第31話 呑み過ぎの際、女の子に介抱されると嬉しくないですか?
スライムの処理の手段としては、核を一定以上傷つけるか、核の周りの物質を一定以上除去すれば活動を停止するとの事。
周りの物質は魔素と取り込んだ物質が混合した物で、かなりの粘度が有る。周りの物質に関しては使い道は無いとの事。
試しに力いっぱい石を投げ込んでみたが、表面に張り付きぽとりと落ちる。
ヒュージスライムは数十cm程こちら側にのそのそと向かってきた後、核の周りの物質を広げ覆い被せてくる。
その後は動きが止まり、また元の場所に戻って行く。触感は有るようだ。
「核は壊しても構いませんか?」
どの程度の硬さかは分からないが、確認しておく。
「回収出来る程度の破壊で有れば構いません。活動を停止させる事を優先して下さい」
ハーティスが答える。
と言う事は、小さく奥まで入り込んで、周りの物質を爆散させる方向性で考えるか。
練習の結果として、圧縮率と速度を上げれば上げる程、負担が上がる傾向だった。
このサイズを爆散させるとなると、倒れるかな。程々から試してみよう。
「試してみます。始めます」
直径3mの球体の風の塊を10cmくらいまで圧縮するイメージを浮かべる。
「属性風。圧力定義。形状は半径7mm高さ1cmの円錐。右手人差し指前方10cmに固定。前方に向かい錐もみ回転を加え射出、速度は時速700㎞……」
粘度が高いので、入り込むかは試してみないと分からないなと考えながら、ライフル弾の弾頭をイメージする。
速度は拳銃弾の半分くらいかな。これも当てる材質によって調整が難しい。世の中の魔術士にどうやって最適値を割り出しているのか聞いてみたい。
相手に気付かれないようにゆっくりとヒュージスライムの核から若干右にずれた正面10m程に立つ。上部から、下部に斜めに通る射線をイメージする。
「実行」
呟いた瞬間、バガンッと言う湿った破裂音と共にヒュージスライムの核の右下部、地面間際が爆散する。空中に吹っ飛び地面に叩きつけられる。
周りの物質は半ば以上が散っており、核が露呈していた。
思った以上に丈夫だったようで、核は形は保っていた。風の圧力だから直接の破壊と言うより吹き飛ばされたようなものか。
と、呑気に思おうとした瞬間、今まで以上の怠さと頭痛が発した。吐き気が込み上げて、我慢出来ない。
しゃがみ込み嘔吐を繰り返す。気持ち悪い。
ワティスが駆け寄って来て、下から上へ背中をさすってくれる。吐き気が止まらない。
「そんなにまでして頂き……、ありがとうございます」
申し訳無さそうな顔で話しかけてくるが、返事を返す余裕が無い。胃液も含めて嘔吐する。
これは、圧縮率の所為か速度の所為か、1度きちんと検証した方が良い。
20分程吐き気と格闘していると、頭痛や怠さと共に徐々に治まってくる。
「ここまでひどいのは初めてだ」
まだ残る吐き気に顔を顰める。
周りを見ると、ハーティスが見張りに立ち、ディードとアリエが核を抉り出し布に包んでいた。
「驚いた。正直なところ、ここまでとは思っていなかった。限界を超えての対処、感謝する」
ディードが腕を抱え、引き上げながら呟いてくる。
「まだ、自分の限界が分からないのです。魔術も最近覚えたものですので」
立ち上がると、まだふらふらする。木にもたれ込みながら息をつく。
アリエが見張りを交代し、ハーティスが核の見分を始める。
「サイズにより、魔素の純度が上がります。ここまでの大きさは中々お目にはかかれません」
どうも、今回の達成料よりも大分価値が高いらしい。ディードが文句を言っていたが、今後の依頼の際に考慮する旨で納得したようだ。
取り敢えず、依頼が無事達成した事で皆の意識が弛緩した瞬間、アリエが叫ぶ。
「何か分からないけど、近付いてきている。熊や狼じゃない。でも、かなり大きい」
何とか、立ち上がり動けるようになったばかりと言うのに何かが起こるらしい。