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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第362話 竹も根付きました、茶室は有りますが茶道までは分かりません

「任命書は書式が有りますので、それをそのまま使っております。付帯の契約書がこちらになります。ご確認よろしくお願い致します」


 カビアが契約書の束を渡してくるので、代わりに特許周りの書類を渡す。そっちは内容確認なので、カビアでも処理が可能だ。契約書を見ていくが、この世界でも甲が乙に……の世界なので、もう辛い。ディアニーヌももうちょっと手加減して欲しい。実際の状況に落とし込みながら、契約書を読んでいく。内容に関して特に問題が無かったので、これで通しても良いだろう。商工会議所がこれで正式発足かな。政庁自体は完成しているので、後は人員が入っていけば、動き始めるだろう。


 ふと文字が読み辛いなと思って窓の外を見ると、徐々に暗くなっている。話し合いもそうだが、書類書きでも時間を食った。慣れていないとは言え、効率が悪い。雨はまだ止んでおらず、細い糸のような雨が続いている。買い物に出た面々はどうしているのかなとふと気になる。


「取り敢えず、今日の仕事はこれくらいにしようか。明日は面会の予定も入っていないし、町を巡ろう。様子を見たい」


「分かりました。レイさんと調整致します」


「もうそろそろ夕ご飯だろうし、部屋に戻ろうか」


 カビアに声をかけると、今読んでいる特許周りの資料をまとめてフォルダに戻し、棚に差し込む。カビアもフォルダの便利さに気付き多用し始めた。でも、場所を取るのは一緒なので、もう少し薄いのが欲しい。クリアフォルダって偉大だな……。


 カビアの一礼に合わせて、執務室を出る。


 部屋に戻ると、飯場の購買を堪能してきたのか、リズが戦利品を色々吟味している。


「何か気に入った物が有った?」


「香油で良い香りの物が何点か有ったよ。好みの物が見つかったし、継続して入荷するって雑貨屋の人も言っていたから、ちょっと安心かな」


 リズがお気に入りの香油の瓶を軽く振りながら、笑顔で答える。


「購買の人、そのまま商店を開くの?」


「うん。権利は買ったって言っていたよ。中央政庁近くの複合商業施設って言うのに入るらしいよ」


 あぁ……。スーパーに入るのかな。中央のは規模が大きいから若干デパートっぽい雰囲気になっている。雑貨屋が入る余地も有るか。まだまだ権利の安い時期だし、先行者特権としてサンプル的に優先入店と言う枠に入ったのかな?飯場で頑張ってもらっているし、今後は楽をして欲しい。

 中央デパートはこれからワラニカ国の顔になる筈だから。温泉街に泊まる外交官も最終的には中央政庁付近の領事館敷地に領事館を建てて移動する。そうなった時に利用するのが、あのデパートだし。

 実は超優良物件なのだけど普通は気付かない。フェン達辺りは大方針の一部で説明したから薄々は感付いているとは思うけど。まぁ、経営層が現場に茶々を入れるのは許さない。

 経営層は経営に専念してもらう。これが守れない会社がどれだけ悲惨な結果になってきたか。経営層は必至で経営の事を考えて、下を動かすのがお仕事だ。自分で動くなんて意味が無いし、勿体無い。自分が動かないで良いように、経営を回すのも経営層のお仕事なのだから。


「良い所に入るんだね。あそこなら、良い商売が出来そうだし、信用出来るお店なんだろうね。また、一緒に行こうか?」


「うん。案内するね」


 リズがにこにこと頷く。その笑顔が可愛くて、そっと頬に触れる。


「ヒロ?」


「ん……。あまりに可愛すぎて、現実なのか少しだけ怖くなった。()れられるリズがここにいてくれるだけで安心出来る」


「ヒロ……。ふふ。ちょっとお疲れなのかな? 寂しがり屋さん?」


 リズが少しだけ笑顔の質を変える。まるで慈母のような包容力の有る微笑み。あぁ、こんなところもティーシアの血を引いているんだな。


「そうかもね。少し込み入った話が多かったから少し疲れた。雨も止まないし明日の天気も分からない。何なら、明日は皆で馬車で町でもぶらつこうかと思っているけど、どう?」


「あ、良いかも。まだ、全然町の事も分からないし。あ!! 温泉!! 温泉行きたい!!」


 リズが手をぽんと叩きながら言う。


「温泉宿か……。まだ、着いてから現物を見ていないね。晴れてても、見に行くべきか。夕ご飯の時に皆とも相談しようか」


「うん」


 リズが了解と言う感じで手を挙げるのを横目に、タロとヒメの様子を見る。箱の中でお互いにグルーミングをしたりされたりで落ち着いた様子だ。小雨がぱらついているので、遠出は出来ないけど、領主館の周りを散歩する程度なら良いかな?そのまますぐにお風呂に浸けて温まってもらおう。


 箱から抱きかかえて出すと、そのまま二匹共壁の方まで行って、体を擦り付ける。見ていると、ヒメが擦り付けて、タロが擦り付ける。その後をクンクンと嗅いで二匹が納得すると、また次の場所に移動すると言う感じだ。んー?複数の犬を飼った事が無いから意味が分からない。テリトリー的にはタロ領の中のヒメの領域みたいな感じなのかな?と言うか、いつの間にか本当に二匹共仲良くなった。良かったけど、お父さん少しだけ寂しい。


 首輪を持ってくると、目敏く見つけたタロがたーっと走って来て、それに続いてヒメが走ってくる。


『雨だけど、少しだけ散歩する?』


『さんぽ!!するの!!』


『さんぽ、いきたい』


 二匹共少々の雨では楽しみを曲げないらしい。まぁ、自然の生き物だし、そんなものなのかな?


 外套を着込み、その上からマントを羽織る。


「あれ? 外出するの?」


「タロとヒメの散歩に行ってくるよ。領主館の中庭も歩いていないだろうし、少し周りを歩いてくるよ」


「分かった。んじゃ、私はフィア達の部屋で遊んでおくね」


「んー。侍従ギルドから何か言われたりしていない?」


 そう聞くとぽかんとした顔で首を傾げる。あれ?本当に何も行ってないのか?


「うん。何も聞いていないよ。何か言われる予定だった?」


「いや、大丈夫。遊んでおいで」


「ん。じゃ、行ってきます」


 そう言って、扉を開けてリズが出ていく。執事に相談した方が良いかな?そろそろ貴族の夫人教育も始めないと、今は経営対応だけだから良いけど、客人の応対、饗応にはリズも同行してもらわないといけない。


 そう思いながら、タロとヒメに首輪を嵌める。興奮する二匹を連れて、扉を開く。来た時は箱の中だったので、廊下にも体を擦りながら、徐々にダブルクンクンブルドーザーが前に進む。少しずつ支配領域が増えている感じなのかな?ここ、僕の陣地、私の陣地みたいな。


 ゆったりと、歩きながら、玄関まで辿り着く。使用人が扉を開けてくれるので、そのまま、外に出る。雨は元々細い物だったが、大分小雨になっている。ほとんど霧みたいな感じだ。

 大回りに屋敷をゆっくり巡りながら、中庭の方に歩いていく。


 川から堀に引いている流れを中庭に池としても引いている。深さは五メートル程は掘っているので、防火用水としても使えるかなと。

 真ん中には小島を作ったし、そこに竹を移植してみた。流石に繁殖力旺盛でも、五メートルの深さで根は張れないだろうし、水の中に地下茎は伸ばせない。各種で喧嘩をしないのは知っているので、色々植えてみた。見ると若竹も伸びているので、根付いたようで一安心だ。まぁ、日本だとその繁殖力で嫌われ恐れられているけど、きちんと処理すれば無制限には広がっては行かない……筈。異世界補正でどこまでも地下を侵食するタイプとかだったら嫌だな。まぁ、テストケースとしてなら良いかな。最悪焼き払う。


 小島に向けてかけてある橋を渡ると竹林独特の香りに包まれる。霧雨と夕暮れと竹林の香りにどこか郷愁に駆られる。タロとヒメは物珍しいのか兎に角周囲をクンクンと忙しなく嗅ぎまわっている。

 若竹を見て見ると孟宗竹っぽい。時期的には春なので、孟宗竹なのかな。タケノコの刺身、食べたいな。明日の朝、早めに起きて収獲してみるかな。少しだけ楽しみが出来た。


 二匹は各種の竹の香りを嗅ぎ分けて納得したのか、堀の方に向かうが、ちょっと危ないので引き戻す。人間なら登れるが、タロやヒメだと危ない。この辺りも少しずつ教えないと駄目かな。気温で考えたら、ここまで暖かくなったら海も泳げるかな?その時にタロ達にも泳ぎを教えよう。


 将来的に使おうかと思っている茶室や東屋を覗きながら、ゆっくりと庭を巡る。


 ちなみに、母親がお茶の先生だったので、ある程度の作法一式は分からなくもない。母親曰く、その先生の先生の先生にでもならないと茶道教室は開けないとか言っていたので、奥が深いと言うか迂遠と言うか、意味が分からない。炭の並べ方から、湯の沸かし方一つ取っても作法が有ると言う世界を聞いて、もう、頼むから仕様書をくれと思った。

 まぁ、作法が分かる人間がいる訳で無し、なんちゃって茶道で十分だ。狭い空間でゆったりと美味い茶を飲んで、楽しいひと時が過ごせれば良いだろう。誠意を以って一期一会に臨むなら、それが茶の心だろうと、私は考える。まぁ、日本の茶道の先生方に聞かれたら怒られそうだけど、異世界で茶の湯が楽しまれるなら、それもまた良しだろう。


 五稜郭の端側から、町の方を眺めると雨にけぶりながら、うっすらと建物が見える。この景色も風情が有るなと思い、少しの間、ぼぅと眺める。タロとヒメもちょこんとお座りをして、眺めている。まずは、ここから、満たしていく。そう心に誓い、領主館に戻る道を歩く。タロとヒメも色々珍しい物を嗅げて満足したのか、素直に帰途に就く。


 館の玄関の前に立つと、扉を開けてもらえて、布を手渡される。小さな方でタロとヒメの足を拭い、大きな方で私の全身を拭う。霧雨と思っていたが、思った以上に濡れていた。タロとヒメも湿っている。風邪をひかないように先にお風呂に入れちゃおう。


 歩いていた使用人に二匹分の布をお願いして、浴場に向かう。道順でお風呂と分かったのか、二匹のしっぽが大きく振るわれる。夕ご飯前に寝ちゃうかな?そう思いながら、浴場の扉を開ける。

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