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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第333話 本音と建前と言いますが、建前だけで生きていくのは難しいです

「子供の玩具つうのか?あの辺はまだ案があんのか?」


「有りますよ。故郷なんて、子供の遊び道具で埋まっていましたし」


「そうかぁ。故郷と特許で喧嘩とか()えのか? 調子乗って作ってっけどよ」


「有りません。それは安心して下さい。有ったとしても私が対処すれば良いだけの話です」


「で、今後はどうするんだ?」


「玩具ですか? んー。これ、子供だけじゃ無く大人も楽しめちゃうんですよね。そのまま種類を増やして、大人子供分け隔てなく広めちゃいましょう。子供が買って欲しい時も、親と一緒に遊びたいとか言えるじゃないですか」


 そう言うと、ネスが何か酷い物を見た顔でわなわなと口を動かす。


「おま……それ……(ひで)えな。でも、そうだな……。懐握ってんのは親か。そこから攻めるんなら有りだな」


「はい。親の心をがっしり掴み、子供も楽しめる。そう言うのを広めていければ良いですよね。ベーゴマだって楽しかったでしょ?」


 そう言うと、ネスが頭をがしがし掻きながら、そっぽを向いて答える。


「楽しかったよ。あぁ、楽しかったさ。この歳んなったら、喧嘩なんてやる事も()えしな。誰かと競争なんて中々目に見えてやる(もん)でも()え。良く出来てやがらぁ」


「はい。そう言う何と言うか、競争心とか優越心、後は蒐集欲みたいなのを刺激すると、良く売れそうですよね。後、知育道具とかももう少ししたら開発します」


「知育道具?」


「色々な形の木の塊を組み合わせて、馬とか家とかを作って遊ぶ感じでしょうか。子供が自分の発想に合わせて無限に物が作れます」


「へぇぇ。(うち)もそろそろ子供作るか、とは言っている。そう言うのが有りゃあ、面白そうだな」


「鍛冶屋なんて、発想が命でしょ。やっぱりそう言う色々考えるのは子供の頃から育てるのが大切かなとは考えます」


「へへ。継がせるかどうかは、継ぎたい気持ちと何が作れるかだろうけどな。しかし、遊びと教育か。学校にゃ行ったが、面白くも()ぇ話ばっかりだったな」


 ネスが腕を組みながら、呟く。


「そう言う、面白く無い事を面白くするのもまた一興です。あ、お客様ですよ」


「おぅ。んじゃな」


「はい。ちょっとゆっくり出来そうなので、また来ます。それでは」


 そう言って、鍛冶屋を辞去する。


 てくてくと家に向かって歩く。リード代わりの紐は有るから、散歩は大丈夫。なんだか、左右で絡み合ってきゅーんとなる状況が思い浮かび、ちょっと注意しないといけないなと思いながら、家路を歩む。

 ギルド前を通る際に、職員と目が合ったかと思うと、慌てて走って来られた。嫌だ、これ、何か悪いパターンだ。私は、帰ってタロとヒメの散歩に行くんだ。左右を見て、逃げようかと思ったが、職員が後ろから名前を叫んでくる。勘弁してくれ……。


「何か有りましたか?」


「はぁはぁ……。すみません。ハーティスより、男爵様をお見かけしたら、お話ししたい旨を伝えて欲しいと言付かっております」


 ハーティスかぁ……。何の話なんだか……。もう、冒険者ギルドの無茶ぶりには乗らないって決めたし。話だけなら良いかな。甘いか?甘いな。まぁ、良いや。付き纏われる方が面倒臭い。

 そのまま職員の案内で、応接室まで通される。一番良い部屋で上座だ。あぁ、前のギルド長とかその前のギルド長の顔を思い出してしまった。元気にやっているかな。豚はどうなったんだろう。馬鹿は……自爆していたし、どうなっているんだろう……。

 何の話かも分からず、出てきたお茶を啜りながら待つ。程無く、扉がノックされる。応答すると、ハーティスだった。


「お待たせ致しました。男爵様」


 いつもの顔色でハーティスが部屋に入ってくる。良くも悪くも普通だ。んー。何の話か読めない。面倒事なら嫌だな。


「いえ。お茶を楽しむ程度の時間です。何か有りましたか?」


「何かと言うより、本日のギルド長の話の補足でしょうか」


「補足……ですか?」


「はい」


 頷きながらハーティスが答える。


「ギルド長より、北の森に関して、制限の話が出たと聞き、詳細を確認致しました。結論と致しまして、事態の収束まではダイアウルフや熊などの狩り、また一定区画以上の立ち入りも全面禁止と致します。簡易では有りますが、森の地図と指定範囲も配布致します」


 ほぉ。また、先程の動きと大分変った。情報が高いこの世界で地図の配布とか大盤振る舞いだ。これ、ヴァタニスの案じゃ無いな。政務畑の人間が自分の組織の儲けを削って、冒険者側に利益を供与なんかしない。そう言うセンスが有れば先程のような硬直した回答にはならない。ハーティスが動いたか?


「そうですか。先程のギルド長との話し合いでは、冒険者に対しては自己責任で森の奥に入っても良いと言うお話でした。また、禁止区域の話も出ませんでした。随分状況が変わりましたね」


「はい。恐縮ですが、提出頂きました内容を拝見致しました。現状ではまず、どのような冒険者が立ち入ろうと餌になるでしょう。それに、6等級12人のパーティーなど領地単位で見ても僅かです。それが死ぬ場所に人間を送る事は出来ません。また男爵様の懸念も正しいです。魔物が濃い魔素が有る場所で生息するのと同じく、魔素が薄い場所に立ち入らないのは経験則上分かっております。そう言う意味では、線引きは有効かと考えます。来年の侵攻対応上、ゴブリンの数を減らす必要は有ります。また、浅い地域での採取は資源上必須の物です。そこまで禁止しては村が回らなくなります。取り急ぎはこれ以上犠牲者を出さず、子爵様の軍による対応を待ちたく考えます」


 あー。現実的な対応だ。これが守られれば、まぁ、冒険者が無為に死ぬ事も無いだろう。最初からこの判断をすれば良いのに。まぁ、無理か。現場は現場を知っている人間にしか分からないか……。しかし、態々何故この内容を私に伝える?意図が読めない。


 若干怪訝な色が顔に出たのか、ハーティスが口を開く。


「ギルド長より、今後指定依頼含め、一切のギルド活動に強制力が発揮出来ないと言質を取られましたね? 聞いた瞬間、はい、参りました。現状の最大戦力であろう男爵様がギルドの強制力から外れた段階で、この件に関して一切有効な手は出せないでしょう。所用で立ち合いが出来なかった事が悔やまれます。逆に、それで踏ん切りが付きました。今後、犠牲者は出させません。これ以上現地で人が死ねば、北の森に立ち入る者がいなくなります。そうなれば、早晩このトルカ村支部も縮小対応でしょう。今、泥を被っても、存続と今後の活動につなげます」


 がー。インテリジェンス相手は面倒臭いなぁ。あの会見の裏をきちんと理解しているか……。先に言質取っておいて良かった。あそこで取れなかったら、また何か無茶ぶりされていたところだ。先んじられて良かった。流石に仲間を死地に向かわすのは何が有ろうが嫌だ。と言うか、建前でこれ以上動かされるのは嫌だ。冒険者は手段であって目的では無い。そんなものにかかずらっている暇は無いし、無駄に捨てる命なんてこれっぽっちも存在しない。


「そのようなつもりは無いですよ。そろそろ『リザティア』も正式稼働です。そうなれば、この地を離れなければなりません。そのような人間が何らかの責任有る仕事を任されても全う出来るかどうか確実にお答え出来ません。故にあのような形でお話ししただけです」


「はい。その旨で頂けば、あのようにしか返せないでしょう。その部分でお責めする気も有りません。それが事実ですので。この件に関しては一旦私が間に入って先程の形で収めました。私の進退に関して、今後どうなるかは分かりません。ただ、これより無為に冒険者が死ぬ事は無い。その事だけはご理解頂ければ幸いです」


 こっちが気にしているのもお見通しか。本当に有能なのに、上司に恵まれないな。今回はそれに助けられたけど。この件に関しては、上司のチョンボを進退を賭けてハーティスが収めた。なので貸し借り無しにしてしゃんしゃんか。むー、今回貸しのつもりで何が有っても蹴るつもりだったけど、潰されたな。しょうがない、上手く(しがらみ)を絡まされたと思って諦めるか……。


「分かりました。有益な情報をありがとうございます。私もあの案では無為に冒険者の命が奪われないかと心を痛めていました。ノーウェ子爵様には、ハーティスさんがどのような思いでこの話をなさったかを伝えるようにします」


 ハーティスに貸し1個作るのが精一杯かな。


「ありがとうございます。貴重なお時間頂きまして、申し訳御座いません」


 ハーティスが深々と頭を下げてくる。これ貸しになるのか?保身出来た方が利益大きいよなぁ。かー、精々大きく返してもらおう。


「いえ。お気になさらず。では、私も用が有りますので、この辺りで失礼致します」


 特に何の感慨も無く、ギルドを後にする。貸しは潰されたが、あの貸しも使い方の難しい物だった。ノーウェ直轄の部下を直接叱責なんて出来ないから迂遠に用意した物だ。それを潰されても特に痛くは無い。しかし、本当に勿体無いなハーティス。あれだけ現場が分かって優秀なのに、本当に上司が合わないなぁ……。


 世知辛さを感じながら、帰途に就く。何やかやで結構時間が経ってしまった。早く風呂を用意してあげないと。んー。ここからなら家より、屋敷の馬車に積載している方を持って行った方が早いか?タロとヒメの面倒はティーシアに預けた。リズもまだ寝ているだろう。そう思って屋敷への道に進路を変える。夕方と言うにはまだまだ早く、昼下がりにはもう遅い微妙な時間。吹く風はどこか暖かく、そろそろ春を感じさせる、そんな風だった。

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