第332話 やっぱり人が喜ぶ物を作れるのが一番嬉しいです
2匹共食べ終わり、水を飲むとほっとした感じで丸まろうとする。そっと抱きかかえて、箱の中に入れる。タロがもぞもぞと毛皮の中に潜り込んで顔を出すのを真似してヒメももぞもぞしてちょっと出口が分からなくなり困った感じでしっぽを振る。顔の辺りの毛皮を除けてあげるとウォフと嬉しそうに鳴き、タロとくっついて丸まる。ぬくぬくしくて良い感じだ。このまま仲良くしてくれると嬉しい。ヒメは取り敢えず、ご飯が食べられたら、満足だろうし。
ベッドを見るとリズがやりきった顔でスヤァと寝ている。お昼が出来たら起こさないといけないけど、そのまま寝かしてあげたい顔だ。昨日はヒメの面倒も見てくれたし、夜番も頑張ってくれた。少しでも休んで欲しい。その穏やかな顔を眺めて、過ごしていると、優しいノックの音が聞こえる。
「ご飯出来たわよ」
ティーシアが扉から顔を覗かせて、囁いてくる。リズが寝ているのを知っているので、気を使ってくれている。
「もう、この子ったら。ぐっすりじゃない。良いわ。温めたら済む物だから。先に食べちゃいなさい」
ティーシアが出ていた肩に布団を被せて、先導していく。
キッチンには根菜とイノシシ肉のスープにパンが置かれている。ラードを塗って、パンを頬張る。
「森の奥、どうだったのかしら。死人が出たって話は村の中では話題になっていたけど。魔物よね。そこまで心配では無いけど、奥に行く貴方達は心配だわ」
「酷いのは確かです。ただ、もう奥に行く事は無いと考えます。現状調査も終わりましたし、記録も提出致しました。私達に出来る事はここまでです」
そう言うと、スープを含んでいたティーシアの顔が強張りから解ける。娘が危ない場所に行っているのだ、心配しない訳が無い。
「そう、良かった……。森の奥はどうするのかしら? このままなの?」
「ノーウェ子爵様にありのままを伝えます。その上で如何判断なさるかですね。私達の戦力では何の役にも立ちません。冒険者ギルドには最大限の情報を提出しました。それをどう活用するからはギルド側の判断です」
「そう。込み入った事を聞いたわね。ごめんね。お仕事の話なのに。」
「いえ。娘さんが絡む話です。気になさるのは当然です。お気になさらず。もう、危ない場所ですので、連れていく気は無いです」
そう言うとティーシアが安堵の色を浮かべる。さっと食事を済ませて、リズが寝ているのでタロとヒメの世話はティーシアに任せる。
部屋に戻ると、2匹が何かまとまった毛玉みたいになっていたけど、こちらに気付いたのか解ける。盛んにしっぽを振っているタロと、それを見て自分もそう言う感じで迎えないといけないのかと戸惑っているヒメのギャップが面白い。タロとヒメを撫でる。
『少し、出てくるよ。その間、何か有ったら、ティーシアを呼ぶ事。良い?』
『うん』
二匹がキャンとウォフで了解の旨を返す。まぁ、安心かな。毛皮の底を見ても、糞尿は出していない。まだ消化済みには早いか。ティーシアに下の世話を頼んで恐縮だが、出していたら、取り替えて貰おう。
穏やかに眠るリズの額に口付けて、鍛冶屋に向かう。首輪の追加を作ってもらわないといけない。
とぼとぼと鍛冶屋まで向かう。
「こんにちは、今大丈夫ですか?」
「……やっぱり落ち着か無えな。どした?」
「前に作って頂いた首輪なんですが、もう一本用意頂ければと」
「首輪?あぁ、あれか。ちょっと待ってろ。大きさは一緒で良いのか?」
「はい。同じような歳の狼なので」
「もう一匹飼うのか。あぁ、番か。一匹だと寂しいか」
そう言いながら、ネスが奥に入り、在庫のループを持って来て、前と同じくぶっとい針でちくちくと縫っていく。
「ベーゴマっつったか? 特に何も言われていないから、村の子供に幾つか渡した」
「おぉ、反響はどうですか?」
「凄ぇ。流石にやり取りまでは認めてねえが、まぁ、子供だ。順応性が高いしな。カンカンやりやってやがる。今だとチャンバラより人気が有るんじゃねぇか?」
「歓楽街の景品にと思っていましたが、思ったより反響有りそうですね。子供はああ言う玩具はやっぱり好きですか」
「その発想がどこから来るのか聞きてぇが、まぁ、好きだな。鋳造で量産も可能だ。ましな鍛冶屋なら誰でも作れる。これも特許か?」
「今回はデメリットが無いので、独占販売権で良いと考えます。調整お願いしても良いですか?」
「言うと思ったから、根回しは済んでいる。金のなる木が増えるな。鈴なりだろ」
「どうせ、領地経営を始めたら、木っ端ですよ。それでも無いよりは、有る方がまし程度ですね」
「違えねえか。どれ、こいつでどうだ」
話ながら、作業をしていたネスが首輪を差し出してくる。タロと同じく、しっかりした作りだ。うん、問題無い。
「いつも良い仕事しますね」
「当たり前だろ。持ってけ」
「お代払いますよ」
「湯たんぽ、北の公爵様に勧めただろ。引き合いが引っ切り無しだ。ギルドの管轄っつっても、結局製造は現場だ。稼働が半端じゃ無え。儲かってるんだよ、言わせんな」
ネスがぶっきらぼうに言う。女子供の為に開発を進めてネスが張り切った湯たんぽが本当に必要とされる北側に広まる。職人冥利か。
「良かったじゃないですか。夜寒さに震える人間が少しでも減れば」
「あぁ、本当に……本当に良かった。久々に鍛冶屋として、人の役に立てる物を作れたって感謝している。だから、持ってけ」
そう言いながら、首輪を差し出してくる。そう言われたら、受け取るしかない。
「ありがとうございます。きっと喜びます」
「そっかぁ。あぁ、猟師や牧場系からも引き合いが来ている。どうも町中で見て、便利そうだって思ったらしいな。そう言う意味ではこれも商品になっちまったな」
そう言いながら、ネスが笑い始める。その楽しそうな姿に自然と私も笑いが零れる。あぁ、この人、スカウトして良かった。末長く一緒に色々作れたら、本当に楽しいだろうな。そう思いながらいつもの雑談に入った。