めて記載した。ノーウェならちゃっちゃと調整してくれるだろう。


 テントに戻ると、夕ご飯の支度が進んでいた。皆、食事を作りながら、確認の為つまみ食いをしているので、そうお腹も空いていないようだ。今日の昼の残りとパンで軽く済ませて、お風呂に入る。


 タロとヒメを揉み洗ってスヤァさせる。今日は虎さんと一緒に子供の面倒をよく見てくれた。虎さんは、周知も済んだので近くの林で、獲物を探しながら住処を探すようだ。海魚を食べてみるとかなり気に入ったらしく、海辺にはちょこちょこ顔を出すとの事だった。子供達も虎さんが大好きで、途中で虎さんに乗って歩き回るツアーとかもやっていたらしい。虎さん、サービス精神旺盛だ。ネコ科の生き物って、小さな生き物に寛容になる時が有るけど、正にそんな感じだ。


 リズが体を洗うのを手伝うかと言ってくれたが、筋肉痛もやっと抜けてきたので、遠慮した。


 頭と体を洗い、ざぷりと樽に浸かる。今日も一日よく働いた。両手を揉みながら、湯の中で今日一日を回想する。虎さんが受け入れられたのは安心した。色々気にはしていたが、生きて天寿が全う出来るなら幸せだろう。塩作りもここまでは順調だ。明日の本焚きで結果が出る。後は人魚さん達への料理の振る舞いだけど、油の在庫はまだまだ大丈夫。薄力粉も大丈夫。帰りは村の在庫を買って帰れば良いかな。


 そんな事を考えながら、湯から上がり、汗だくの服を残り湯で洗濯する。干して、テントに戻ると、疲れたのか、布団の上でリズがぱたんと倒れ込んでいる。寝息を立てているのでぐっすりなのだろう。私も明日の本焚きに向けて、早めに寝る。朝一から始めても、深夜までの作業だ。大変だけど頑張るしかない。


 リズを抱き上げて布団の中に潜り込ませて、私も入る。心地良い疲れが体中を包み、ストンと意識を失わせる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブックマーク、感想、評価を頂きまして、ありがとうございます。孤独な作品作成の中で皆様の思いが指針となり、モチベーション維持となっております。これからも末永いお付き合いのほど宜しくお願い申し上げます。 twitterでつぶやいて下さる方もいらっしゃるのでアカウント(@n0885dc)を作りました。もしよろしければそちらでもコンタクトして下さい。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ