第326話 足が悪いのでどうしても問題が起きます
トド達の復調を待つ間、洗濯物を確認するが、乾いていたので取り込んでおく。ヒメも一緒に外に出てトイレも済ましてしまう。野生の狼なら足を上げるのかなと思ったが、まだらしい。やっぱり1年程はこのままなのかな。
『ぱぱ、ぬくいの?』
トイレを済ませて、またお風呂を所望らしい。お姫様らしいけど、そんなに何回もお風呂に入って油分が抜けて皮膚炎になったりしないかなとも思うが、まぁ、元々野生の狼だったし、毛を触るとまだ少し脂っぽいので大丈夫かなと考える事にする。
男性陣に先に部屋を移動する旨を伝える。リズは程々で済ませたので、回復は早めだ。今は水を配ったりと大忙しだ。フィア、夜番出来るのかな。そんな事を考えながら石タライを担いでヒメと一緒に男性部屋の方に移動する。石タライ、割れるのが嫌だったので若干厚みを持たせて作ったが、結構重い。『剛力』が有るから良いけど、無いと腰に来る重さだ。荷物は部屋に置いている。金目の物は無いので、盗みに入られても痛く無い。切なくなる程度だ。
ヒメはひょこひょこと後を付いてくる。村までの帰りは荷車の上かな。酔わないかな?
そんな心配をしながら、もう2軒の様子を窺うが、やはりまだ戻っていない。んー。明日、周囲の探索だけでもやった方が良いのかな。何と無く、近くで何かを捕食していたダイアウルフの件と結びついて、嫌な予測が消えない。それだけでも確認するか。最悪の場合、遺留品だけでも持ち帰れればと思う。往復で1時間程度だし、影響は小さいか。周囲の確認と安全確保だけしっかりやって駄目そうなら諦めよう。
そう思いながら、ランタンから燭台に火を移し、テーブルに置く。ヒメは大人しく、伏せている。ちょっとお座りをする時に足を庇うのできちんと座れない。先程のトイレの時も綺麗に座れないので、色々逸れてお尻の辺りが汚れていた。今までは母狼が処理していたのだろうが、捨てられてからは困っただろう。ただ、汚れの具合から見るに1日2日の話だとは思う。それでも過酷だったには違いない。お尻の辺りだけちょっとかぶれかけている。
タライにお湯を生む。温度は程々程度。温まるより、体を洗うのが目的なので、長くゆっくりと浸かれる温度に。ヒメを抱き上げて、タライにそっと浸ける。足先がお湯に浸かると、そのまま広げた状態になって顎を縁に載せてぷかぷか浮いた状態になる。この辺りもタロそっくりだな。そう思うと、ちょっと笑えてきた。慣れてくれるとリラックスしてくれるんだ。少し感動しながら、お尻を重点的に体全体を揉み洗う。大変申し訳ないけど、お尻の辺りの毛先に色々こびり付いて取れない状態になっているので、お湯でふやかす。
『ぱぱ、ぬくい、きもちいい』
タロそっくりな薄く目を開けた顔で弛緩している。やっぱり狼なんだなと再認識しながら、頑固な汚れと格闘する。毛を引っ張ると痛そうなので、影響が出ないように調整しつつ、丹念に汚れを落としていく。
『すこし、かゆいの』
かぶれた辺りに触れると、やはり『馴致』で反応を返してくる。神術で治しながら、引き続き洗っていく。拾った当初はお腹辺りは本当にぺったんこで内臓が有るのかと心配する程だったが、何食か食べて、少しだけ膨らんでくれた。その事実が無性に嬉しい。わしゃわしゃと皮膚から洗っていくとくすぐったいのか身を捩らす。こびり付いた汚れも落ち、もう良いかなと言うところで引き上げる。ブルブルするかな?と思ったが、まだしない。いつ頃覚えるんだろう。そう思いながら乾いたばかりの布で全身を拭う。最後にブローをするが毅然と薄目を開けて、こちらを見つめる様は少し気高くて、まだ子供でも雌は大人なんだなとちょっと感心した。
全身の濡れ具合を確認し、問題無しと言うところで布を集めて洗濯に向かう。ヒメは毛布に包らせて待たせる。また外に出て冷えられても困る。
ヒメ用の布だけなので、ざっと熱湯と石鹸で洗って物干しに干しておく。空を見上げると満天の星空だ。雲も無い。明日も晴れるだろう。このままなら布の2,3枚明日の朝には乾く。
部屋に戻ると、伏せた状態でじっとしているヒメがいた。状況が分からないので、不安が強いか……。
毛布に潜り込み、壁に背中を預けて、ヒメと一緒に眠りに就く。抱きしめた状態で、背中を撫でていると、少しずつ強張りが取れていく。やはり、置いて行かれる恐怖で緊張していたか……。
潰さないように寝転がらず、座ったままで眠る。クワっと言う欠伸の声が聞こえて、ヒメがお腹と足の間に顔を乗せて、うつらうつらし始める。頭を撫でていると、安心したのか、そのまま眠りに就く。
私も目を閉じて、眠る。食器洗い用のお湯も水も用意しておいた。後片付けは誰かがやってくれるだろう。今日はちょっと緊張で疲れた。状況確認だけのつもりだったのに、ヒメは拾うし、状況は悪化していた。まぁ、それでも仲間に何も無かったんだ。それだけでも幸いと思おう。ヒメも無事保護出来たし。
そんな何でも無い少しだけの幸せを何ものでも無い何かに感謝し、明日の幸いを祈る。ヒメの寝息に合せるように、こちらの呼吸も穏やかになっていく。気付くか気付かないかの内に、眠りに落ちていた。