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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第393話 天ぷら大好きです

 大鍋が複数必要になるケースが多かったので、二個目の大鍋を町で買ってもらった。片方はエビガラで出汁を引く。もう一方の鍋にはオリーブオイルを満たす。鍋吊りの機材も鍋を増やす時に一緒に買ってもらった。徐々に赤くなりながら、エビ特有の香りを発しながら、沸騰しようとしている。鍋を遠ざけて、沸騰しないように調整する。本当ならネギを入れて臭い消しと甘みを加えるが、葉野菜や雑魚を入れる事を考えると、そこまで厳密にしなくていい。味のベースになる出汁ががっちりと出てくれれば良い。お玉でエビの頭を潰しながら暫く放っておく。匂いが濃厚になったところで一回布で濾して、刻んだ葉野菜や雑魚を入れて再度火にかける。材料に火が通ったら大丈夫だろう。後で細かい味は調整する。


 獲って来てもらった卵を水に溶き、パン焼きギルドから分けてもらった小麦粉をダマとかは気にせず混ぜ過ぎない程度に掻き混ぜて、氷水の上にボウルを置く。パン焼きギルドの小麦粉はどうも薄力粉だと睨んでいる。タネは準備完了だ。


 海鮮焼きの方はティアナとリズに任せた。前に来た時に作り方はマスターした筈だ。


 砂抜きした貝達は半分を網焼きにする。もう半分は鉄板の上に乗せ刻んだニンニクと白ワイン、乾燥パセリを振りかけて、こう言う時の為にネスに作ってもらったクロッシュを被せてワイン蒸しにする。


「さて、時間との勝負です。皆さん準備は良いでしょうか」


 そう言いながら前方を確認すると、作った皿とフォークを握ってベルヘミアを筆頭に人魚さんと子供達、そして仲間が並んでいる。


 まずは小手調べと油に衣を少し落とす。落とした衣が一気に上がってきて表面で跳ねる。大体百八十度前後だ。この温度をキープし続けないといけない。サヨリに薄く衣を付けて、鍋に投入する。重みで一瞬底の方に沈むがすぐに浮いてくる。ジュージューと大きな泡が出ている間はじっと我慢。暫く様子を見ていると、ぷつぷつと細かい泡になる。ここだっと長い自作菜箸で引き上げて清潔な端切れの山に置いて油を切る。


「網焼きの貝は開いたら食べられるから。ワイン蒸しはクロッシュの中の音を聞いてジュージューと言う音が小さくなったズブズブに近い音になったら食べて」


 仲間達に指示を出しながら、サヨリを一枚軽く塩を振りかけて食べる。さくっとした衣の中からうまみが凝縮した水分がじゅわっと湧いてくる。サヨリの淡白な味としっとりホロホロと零れるような身が小気味良い。ほのかに香るサヨリの身と衣のコラボを楽しむ。オリーブオイルなので、衣にほのかに付いたナッツのような香りもアクセントになっている。うん。脂もそこまで乗っていないので兎に角軽く爽やかに食べられる。サヨリの天ぷらはこの軽さと身の凝縮したうまみがポイントだ。素晴らしい。


 油が切れた物から、仲間の皿に置いていく。


「ふわ!!さくさく……。それに中が美味しい。これ、凄い!」


 フィアがどう表現して良いか分からない様子で美味しさをアピールしている。


 海鮮焼きで必死なティアナにも頬張らせるが、一瞬陶酔したような顔になる。


「噛んだ瞬間の心地良さも有るけど、その中から出てくる凝縮された魚のうまみとしっとりした食感が絶妙ね。もう、こんな忙しい状況じゃ無くてゆっくり食べたいわ。ちょっと悔しい」


 鳥肉と魚介を炒めながら、ティアナがにこにこと感想を述べる。

 うん。こっちの世界の人にも受けるか。


 油の温度を調整しながら、次々と揚げていく。人魚さん達も初めての食感と味に魅了されたように嬉しそうな顔をしている。延々油を継ぎ足しながら温度を調整し、散った衣を掬い上げて油切りの端切れに乗せて行く。ある程度油を吸ったら、端切れを取り除く。そのまま端切れは燃料として火にくべられる。


 忙しく天ぷらを揚げていると、リズが網焼きの貝を持って来てくれるので、食べる。あーんしてもらって、アサリからいくが、大きさ的にはハマグリに近い。噛んだ瞬間アサリ独特の出汁がじゅわっと出てぷりぷりなのに、生っぽさも無く噛めば噛む程うまみを出してくる。ハマグリはねっとりとした食感でこれも香り高く濃厚なうまみに口が翻弄される。たった1個でお吸い物が出来るだけの出汁が出るんだから、そりゃそうだなと納得する。最後にマテガイを出される。噛んだ瞬間、味は塩味だけなのだが、ただただ濃厚なうまみ成分に頭がガツンと叩かれる。マテガイはこの強烈なうまみ成分がポイントだ。もういつまでも噛んでいたい。噛んでうまい汁が出るのを楽しみたい。


「リーダー、じゅぶじゅぶ言い始めました。どないしたら良いですか?」


 ワイン蒸しを担当していたチャットがクロッシュの音を聞きながら、叫んでくる。


「小さなものを食べて味見して見て。十分塩味は付いているけど、足りないようなら軽く塩をかけて」

 

 そう指示を出すと、チャットが無造作にクロッシュを開ける。その瞬間周囲にムッとするようなワインの香りと海鮮の香り、パセリの香りが混じった暴力的に美味しそうな蒸気が立ち込める。どこかで誰かの喉の鳴らす音が聞こえた。チャットがマテガイを刻んだ物を口に入れた瞬間、耳がピンと立つ。


「うわぁ……美味しいです……。どうぞ、ワイン蒸し出来ましたー!!」


 そう言うと、天ぷらを楽しんだ皆が鉄板の方に群がる。子供達も大はしゃぎでお母さんに付いて行く。

 ありゃ、すぐになくなるか。鉄板をこそぐ用の小手もネスに作ってもらった。本人は何を作っているか知らないだろうが前に色々小物を作ってもらった時に一緒に作ってもらった。


 天ぷらのネタを鍋に落とし、ワイン蒸しを鉄板の端の方に移動させて熱が通らないようにする。うまみが焦げ付いたのを小手でこそぎ、油を敷いて再度ワイン蒸しを作り始める。

 海鮮焼きはもう定番なので、ある程度出来た段階で、人魚さん達も群がる。綺麗に動線が出来ているので、前みたいにしっちゃかめっちゃかになる事も無い。


「お母さん、もっと食べたい!!」


 でもやっぱり人魚さん、夢中なのか、ちょっと子供を忘れがちなのは変わらない。海鮮焼きを子供達の皿に盛ってあげる。


「おぢさん、ありがとう。この鳥のお肉、美味しい。魚も貝も美味しい!!」


 子供達も輪になって必死で頬張っている。


 天ぷらは火加減が重要なので、誰かに任せられない。焦げないように油の温度が上がり過ぎないように調整しながら延々揚げていく。遂に二百枚以上用意したサヨリが全滅する。


「次はエビの天ぷらだよー」


 そう叫ぶと、皆の目の色が変わる。天ぷらの美味しさは実感した。次に来るエビの天ぷらがどのようなものかと物凄い期待度が上がっているのが分かる。油も継ぎ足しているが、元々油分の少ない物を揚げているので疲れた感じはしない。トンカツとかだと粘度が上がってくるが、まだそんな兆候は見せない。


 衣もどんどん作っているが卵の在庫が飛ぶように無くなっている。ぎりぎりエビまでで足りるかな。後はニンニクや香草を混ぜてイカのフリッターにしよう。


 エビしかもボタンエビの天ぷらかぁ。刺身で食べたい。あのぬるっとした濃厚なうまみをそのまま思う存分食べたいが我慢我慢。エビもサヨリと同じ温度帯で大丈夫だ。順番に揚げていく。第一陣が揚がって、油切りの上に乗せる。熱々に軽く塩を振りかけて口に含む。さくっとした衣を噛んだ瞬間ねっとりした層からぷりっとした層に入り込んだ瞬間、内側から海老のうまみが凝縮した液体が弾ける。ただただ美味くて甘い。がぁぁぁ、これが刺身で食べられないとか本当にショックだ。熱の入ったボタンエビはより甘さを引き出しながら口の中を蹂躙する。気付けば飲み下して陶酔していた。いかんいかん。頑張って続きを作らないと。


「これは……甘いです。それに瑞々しいのに濃い感じがします。美味しいです」


 ロッサがエビの天ぷらを齧り、びっくりした顔で呟く。残りを誰にもとられないように急いで食べる。誰も取らないのに、そんなに美味しかったのかな?

 同じく食べたリズとフィアが声も出ないのか無言でニコニコしながら、ハイタッチをしていた。

 ティアナはサヨリの時以上に悔しそうな顔をしていた。余程ゆっくり食べたいんだろうけど、海鮮焼きは定番で大人気なので、手が離せない。網焼きもどんどん消費されている。ワイン蒸しは子供は少し苦みを感じるのか、敬遠気味だが人魚さん達はもうこれでもかと言う勢いで食べていく。


 エビの天ぷらは間違い無くサヨリより大ヒットだ。サヨリは天つゆとのコラボを楽しむ感じの方がこの世界の人には良いかもしれない。少しさっぱりし過ぎている。逆にエビはそのものの甘みと塩がマッチしているのでそのままでも十分に美味しい。その辺りが評価の分け目な感じだろうか。量を食べるなら、サヨリだろうけど。


 海鮮焼きや網焼き、ワイン蒸しが製造に入ったので、また、天ぷらゾーンに人が並ぶ。もう、八面六臂で天ぷらを揚げるマシーンになる。人魚の人達もサヨリで天ぷらを知ったのに、エビはまた格別なのか、物凄く嬉しそうにはふはふ頬張る。やっぱり子供は忘れがちなので、下の方で差し出される皿にも乗せていく。子供達もはふはふしながら天使のような微笑みを浮かべる。


 延々とエビを揚げていき、また他の海鮮焼きやワイン蒸し、網焼きが出来上がるので、人が散らばる。エビの在庫を一気に揚げ切り、フリッターに移る前にロット用に山菜の天ぷらを揚げる。


「ロット、手が空いている? んじゃ、これ食べて」


 ツクシやヨモギ、クレソンや春の山菜を揚げた、野菜天を手渡す。


「これは……。野菜と言うのに、色々なうまみが合わさって美味しいです。エビの香りがほのかにしながらも野菜達のそれぞれの香りやうまみを楽しめます。これは癖になりますね」


 野菜スキーが顔を崩して、むしゃむしゃと食べていく。


 最後に薄力粉と卵をしっかり混ぜながら、香草や塩胡椒を入れて下味を付けてしまう。その中にイカを放り込み、ぐちゃぐちゃと衣をしっかり付ける。油に投入し、程々の大きさになるように散らす。これは天ぷらじゃ無くてフリッターなのでそう細かい調整は不要だ。全体がきつね色になったところで、油を切る。


「最後、イカのフリッターが出来たよー。これはそのまま食べてね」


 そう叫ぶと、またわらわらと人が集まる。ゲソの部分を一部食べてみたが、ニンニクの香りとスパイシーな香辛料の香り、それに塩と胡椒が相まって、ビールが欲しくなる。イカもぷつりと切れながらもこりこりといつまでも食感を残して美味しい。人魚さんも皮付きのイカを生で食べるばかりなので、皮を剥いだイカに熱を通すとこうなるんだと言うのに驚いていたようだ。海鮮焼きだと細切れになるので案外気付かないが、フリッターだと良く分かる。


 残りの在庫のフリッターを揚げている頃に、他の料理達も在庫が尽きたようで最後の一仕事となった。人魚さん達も流石にトドモードで転がる人間が増えてきた。子供達も胃が小さいので早めにお腹いっぱいになってタロとヒメと一緒に遊び始めている。最後分は私達で食べる分になりそうかな?


 フリッターを揚げ終えて、油切りの上に乗せる。働いていた仲間達とまだ食べられる人魚さん達で網焼きから攻める。やはり貝は網焼きが美味い。でも、醤油を一振りするだけで全然変わるのにと凄く残念に思う。個人的に大好きなのはハマグリだ。このねっとりとした食感と濃い出汁は堪らない。

 次にワイン蒸しを食べるがこれも魚介のエキスが混然一体となってワインと融合している。若干の苦みは有るのでやはり子供は苦手かなとも思う。しかし、冷えたビールが欲しい。

 最後に定番の海鮮焼きを食べる。鳥も火が通り過ぎず柔らかで魚介の出汁を吸って本当に美味しい。


 スープに関しては結局誰も食べる事無く、仲間を含めてトドになってしまった。スープは夕ご飯の時で良いか。味が染み込んでより美味しくなっているだろうし。


 と言う訳で、昼ご飯は仲間と人魚の子供二十名強と人魚さん四十名強をトドにして、無事終了となった。

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