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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第353話 ヒメのジャンプゲームと経営に関する考え方の違い

 少しの間ぼけーっと、村の方角を見たまま、落ち着きを取り戻していく。ふと、後ろを振り返ると、皆、それぞれに何かの感情を浮かべていた。トルカでは思い出が多過ぎた。

 感傷……と少しの寂寥。安寧な生活が失われ未知へと赴く不安。そして、希望……。新しい場所での期待。

 はぁ、どんなに移動に慣れていても、やはり根付いた巣を離れる時は、同じ気持ちか。


「さて、移動に関してはいつも通り。自由時間だから遊んでも構わないよ。カビア、申し訳無いけど、引き継ぎたい案件が有る。遊ぶ前にそこだけ片付けて欲しい。ティアナはどうする? 今後政務に携わる気が有るのなら一緒に処理するのを手伝って欲しいかな」


 そう言うと、ティアナとカビアが顔を見合わせ、ティアナが微笑む。二人が、簡易テーブルの方に向かってくる。他の皆は寝転がって、遊戯を始める。リズとフィアとロッサはタロとヒメに構っている。

 ヒメに関しては、長距離移動に慣れていないのでどうかなと思ったが、案外楽しんでいる。森からの移動の時はおっかなびっくりと言う感じだったが、どうも板バネでクッションされる浮遊感が楽しいのか、タロと一緒に伏せて、何かの障害に乗り上げて浮く度に鳴き声を上げてひょこんと飛び上がって遊んでいる。そう言う遊びなんだと思っているのかも知れない。三人はふわっと浮いた瞬間のタロとヒメをキャッチする遊びに夢中だ。浮いた瞬間、すかさず腕を差し入れそのまま持ち上げるのがルールらしい。もこもこを楽しみながら、三人と二匹は和やかに旅を楽しんでいる。


「取り敢えず、人員配分と商店の分布に関して。これ暫定だけど、人間が増えた場合を考慮していると、どこかで商店側に動いてもらう必要が有るかも知れない。でも、かなりの負担になるだろうから、当初は若干不便でもこの辺りまで移動させたい。理由としてはこの辺りの街区まで人間が入った場合の動線を考慮しているからで……」


 カビアと積極的に意見を交わしながら、脳内でイメージしていた内容と現実を擦り合わせていく。私は将来の展望を前提に話をするし、カビアは今の住人の利便性を代弁してくれる。折衷案は採らない。現在も未来も投資に見合わなくなる。今を見るなら今を見るし、将来を見据えるなら将来を見据える。そこをきちっと線引きしていかないと、結局無駄な妥協物が出来て住人が困る。下手したら不便なままで再開発も難しくなる。


「一時的には、短距離を循環させる馬車を運用されるのも良いかと考えます。住人証明は……冒険者ギルドのカードをお持ちですよね? あれの簡易版で町に登録した人間としてデータベースを作る事が出来ますし、読み取り機も数は有ります。住人証明を持った人間のみ、無料で使える乗合馬車と言う感じでしょうか」


 路線バスのイメージかな。騎兵とか言っている暇、無さそうだな。厩舎もかなりの用意はしているけど、絶対的に馬車も馬の数も足りない。馬に関しては、ロスティーの領地が主に交易対象として出している。北側には利用しきれない草原が多々とあり、そこで遊牧している馬達が多い。ターシャも徐々にロスティー領に移動していると言う話を聞いた。騎兵用に用意した馬の一部を循環用に流用しちゃうか。早馬以外は農耕馬も馬車馬もそう大差は無い。流用は可能と見ている。馬車はノーウェに発注を出してしまえば、現物を移動させるか、現地で作ってもらえる。


「朝の出勤、昼の食事、夕方の買い物や帰宅に合わせて、循環させようか。その辺りの時刻に関しては現実の運用と合わせて調整する。これ担当者が選任で見た方が良いな。乗合馬車の保守運用、時間配分、路線の調整を含めて一つの組織で運用出来る状況を作ろう。政務の方で独立した部署を作らせて、予算を乗せちゃおう。試算は任せて良いかな?」


「はい。可能です。御者と補助員、その取り纏めと言う構成ですね。稼働状況によって予算は膨れますが、見込みで一旦提出致します。承認頂き次第、政務と掛け合って実施致します」


 カビアが真剣な面持ちで頷く。ティアナも参考資料を読みながら、話の展開に食いついてくる。本当にこの子は、頑張り屋さんだ。


「住人側を一旦集約しては駄目なのかしら。規模が拡大すると言っても数年単位の話よね? 徐々に拡大と言う訳にはいかないのかしら?」


「人は一旦居住してしまうと既得権益と認識しちゃうよ。それが長期に渡ると尚、引き剥すのは難しくなる。行政側が必要だからってほいほい移動させられるものでは無いし、間違い無くいらない恨みを買う。それなら、初めから完成形を想定して区画を整備した上で、サービスとして足を用意する。将来的にはこの足がどんどん拡大する筈だしね。同じ流れなら、初めから状況を作ってしまえば良い」


 ティアナが想像出来ないのか、無駄な事をすると言った顔でこちらとカビアを見る。私とカビアは苦笑を浮かべる。


 カビアには将来的な物流運輸、交通の端緒は説明している。都市圏で言うトラック運輸とバス交通かな。それが前提に入っているので、異議を唱えない。それが無いのでティアナとしては非効率と見えるのだろう。私としてはこの非効率な間に練度を上げて現場レベルで効率化を図り、将来的な大規模化に備えて欲しいと言う思惑も有る。

 色々と先を見据えると、少々不便でもスモールスタートより、ビッグスタートの方が望ましい。行政側が出張る案件でスモールスタートは無意味だ。数十年、下手したら百年先のビジョンで動かす物だ。初めから先を見据えないと色々面倒臭い。

 スモールスタートの特権は小規模商会が先が見えない事業を取り敢えずやってみようと実施させる事に意味が有る。その辺りを間違えると再投資前提の無駄金と中途半端な既得権益の(しがらみ)に縛られて身動きが取れなくなる。


「なんだか、全然別の地図を見ながら行き先を検討している気分よ。少し感じが悪いわ」


 ティアナが若干目を座らせて不機嫌になる。私はカビアに目を向ける。カビアも心得たもので、大まかな説明を行ってくれる。さて、これで循環バスの案件に関しては一件落着か。どんどん進めていかないといけない。


 暫く走っていると、休憩と言う事で、解放される。ヒメもタロも春の林に夢中で、ダブルクンクンブルドーザーが地面を這う。もう、周り中、知らない草木だ。タロもヒメも興味津々でじりじりと先に進んで行く。テリトリーの概念がまだ本能としても明確では無いので、兎に角、色々な知識を仕入れたい年頃なのだろう。


 そんな二匹を微笑ましいなと思いながら、小刻みに散歩に連れ出す。昼食もリズとロッサが獲物を狩ってくれる。春になってどんどんと太り始めている。鹿とかでもかなりの脂が乗っている。食べごたえが有る。モツ関係は、タロとヒメが狂喜乱舞しながら、食べている。


『しか、うまー!!こりこり!!こりこり!!』


『しか、おいしい……』


 ヒメはモツを重点的に先に食べて、肉の方に移行する。タロは……目の前に有るのを平らげて、ヒメの皿の方にじりじり近付くが威嚇されて下がっていく。


 そんな感じで、夜営もしつつ先に進む。何より、この道を通る人間の数が兎に角多い。過積載と見られる馬車も見られたりして冷や冷やしたり、商人との温かい触れあいなんかも有った。


 概ね平和に走っていると、途中で緩やかにルートがずれる。あれっと思っていると、レイから声がかかる。


「ローマ街道ですか? ここからは町まで完成済みです。馬車はこちらに誘導されます」


 街道に乗ってからは、ほとんど揺れを感じなくなった。チェス組も揺れの度にコマを並べ直す手間が無くなってありがたがっている。


 しかし、もうここまで引いたか……。人海戦術とは言え、よくやる。それにこれは快適だ。するすると馬車が走って行く。蹄鉄と石が響き合う音を聞きながら、先に進む。


「良い道ですね。疲労が全く違います。助かります」


 レイも絶賛している。そのまま何事も無く道を突き進んでいく。


 三月十八日の夕、少し経った頃だろうか。空が若干茜に染まる頃に、懐かしいと言うか、かなり様変わりした町が見えてくる。


「男爵様、そろそろ到着の予定で御座います。準備の程をお願い致します」


 レイの声に合わせて、皆に荷物の整理をさせる。


 さて、久々の『リザティア』だ。どうなっているかな。楽しみだな。そう思いながら、少しずつ赤く染まる世界をぽくぽくと馬車が町の朱雀大路を抜けて真っ直ぐに領主館に向かう。


 皆も、少し緊張した面持ちだけど、ここが我が家になるので、緊張している暇は無い。さてと、侍従ギルドの人間はどんな人間かな。わくわくしてきた。

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