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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第335話 風呂上がりの一杯は最高です

 風呂上りのテディと一緒に食堂に向かう。従業員に頼んでおいた物を持って来てもらう。


「これは……ワインですか?」


 小さめの桶に水と氷を入れ、焼き物のボトルを入れている。


「風呂上がりの一杯と言うのも良い物です。中はピケットです。さっぱりとした甘みの少ない物を選びました。一緒に軽く飲みましょう」


 元々ピケット自体がそこまでアルコール度数の高い物では無い。ワインを絞った滓に水を加えて再度醸造した物だ。度数も低ければ香りも低い。ただ、清涼飲料水感覚で飲む事は多い。水が悪い地域では水代わりに飲まれる事も有る。折角なので大きめのジョッキに並々と注ぐ。胸の高さまで上げて、乾杯の意を示す。


「初めての入浴体験と今後の温泉宿の発展を祈って」


 口を付けると、爽やかな香りと冷えた水分が気持ち良い。お湯を生むだけと言っても人数が人数だ。それにテディの入浴補助も有った。喉は乾いている。同じように初めての入浴のテディだ。汗をかいた感覚もよく分かっていない筈だ。そうなると喉の渇きを覚えないと脱水症状が出るかも知れない。清涼飲料水代わりに飲めるピケット辺りが丁度良い。くっくっくと飲み干し、ぷはぁとジョッキを置く。その顔は驚きに満ちている。


「これは……美味いです。ただのピケット、それもそう質が良い訳でも無い。それがこんなにするすると喉に入っていく。何でしょう、この感覚は」


「お風呂に入ると、知らない間に汗をかきます。そうなると体が水分を欲しがります。その時に冷えた物を飲むと言うのも、火照った体には嬉しいものでしょう」


 テディのジョッキにボトルを傾けて注ぐ。


 テディが再度ジョッキを傾けるが、やはりごくごくと飲んでいる。余程汗をかいたか。まぁ、あれだけ浸かっていればそうもなるだろう。火照った体に冷たい一杯。これが効く。


「ぷはぁ……。はぁはぁ……。いや、こんな夢中に何かを飲むと言う機会は有りませんでした。何とも言えない官能です。冷やした飲み物ですか。氷室で生鮮食品を冷やすと言う話は聞いた事が有りますが、飲み物を、それも嗜好品を冷やして提供しますか。費用が……あぁ、水魔術をお使いになられるんですね。これは驚いた。このような単純な事でここまで劇的に価値が変わりますか。本当に何と申しましょう。天より滴る雫とでも言いますか、素晴らしい物と感じます」


 大袈裟だが、まぁ、初めての経験だ。美化もされるだろう。


「これも温泉宿で水魔術を使える人間を雇えれば提供出来ますね。感動体験だと思いますが」


「はい。感動しました。これは是非に……。水魔術ですか……。引退者でも十分賄えますね。少し伝手を当たってみます」


「将来的には魔術士用の学校も領地に設営する予定です。そう言う意味では将来の供給は問題無いかと思いますが、短期的には不足しますね」


「なるほど。仰る通りですね。分かりました。こちらでも動きます。いやぁ、何と言うか目が覚めました。素晴らしい体験をありがとうございます」


 そう言いながらテディが深々と頭を下げる。


「いえいえ。ちょっとした悪戯です。故郷では入浴とセットで提供されるサービスでしたので。楽しんで頂けて幸いです。」


「はい。新しい価値観が生まれました。これだから人生は面白い。本当にありがとうございました」


 にこやかなテディと一緒に色々温泉宿や周辺設備、外湯に関するサービス等を雑談しながら、冷えたピケットを楽しむ。一頻り楽しんだら、テディは業務に戻らなくてはならない。


「楽しい時間を過ごせました。いやぁ、このような事を考え続けなければならないのですね。楽しいです。あぁ……。どうか、これからもよろしくお願い致します」


 上機嫌なテディに見送られながら、宿を出る。流石に昼下がりは夕焼けに変わっていた。タロとヒメを散歩に連れて行かないと駄目だな。タロ、あれかな。行きつけの店で「隣の彼女にも同じものを」みたいなダンディズムを見せてくれるのかな。ちょっと楽しみだ。


 色々楽しみな事を考えながら、家に戻る。部屋に入ると、まだ寝息が聞こえる。ベッドを見ると、リズがまだ熟睡していた。大分疲れていたかな。まぁ、領主館からの疲れも有るか。少しでも休んでもらえれば嬉しい。


 箱の方を見ると、もう、長年一緒に連れ添って来たかのように2匹仲良く丸まって眠っている。ヒメも警戒していた部分が取れて、優しい顔をしている。あの凛々しいヒメも可愛いが、柔らかな寝顔のヒメも可愛い。タロが天然の箱入り息子だから毒気が抜ける部分も有るだろう。そっとタロの頭を撫でると目覚めてしっぽを振り出す。それに合わせてヒメも目を覚ます。首輪を見せるとタロがはっはっと息を荒げながら、喜び始める。その変化に着いて行けないヒメが戸惑った様子を見せる。


『ヒメ、散歩に行こう。首輪をつけるけど、暴れないでね。ちょっとだけ邪魔だけど、必要な事だから』


『さんぽ?くびわ?』


 ヒメの戸惑いを感じながら、ヒメを箱から抱き上げ、優しくゆっくりと首輪をはめる。締まる程ではないので苦しくは無いだろうが、余計な物が首元に着いたのが気になるのか、後脚で、けしけしと外そうとしている。


『ぱぱ、きもちわるい』


『少しだけ我慢して』


 ヒメの不機嫌そうな雰囲気が返ってくるが、首輪をはめたタロが喜んでいる姿を見て、興味が湧いてきたのか大人しくなった。リード代わりを2本用意して、首輪に付ける。ヒメが部屋の中の様子を窺おうと歩き始めてリードの長さでちょっとぐえっとなる。


『ぱぱ、じゃま』


『外では、少しだけ我慢して』


『うー』


 ヒメのご機嫌が少しだけ斜めになる。タロがもう、早く早くと待てない様子で、周囲をくるくる回って紐に絡んで動けなくなる。それでも楽しそうだ。


『まま、さんぽ、はやく!!』


 タロに導かれるままに、眠り姫のリズの額に口付けて、部屋を出る。ヒメは慣れていないので恐る恐るといった感じで、周囲の匂いを確認しながら、じりじり進む。少しだけ偉いなと思うのは、タロがその様子を優しく見守っている事だ。タロの事だから、早く早くと急かすかなと思っていたが、そんな事は無く、お座りをして、待っている。時々は一緒にクンクンしたりしている。


 様子見が終わり、廊下を歩み、玄関の扉を開ける。さぁ、初めてのお散歩だ。ヒメは楽しんでくれるかな?

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