第35話 昔からターンアンデッドを聖職者が使うのは何故か謎でした
と言う事は、ネクロマンシーな魔術とかは無いのかな?
「ゲーム等では死霊魔術みたいな、死んだ下僕を操る魔術が有りますが、そう言うものは無いのですか?」
「ゲームや映画で言う所のアンデッド、ゾンビと言うものか?死の概念上死者を操る事は出来ん。だが、お前の所のコンピュータでもクラックは出来ただろう?一部禁則事項は含まれるが、一部の生物が特殊な方法で対象のプロパティを弄りゾンビBOTに変える状況は有る。またその際に捕食等の行為でウィルス、この場合はそちらのコンピュータウィルスの概念か、を感染させ増加を促す事も有る。管理の怠慢でプロパティが変調し、異常な端末が発生する場合も有るな。その辺りが従属型のアンデッドと自然発生型のアンデッドのイメージに近いのだろう。神術がアンデッドなるものに効果を発するのもプロパティの異常を修復する為だ。そちらのゲーム等でも聖職者なる者がやっているだろう?あのイメージだ」
ターンアンデッドとかの原理はこれか。
その辺りを問うと、プロパティの破損率が高ければ、直すのに相応の魔力が必要となるとの事。
だから、損壊が大きい場合はクラックされた部分のみ修復し、後は現状に任せるとの事。故にそのまま死体になるのとの事。
高位のアンデッドとは、プロパティが不正に高く変異した若しくは弄られた部分が多い為、神術での対応には相応の習熟が必要となるとの事。
後、生きている事に変わりは無いので一定以上損壊すれば、他の生物と同じように死亡するとの事。
特に従属型の場合は主側の管理が悪ければ、すぐに栄養不足や損傷を放置させたりで死んでしまうとの事。
「お前の所で言う、吸血鬼か?あれが最も分かりやすい。小さな損傷でウィルスを感染させ従僕とする。意識のプロパティのパラメータだけ変えれば生存させるのも容易でな。この星にも似た種族はおるぞ」
「クラッカーを放置していても管理側として問題は無いのですか?」
「端末側の脆弱性を突いてプロパティを弄っているだけだからな。管理側はサーバアプリケーションの運営保守が主業務だ。そちらに影響が出ない限りは関与しない。享楽のも言っておっただろう?遍く愛の対象だ」
脆弱性を保護する為にスキルとしてそれぞれの耐性が存在するとの事。パッチみたいな物か。
「アンデッドの話が出たのでな。ついでに忠告しておく。この星の個人の性質は地球のそれと大きくは変わらん。やはり一部の個人の意識のパラメータが異常な場合も有る。率直に言うと、積極的に他者を傷つけて益を得ようとする者はおる」
アレクトアが真剣な顔で目を見つめてくる。
「お前の善性は好ましい。背景や教育と言う物もあろうが、その傾向はこのサーバの管理業務者の望むものだ。ただ、それ故に、間違えるな。自らを害する物には毅然と対応せよ。言い方は悪いが、同族でも殺すべき時は殺せ。それは許容された現実だ」
漠然と不安に思っていた物を突き付けられた思いだった。やはり快楽殺人者や盗賊等はこの星にいる。それを殺せるか、か。
「教育による常識故、同族殺しに禁忌を感じておるのだろう?ログを見た際にそれは分かっておる。その性質はこの星のテーマとも合致しておる。基本的には問題無い。故にここで私が、私達遍く神々がそれを赦す。成すべき時は成せ」
人を殺す、か。現実感が無い。ゴブリンだけでもあれだ。正直どうなるか分からない。
「客人がそのような事で害されるのは忍びないでな。享楽のが言っていた通り、神々はお前の訪問を喜び祝福しておる。必要な事を赦さん程、狭量では無い」
アレクトアが真摯に微笑む。
「何、そう気にするな。生業の問題も有ろうから機会は訪れる。故に享楽のに術式を託した。あれで有れば、無力化も容易だろう」
「ありがとう……ございます」
現状では何も言えない。感謝の言葉しかなかった。
「後は、此度の事か。魔物化はプロパティが変更される現象だ。『認識』で一部のプロパティ情報は確認しただろう?そう頻繁に起こる事では無いが、条件が揃えば発生する事象でも有る。そうそう手助けが出来る程、権限は無いのでな。努々気をつけよ」
「はい」
「では客人、いやアキヒロか。そろそろ時間だ」
そう長く話していた感じはしない。食事も合わせ精々3時間も無い。
「そんなに時間が経っていましたか?」
「『識者』への対応の為、ここは少々特殊でな。対抗処置を取ってから、構築した時間も有る。また時間の流れも歪んでおるでな」
アレクトアが握手を求めてくる。
「お前の旅路に幸有らん事を。また出会う機会もあろう。他の神々も虎視眈々と出会いを願っておる」
何故、そんなに、会いたがるのか?
「何。生の地球、それも日本からの客人だ。話を聞きたがる者は大勢おる。享楽のが真っ先に飛び出したのは、あれがあれたる所以だな」
アレクトアが大声で笑う。
「良き時を過ごした。こちらからも感謝を。あぁ、それと、治癒のには一報入れておけ。生きる術を渡す事は、客人に対しての最低限の対応なのでな」
「はい。ありがとうございました。またお会いする機会を楽しみにしております」
「うむ。ではな」
アレクトアが呟いた瞬間姿が消え、周囲が闇に包まれる。
意識が戻る前の暗さと体の感触を感じ始める。
<……。……告。再接続を確認しました。状況の確認を開始します。ログの確認を開始します。……確認完了。異常は見当たりません。>
『識者』先生の声が聞こえる。
あぁ、意識が戻るんだな。リズ怒っているかな?そんな事を思いながら、目を開けた。