第37話 昔パーティー希望のシャウトも怖くてソロでした
冒険者ギルドへの道を歩きながら、時間潰しにスキルの確認をする。
「自己認識を実行する」
いつも通り視界に板が映る。
◇スキル情報◇
『識者』
『認識』
『獲得』
『隠身』0.16
『勇猛』1.00
『フーア大陸共通語(会話)』0.29
『フーア大陸共通語(読解)』0.07
『フーア大陸共通語(記述)』0.01
『槍術』0.18
『警戒』0.35
『祈祷』1.60
『術式制御』1.14
『属性制御(風)』1.37
『属性制御(水)』0.36
ふむ、全般的に徐々に上がっているか。スライムとその後の対応分かな。
『祈祷』の上がり方が異常だけど、直接神様と会話していたら、そりゃ上がるか。
術式系は思ったより上がっていないな。狼モドキの時の分は神様の補助が有ったから、習熟した訳じゃ無いしな。
あれ?何か新しいのが生えてる。『属性制御(水)』って……。スライムの時か。報告無かったな。
<告。該当の際、脳内環境が激しく乱れており受信環境が不安定でした。報告が正しく届かなかった恐れが有ります。>
あー。『識者』先生が脅してきたのも落ち着いてからだったが。
<告。通信の完全性の担保に関しては、彰浩側の適切な受信環境が必要です。>
確かに、過剰帰還で倒れそうになっていたな。あの時に何かを受け取れた気がしない。
状況は理解した。まぁ、後追いで確認出来るから問題無いか。
そういう意味では、あまり過剰に報告されるのも面倒か。頻度を調整して欲しいな。
<告。今後新規取得及び1の位の上昇の2点をトリガーに報告します。>
流石『識者』先生。対応が早い。
ちなみに習熟度と言う名前からするに、上昇だけじゃなく、下降も有りそうな気がするが。
<解。習熟度に関しては、基準値に対してどれだけ習熟しているかを表示しています。その為、内容や動作を忘却した場合、下降します。>
やっぱりか。と言う事は、あまり広く浅くは駄目なのか。
<解。一般的な生物は役割に特化したスキル構成を維持します。役職等、求められる構成を向上させる方が効率的です。>
ハーティスが『隠身』と『警戒』、『短剣術』と『飛剣術』に特化してたのも意味有るのか。
ベテランと言うにはスキル少なめだなと思ったけど、斥候として特化して生きる為の物なのか。
「自己認識を解除する」
板が沈み込むのを横目に見ながら、冒険者ギルドの建物を見上げる。
さてまずは、ハーティスに話を聞こう。
建物に入ると、朝早い為かそこそこ込み合っている。
登録の受付嬢さんは空いていた為、声をかけてハーティスを呼んでもらう。
建物の中にいるらしく、すぐに奥に引っ込んで行った。程無くしてハーティスが現れる。
「おはようございます。先日は助けて頂きありがとうございました」
思いっきり両手で握手され、ブンブンと上下に振り回される。
もっと冷静な感じだった気がするが。根は熱い人のかな。物凄く感謝されている。
撤退の顛末に関してはリズに聞いていた内容とほぼ同じだった。
ハーティスが『警戒』を駆使して、全力で逃走したお蔭で、遭遇戦も無かったとの事。
村に着いてからは、領主の町にギルドが早馬と荷馬車を出し、早々に謁見の話が通ったとの事。
町のギルドが早馬を出して周辺に確認をしたが狼モドキの報告が無い為、新種として認定されたとの事。
「非常に毛並みも良く、丈夫です。何より、あの大きさと新種と言う事で大変高い評価を受けました」
町のギルドで見分し、商品価値が高いと判断され、そのまま謁見がかない、報告されたとの事。
北の森は子爵領内の為、甚く喜び異例の報奨金が下賜されたとの事。
「これから冬にかけ、毛皮の需要は上がります。何より新しいファッションの素材を自領で独占出来るのです。新種発見が名目としては異例の報奨額です」
その額100万ワール。確か農民の年収くらいだ。これに関してはハーティスを除く今回の発見者で頭割りするとの事。
ハーティスに関しては、ギルドの監査の最中と言う事で業務範疇に見做されるとの事。
新種の発見が報奨の名目の為、全く文句は無い。と言うか予想外の収入だ。
「ディードさん達から預かっております今回の達成料と報奨金です」
今回の件の14万ワールと、報奨金の25万ワール。計39万ワールを受け取る。10万ワール金貨なんて初めて見た。大切に巾着に仕舞い込む。
「今回の魔物に関してはダイアウルフと呼称されました」
これも意訳なんだろうけど、地球でも史上最大の狼だった筈だから、そう訳されているのかな。
「通常、8等級が群れを組む相手の討伐適正となります。しかし、群れの規模を考えると7等級以上のパーティでも難しいとの判断です」
聞くと、最低限パーティーと呼ばれるのは前衛と後衛そして前衛の補助または遊撃担当の3人からとの事。
確かに、前衛が牽制して後衛が潰す、その間周りを警戒指示するとなれば3人はいるな。
実際7等級のパーティーが全く手も足も出なかった。その事実も明確に報告されているとの事。
「6等級であれば、より大規模な群れを前提としますので、一旦は6等級の扱いとなります」
護衛業務の7等級から基本的にパーティーが前提の任務難易度となるとの事。
確かに1人で護衛なんて交代要員もいないのに出来る訳が無い。
6等級は2パーティー以上を前提とするとの事。そこまで上がるまでに5人探さないといけないのか。コミュ障としては辛い。何処かに仲間を登録出来る酒場とか無いかな。
「発見者全員が貴方の討伐を確認しております。特例としてダイアウルフ35匹分の達成数を加算します。ただ申し訳無いのですが10等級時での加算になります」
1匹倒して、34匹倒した。確かに35匹だ。ちなみにギルド業務は契約が命なので、基本的に後付けの報奨は無い。
「子爵様より、今後領内を潤す発見を持ち帰った殊勲者として報いよ、との命が下りました」
おお。流石権力者。契約も曲げるか。まぁ達成数だけだし、ギルドの持ち出しはほぼ無いか。私の評価が微妙に不当に上がるだけだ。黙って受け取る事にしよう。
「先の契約分30と今回の特例の35、合計65を現在の10等級に加算します」
確か80は超えていた筈だから、等級上がるのか。
「ちなみに、等級が上がる際の端数はどうなるのですか?切り捨てですか?」
「等級が上がる際に、過去の依頼内容を確認します。その際、上がった等級内の達成数は加算されます」
あぁ、だから申し訳無さそうな顔をしていたのか。6等級の達成数35ってかなり大きいな。やっと意味が分かった。
「試験が有りますよね?どのような内容でしょうか?」
「9等級であれば、監査が付きゴブリン等の魔物を討伐する事です。既に実績が有りますので、免除となります」
確かに過去ゴブリンは討伐しているし、ダイアウルフ分を考えれば、実績なんて話じゃ無い。
読み取り機で今回の依頼書と新規で作ったっぽい依頼書を翳す。
「おめでとうございます。9等級と達成数48となります」
ハーティスが嬉しそうに握手を求めてきた。
それを握り返しながら、思った。
パーティーどうしよう。
それは35歳、メタボでコミュ障なサラリーマンに突き付けられた現実だった。