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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第377話 綺麗な婚約者は好きですか?

 暫くすると落ち着いてきたのか、大人しくなってきたので、呼んでみると素直に近付いてくる。首輪を嵌め外に出る。汗は滲んでいるが春の風で少しずつ引き始めた。そんなに間を空けずに温泉に二回も浸かるのは結構辛い。少し怠さも感じる。少し水を生み出し飲んでみると、思った以上の喉の渇きに驚く。先程温泉を出た後から水分補給をしていなかった。原因はこれかと、少しずつ水を生み出し、喉の渇きを潤す。タロとヒメの事を心配し過ぎて、自分を後回しにしていた。危ない、危ない。


 まだ、皆はエステとマッサージが終わっていないのか、周囲には誰もいない。『警戒』も若干範囲外のようなので、散歩がてら待つ事にする。タロとヒメもお風呂に入ってその上まだ散歩が出来ると言う事で上機嫌にペット風呂の建物周辺を嗅ぎまわる。ちなみに、ペット風呂の建物の外側にも執拗に体を擦り付けあっていたので、余程気に入ったのだろう。


 汗が早く引かないかなと思いながら涼しい風を楽しんでいると、わらわらと皆が近付いてくるのが見えた。手を振ると、上機嫌に振り返してくるので、良い結果だったのだろうと安心する。


「どうよ? この肌? 超綺麗になってない?」


 フィアが物凄い得意げな顔で聞いてくるが、私の興味の先はリズだ。


「はいはい。綺麗、綺麗。ロットにちゃんと見せた?」


 おざなりに返答すると、フィアが若干むくれる。


「リーダー、冷たい。良いもん。どうせ、リズの事が一番なんでしょ。ほら、リズ、恥ずかしがってないで、前でて、ほら」


 フィアがリズの背後に回り、その背中を押して、眼前に立たせる。


「どうよ、リーダー。綺麗になったよね? もう、脱衣所まで戻って鏡の確認までしたし。ほら、リズだよ」


 若干伏し目がちになったリズがおずおずと口を開く。


「どうかな……ヒロ。変わった?」


 恥ずかし気に告げるリズの顔を見るが、明らかに変化している。ぱっと見で分かる。艶々だ。思わず、ほぉーっと口が開く。じりじりと近付きながら確認するが、うん、全然違う。

 この世界の人は綺麗なのだが、基本的に化粧も無くすっぴんなので、肌はやはり荒れた印象を感じる。日焼けや手入れの問題だと思う。その荒れた肌が見事に整っている。

 エステ一つでここまで変わるか……。


「綺麗だ、リズ。驚いた。本当に見違える程だ。えと、触れても良いかな……?」


「うん、良いよ」


 こくんと小さく頷く。


「ありがとう……」


 自分が何を呟いたかも分からない心地で、そっとリズの頬に触れる。いつも張りの有るモチモチした肌と言う印象だったが、その上に滑らかさとしっとりとした吸い付くような感触を感じる。どこまでも柔らかで、触れていると溶けてしまいそうな錯覚を覚える。そのふんわりとした頬を望外の喜びで優しく触れていると徐々に赤みが走る。


「ヒロ……ちょ……恥ずかしい……」


 リズに言われて、はっと我に返る。うわ、全然自覚無かったけど、結構これ、恥ずかしい。周囲を見ると、皆なんかニヤニヤしている。レイやカビアも微笑ましい物を見る顔で笑っている。

 咳ばらいをして、手を放す。うん、これは印象が変わる。基礎が有る分、花開くと言う表現を体現するかのように美しくなった。


 実際には海で人魚さんに貰った昆布を乳鉢で磨り潰し、煮出した液にオリーブオイルを混ぜてパックをすると言う単純なものだが、ここまで効果が有るとは思っていなかった。確か美白効果が有ると言う(うた)い文句だったが、石鹸の時と同じくくすみがより取れた感じはする。それにお風呂の後に油分でパックした為か、モチモチ感が増している。石鹸で顔を洗う頻度は抑えてもらっているが今回はオリーブオイルがクレンジングと栄養補給の効果を発揮しているのかな?余分な油分はぬるめのお湯で洗い流して柔らかい布で拭うのでべたべたはしない。

 流石に詳細までは知らないが、食べて問題無く刺激も無い物同士、心配はしていなかったが、効果が出ると嬉しい。でも、化粧水が無いのが残念だ。へちま水でも良いから入手したい。へちま、有るのかな……。でも、リズの肌の為なら、探したいと思う。


 他の皆も見渡すが、皆誇らしげな顔をしている。効果が続くのなら、有りなのかな。どのくらい続くんだろう。ロットとドルはそれぞれフィアとロッサを優しく抱きしめているので、そっとしておこう。


 男性陣もマッサージで効果は有ったようですっきりした顔をしている。特に書類の処理に追われているカビアと年齢的にレイは随分楽な様子だ。


「カビア、肩の方、どう?」


「はい。随分楽になりました。首の方まで痛みが走っていましたが、肩を治してもらったお蔭か、すっきりしました」


 そう言うと、カビアが首を左右に曲げるが、辛そうな違和感が無い。この世界のマッサージも効果あるのかな。今度行ってみよう。

 レイの顔も随分明るい。日頃苦労してもらっている分、嬉しそうな顔にほっとする。


「さてと、時間も時間だし、ご飯を食べて帰ろうか。近日中には森の調査だよ」


 そう言うと、皆からはーいと言う声が返ってくる。ん。機嫌は良さそうだ。


 食堂に向かい、食事を頼むがアレクトリアが領主館の為、美味しいけど、感動する程でも無い。個々の料理人の技術向上も必要だ、これは。今のままだと、アレクトリアだけに負担がかかっている気がする。

 でも教育に回れるほど余裕は無いか……。レシピは書けるけど、その行間を読む必要は有る。そこは基礎的な料理のテクニックだったり、感覚だったりである程度手取り足取りで経験しないと理解出来ない。やはり、アレクトリアが稀有と言う話になっちゃうか……。時間で解決する話だけど少し気にかけておこう。

 皆は普通に美味しい為、満足している。温泉宿はやはり良いと言う感想だが、個人的にはまだ足りないと考える。食堂に関してはレシピの詳細化と目的を持って経験してもらうのが喫緊の課題かな。


 食堂を出た頃には、辺りは夕暮れで真っ赤に染まっている。もうそろそろ暗くなるので帰らないと。散歩とお風呂疲れと食事のコンボでタロとヒメも寝てしまっているので、抱えている。


「じゃあ、領主館に戻ろうか」


 そう声をかけて、駐車場の方に向かう。馬車に乗り込みタロとヒメをそっと箱に戻す。わいわいと楽しそうな仲間達に囲まれながら、馬車が発車する。


 完成に近づきつつあるけど、まだまだ先はかかるなと言うのが今日の視察の印象だった。町作りなので一朝一夕は無理だけど、効率化を図れる部分は調整しても良いだろう。その辺りはテディが着いてからが本番かな。想定問答含めて資料は作っておこう。まだまだ町開きは遠いなと少しだけ苦笑が漏れる。

 小言が来るかなとリズの方を向くがニマニマとしながら何か考えている様子だ。鏡で見た自分の姿かな?そうだったら可愛い。


 手続きを終えて、町に戻り、領主館の玄関前で降ろしてもらう。レイは馬の世話を終えた後、休むと言う話だ。

 玄関を入って、仲間達とは分かれる。各自が自分の部屋に戻る。ティアナがそわそわしているので、カビアに合図を送ると、カビアが決心した顔で応接室にティアナと一緒に向かって行った。ティアナの心底嬉しそうな顔が印象的だった。少し疲れたちょっとおこりんぼうなお嬢様と言う印象が吹き飛ぶような可憐な表情だった。ふふ、良い結果になったら嬉しいな。


 部屋に戻ると、視察とお風呂で疲れたのかリズがパタンとベッドに横になる。


「特に何もしていないけど、疲れた気がする」


 何もしていない訳では無い。視察と言うのも、結構気を張って色々見るので疲れる。見て理解すると言うのは結構体力が必要な行為だ。


「お疲れ様。はい。水」


 部屋に用意されているコップに冷たい水を注ぎ、差し出す。


「ありがとう、ヒロ」


 にっこりと微笑みながら、リズがコップを傾ける。ふと覗き込んだ、嚥下する喉元の艶めかしさに気付かず、生唾を飲み込んでいた。


「ふぅ……。美味しかった。ありがとう」


 リズがコップを差し出してくる腕をそっと掴む。


「ヒロ?」


 左手でコップをテーブルに戻し、リズをそのままベッドに押し倒す。


「ちょ、ヒロ?」


 綺麗になったリズの顔を見ようと、顔を近付けると少しだけ昆布の香りがして笑ってしまった。あのパック、昆布の香りは残っちゃうな。香油は必須かな。


「どうしたの、ヒロ?」


「ごめん。凄く綺麗になったから、近くで見たくなった……。近くで見てもやっぱり綺麗……。本当に食べてしまいそう」


 そう言いながら、優しく頬に口付ける。


「ふふ、ありがとう。でも、甘えん坊さん?」


「甘えん坊でも良いよ。リズ……愛している」


 そのまま頬から唇に移動して、深く口付ける。少しだけ呼吸の荒くなったリズと一緒に布団の中に潜り込む。まだ晩はちょっと寒い。温泉の後なのでぽかぽかしてはいるが油断すると風邪をひきそうだ。


 ふと、部屋に戻る際に執事から渡された冒険者ギルドからのレポートが気になったが、急ぎでは無く返答のいらない物だったので明日の朝に回す事にする。


 モチモチの感触を楽しみながら、妻が綺麗になるのって嬉しいなって改めて思う。愛おしさが心の奥から湧き上がってくる。綺麗になってくれてありがとう。思えば思う程、扱いは優しく繊細になっていく。


「ん……ふふ、くすぐったい。ヒロ、優しいね……いつもより」


「なんだか、壊れそうな気がするから、大切に……ね」


 そう言いながら、燭台の明かりを魔術で消す。疲労を残さない為にも、早めに寝ないとね。


 緩み始めた寒さの中で、尚暖めようとするかのように、二人で抱き合う。感じた幸せを少しでも分けられたら、そう思いながら、いつまでも抱擁し合っていた。


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