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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第397話 グジの一夜干しとか絶品ですし、虎さんは受け入れられました

 焚火の前では、リズとチャットがスープを温め、網でアマダイの一夜干しを焼いている。数が少なかったので人魚さんには出せなかったグジ……。久々の一夜干し……。すごく楽しみだ。どうも焼き魚はチャットが担当らしい。身の方を先にさっと火を通し、焦げない段階で皮の方を焼いている状況のようだ。


「どう焼け具合は?」


 チャットが振り返り答える。


「もうそろそろええかと思います。こんな物ですよね?」


 菜箸で、身の方を突いてみるが適度な弾力が返ってくる。大丈夫そうかな。


「でも、新鮮なままで食べた方が美味しいんとちゃいますか? 王都の方でも干した海の魚は食べましたけど、塩気が強いか、水っぽくてべしゃべしゃの物ばかりでしたけど」


 塩漬けの魚か干した物を水で戻した物しか食べた事が無いか……。調理する人間の腕にも寄るけど、それはきっと美味しく無かっただろう。


「今回干したのはアマダイと言う魚で、水分が多いのが特徴なんだよ。で、そのまま焼いても美味しいけど、水分を適度に抜いて味を濃縮させた方がもっと美味しいんだ。試してみたら分かるよ」


 じゅぶじゅぶと身の隙間から脂と水分が入り混じった汁がふつふつとしているのを皿に乗せていく。タロとヒメは後で昨日のモツの残りを食べてもらう。念の為冷蔵はしているので、少し温めた方が良いのかな……。


「今日も私は塩作りに張り付きます。人魚さんの食事の対応は皆に任せます。海鮮焼きは大丈夫だと思うけど、フリッターの方は油の温度なども重要なので、気を付けて下さい。火事はおこさないように。では、食べましょう」


 皿を受け取った瞬間、筋肉痛の疼痛が来るが、無視してなんとか掴む。皆はフォークだが、私は箸で。

 腹辺りの脂の乗った部分を摘まむが、ほろりと身が剥がれる。口に含んだ瞬間、アマダイの独特の風味が口全体に広がり、鼻から抜ける時に得も言われぬ快感を感じさせる。脂も甘く、身の香りと合ってどこまでも甘みを感じさせる。元々油分の少ない魚だが、その薄く乗った脂が干す事により、より一層うまみと合わさり、口の中で踊る。甘い……そして美味い……。グジ、日本でも食べたけど、こんな立派なのは中々お目にかかれない。はふはふしながら、背中側の身をごっそりと取り、むしゃむしゃと食べる。こちらはさっぱりとしながらもうまみは濃厚で、幾ら食べても満足が出来ない感じだ。塩分も丁度良かったらしく、塩が強すぎず、薄すぎずで深い満足を感じさせる。

 

「悔しいわ……。私が食べていた魚っていったい何だったの……。これ、ずるいわね……」


 ティアナが珍しく驚愕の顔で大絶賛している。海の魚は王都で食べたと言っても、本当に美味しい物は食べた事が無いだろう。アマダイの一夜干しは日本でも高級で中々手は出しにくい。それを一人で丸まる食べられるのだから、贅沢だ。


「甘いです。それにこの香り。生臭いのとは全然違って、なんだか凄いええ臭いです。この匂いに惹かれてなんぼでも食べてしまいますぅ」


 チャットがフォークで器用に骨を取り分けて、身を食べていく。縁側で丸まって日向ぼっこしている猫のように目を細めて、うーっと唸りながら、食べ続ける。


「魚は少し苦手でした。生臭いのをちょっと感じていたのですが、これは全然別です。香ばしいですし、甘いです。あたしでも食べられます。本当に美味しいです!!」


 ロッサが珍しく、キラキラした目でフォークを頬張る。エビとかイカは結構むしゃむしゃ食べていたが、魚は少し勢いが落ちていた。それでもアマダイの一夜干しは別物らしい。


 この村で焼いたパンを一緒に食べながら、スープのエビの香りで口をリセットさせながら、アマダイを楽しむ。


 夢中で食べていると、気付くと、骨だけになっていた。皮も細かい鱗が逆立ち、煎餅のようにぱりぱりと楽しめた。


 ほぅっと至福の溜息を吐く。その溜息にアマダイの香りが乗り、それすらも美味しく感じる。やはり、高級魚。格が違う。


 皆も夢中で食べ続け、朝ご飯は大満足のまま終了した。


「んじゃ、虎さんを紹介したら、そのまま塩作りの手伝いに行ってくるから。人魚さんの昼ご飯と訓練はお願い。任せても大丈夫だよね?」


 そう聞くと、皆が頷く。んじゃ、大丈夫かな。

 タロとヒメはたっぷりのモツに満足し、虎さんと一緒にグルーミングしている。こちらに来てから蚤や虱に悩まないけど、虎さんにも付いていない。蛭もそうだけど吸血生物に極端にエンカウントしない。これから蚊のシーズンだけど、そちらも大丈夫なのかな?


 虎さんとタロヒメ、皆を連れて、入り江の方に向かう。 


 時間的に朝の漁が終わり、皆で食事が終わった時間帯だろう。ベルヘミアが色々指示を出している。


「おはようございます。ベルヘミアさん」


「おはようございます、領主様。あら、大きな生き物ですね」


「はい。虎の一種っぽいのですが、人間は襲いません。この辺りで生活したいそうなので挨拶に来ました」


 そう言うと、遠巻きにしていた人魚の子供達が近付いてくる。


『人魚さん達は分かる? あれも人間と一緒。襲ったら駄目だよ』


 『馴致』で伝えると、くんくんと人魚達の匂いを嗅ぎ、肢体を確認し、了解の旨が返ってくる。丁度赤ん坊もいたので、それも確認してもらう。魚と間違って狩られては困る。

 ガウと分かったから大丈夫の思考が流れてくる。


 その間も、三メートル級の虎に、子供達が群れる。タロとヒメももこもこだが、虎さんは埋まるレベルでもこもこだ。タックルして、ぽすっと埋まるのが楽しいらしい。

 暫く子供達と交流し、大人には注意点と言うか、生息範囲が違うのであまり気にせず放っておいて欲しい旨を伝える。虎さんも余生をゆっくり送りたいだけだし、偶には顔を出すそうだ。海で魚を獲るなら、人魚さんに会う事も多いので、仲良くなっているに越した事は無い。真水として川の場所なども教えたら、理解したのか、その場で丸くなる。どうも子供達と一緒に遊んでくれるようだ。物凄いはしゃぎっぷりで子供達がぺたぺたと背中やお腹などを撫でる。


 仲間達は大人の人魚さん達と昼ご飯の打ち合わせをしている。今日は私が使い物にならないので天ぷらは無しで海鮮焼きがメイン。揚げ物はフリッターが中心となる旨で話はついた。リズとロッサはまた、卵探しと鳥肉狩りに出かけた。他の仲間達も、香辛料や葉野菜などを採取しに散っていく。人魚さんは昼ご飯の材料を獲る為に漁に出かけた。


 私はカビアと一緒に村に戻り、村長宅に寄る。塩作りの続きだ。


「荒焚きの後は一日寝かすのでしたね。その間は如何しましょう?」


 村長が昨日の荒焚きをした物を見ながら言う。中は若干赤茶けた水で満たされている。まだ、塩が結晶化する程の濃度には達していない。


「並行して別の鍋で荒焚きをしましょう。今日の晩には濾過して、明日は本焚きです。その間に荒焚きを一日寝かし、別の鍋で荒焚きですね。三ラインで並行して作っていく流れでしょう」


 そう言うと、村長がふーむと顎を手で挟み悩む。


「人が予想より必要ですね。焚く作業の方は本当に人手が必要です。外の人間を持ってきますか。回転させると言っていましたが、確かにこの焚く作業が入ると過酷ですね」


 村長と話している間に、別の鍋にかん水槽の水を満たしてくれる。


「はい。もう少し人を増やしても良いかと思います。『リザティア』の政務団宛てに陳情して下さい。私も一筆記載しますので」


「助かります」


 火魔術で薪に点火し、ここからまた六時間の戦いが始まる。途中で順番に抜けて、お昼ご飯かな。そう思いながら、筋肉痛の手でどこまで作業が出来るか、試し試し、進めていく。

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