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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第361話 表が有れば裏も有ります

「では、ロスティー公爵閣下やノーウェ子爵様よりお預かりした諜報と衛兵側と連携し、裏や闇も含めて、商業活動と見做し、一切を管理します。他国、他者の介在は許しません。それを念頭に商業活動を進めていきましょう」


 大方針が決まり、後は各所のメンバーが揃えば機能出来るだろうところまで話が進んだので、私は皆に宣言する。


「裏、闇……ですか。王都でも権力に深く食らいついていましたが、その辺りは如何(いかが)お考えですか?」


 若干険しい顔をしながらロルフが問うて来る。仕事柄も人生経験の長さからも、出会う機会が多かったのだろう。


「この町に隠れる場所は有りません。隠れやすそうな所、隠れられる所は作りましたが、全て把握、監視下に置く事が出来る状況になっています。裏をかかれる可能性が無いとは言えませんが、その際にも迅速に対応します。従業員の変化、帳簿の操作。どこかに異常や齟齬が発生します。その端緒を掴む為、皆さんは従業員の細やかな動向を掴む必要が有ります。まぁ、これは通常の業務上での人員管理でも必要な事なので、特に特別な事とも思ってはいないです。やるべき事をやっていれば、食らいつかれる余地は有りません。隙を見せたら、食らいつかれる。その辺りが基本ですし、食らいつかれたならさっさと申告して下さい。潰します」


 そう言うと少し難しそうな顔をする三人。中々言い出しにくいのは分かるが、黙っていれば被害が拡大して、腐る範囲が増えるだけだ。


「私は、一切の遠慮も呵責も無く、私の民を害する者に容赦をする気は無いです。私を絶対の庇護者と考え、申告を期待します。逆に理由が有ろうと黙って匿う場合は、同様の反社会勢力と判断し、一緒に潰します。情状酌量は考えますが、業務上の過失には変わり有りません。証拠が揃い次第、対応をします」


 その言葉に、三人が溜息を吐く。反社会勢力に対して出来る事は状況を明るみに出して、明確に裁くしかない。相手は巧みに共犯者に仕立て上げようとしてくるだろうが、そこは情状酌量で処理する。その辺りも含めて、日本でも有った実際の手口や三人が知っている手口を例に挙げて、どのように対処するかを議論、決定していく。


「苛烈……ですな……」


 フェンが絞り出すように呟く。


「腐り始めれば、全てが腐るのはすぐです。ワインと一緒で発酵させて別の職種に仕立て上げる事も可能ですが、腐敗と判断される物は選別し排除しなければ、全てを巻き込みます。王都は如何(いかが)でしたか?」


「腐った部分は腐った部分ですね。どのような人間も腐るとは分かっていましたが……。しかし、それも織り込むのですね?」


 ロルフが強い目で聞いてくる。無茶な事をする事を咎める人間の眼だ。


「管理下に置けるものは置きます。置けないものは排除します。海の村はその辺り小さいので一切を監視下に置けますが、『リザティア』においては不可能でしょう。現状はまだノーウェ子爵様の諜報が監視して下さっていますが、それも町が出来、動き始めるまでです。それ以降は自分の身は自分で守るしかないです。その守る為の手段は提供します。なのでそれを振り払わず、積極的に使うよう教育をお願いします」


 そう言うと、三人が改めて決心した顔で首を縦に振る。


 まぁ、色々と問題は噴出するだろうけど、一個一個潰していかないといけない。今までもそれをやってきて、ここでもそれをやる覚悟の有る人間だ。ならばやってもらうしかない。


「では、一旦は大方針に沿って、各業務の実施をお願いします。商工会としては町の最低限の機能を担うだけの規模の商家が集まった段階で発足します。仕切りをする人間が必要ですが……。フェン、商工会議長はそのままお願いします。貴方が集めてきた人材です。貴方がするのが相応しいでしょう」


 そう言うと、フェンが頭を下げる。


「歓楽街側の取り纏めに関しては、ロルフさんにお願いします。もう少ししたら、宿屋を統括させるつもりの人間が来ますので、二者で協議してまとめて下さい。重複する範囲は無いので協力はし合いやすいと考えます」


「ロルフで結構です。男爵様」


 そう言いながら、ロルフも頭を下げる。


「農家に関わる商業の取り纏めはアマンダさんにお願いします。変な業者に安く買い叩かれたり、騙されたら事です。特に農業は時間がかかるものですし。きちんと後ろ盾が必要かと考えますので。私も参考に出来る話はお渡しします」


「私もアマンダで結構です。男爵様。どうぞよろしくお願い致します」


 アマンダも頭を下げる。


「では、今後の商売の基礎はこの辺りで。私も新規の案や開発が出来た物は積極的に開示します。それをどう使うかは改めて考えましょう。では、本日はこの辺りで問題無いですか?」


 そう言うと、三人が目をやり合い、頷く。


「連絡に関しては、商工会議所に入れます。各員、各々の業務が有ると思いますので、そちらを優先して下さい。至急の際には至急の旨を入れますので、気にしないように」


 そう言うと、皆が苦笑を浮かべる。まぁ、領主の言う事より自分の仕事を優先しろなんて言う領主、珍しいかな。


「では、これからも良い商売を。民の生活を守る為、尚良き地を作る為。商売は生活の血流です。貴方方の双肩に民の命はかかっています。くれぐれも慢心無く、お互いに切磋琢磨しましょう」


 そう言うと、皆がにこやかに頷き、それぞれが応接室を出ていく。最後にフェンが出て行った後に、ソファーにどさっと座り込む。いやぁ、疲れた。

 商売の事なんて未知ばかりだ。日本の時に色々つまみ食いした知識だけが命綱だ。

 まだ、この規模でフランチャイズ展開まで見る必要は無い。直営店展開で十分だ。将来、この業態が円熟して来たら、他の領地にフランチャイズで打って出る事も有るかも知れないがまずは地盤固めが先だ。


 様子を見ていた執事が新たに淹れたお茶を出してくれる。爽やかな香りのハーブが心に清涼感をもたらしてくれる。気付けば昼も大分過ぎている。白熱した議論と言うのは時間を忘れさせる。


「お食事は如何(いかが)致しますか?」


「時間が時間だから、軽く摘まめる程度で良いよ。何ならスープだけでも良い。手間をかけない物を執務室に用意してくれるかな」


 そう言って、お茶を飲み干し、席を立つ。今の話し合いの結果を落とし込んで書類化し、新たに契約書、任命書を作らなければならない。カビアも待機している筈なので、その辺りを説明して手分けして作ろう。


 執務室の扉を開けると、窓から細い雨の中でもうっすらと日の光が差している。蝋燭が必要な程暗くは無い。カビアは書類の整理に追われているようだ。


「カビア、戻ったよ。いやぁ、疲れた。中々場数を踏んだ相手とのやり取りと言うのは疲れるね」


 そう言って執務机に着くと、カビアが苦笑いを浮かべる。


「どの方も、王都では名を馳せたお人ばかりです。フェンさんの人脈、人望は驚きますね……」


「しかし、そのお蔭で、なんとか町は形になりそうだ。『リザティア』本体側は通常の町の拡大版と言う事で理解しやすいが、歓楽街側は特殊だからね。その辺りの擦り合わせにもう少し時間はかかるかと考える。それでも老若男女が楽しめる場所と言う基本的なコンセプトは崩す気は無い。皆には踏ん張ってもらう」


 カビアに先程決まった内容を伝えて、契約書、任命書の作成をお願いする。カビアは先に食事は済ませたようで、テーブルの上で、作業を始める。


 暫く作業をしていると扉が叩かれる。応答すると食事との事なので、受け取りに出る。スープと小さなパンを付けてくれている。もう夕食もそんなに遠く無い。ありがたい配慮だ。礼を言って受け取る。


 スープを啜りながら、今回の話し合いの議事録をまとめていく。エッセンスの抽出と、実務への落とし込みに関しては少し先の話だが、まずはコンセンサスをきちっと得て行かないといけない。各員の意図も汲みながら議事録を書いていく。あぁ、パソコンが欲しい。筆記で議事録なんて面倒臭い。しかも話し合いの時間が長かったので、兎に角多岐に渡る。面倒だが、きちっとやらないとなぁなぁになっては舐められる。


 かりかりと私とカビアの筆記の音だけが細い雨の音と共に部屋の中で響き続ける。結局領主のお仕事なんて地味なもんだなと、知らず苦笑が浮かんできた。

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