第319話 きちっと良いと思う事を組み込んでくれると嬉しく思います
心地良い倦怠感に襲われながら目を覚ます。少しだけ体が筋肉痛で痛む。翌日の筋肉痛は若さの証拠だと、無理矢理起き上がる。リズは力尽きたままで眠っている。その愛おしい横顔を見ながら床に足を下す。刺すような冷たさから少しだけ優しくなったかと錯覚する程度の違い。それでも春は近付いて来ている。
窓を開けると外は晴れ。連日の晴れ模様に心が躍る。3月1日は気持ちの良い日になれば良いなと思う。吹き込んでくる風は冷たいが刺すような寒気は感じない。どこか暖かで優しい風に変わった。
タロは昨日も寝たのが早めなので、窓を開けた気配で目を覚ましている。お座り状態で、遊ぶの?と言う目をしてこちらを見上げる。先に食事をさせてしまおうとキッチンに向かうとティーシアが既に朝の準備を始めている。
「おはようございます」
「あら、おはよう。タロの食事ね。ちょっと待って」
そう言うと、ティーシアが皿に食事を盛ってくれる。
「いつもすみません」
「お互い様よ」
そんな会話をしながら、部屋に戻る。タロに待て良しであげて、リズを起こす。揺すっても囁いても起きない。耳にふぅっと息を吹きかけても、嫌そうな顔をして転がるだけだ。今日は手強い。
耳をぱくっと甘噛みして、ぺろっと舐めると、飛び上がって起きる。
「な、な、ヒロ……。もう、耳駄目って言った。昨日も言ったのに全然聞いてくれなかった。ずるい!!」
「まぁ、喜んでいたから良いかなと。起きた?」
「起きた……。はぁぁ、また手伝いかぁ。憂鬱だな」
「もうちょっと、もうちょっと。今日は森に出る可能性が高い。そのつもりで。お手伝いも程々にね」
「ん。じゃあ、手伝ってくる」
昨日に比べて、ちょっとだけましな感じで、食堂に向かう。
ふと振り向くと、タロが食事を終えている。水を生むと素直に嬉しそうに飲み始める。けぷっとした後に、こちらを見上げてくる。遊ぶの?と言う目だ。やや遊びたいが強い感じがする。
しょうがなく朝ご飯までと決めて、胡坐の中に放り込む。この時点でもう大喜びだ。少し胡坐の中を締めて逃げられないようにして、全身を指先でくすぐる。ヒャンヒャン鳴きながら身を捩るがやめない。一通り弄り終わったら息も絶え絶えになっていた。
『まま、すき』
力尽きながらも、身を擦り付けてくる。その頭を優しく撫でて、箱に戻す。もぞもぞといつもの定位置に戻り、丸くなる。
リビングに向かうと、朝の準備はほぼ整っていた。
「遅くなりました」
「まだ、用意は済んでいない。気にするな」
アストが鷹揚に答える。
ティーシアとリズが最後にスープの皿を置いてくれて食事の開始だ。
今日の段取りともしかすると、森で一泊するかもの辺りまではアストとティーシアに伝えておく。
アストを見送り、用意を済ませて、ギルド前に向かう。宿組は揃っているが、昨日の修練組が若干ボロボロなのが気になる。
「あれ? レイの修行ってきつかった」
「きつい。超きつい。死ねる。と言うか、何回か殺されている筈」
フィアが暗い顔で言うと、リナを除き皆が頷く。リナは苦笑だ。まぁ、キル数が一番多いのは間違い無くリナだろうし。
「斥候として考えた場合、化け物やと思います……。もう意味が分かりません。横で見ていても入り込む隙が有りません」
チャットがしょんぼりした顔で言う。
「まぁ、現役最高峰がそのまま引退したような人間だから、気にしても無駄。吸収できるところは吸収する程度の感覚で良いと思うよ」
そう言いながら、ロットと本日の予定を詰めて行く。やりたい事は森の調査だ。村を出て行く前にダイアウルフがどんな感じになっているのか、肌で確かめたい。下手したら、ノーウェに軍を出してもらって中長期に減らしてもらわないと完全に生態系のバランスが崩れる。
「ちょっとお金にならない調査になると思うけど、子爵様への恩返しとして納得してもらえるかな?」
そう聞くと、皆が頷く。
「ただ、明日は出来れば宿で泊まりたい。なので、今晩は付き合えるが、明日は帰る日程で調整して欲しい」
ドルが言うと、ロッサがほのかに頬を染める。あぁ、昨日の件進めたか。有言実行だなぁ。こっちもそこまで深入りする気は無い。
「まぁ、簡易宿泊所辺りまで出て、宿泊場所の確保。そこから周囲の探索。一泊して、戻る感じかな。ここまでで質問は?」
ドルも言いたい事は言ったので何も言わない。
「じゃあ、一泊分の調達をお願いするね。ロットとフィアはレイにその旨伝えてもらえるかな。じゃあ、またここで集合。よろしく」
そう言って一旦、解散する。
私は冒険者ギルドの受付で今回の日程を報告する。簡易宿泊所も2軒空いているようなので押さえてしまう。他の2軒に誰か入っているのかな?まぁ、喧嘩しないように仲良く出来れば良いが。
手続きを済ませて外に出ると、皆が色々荷物を準備して集まっていた。荷物の精査も完了しているようだ。
暫く待つと、レイが馬車を回してくれる。朝の挨拶と共に、荷物の運び込みを手伝ってくれる。
皆で馬車に乗り込み、森までの移動が始まる。さぁ、最近鈍っていたが久々の森歩きだ。筋肉痛さん、どうかちょっと優し目にお願いします。そう祈りながら、森の入り口で皆と集合する。
荷車の準備も済んだ。さぁ、出発だ。