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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第334話 湯けむり洗濯場編~テディの場合

 一旦宿に寄って、土間を貸してもらえるか確認しようかなとも思ったが、もう色々面倒臭くなってきた。ギルドの話が重かった。なので、宿が駄目そうなら屋敷に持って帰って、家でお風呂パーティーで良いやとちょっと投げやりになりながら屋敷に向かう。


 門衛に事情を話すと、そのまま馬車の所まで誘導してもらえた。珍しい、執事に取り次がないんだ。そんな事を考えながら、馬車から樽を降ろして担ぐ。門衛に礼を言い、屋敷を出る。『剛力』が有るので別に重くは無いが何と言うか、子供に指さされるのが気になる。丁度夕方前の買い物の時間帯なので、奥様方が子供と一緒に買い物に出る時間だ。ぐりんぐりんと歌舞伎の見得を意識して、ポーズを決めると子供から拍手喝采される。特に意味は無いがまぁ、交流と言う事で頭を下げて、宿に急ぐ。これ以上はサービスしない。何か後ろからもっとーとか聞こえるけど、しない。


 宿に着くと、ロットが調整してくれたのかテディが出迎えてくれて、そのまま納屋兼作業場兼洗濯場の土間に通される。洗濯場も兼ねているので勾配も有り、排水も出来る。おぉ、理想的な場所だ。納屋とは言え、壁も屋根も有る。そこまで寒く無いのが助かる。樽と中に入れておいたスノコを組み立てて、用意が完了する。


「これが風呂の設備と言うものですか? ロットさん達から話は聞いていたので気になっていました。もしよろしければ試させて頂ければ幸いです。今後、これの大規模な物を管理運用するのですよね?」


 テディが目を輝かせながら言う。好奇心旺盛なのも、試して利点欠点を知りたがるのも良い事だと思う。知ったかぶりも食わず嫌いもしない。これは気質なんだろうけど、大成する気質だ。


「ちょっと冒険で死体を相手にしたので仲間に死臭が染みついています。宿にこれ以上撒き散らすのも迷惑かと思いますので、仲間達の後でも良いですか?」


「はい。問題無いです。逆に宿にそこまで気を遣って頂いて申し訳無いです。是非試させて頂ければと思います」


 そう言って、テディが頭を下げる。了解の旨を返して、ロットの部屋に向かう。

 

 ノックをするとフィアが顔を出す。私の顔を見た瞬間、キュピーンと目を輝かせて、各部屋に駆け出す。分かり易いけど速いな。流石フィア。『敏捷』は伊達じゃ無いか。関係無いけど。


「ロット、洗濯場を借りれた。お風呂用意出来るけど、順番どうしよう」


「女性陣を先にした方が良いでしょう。かなり気にしていますし。フィアも臭く無いか延々聞いてきますので。順番は先程トランプで決めていました。男性陣は私、ドルの順番です」


「分かった。お湯だけ延々生めば良いかな。石鹸の在庫って有ったっけ? 持って来ていないけど」


「はい。フィア達がお気に入りの香油の物を買って保管しています。私達はそれを借ります。酢は宿から貰いましょう」


 あー。ドルもロッサと一緒の石鹸か。今晩、予定していたし、丁度良いのかな。まぁ、死体相手に色々手伝わせて申し訳無い気もするけど、そんなの予測出来ないし、ごめんなさいな感じだ。


「んじゃ、洗濯場に誘導して。私はお湯生んだら、食堂でお茶でも飲んでいるよ」


「分かりました。フィアに伝えます」


 ロットが手を振るので、こちらも手を振り返す。洗濯場に移動して樽にお湯を生み、食堂に移動してお茶を頼む。

 ぼへーっと待っていると、お茶が運ばれてくる。香りを楽しみ、口に含む。ハーブティーも色々家によってブレンドも違うので結構楽しめる。日本だと適当にペットボトルかティーパックで済ませるので、どちらかと言うとこの世界の方が贅沢な気もする。でも、日本茶が恋しいのも有る。結構ペットボトルの冷えたお茶も好きだ。と言うか、カフェインが切れて長いのでカフェインが恋しいのも有るか。一時期は中毒症状みたいなのが出ていたが、どこかでぴたりと収まった。日本でIT系の仕事をしているとコーヒーの消費量は半端じゃ無い。


 そんな益体も無い事を考えていると、チャット、ロッサ、リナ、フィア、ティアナ、ロット、ドルの順番でお風呂から上がってくる。都度お湯を生みに行くが、女性陣は久々の入浴で上機嫌だ。ロッサに至っては何か超感謝された。今晩の事を考えると分からんでも無いが、この子もそう言うところに気が回せる余裕が出来たんだなと、嬉しく思う。


 で、テディが下着と大きな布と小さな布を持って目の前に立っている。何か、お尻にしっぽが有ったらブンブン振られている感じがする。ダンディな渋い人なんだが、こう言う子供っぽいところに女の子って弱いんだろうなとは思う。


「では、ご説明しますね」


「恐縮です」


 フィアの石鹸を借りて用意した。ふんだんにかけ湯をして、頭と体の洗い方をレクチャーしていく。洗い方など詳しく聞かれるので意味や効果など説明していく。耳の裏とか、洗い残しやすいし、汚れも溜まりやすい。そう言うところに納得すると嬉しそうな顔をする。この人あれだな。何と言うか、人好きがすると言うか、可愛い人なんだろうな。いや、見た目はダンディーなんだけど、世話を焼きたいって思わせる人だ。仁徳も有るんだろうけど。


 全身泡塗れになったのをお湯で流す。最後に樽に浸かってもらうが、御多分に洩れずくはぁぁとか言いながら、浸かる。出るよね、意味不明の溜息。押さえられないよ、あれ。


「これは、気持ち良いですね。いや、湯で体を清めるのも良いですが、石鹸ですか? あれで洗う感覚は斬新です。さっぱりとした感触は堪りません。なにより、この湯に浸かると言う感覚。これは贅沢ですね」


 樽の縁に腕を乗せて、心地良さそうな顔でテディが呟く。愉悦で吐く息がほぼ溜息だ。よっぽど気に入ったか。


「そうですね。『リザティア』の風呂はこれの何十倍の広さの風呂ですし、露天と言って外でも入浴が楽しめます。外の景色を見ながら湯に浸かるのも中々楽しい物ですよ」


 そう言うと、その景色を思い浮かべたのか、テディが嬉しそうに微笑む。


「そのような夢の景色を早く拝みたいですね。いやぁ、これは素晴らしい。これだけでも価値が有る。男爵様が語った未来。お客様の喜ぶ顔。今からでも目に浮かびます。私は、それを早く実現したい」


 あぁ、この人、本当に静かに熱い人だ。冷静沈着だけど、人に愛され、人を愛し、惹き、そして、大きな渦を生んでいく。あぁ、面白い。良いな、この人は良い。仏作って魂入れず何て言うが、この人が魂、温泉宿達のマインドになるんだな。はは、これだから人生って面白い。こんな人と仕事が出来るのは望外の喜びだ。


「あまり長く浸かると、血が熱せられて、気分が悪くなります。程々程度で出て下さい。ふらっと感じたら、ちょっと危ないです」


「おぉそうですか。その辺りの注意喚起も必要ですね。ふむふむ。どう説明していくか……やはり、慣れるまでは介添えを付けるか……」


 いや、だから湯当たりするから出ろと言っている。本当にこう言う人種は集中し始めると周囲が見えなくなる。


「茹りますよ、倒れても知りませんよ」


「おぉ、これは失礼致しました。色々考えだすと止まらなくなりました」


 そう言いながら、テディが出てきて、体を拭う。さっぱりとした顔で、握手を求めてくる。


「やっとこれからの目指す方向性が見えてきた気分です。本日はありがとうございました」


 そう言いながら頭を下げて、宿の方に戻っていく。これで良いサービスが生まれてくれれば嬉しい。あぁ、良い人と交流すると言うのは純粋に楽しい。さぁ、『リザティア』もいよいよ動き出さなければならないな。

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