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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第324話 覚悟しても、込み上げるものは有ります

 着いたのが昼過ぎ。12時を回るか辺りで、今が15時ちょっと。日没が18時前後の筈だ。都合3時間なので地図で回った場所を重点的にチェックしていく。ノーウェが軍を出して制圧するにせよ、簡易宿泊所周辺を荷物の集積所にするだろう。この周辺にどの程度分布しているのか。それだけでも分かれば拠点防衛の必要数は算出しやすくなる。まずは今まで作った道を進んでロットの『警戒』で存在を釣っていこう。


 残余のメンバーで隊列を組む。前にロットとドル、リナ。中衛に私とチャット、後ろにロッサだ。ロッサは午前で張り切って道作りをしてもらったので、今回は後ろに付いてもらう。


 若干伸びた藪を再度開けながら、やや急ぎ足で先に進む。簡易宿泊所自体が人間の設備と森の生き物も分かっているのか、あまり近寄らない。近寄ったら狩られると学習したような感じだろうか。ダイアウルフの異常繁殖と侵攻とか無ければ良いけど。ゴブリンの指揮個体みたいなイベントは勘弁して欲しい。


 30分程離れただろうか、ロットが手を挙げて、皆を止める。


「ダイアウルフの気配が引っかかりました。少し様子を見てきます。お待ち下さい」


 そう言うと、『隠身』を全開にして気配を薄れさせて、藪を開けて移動し始める。暫く待機していると、ロットが戻ってくる。その顔は若干引き攣っている。


「昔、リーダーが倒されたのが30匹程度の群れですよね?」


 ロットが若干青い顔で聞いてくる。


「35はいなかったけど、どうしたの? 何か有った?」


「はい。群れですが捕食中なのか、停止中です。ただ、数が40は超えています。小さな気配を入れると50以上ですね。重なっている存在はちょっと把握しきれなかったので。偵察に出ている個体もいるかも知れないので50以上は間違い無いです」


 うわぁ……。体長で150cmを超える狼モドキが50を超えて群れを作るとか悪夢だ。その数は普通維持出来ないだろう……。と言うか、相互補助関係の可能性も高いか。子供が生まれた時期に獲物を融通し合って、群れ同士の生存率を高める……。どちらにせよ、新情報だな。朗報だ。


「助かる。そんなのにこのメンバーで挑むとか絶対に嫌だ。避けよう。察知はされていないかな?」


「はい。偵察個体もこちらには向かってきていないです。風下なので発見はされていないと考えます。このままルート通りに進めば避けられます。先に進みましょう」


 ロットが引き続き、先導をしてくれる。新しい地図に今回のイベントをメモする。その後も見覚えの有る獣道を進むが、ちょくちょくと群れを発見しては、ロットが偵察に出る。この頻度だと森全体で、どれだけいるんだ?出現時期が不明だけど、最短でも3世代目かなぁ。天敵がいないからこのまま増えそうな気がする。


「駄目です。20匹を超えた群れです。手は出せないですね。完全に学習している気がします。そもそもの数が増えて、余裕が出来た事も有るのでしょうが」


 人間が入り込みそうな場所でもこれか……。リズもロッサも『警戒』が有るから狩りに出てもらったけど、普通に狩られている人間と言うのも発生している気もする。冒険者ギルドも聞かないと教えてくれないし、聞くか……。


 あー、これ中途半端に人間が挑んで、どんどん学習が適応しているパターンなような気がする。ダイアウルフ同士でどのようなコミュニケーションをしているか分からないけど、少なくとも小さな群れが淘汰されて、大きな群れだけが生き残って行っている状況なのだろう。ますます冒険者だと手が出ないな。


「ん……。引っかかりました。これ、偵察っぽいですね。先程の群れから離れて接近してきています。こちらを認識はしていないでしょうが……。元が狼なのでしょう。夕方から夜にかけてテリトリー確認の徘徊が始まっているのかも知れません」


 生態的には考えられるのか?


「どの程度、群れから離れているの?」


「狩りますか? ちょっときついかもです。ちょっと離れた段階で後続がフォローで追っています。これ、少数を孤立させないのを意識してそうです。後続は……10匹……はいないと見ますが、相手にしている間に本隊が来ます。音が聞こえる範囲でしょうから」


 森の中でも音は結構通る。相手が狼ベースなら尚更だろう……。毛皮とか言わずに一回数減らさないと駄目だな、これ。ノーウェに働いてもらおう。


「無理っぽいよね。帰り道、確保出来るかな。結構、縫って進んだ筈だし。相手が動き出したなら、危ない気がするけど」


「『警戒』で確認しながら進むので、細いでしょうが抜けるのは可能です。ただ、風向きが変わっていますので、動くなら急ぎましょう」


 時間的には16時を回っている。今から帰ったら、日が落ちるギリギリだ。ランタン片手に30匹以上のダイアウルフとの戦いなんて嫌だ。……帰ろう、帰ればまた来られるから。


「良し。状況は見えた。十分収穫は有る。金銭上は見えないけど、ノーウェ子爵様より別途利権は貰う。今回の件はそれで補わせて欲しい。撤収開始!」


 そう言うと、皆が水臭いなと言う顔でこちらを見て、帰途に進路を向ける。ロットが今まで以上に真剣に周囲を探索しながら先を急ぐ。


 これ色々調査して分かったけど、『警戒』って思ったより疲れる。実際に自分で使うと分かるけど、オンにしていると頭のどこかが疲労してくる。疲労が限界に達した時にどうなるかは怖くて試していない。習熟度が上がれば疲労感も減るけど、距離を延ばせば強くもなる。万能では決して無い。休めば回復するので、周期的に確認するのが良いのだろうが、予断を許さない状況だとそうも言っていられない。

 ロットや他の斥候職が真剣にしているのは兎に角、不意を打たれる確率を減らす為だ。遠くを気にし過ぎると周辺が疎かになるので、ロッサやリナがフォローに入る。私も短距離は延々警戒している。変な足止めを食らうだけで死ぬ可能性が有る。慢心なんて怖くて出来ない。既に、死地だ、ここ。

 偶にグリーンモンキーが接近してきて威嚇の声を発する事も有る。これがきつい。これを気にして、ダイアウルフが接近してくると面倒臭い。冷や冷やしながら先を進む。


 何度か、ロットが匂いで気付かれるか?と言う距離をギリギリですれ違いながら、簡易宿泊所に向かう。1時間半、6kmか7kmも無い筈の距離が何倍にも感じる。周囲を見回すが、皆の顔色も悪い。チャットに至っては緊張で蒼白に近い。あぁ、これ、またミスったな。この前の反省が生かされていない。


 何とか危険な領域を抜けて、簡易宿泊所の影が見えてきた時には、腰を抜かしそうになった。気力で持ち堪えて、皆に声をかける。


「お疲れ様。もうちょっとで着ける。夕ご飯を食べて、ゆっくりと寝よう。今日はありがとう」


 そう声をかけると、チャットが崩れ落ちる。大分無理をしていたからな……。リナに目を向けると、頷きが返り、チャットを背負う。


「すいません。もう、足が動きません……。腰から下の感覚がのうて、あかんのです」


 チャットが恥ずかしそうに言うが、皆も同じような感想だろう。


 森の様相は変わった。もう、あの頃の森とは違う。幸運なのは、オークとダイアウルフが連携して共存共栄を始める前にオーク側を根絶やしに出来た事か。

 ギルド側の諜報って現状どうやって運用されているんだろう。情報が無いと、やっぱりきついな。ハーティスに聞くのも借りが出来そうで嫌だな……。


 簡易宿泊所に辿り着き、外閂を開ける。中を覗くと利用予定の2軒に人の気配は無い。まだ、狩りに出ているのかな?ホバーで門を乗り越え、外閂を閉めておく。内閂を閉めると、態々呼び出される。面倒だ。


 皆が部屋割りに沿って、宿泊所に入る。装備を外しながら、重い溜息を吐く。


「かなり様相が変わりましたね……。少なくとも小規模のパーティーでは手が出せる相手では無いですね」


 ロットが革鎧のベルトを緩めながら、呟く。


「一回、領主として数を減らしてもらわないと無理だね。帰りは助かったありがとう。今晩はゆっくり休んで」


 そう言うと、ロットが若干青い顔で頷く。大分疲労が強い。ロッサもリナも今日は無理だろう。リズ、フィア、ティアナにはちょっと無理をしてもらうけど、夜番は頼んじゃおう。


「じゃあ、一休みしておいて。料理はまだかかると思うから、ゆっくりしていてもらって大丈夫」


 男性陣に声をかけて、女性部屋の方に向かう。料理をしながら警戒もしないと駄目なので、ヒメも移したらしい。

 

 扉を叩くと低い声が返ってくる。帰った旨を伝えると閂の外れる音と共にティアナが出てくる。


「おかえり。予定より早かったわね」


「ただいま。駄目。奥の方はもう、かなり危ない。手が出せない」


「そうなの?まぁ、夕ご飯の時に聞くわ。あぁ、鹿の骨は水を足しながら、煮込んだわよ。殆ど骨はぐずぐずに近いわ」


 ティアナが閂をかけて、キッチンに先導する。お玉で押してみると、結構ぐずぐずになっている。時間とダッチオーブンと考えると、こんな物か。


「一回濾して、再度温め直して、鴨出汁と合しちゃおうか。ありがとう。引き続きお願いして良い?」


「分かったわ。夕ご飯はどうするの?」


「鴨鍋、好きでしょ? 明日の朝は出汁を残して肉団子かな」


「野菜も持ち込みが有るし、大丈夫ね。狼の世話でしょ。いってらっしゃい」


 ティアナが微笑みながら、背中を押してくる。

 ありがたいなと思いながら、部屋に入る。


「あ、おかえり、どうだった?」


「かなり危険。急いでノーウェ様に動いてもらわないと、犠牲者だけが増えそう」


「そんなに酷いの?」


「ダイアウルフが対策を立てているのか、そう言う対象が残ったのか、群れが巨大化しちゃっているから手が出せないよ」


 そんな事を話ながら、ヒメの様子を確認する。フィアは、リズとリバーシで遊んでいたのか、転がってうんうん言っている。まぁ、護衛で残ってもらったので良いけど。


「便は固くなってきたよ。ご飯は1回、このくらい食べてくれたよ」


 リズが緩い握り拳くらいの大きさを示す。ふむ。食欲は出てきたかな。


『ヒメ、お腹痛い?』


『いたくない、からだらく』


 飢餓と冷えの倦怠も無くなってきたかな?


 頭を撫でると、目を細める。少しだけしっぽも振ってくれる。


『お腹、空いた?』


『おなか、すいた』


 ヒメが見上げてくる。ふむ。まだ皆の夕ご飯には時間がかかるか。


「リズ、鴨の肉を切ってもらっても良いかな? 前に鍋に入れたくらいのサイズで」


「分かった」


 リズが立って、キッチンに向かう。後ろから見ると美少女二人の料理風景だ。百合百合しい。眼福。


 鹿肉の枝の一部とモツを貰って、まな板で叩く。延々と包丁で叩く。


「お肉切れたよ」


「あ、まな板と包丁を貸して。熱湯消毒する」


 100度近いお湯で、脂含めて外で洗い流す。冷えたところでリズに渡す。


「後は葉野菜とネギをお願いして良いかな」


 そう言うとリズが頷く。ミンチ作業に戻り、納得いくまで細かく出来た。皿に移し、部屋に戻る。


 ヒメの前に差し出すと、きちんとクンクンと匂いを嗅ぐ。安心すると、ハクっと噛んで、咀嚼する。納得すると、パクパク食べ始める。この辺りの警戒はもうちょっと抜ける事はないだろう。それも良いかなとは思う。


『鹿だよ』


『しか、たべたこと、ある、まま、とった』


 ヒメから美味しい事の快の感情と寂寥感が流れ込む。タロは記憶そのものが無かった。この子は記憶が有るんだよなぁ。その分辛いかぁ……。


『おいしい、ぱぱ』


 食べ終わって、皿を舐め終わるとじっとこちらを見つめる。水を生むと、喜んで飲み始める。満足すると、少し不格好に左脚を庇いながら丸くなる。

 そっと、背中を撫でて、頭を撫でる。お互いの体温が混じり合い、何とも言えない感情が込み上げてくる。悲しいだろうとか切ないだろうとか辛いだろうとかは、きっと侮辱になる。この子はこの子なりに生きてきて、あの場所で待っていた。だから出会えたのはきっと幸いだ。だから、幸いな未来へ進めてあげるのが私の出来る事だろう。そう思いながら、そっと頭を撫で続けた。

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