第373話 まずはさらっと外見とサービス説明から
中央の一番大きなラウンドアバウトを緩やかに曲がり、西門へ向かう。農家の状況は明日で良いかな。これは私だけで良いだろう。リズは教育、他の皆には森の様子を見てもらうか。冒険者ギルドに正式依頼として出しておこう。
ぼへーっと考えていると、西門が見えてくる。この門と南門は先に石造りで完成させた。お客様メインの出入り口になるので、少し時間をかけても優先的に作ってもらった。現状は扉を開放しているし、門衛も馬車の略式紋章を見て、敬礼をしてくるので、窓から顔を出して手を振り返す。
歓楽街までローマ街道の敷設は終わっているので、町中と同じ快適さで、平野をゆっくりと移動する。
しかし、何だかタロとヒメが先程から熱っぽい目で擦り寄ってくる。んー。何か有ったのかな?
『どうしたの? どうして欲しいの?』
『まま、なでていいの』
『ぱぱ、なでて』
二匹共、凄く甘えてくる。何だろう。良く分からないけど、胡坐の中に二匹を入れて、お腹を撫でる。大体弱い所は分かっているので、重点的に攻めていく。
そう時も経たず、しっぽを振り始める。切ない鳴き声を上げるのを聞きながら、弱い所を探し出し、撫でまわす。感覚に慣れないように不定期に別のそれらしい場所へ移動させながら、撫で続ける。
『やっぱり、ままなの』
『ぱぱ、きもちいい』
何がやっぱりかさっぱり分からないが、まぁ良いかと。ふと毛の絡まりを見つけたので、帰ったらブラッシングかなと思いながら、歓楽街の門に到着するまで撫で続けた。
門の前に着くとレイが一度、馬車を停めてくれる。最終的には石壁で囲むが現在は木の柵で応急的に囲んでいる。木の柵と言っても、簡易な柵では無く、トルカの北の森の簡易宿泊所並みのしっかりした柵だ。木壁と言っても良い。有事の際は、領主館と歓楽街が防衛拠点として避難場所になる。疎かに出来ない。
「なんだか勿体無いですね……」
ロッサが木の壁を見上げながら呟く。この壁が仮の壁だと言うのは皆、知っている。
「木材としては長めに取っているから。そのまま表面を削って家屋用の壁材に使えるよ。残余部分も薪に変わるから、安心して」
少しだけ沈んだ顔だったロッサの頭を撫でる。すると、沈んでいた顔が明るくなる。
「そう……ですか。良かったです」
ドルの方を向くと頷きが返る。この辺り寛容と言うか、私が何の感情も持たないのを知っている所為か、ロットもドルもこう言う行為に嫉妬もしない。人間が出来ていると言うか。
「手続きが完了致しました。先に進みます」
歓楽街に関しては、セキュリティを高めに設定している。例え、私でも入退許可が無ければ通れない。入退許可自体は政庁で出しているし、訪問客に関しては途中で政庁に寄ってもらう。貴族に関してもいきなり歓楽街に向かう事は無い。普通は領主館に寄るので政務棟で入退処理を行う。これに関しては、各貴族の権利として存在している。上級貴族が好き勝手入りたい所に入れる訳が無い。隠さなければならない物も有るので、その辺りは明言されているし、破った場合、まず間違い無く裁判では勝てない。ただ、諜報が潜り込む事自体は有り得るので、カウンターインテリジェンスは必須だ。なので、そこをロスティーとノーウェにお願いしている。自前で持ちたいけど、人材育成には時間がかかるので、もう、これは気長に待つ。
開放された扉の前の簡易柵が開かれ、馬車が進み始める。ちなみに、定期の路線馬車に関しては乗る際に入退処理が有るので素通りだ。そこを厳密に運用すると、朝晩のラッシュで死ぬと思う。
中央通りを進むと、それぞれの建物が見えてくる。優先した分も有ってか、歓楽街側の開発はかなり進んでいる。オープニングスタッフが運用出来るまでに時間がかかるので、最優先でお願いしたが、やはり、出来上がっているのを見ると感慨深い。
「あ、あれ!! 温泉のマークだ。あそこも温泉なの?」
フィアが指さしながら叫ぶ。外湯に関しては、全て日本人おなじみの温泉マークが付いている。あのマークが一番分かり易い。
「うん。あそこも温泉。温泉宿とちょっと違うお風呂が有るよ」
「ちゃうんですか? どうちゃうんですか?」
チャットが首を傾げる。
「んー。上から滝みたいに降って来たり、大きな甕に一人で入ったり、川の水と交互に浸かったり、サウナも有るし、石の板の上で温まるのも有るよ」
「何よそれ……。そんなに種類が有るの?」
ティアナが絶句する。
「うん、色々用意した。将来的に砂に潜るのとかも作りたいけど、それはちょっと先かな」
そんな話をしながら、外周側も回ってくれる。
「あの建物面白いです。外側に廊下が有ります」
ロッサが指を指す。あー。アパート方式の集合住宅か。面積を有効に使うとあれが一番効率が良かった。でも、廊下と階段は鉄製なので、何と言うか昔の文化住宅っぽい。
「廊下を部屋の中に作ると、狭くなっちゃうから。その分居住スペースが広がっているよ」
居住区を抜けて裏路地の方に入る。
「あの辺りは、食堂なの?」
リズが指さす。
「そうだね。立ったまま飲む店とか、四人くらいで飲む店とか、色々試してみた」
小パーティーから、大集団まで色々店を作ってみた。宿で向いている店を紹介してもらう形だ。
「あの小さいのは?」
リズが常設露天設備を指さす。
「あの辺りは新しい遊戯を置いたりするかな」
遊戯と言った瞬間、皆の目が変わる。怖い、怖いよ。
「いや、まだ、出来ていないから。その内、その内」
射的とか、スマートボールとかそう言うのを置いた店にする。何と言うか、毎日お祭りって感じになるのかな。
「あの辺りの規模の大きな食堂は?」
ドルが指さすが、また地雷を踏む。
「えーっと。女の子が横に座って一緒にお酒を飲んでくれるお店……かな?」
キャバクラとか言っても分からない。皆も首を傾げている。
「一緒にお酒を飲むだけなんですか?」
ロットが眉根を寄せながら聞いてくる。
「一緒に飲むだけ。エロい事は無し。楽しくお話するだけ」
「それでサービスになるんでしょうか?」
ロットが尚意味が分からないと言う顔になる。いや、人間全肯定されながら酒飲むと、気持ち良いよ?しかし、演技指導どうしようかな。そこまでやらないと駄目かと言う気もする。リナに諜報系のハニートラップ専門の人間を紹介してもらって、その人に手練手管を伝授してもらおうかな。
「まぁ、その辺りは始めてからと言う事で」
そう言っていると、やや原色に塗られたブロックを過ぎる。窓から女の子が手を振っているので、振り返す。
「知り合い?」
リズが影を背負った顔で聞いてくる。
「いや、全然。あの子達、娼婦だよ。そろそろ店の準備で入り始めたんだね」
そんな感じで各所を説明しながら、温泉宿に向かう。今の冷や汗を流したい。先生、温泉に入りたいです……。