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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第354話 執事さんと執務室、そしてクンクンブルドーザー達

 朱雀大路のどんづまりに大規模な公園が広がっている。その先は掘だが、川の流れからそのまま引いて、戻しているので澱む事無く澄んだ色をしている。良く見ていると魚影も見えるので、その内水草が生えて、魚の住処になったりするのかなとは思う。


 五稜郭の手前には大規模な教会が建っている。まだ外壁作業中だが、完成したら結婚式かな。神様への感謝と来やすいようにと近場に建てたが、公園の憩いの場になってくれれば嬉しいかな。


 そのまま五稜郭の南端に辿り着く。まだ一部しか外壁は出来ておらず、残りは木壁で覆われている。扉部分は既に完成しており、鉄製の重々しい扉の前に門衛が立っている。


「アキヒロ男爵ですが、扉を抜けたいです。通行に必要な物は何ですか?」


「馬車の略式紋章で結構です。御顔だけ拝見出来ますか? はい。大丈夫です。今後はお見かけした際は、即時に扉を開けます。まだ不慣れな為お声がけ頂く事をご了承下さい」


 門衛が若干申し訳無さそうに言うと、扉の内部に声をかける。すると、扉がするすると、開いていく。内側で引く役の人間が待機しているようだ。実際は表が誰何している間に、内側の人間が伝令を飛ばして有事の際は、戦闘準備が始まる。その辺りの仕様通り動いているのを見ると、感動してしまう。


「扉の運営は酷では無いですか?」


「いえ。当番も中々回って来ず、また顔とも言える門を守らせて頂けるのは誉れであります。どうぞお気になさらずに」


 ふーむ。この世界の人間って皆就業意識が高くてちょっと困る。辛い時は辛いと言って欲しいのだが、きちんと教えてくれ無さそうな怖さが有る。


 将来の運用に思いを馳せていると、完全に扉が開く。戦時中は人数任せに一気に開いてある程度流入したら、閉じてそのまま磨り潰したりと物騒な事を考えている。

 何度か兵の勢いを殺し遠距離で一方的に虐殺する為の殺し間を用意している。周囲は高い壁で覆われているし、壁からは銃眼から弓でもクロスボウでも打ち放題だ。


 カクリカクリとカーブを抜けて、領主館に向かう。ふっと視線が開け、背の高い建物が見えてきた。二階建てでも天井高めなので、屋根まで出来ると背が高い。最終防衛として色々組み込んで二階建てにしている。後任の人間が間違って痛い目に遭わないように引継ぎはしっかりしよう。皆大好き釣り天井とかも有るよ。


 そのまま、侍従ギルドの人間が、正面玄関から現れて馬車を誘導してくれる。大回りに領主館前をくるりと回り、玄関前に停車させる。

 取り敢えず、様子見と私が先に降りる。


「初めまして、男爵様。ようこそおいで下さいまして」


 ぴしりとした礼装に近い服装の四十前程度の男性が深々と頭を下げて、挨拶を述べてくる。


「初めまして。アキヒロです。歓待ありがとうございます」


「恐縮です。申し遅れました。(わたくし)侍従長のベルフと申します。今後は執事として身の回りのお世話を担当致します。以後お見知り置きを」


 そう言うと、背筋をぴんと伸ばし、にこやかに微笑む。


「急な到着と言う事で申し訳無いですが、部屋の方は如何ですか? もう使えますか?」


「はい。領主館に関しては優先して建設されましたので、もう利用可能です。お荷物はご指示頂ければ、各部屋にお運び致します。一旦お部屋でお待ち下さい。お茶をご用意致します」


 ベルフがそう言うと、扉の裏に待機していたのか、男女の使用人がわらわらと出てくる。結構若い男女が多い。うーん。侍従ギルドから引っこ抜いたと聞いていたから年配の人が多いのかなと思っていたけど、そうでも無いのかな?


「何か御座いましたか?」


「いえ、侍従ギルドより出向と言うお話だったので、もっと年配の方が多いかと思っていましたが。若い人が多いなと」


「あぁ、なるほど。いえ、どちらかと言えば要職として内向きの補助が出来る人間が入っております。ここにおります者は使用人ですし、新しく育てている者達です」


 ベルフがにこやかに説明してくれる。はぁ……この短期間でも使用人として育てられるんだ。凄いな侍従ギルド。その辺りしっかりマニュアル化されていたりするんだろうか。


 そんな事を考えながら、皆に降りて来てもらって、荷物を降ろし各人に分けていく。荷物がまとまった順番にそのまま部屋に案内される。大きく分けて、女性部屋と同棲部屋だろうか。いつの間にかドルとロッサも同じ部屋で生活していた。宿屋代を圧縮する目的とか言っていたが。


 将来的には別れるかも知れないが、今は一緒の方が便利なので、主寝室も並びにしてもらっている。領主用の豪華主寝室とか有るらしいが、気が落ち着かなさそうなので、当分は良いや。普通の部屋もリビングと主寝室が有り、生活に関しては、全然問題無い。トイレも各部屋に備え付けられている。土台から高く上げられているので、回収等も楽な設計にはなっている。


 リズは早速荷物をクローゼットに格納し始めた。私の荷物もついでにお願いする。タロとヒメも箱から出してあげると興味津々で周囲の探索を始める。でも、ヒメが嗅いで、タロが嗅ぐみたいな何か変な分担作業になっている。どう言う意味が有るんだろう。ヒメの匂いが付いちゃわないのかな。


 そんな事を考えながら、二階の執務室まで上がる。一階で良いと言っていたのに、態々(わざわざ)二階の一番奥に置くのはいじめか?面倒臭いなと思いながら、奥まで書類の入った箱を担いで進む。少し入り組んだ廊下を進み、一番奥だろう扉を開けると、明るい暖かな部屋だった。確かに透明度は低いが窓ガラスが格子に嵌まった窓だ。これで冬場、がたがた震えながら、窓を開けて書類を読む事からは解放される。幸せだ。

 据え付けの棚にインデックスの板を差し込みながら、書類を並べていく。応接は基本歓楽街の温泉宿だと、領主館でも応接間までだ。執務室は完全にプライベートルームに設計しているので、質素で飾り気は無い。書類も収納してしまえばそう多くは無い。執務机と椅子に座ってみるが、何と言うかなんちゃって社長みたいでちょっと嫌だ。まぁ、もう、慣れるしかないかと諦める。


 色々と設備の使い勝手を確認していると、扉がノックされる。応答すると、お茶の準備が出来たとベルフの声が聞こえる。うわ……。侍従長が来なくても使用人で良いよと思いながら席を立つ。ベルフに先導されて、食堂にはいると清潔で質素だが上品な空間が広がっている。60人程度が座れるテーブルと椅子が用意されている。まぁ、会食程度は領主館でも開くのかな。無駄になりそうな気もするけど。


 その一角に皆が既に座っていたので、そこに混じる。座ると同時に、皆にお茶が出される。それを飲みながら、旅の感想や部屋の状況を聞く。部屋に関しては宿なんかより全然広い。快適そのもので皆喜んでいる。カビアとレイも使用人では無く個人部屋として割り振っているので恐縮していたが、どうせ余らせても部屋が傷む。使ってもらわないと困る。


 で、今日の予定だが、もう夕方も深くなってきている。夕ご飯を食べて、お風呂に入って寝ちゃおうかと言う提案をすると満場一致で可決された。それまでは皆で遊んでおくらしい。あぁ、男性陣にベーゴマを渡したら、何かはまった。あぁ、洋の東西、年齢問わず、喧嘩独楽は男性を魅了するのかと思った。と言う訳で、ロットの部屋に集まるらしい。私はタロとヒメの様子を見ておく事にした。初めての場所で不安になっているかもしれない。


 お茶を飲み終わり、リズと一緒に部屋に戻る。遊戯類は私達の荷物にまとめているので、それを持って行くようだ。チェスもリバーシも揺れに悩まされず楽しめるのなら良いだろう。ちなみに今回の旅でトランプが再評価されていた。どうも高度な情報戦が繰り広げ始められたらしい。ちょっと笑う。一生懸命初々しく騙し合いをしているのを見て、ニヤニヤが止まらなかった。


 リズが荷物を持って出て行くと、部屋には私とタロ、ヒメだけになる。二匹はまだ、部屋の確認作業と、擦り付け作業に夢中だった。ちょっと暗くなり始めているのに、元気だ。まぁ、狼自体が夜行性か。呼ぶと二匹が何?って顔をして寄ってくる。


『新しい家だよ』


『いえなの』


『かくにんしている』


 馴致で新しい家と言うのを認識させたが、タロが若干ズレている。うん。巣と言う概念が生まれる前に拾っちゃったからしょうがないかな。その内覚えるかな。二匹の頭を撫でると嬉しそうに擦り付けてきてから、また仲良く探索作業に戻って行った。新しい部屋の匂いを嗅ぎながら、窓を開ける。中庭はまだ植木類も若く、若干寂しい印象を与えるが半年もしたら、それなりに見える物になるのだろう。


 これからは、ここが家か……。まだ現実感が乏しいけど、慣れるように頑張ろう。横をちょこちょこと歩いていくダブルクンクンブルドーザーを見ながら、新しい生活に思いを馳せた。

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