第36話 拗ねている女の子って自分に被害が無い限りは可愛いですよね
周りが光で満ちて、何も見えない。目が痛い。
涙を流しながら、瞬きを繰り返す。
徐々に視界が明瞭になって来た。見慣れた部屋だ。
あぁ、無事に戻って来れたのか。皆大丈夫だったのかなと考える。
アレクトアとの邂逅は鮮明に覚えている。夢では無かった。
今にして思うと、もっと聞いておくべき事が有った気もするが、いきなりだったのでしょうがないだろう。
この星の世界観に関しては大分把握出来た。管理者の話が出なかったのはまだ連絡出来ていないからだろう。
喉が痛いのと、お腹の辺りが重い。
ようやくはっきりしてきた視界を向けると、リズがお腹の上にもたれかかり眠っていた。
顔を覗くと、目の周りが赤く腫れぼったい。隈も出来ていた。大分看病で苦労したのだろう。かなりやつれた感じがする。
「リズ」
声を出そうとすると、かなりかすれる。喉の痛みと違和感の所為か上手く声が出ない。あー、あーと小声で繰り返す。
昔、意識を失った時に目覚めた時もこんな感じだったなと思いだしながら、声を出しながら、体を少しずつ動かして行く。
いきなり大きな動作をすると筋肉に悪いんだっけと考えながら、腕の曲げ伸ばしを続ける。腰を中心に捻りながら体の異常を確認して行く。
大きな外傷は無い。と言う事は、あの後大きな戦闘は無く切り抜けられたのだろう。一部、ちくちくと細かい痛みが有るが、きっと搬送される際についた軽傷だろう。
上体を起こし、体全体を徐々に動かして行く。あ、リズが転がって行った。可愛い。何あの可愛い生き物。ベッドから落ちてもまだ起きない。よほど疲れているのだろう。
全身の曲げ伸ばしを行い、聞きかじりのストレッチを行っていく。徐々に固まった体が解れて行く。前に意識を失ったのが5日程度だったがその時よりはましだ。あの時はかなり弱った。
体が仄かに温まり、ほとんど挙動に支障が無くなってきた。声もきちんと出る。ベッドから起き上がる。立ち上がった瞬間、足元がふらつく。やはり弱ってはいたか。
その場で足踏みを繰り返し、慣らして行く。そこまで弱っている訳では無いので、直ぐに元の挙動に戻る。
屈み込み、リズの肩に手をかけ揺する。
「リズ。リズ。起きて、リズ」
寝起きが良いのに、中々起きて来ない。かなり疲れているのだろう。
「リーズ。おーい。リズ。リズ」
耳元で囁く。仄かに目が開く。潤んだ瞳が私を捉える。
「おはよう、リズ」
口元があわあわする。やばい。やっぱりこの生き物可愛い。小動物系の可愛さを感じる。
「ヒ……ヒロ。ヒロっ。ヒロ。ヒロ。ヒロ」
壊れたように繰り返す。徐々にボルテージが上がって行く。
ガバッと抱きしめられると、思い切り締め上げられる。痛い。ギブアップ、ギブアップ。
「なんで……ヒロ、心配した……心配した……ヒロ、置いていかないで……」
大分支離滅裂だ。解放されると同時に泣きながら両手で胸元を叩かれる。だから、痛い。
「心配した……心配した……心配した……心配した……」
両手を掴み、引き寄せる。軽くキスをする。軽い塩味。涙の味がした。あぁ、帰って来たんだなと実感した。
「落ち着いて、リズ。深呼吸。深呼吸」
息をつき、冷静さが戻って来たのを確認し、状況を聞く。
「ハーティスさん達が意識を失ったヒロを連れて来てくれたの」
話を聞くと、どうもあの日合わせて3日程意識を失っていたらしい。
お願いしていた通り、あの集団を殲滅した後即座に状態が良い物を1匹担ぎ、逃走したとの事。
ハーティスがサンプルを、ディードとアリエが交互に私を担ぎ村まで戻って来たとの事。
意識を失った私は薬師ギルドの職員の診察で魔力の過剰行使で大事無いと判断され、寝かされていたとの事。
ちなみに、飲食は薬師ギルドの職員が流動食で処理してくれたとの事。誤嚥しなくて良かった。後で日当聞いておこう。
リズに関しては、意識を失っていた間離れず看病してくれていたとの事。
「本当に、本当に心配した」
頬を膨らませて剥れていた。リスみたいだ。
この後、アスト達も部屋に訪れ、意識が戻った事を喜んでくれた。
時間はまだ早朝、日が明けてすぐだった。
具の無いスープでパン粥を作って貰い、ゆっくりと食べる。
ギルドに向かう旨を告げると、リズが一緒に行くと言い出した。
今日は村を巡るだけのつもりなので、危険は無いと諭したが、聞かない。
アストに仲介して貰い、何とか猟に出て貰った。
今日の家賃はまとめて払おうと思い、そのまま家を出る。
「いってらっしゃい。でもリズも大分気にしていたけど、私も心配したわ。あまり無茶しないでね」
ティーシアが心配そうな顔で告げる。
「村の中だけなので、大丈夫です。心配なさらず。お気遣い感謝します」
さて、このプチ浦島太郎状態を解消しないといけないな。