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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第355話 料理人久々と本当のお風呂

 タロとヒメと一緒に部屋の中のあれこれを覗いて、新しい発見を探していく。設計や、過去の経験上はこう言うものだろうってイメージは有ったが、実際に出来上がってみると結構大工さんの個性が出ていて変わっていたりもする。もっと単一材で単純な感じになっているかなと思った場所も、無垢材の感じが出て逆に温かみや素朴さが出て良いかなと思うところも有る。まぁ、世の中設計図だけじゃ無いんだなと改めて感じた。途中で顔を出して内覧出来た事も良かったが、もう少し頻度を上げても良かったかなと言う後悔は若干有る。ただ、それは詮無い事だし、将来的に修正しても良い話だ。


 ちなみに、きちんとしたクローゼットは各部屋に完備してみた。箪笥も良いが、部屋の中でぼっこり出てしまうのもあれなので、見えない形での収納は増やした。引き出しを引いてタロを乗せると、ちょっと高い地点からの視点が楽しいのか嬉しそうにしっぽを振っている。

 悪戯心でそのまますーっと閉めると、ちょっとの間は大人しかったが中でキャンキャンと言う鳴き声が聞こえてきたので、引き出す。ちょっといきなりの暗がり、孤独は怖いか。ごめんねと思考を送りながら、顔や頭を撫でまわす。ちょっとご機嫌な斜めだったが、徐々に機嫌が良くなる。


『まま、くらいの、こわいの!!せまいの、こわいの!!』


 少しの悪戯心で悪い事をしたなと思い、真摯に顔や頭を撫でる。それを見てヒメも足元にタックルしてくる。タロだけがちやほやされる状態が若干嫉妬心を刺激するらしい。


『ぱぱ、あそぶ』


 今日は日中も首輪を着けて色々歩き回ったので、散歩をしたいとは言い出さない。ただ、中々こうやって一緒に居る時間も少ないのでそう言う意味では甘えたい年頃なのだろう。二匹をまとめてもふる。


 そうやって時間を過ごしていると、扉をノックする音が聞こえてくる。応答を返すと使用人の女の子で食事が出来た旨だった。二匹を箱に戻すと遊び疲れたのか寄り添ってくてーんと転がりながら、グルーミングを始める。結局タロは肛門腺をクンクンする事を許されたのかなぁとかしょうもない話を考えながら、先程の食堂に誘導される。


 ロット部屋で遊戯を楽しんでいた面々は既に食堂の席で待機している。そろそろ新風を吹き込んでも良いかなと思う。男性陣にはベーゴマが入ったが女性陣には何も無い。おはじきとかガラス加工が有るなら出来るかな。あれなら色が多少入ってても、問題は無い。ただ、馬車の中で遊ぶには向いていないか。花札もちょっと難易度が高い気もする。うーん。結構中途半端なんだよな。パズルゲームとかの方が良いかな。決まったピースで何種類かの形を作りましょうみたいな。ああ言うパズルなら何度か遊べるし、子供とか周囲に広めても楽しめる。


 そんな事を考えながら、席に着く。末席にはカビアとレイが座っている。ちなみに、レイが下座なのは、別にそう言う扱いと言う訳では無く、ただ単に有事の際に即応する為にそこに座っている。私は何もお願いしていないんだが、レイが率先して座る。うーん。給与上げたいんだけど、契約がノーウェなので、難しいんだよな。この世界でも職務の二重契約は結構やっかいだ。契約書上の矛盾や齟齬が生じるので望ましく無い。一回契約から解放して、再契約かな。


 席に着くと料理が並ぶ。豪勢と言う程でも無いが十分に量も有る。突然の到着なのに、よくここまで用意してくれたものだ。

 挨拶の後に、食事を口に運ぶ。あれ?この味どこかで経験した……。ハテナと頭に浮かべる。んー。あぁ!!アレクトリアの味だ。


「少し聞きたいのだけど」


 周囲で給仕をやっていた使用人の少女を引き留める。


「今日の料理はアレクトリアが作ったのかな?」


「はい。料理長はアレクトリア様です。温泉宿の開業はまだですので、現在は各料理人への指導が主です。男爵様が来られたとお伝えすると、ご自身で御作りになりたいと来られました」


 はぁぁ、態々(わざわざ)来てくれたか。えらく気に入られちゃったな。


 鳥に関しても、ゆっくりと蒸して、脂を落としながらも柔らかくしっとりと仕上げている。その上に、香りづけで香草とオリーブオイルで最後に表面だけをざっとグリルしている。皿に散りばめられた粒のままの胡椒がアクセントとなって柔らかな肉と表面のパリパリ、そしてカリッとした食感のコントラストになっている。何より、ソースも蒸した時に出た脂と煮詰めたフォンにワインを混ぜて味を調えた物だ。統一感が出ていて、味を段階的に楽しみながらも、反発を感じない。レシピには心得程度で書いていた内容だが、実践してくるとは思っていなかった。はぁぁ、応用力が高過ぎだ。周りを見渡すと、凄い勢いで無くなっている。これがそのまま評価だな。食べ終わり、アレクトリアを呼んでもらう。暫く待つと、帽子を脱いだアレクトリアが食堂にやってくる。


「お久しぶりです、男爵様」


「お久しぶり。また腕を上げたね。蒸した時に出たエキスを再利用するなんて、レシピと言うより、覚書だったよね。よく実践まで昇華させたね」


 そう言うと、感極まった表情で、帽子を握りしめる。


「はい。レシピそのものはほぼマスター致しました。いや、まだまだ深奥な自然の味の入り口を覗いたと言った方が正しいかもしれません。時期、気温によっても人が望む味は変わると言う思想、そのほんの少しの心遣いで味の印象はがらりと変わる。その教えには感銘を受け、また実際に身に染みました。その上で頂いた覚書を元に少しずつ範囲を広げている最中です」


 本当に勉強家の頑張り屋さんだ。頭が上がらない。しかし、私も和食の受け売りを書いただけなのに。天才と言うのは端緒を掴むだけで、どんどんと身に着けるものだなぁと感心する。


「今後は大規模な会食等も想定している。パーティーも頻発するだろう。その辺り、手足となる料理人の教育はどうかな?」


「はい、そちらも順次進めています。心得の部分を実践で身に着けている最中ですね。もうひと月もあれば、ある程度の形になるでしょう」


 教える方も天才肌か……。良い人材だ。


「ふむ。それは素晴らしい。今日も美味しい料理をありがとう。見てもらった通り、皆、この調子だよ。本当に感動した。このまま成長してくれれば嬉しい。また、レシピや心得の部分に関しては追加する。もう、その域に達しているだろうし。これからはどんどん食材も増える。楽しんで、作ってもらえれば嬉しいよ」


 そう言うと、アレクトリアの顔が綻び、咲き誇る花のような満面の笑顔を浮かべる。


「はい! これよりも精進致します。本日はお楽しみ頂き光栄です。また頂けるレシピを楽しみに、修行致します!」


 元気に深々と頭を下げると、厨房の方に戻って行く。相変わらずだな。。少しだけ苦笑を浮かべて見送る。周りの人間は陶然とした顔で食休みに入っている。料理の話が主になるのはしょうがないかな。あれだけの料理を食べる機会は中々無い。温泉宿の看板としても申し分無い。本当に助かる。


 部屋に戻って少し休んだらお風呂の旨を伝えて、リズと一緒に部屋に戻る。浴場が広いので、男女で一気に入る事が出来る。まとめて入った方が効率は良いだろう。


 部屋の入り口でタロとヒメの食事を受け取る。前に来た時にその辺りの話は広がっているのだろう。ヒメの分も用意してもらっているのはありがたい。鳥系の肉にモツ、それに鳥頭の水煮か。ヒメが喜びそうなラインナップだな。


 部屋を開けると、薄暗い中で、まったりとグルーミングをしている二匹がいた。燭台に灯を点す。匂いで食事と分かったのか興奮しだす。


 各皿に分けて、待て良しで食事が始まる。予想通り、ヒメが水煮を執拗に食べていく。


『とりー!!うまー!!』


『しゃくしゃく、ざりざりも、おいしい』


 がつがつと食べ皿まで舐め終わったところで水を生んでおく。


「さて、リズ、お風呂だけど、家風呂でも足を伸ばせるよ?」


「嬉しい。温泉みたいね」


「お湯がちょっと違うけどね。さて、準備して来るかな。他の皆にお風呂の旨は伝えてきて」


 そう言って、部屋の前の侍女に浴場までの案内を頼む。前に来た時に教えてもらったが、内装の所為でちょっと心許ない。案内されて扉を開けてもらう。脱衣所を抜けて、中に入る。石造りの部屋に岩とローマンコンクリートで固められた浴槽が見える。もう、一回入れちゃえば、全員分処理出来るか。男性が入る時は熱めのお湯を足せば良いか?でもこの気温だと冷えると足す分が多すぎるか……。良いや。どうせお湯を生む程度の労力だし、リズに排水してもらっちゃおう。排水溝に栓がされているのを確認し、お湯を生みだす。見る見るうちに浴槽にお湯が満たされていく。10人程度が楽に足を伸ばせる浴槽だ。レイもカビアも一緒に入れば良いか。


 浴場に続く扉を閉めて、脱衣所から廊下に出ると、女性陣が荷物を持って今か今かと待ちわびていた。洗面器代わりの小さな桶や被り湯用の手桶も完備している。酢も石鹸もきっちり持っている。ブローに関してはチャットが風魔術を調整して出来るようになったので、私が出る幕も無い。


「用意出来たよ。一番風呂どうぞ」


 そう言うと、歓声を上げながら脱衣所に飛び込んでいく。リズ以外は飢えていたからしょうがないか……。まぁ、女性の美への探求心には頭が下がる。


 覚えた廊下の経路を戻り、部屋に入ると、箱の中でまったりしている二匹がこちらを向く。食休みが終わったから、少しなら遊んでも良いよ?的な眼でこちらを見てくる。本当に欲望に忠実で可愛い。咥え紐を二本用意して箱から抱き上げ、同時に相手してみる。タロは相変わらずだが、ヒメの方も大分足の方は鍛えられてきた。もう、庇う必要も無いくらいだ。本当にきちんと治ってくれて嬉しい。


 そんな戯れを繰り返していると、ほかほかのリズが戻ってくる。


「広かった!! 楽しかった!!」


 にっこにこの笑顔で叫ぶ。その濡れた頭を撫でて香油を少し貰い、髪の手入れをする。


「良かったね。領主館、気に入った?」


「とっても!!」


 現金だが、嫌われるより全然良い。これから住み続ける場所だ。気持ち良く暮らせればそれに越した事は無い。


 さて、次は男性陣か。ちょっとこれからの話も有る。長湯になるかも知れないな……。

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