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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第327話 やはり肉団子は正義です、朝から動けなくなるまで食べるのはどうかと思いますが

 木窓の隙間から入り込む光が目に当たり、目が覚める。座った姿勢で寝た所為か、久々に全身がバキバキする。会社で椅子寝をする時はぎりぎりまでリクライニングするか、パイプ椅子を何個か連結させて寝ていた。寝袋が普通に置いてある職場って嫌だったな。上司の机の横に寝袋が置かれているんだけど、それを使わずにマネジメントをするのが上司の仕事じゃ無いのかなとは常々思っていた。そんな物を使うくらいなら突発的な事象だろうがさっさと終わらせてタクシーか何かで帰って寝て、次の日に会社に来たら良い。寝袋で寝て得られるパフォーマンスなんて限られている。あぁ、嫌な記憶が蘇ってきた。頭を振り、記憶を追い出す。


 木窓を開けると、外は気持ちの良い晴れだった。3月2日は順調に過ごせそうな気がしてきた。足の隙間に挟まっていたヒメは、そっと下して毛布に包めておいた。何度か寝てはいたが、根本的に安心して眠れたのが久々なのだろう。まだ起きる気配は無い。朝ご飯の準備をするか。


 外に出るとリズが毛布に包って、焚火の前で待機していた。


「お疲れ様。どうだった?」


「特に問題は無いよ。皆もあの後すぐ寝ちゃったよ。あ、後片付けは終わらしているよ。後、お隣さんも戻らず」


 リズが空き家の2軒を指さしながら言う。夜営なら良いが、現在のこの森で野営をする自信は、無い。若干沈痛な思いが浮かぶ。


「先に、ヒメのご飯の用意をしちゃうよ。リズは朝が出来るまで寝ておいで」


「分かった。ありがとう。ちょっと寝てくるよ」


 リズが欠伸をしながら答えてくる。一緒に女性部屋の方に向かう。私はキッチンに。リズはそのまま奥の部屋に向かう。野営を置いているので、閂は閉じていない。


 残っていた鹿肉とモツを叩く。まだ、丸のままを出すには体調が不安だ。寝ている間の便や尿は無かった。恐怖やストレスで夜尿をするのは人間も犬も狼も変わらない。そう言う意味では安心して眠れたのかなと少し嬉しく思う。

 ミンチを作って皿に盛る。男性部屋に戻ると、ヒメが目を覚まして伏せていた。起きた時に私がいなかったのがストレスだったのか、若干強張っている。背中を撫でながら、緊張を解く。


『ご飯、食べられる?』


『おなか、すいた』


 タロに出すのと同量程度でミンチを作った。これを食べてきちんと消化出来るなら、一安心だ。皿を目の前に置き、待てと良しを覚えさせる。『馴致』が有るのでここはすぐに覚えてくれる。クンクンと匂いを確認し、鹿と分かった段階でハグハグと食べ始める。最初の一口の試しが無くなったのも、信用してくれているからかなと嬉しく思う。タロに比べて食べるのは早い。兄弟姉妹が沢山いる中で育ってきたのだ。食べる速度も生存競争には必要か。タロはちょっと箱入り息子なので、馴染めるか若干心配だが。食べ終わって皿を舐め終わったのを確認し、水を生む。ペロペロと舐めながら、緩やかにしっぽを振る。飲み終わって落ち着いたのか、食休みの体勢になる。私は皆の朝ご飯を用意しようかと立ち上がり、部屋を出ようとする。するとヒメも立ち上がり、付いてくる。


『皆のご飯の準備だよ。休んでおいで』


『ついていく』


 ヒメがウォフと鳴いて、後ろにくっ付いてくる。甘えん坊さんはタロもヒメも変わらずか。まぁ、良く分からない場所でいるのも心細いか。そう思って、一緒に女性部屋の方に向かう。土間に直接伏せるのも寒そうなので、部屋への上がり(かまち)の辺りに伏せさせる。そこからならキッチンの様子も見られる。ヒメも大人しく伏せて前脚に顎を乗せて、丸くなる。


 さてと言う訳で、朝ご飯だが、昨日の出汁は残っている。パンが有った所為か結構吸い取られているが、まぁ、作った量が多いのと鹿の出汁がまだ残っている。(かまど)に火魔術で点火して薪をくべる。冷えて脂の層が浮かんでいるスープの脂を取り除いてから、火にかける。うまみも含まれるが、リズのぷにぷにを考えると少しでも油分は減らしてあげた方が良い気がする。本人は頑なに否定するが、会った頃に比べると肉付きは良くなった。元々ががりがりだったので、今が丁度良いか細いくらいなのだが、言うと怒られるので言わない。


 鼻歌混じりに鹿の出汁の残りを昨日の鍋の残りの出汁に投入する。雑味は強くなるが、うまみも強い。しかも具材は綺麗さっぱり上げられているのがちょっとおかしい。小さな野菜の欠片も残っていない。ロット辺りが神経質に掬っているところを想像すると少し笑える。冷えた出汁を掬い味見をするが、香りの高さはそのままだ。これに肉団子を入れてしまえば問題無いな。元々そんな上品な食べ物じゃ無い。下品でも美味しければ正義だ。


 残った鴨と鹿を延々叩いてミンチにしていく。ただ、ヒメにあげた程細かい物では無く、ちょっとごろっとする程度で止める。歯応えもまた食の楽しみだ。石のボウルを生み練って粘りを出し、芋や根菜類も細かく刻み混ぜる。最後に小麦粉を少々加えてつなぎにする。葉野菜類を一口大に切り分けた辺りで、部屋の中から呻き声が聞こえてくる。そろそろ起きたか?火にかけた鍋から溢れんばかりに香りが漂っている。それに刺激されたかな?


「めっちゃ、ええ匂いがしますぅ……」


 チャットが若干寝ぼけ眼で出てくる。持ってきた洗面器サイズのタライにお湯を生むと、顔を洗って、髪を直し始める。ロッサ、リナ、ティアナ、フィア、リズと続いてくる。皆、匂いでお腹が鳴っているのが面白い。


 十分に出汁がぐらつき始めたのを確認して、鹿ミンチから丸めて投入していく。香りは飛ぶけど、時間重視と肉団子からまた香りが入る。朝ご飯だし、そこまで気にしない。


「肉団子!?うわぁ……超楽しみ……。お腹空いたぁ……」


 フィアが様子を見て叫ぶ。昨日トドになっていたのに、もうお腹空いているか。燃費悪いよ、本当に。


 ほのかに色違いの肉団子達が順にぷかぷかと浮き始める。灰汁を丁寧に取り除き、野菜を投入し、蓋をする。パンの袋を確認したが、何とか全員に行き渡る数は残っていた。数的にはもう一食分有る筈なんだが、昨日食べ過ぎじゃね、皆。そりゃ、トドになるわ。


「誰か、男性陣起こして来て。ご飯もうすぐだよって」


 そう言うと、いつものようにフィアが駆け出す。


 蓋の中でくつくつと煮えている音を聞きながら、中を想像する。肉団子達が野菜と一緒に踊っている。野菜はそのうまみを出しながら、出汁をその身一杯に吸い込んでいく。そろそろかな?

 配膳を皆に頼み、鍋を中心の鍋敷きの上に置く。


 丁度フィアを先頭に、男性陣がキッチンに入ってくる。


「おぉ、朝からまた豪勢な匂いだな」


 ドルが苦笑を浮かべながら、席に着く。皆も次々と席に着いて行く。ヒメはどこか楽しそうに、伏せてしっぽをゆっくりとぱたぱたさせている。


「さて、昨日の今日で申し訳無いけど、ご同業が帰って来ていない」


 そう言うと、昨日の夜番組に視線が向けられるが、頷きが返る。


「正直、昨日の調査を考えると、生存は絶望的だと思う。ただ、昨日の初めに見た場所。ロットが何かを食べていたと言う場所。あそこはちょっと気になる。何を食べていたのか。もう熊すらも獲物にするのか?それともご同業か。ご同業なら遺留品は回収して上げたい。そう言う事で、帰る前にもうひと仕事はしたいと思う。異議は有るかな?」


 皆の目を見て、確認する。否定的な色は無い。危険は冒すが、遺留品の回収はある種義務に近い。誰もが自分が死んだら、家族や知人に何かは残したい。なので、道半ばで倒れても誰かが自分の思いを届けてくれる。そう思いながら、皆日々を過ごしているからだ。そこから盗む人間は冒険者にはいない。神明裁判も有るが、その辺りの矜持が無くなったら、お終いだと皆どこかで分かっている。


「良し。じゃあ、今日の予定は決まり。身軽に動きたいから、荷物は極力置いていく。留守番も申し訳無いけど、昨日と同じ。もし冒険者が帰ってきたら対応が必要だしね。そこは申し訳無いけどお願い」


 そう言うと、リズとフィアとティアナが頷く。


「危険は避ける。危ないと思う前に引く。ただ、出来れば見たい。そこはロットに任せる。状況確認はよろしく頼む」


 ロットが力強く頷く。


「それでは、今日も頑張ろう。じゃあ、食べましょう」


 そう言って蓋を開ける。大量の湯気と一緒に立ち上る複雑な香り。鴨と鹿の何とも言えない甘い甘い香り。皆からうわぁと感嘆とも取れる呻きが聞こえる。


 お玉で色違いの肉団子を掬う。どっちがどっちだろう?と思いながら、口に含む。スープの複雑な香りを堪能し、噛みちぎる。その瞬間、鴨の香りと野菜の甘み、うまみが複雑に口の中で広がる。熱い脂が口の中を蹂躙し、その上を肉汁が襲ってくる。はふはふと口の中を冷やしながら、噛み締め、呑み込む。その瞬間、喉から上がってくる香りとうまみ。はぁぁと熱い溜息が勝手に出る。


 見守っていた皆が我先にとお玉を奪い合う。それを見ながら、もう片方の鹿を同じく頬張る。熱々の肉団子を噛んだ瞬間同じく流れ出る肉汁。でも鹿の方はもう少し繊細で血合いの香りが強く野趣溢れる感じだ。脂身が少ない分、純粋に肉のうまさが感じられる。甲乙付け難い感じだが、朝ご飯と見るなら、個人的には鹿かな。そう思いながら、食べ進める。


「肉団子……超美味しい……。前に食べたのも美味しかったけど、今日のはもっと美味しい……」


 珍しくフィアが静かに食べている。と言うか、口を火傷して叫べない感じだ。急いで食べ過ぎ。


「確かに、昨日のように上品では無いけど、これはこれで良い物ね。朝から二種類もの味が楽しめるなんて、贅沢だわ……」


 ティアナも色違いの肉団子を頬張り、うんうんと頷いている。


(それがし)熱いのは苦手で御座るが、これはもう、食わねば負けと思えるで御座るな。あちち、でも美味(うも)う御座る」


 リナが苦笑を浮かべながらも美味しそうに食べ進めていく。そこからはもう、いつものように戦場だ。


 私は程々にパンと一緒に食べた後は、すいとんと鴨の砂肝の用意をする。どうせドルが食べたがると、別にしておいた。鴨の脂をフライパンに大量に引き、ひたひたにする。そこに砂肝を薄目にスライスし、バラリと揚げ焼いていく。満足気にしているリズにすいとんの準備をお願いする。別の鍋に湯を生んで、すいとんを茹でる準備を並行して進める。フライパンの中の砂肝の色が変わった段階でこれでもかと刻んだ香草を入れて香りを立たせる。塩胡椒をして、味見をする。ざくりとした噛み応えとさくさくとした食感、うん、美味しい。油を切りながら、皿に盛っていく。


「ほい。鴨の砂肝のソテー」


 そう言った瞬間ドルの目が輝く。うん。分かっていた。


 結局残った小麦粉もすいとんに化けて、皆の胃袋に収まった。結果?トドがまた大量に水揚げされている。まぁ、量は調整したし、食休みが終わったら動けるだろう。


 リズと一緒に苦笑を交わし、後片付けを進める。背後ではヒメがくわっと欠伸をしている。やれやれと言っているようで、少しだけ笑ってしまった。

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