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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第383話 初めてのペア狩りと天然ジゴロ

 ふっと目を覚ますと星明りは朝日に置き換わって、穏やかな光を窓の隙間から差し込ませている。窓を開け放つと若干湿った暖かな風が入ってくる。空は厚く曇っているようだが、雨の降りそうな色では無い。その雲の端の方から日が昇ろうとしているところだった。三月二十二は曇り。三月ももう終わろうとしているので、気温はぐっと上がってきた。


 食堂に向かうと、アレクトリアが指揮を執っているので、声をかける。


「と言う訳で、海の方の様子を見てくるよ」


「分かりました。領主館側の教育も一段落つきました。一旦温泉宿の方に戻って教育を進めます。領主館の方にお客様が有った場合は、こちらに赴きます」


 笑顔でアレクトリアが答え、タロとヒメの食事をくれる。面倒をかける旨を伝えると恐縮されたので、その上でお礼だけを伝えて部屋に戻る。


 部屋でタロとヒメに食事と水を与える。しかし、箱と比較してもかなり大きくなってきた。日々見ていると気付かないが、生き物だけにやっぱり成長する物だなと感心してしまう。満足気な二匹に『馴致』で旅をするよと伝えると、ヒメも慣れたのか特に大きな反応は無かった。散歩の範囲が広がる喜び程度の感覚だった。うん、きっと大物になると思う。


 ふにゅうって顔で眠っているリズを起こそうとベッドに近付く。顔の肌はまだまだモチモチをキープしていて、触れると吸い付いてくる。日本の女性は日々化粧をしては落としての繰り返しでダメージを与えているので、そう言う意味では一回栄養を補給すると長持ちするのかなとは思う。飽きない感じでぷにゅぷにゅと頬に触れていると、リズが目を覚ます。


「おはよう、ヒロ……。好きだね、触るの……」


「おはよう、リズ。気持ち良いよ」


「そう……。ヒロが良いなら、良いけど。いつもの時間くらい?」


「そうだね。さぁ、用意しちゃおう」


 タライにお湯を生み、リズが朝の支度を始める。皆はお風呂場に併設した洗面所で朝の準備だろう。洗面所と言う概念が無かったので、かなり評判が良い。鏡と水を流せる場所を一つにまとめると言う発想が無かったのがネックだろう。手桶で樽の水を汲み、洗顔、歯磨き、髪の直しに使う。使用人達にも開放しているし、早朝は結構ゴタゴタする程いっぱいらしい。便利に使ってくれているのなら、良かった。ちなみに、カビアがこの概念をどうやって特許化するか非常に悩んでいた。もし出来たら、個人の規模では使いきれない程の金が入ってきそうでちょっと期待はしている。


 リズが朝の準備をする間、海側の報告書を改めて確認していく。ざっとの進捗は追っていたが、どうしても距離が有る為、タイムラグが発生する。現状では、設計通りの流下式塩田の用意は終わっている。後、建物を新築し、大規模な(かまど)と鍋の用意までは終わっているか、終わっていないかのラインだ。ここに燃料の薪も『リザティア』経由で流れ込んでいるので、箱が出来ていれば運転は可能だ。問題はそこの報告が曖昧なままで終わっている。森を優先したのも、この報告が固まってから行きたいなと言うのも有ったが……。もう、しょうがない。急いては事をなんて言うけど、機を見るに敏もまた真理だ。ここまで設備が出来ているなら、製塩手順を実演して、生産を始めた方がメリットが有るだろう。


 そんな事を考えていると、歯磨き以外は終わったみたいなので、一緒に歯を磨いて、リズと身嗜みをチェックし合って、部屋を出る。出来れば髪を切りたい気もするけど、流石に理容室まではまだ出来ていない。飯場の方で理容サービスが有るか聞いてみれば良かったが、そんな暇も無かったなと振り返って思う。


 アレクトリアの料理とも、ちょっとの間のお別れと思いながら心して食べる。ラードと辛子を塗ったパンにソーセージと葉野菜を挟む、ホットドックみたいな朝食だった。ソーセージも太めのを使っており、ボリュームも有る。スープもコンソメのレシピに合わせて作った透き通ったコンソメスープだ。野菜の甘みと、燻製肉の塩気と香りがアクセントになっていて美味しい。この分量だと、卵も大量に使っただろうが、黄身は黄身で別に用途が有るので大丈夫かな。


 食事が終わると、銘々で荷物の積み込みを始める。点検は昨日の段階で完了しているので食料品なんかは特に問題が無い。ロットが指揮を執り、ごちゃごちゃと荷物を積み込んでいく。食料が少なめなので、前回海に行った時程の荷物にはならなかった。前から飛び出す際に荷物が邪魔だったので、それはありがたい。


 そろそろ出ようかとしていると、使用人達にペルス達政務団の人間も混じっている。


「じゃあ、迷惑をかけるけど、後よろしく頼むね」


「重要な案件ですので、後はお気になさらず。無事の帰還をお祈りしております」


 ペルスと握手を交わし、馬車に乗り込む。後部の幌を開けて、いってきますと手を振る。皆が見えなくなるまで手を振り続けた。


 暖かくなってきたけど、曇りと言う事で、馬達も快適に走ってくれている。『馴致』で様子を伺ってみたが、機嫌の良い馬ばかりでレイの手入れに感心する。

 そのまま、休憩、昼食、休憩と挟みながら、一泊目の野営地に着く。いつも通り、夜番を決めて、皆でテントに潜り込む。変わったのはカビアとティアナが同じテントに潜り込むようになった事だ。レイは変わらず馬車で寝ている。環境的にはテントより良いので御者で疲労しているレイに優先して使ってもらった方が良い。

 しかし、婦人教育及び私の貴族教育だが、あれだ。神が介在しているのも有るのか、えらく簡素と言うか、虚飾がほとんど無い。上座、下座の概念とか、目上、目下に対する挨拶など社会人のマナー教室みたいになっている。もっと仰々しいのを想像していたが、そうでもない。私は今までの社会常識にちょっとずつ補正を加えながら、調整を進めていく。リズは基礎が無いのでちょっと苦労しているが、何故そう言う事をするのかの部分を説明すると納得して応用を覚えていくので、やっぱりこの子やる気有るし、賢い。

 タロとヒメも食事を食べられてずっと色んな人に構ってもらえるのが嬉しいのか終始ご機嫌だ。先程、ちゃぽちゃぽ浸けたら、二匹共スヤァしたのでそのまま寝かしておく。


 一日目は順調と言う事で、三月二十三日の早朝、皆で朝の支度を終えて、出発する。昼過ぎ辺りから竹の地域に入ったので、明日の朝にでも刺身を探してみるかと思う。

 若干雲は厚めだが、昨日と同じく雨は大丈夫。そのまま野営地に予定より早めに到着する。


 野営の指示をして、私は、タロとヒメの散歩。機嫌は良いのだが、流石に狭い場所に長くいるのも気が滅入るだろうと、散歩はなるべく機会を見ては連れ出している。

 暫く竹林と平地の間を歩いていると、『警戒』の隅にウサギらしき気配を感じる。首輪を解くと二匹共不思議そうな視線を返してくる。


『ウサギが向こうにいる、捕らえる?』


『ウサギ!!たべるの!!』


『ウサギ、たべたい』


 二匹に注意を促しながら、じりじりとウサギの方へ近付く。背を低くして様子を伺うと巣穴から離れたところでもしゃもしゃと何かを食べているウサギを発見した。


『タロは追い込み、ヒメは大回りして逃げる方向で待ち伏せ』


 そう指示を出しながら、実際の動きを思考に乗せて送ると、二匹から理解した旨の思考が返ってくる。


 ヒメが大回りでウサギに気付かれないように反対側に到着する。それを合図にタロが駆け出す。ウサギも周辺の変化に気付いたのか、体を伸ばし辺りを確認し、タロの接近を発見し、逆側に逃走を始める。徐々に進路をずらしているのは巣穴か隠れられる場所が有るからだろうけど、甘い。伏せて様子を窺っていたヒメが一気に走り出て、ウサギの進路を塞ぎながら大声で威嚇をする。驚きに動きが鈍ったウサギの首筋にタロが噛みつき、そのまま首を急角度で大きく振る。音が聞こえる距離では無いが、ごきりとウサギの首の骨が折れた様子は伺えた。


 獲物を捕ったタロがどうするのかなと見ていると、ぽてっとヒメの前に置いて、しっぽを振る。ん?自分で食べないのかな?そう思っていると、おずおずとヒメが近付き、何度も確認するかのように頭を縦に振り、タロも縦に振る。安心したかのように、ヒメが前脚と顎を使って上手く毛皮を割いていく。肉が露出したところでハクハクと食べ始める。それを見て、タロもハクハクと食べ始める。あー!!タロ、獲物の捌き方分からないから丸投げしたな!!しかも、ヒメも獲物を譲られると言う事で非常に好感度が上がっている。で、一緒の獲物を食べると言う事でますます好感度が上がる。何あれ、タロはあれか、主人公補正と言うか、チョロイン製造器官でも付いているのか……。なんて羨ましい……。


 んー。保護者の身としては、タロの天然ジゴロっぷりとヒメのちょっとチョロインな感じを見て、将来が不安になるよ……。

 そんな感じで、我が子達の初めてのペア狩りは成功で終わった。イメージ送っていないと、ちょっと無理だったかも知れないけど、まぁ、及第点だろう。今日の狩り方を応用して、今後どんどん練度を増していく感じかな。


 初めて自分達で捕った獲物を思う存分堪能し、二匹が近付いてくる。あーあ、顔中血塗れだし。近くに来ると双方がグルーミングしながら、血を舐め取っていく。ヒメが非常に熱心に甲斐甲斐しくタロに尽くしているのが印象的だった。タロ、大物になりそうだ。でも、私にとってはいつまでも可愛い子狼のままだ。


『よく頑張ったね』


 『馴致』で送ると、キャンとウォフっと言う形で嬉しそうな鳴き声が返ってくる。うん。獲物が捕れるようになったら、一人前さ。良かった、良かった。

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