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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第一章 異世界に来たみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第29話 男の条件

「ただいま戻りました」


「おかえりなさい。お疲れ様でした」


 ティーシアが迎えてくれる。


「何かお手伝いする事は有りますか?」


「良いわよ。ゆっくりしてらっしゃい」


 優しく返してくれる。

 今日は色々有った為、甘える事にした。


 帰る時間が遅かった為か、2人もすぐに帰ってきた。


「やはり雨の後は森が荒れるな。獲物はかかっていなかった」


 大物は無いが、丸々と太ったキジを2羽手にしていた。


「おかえりなさい。大丈夫でしたか」


 大分疲れているようなので、問うてみる。


「やはり道も悪いしな。獲物の跡も消える。難しいものだよ」


 疲れたような笑みを浮かべ答える。


「元気出してお父さん。美味しい料理作るから」 


 今日は、狩れたタイミングが遅かったのか、解体までは済んでいなかった。


「解体、手伝いましょうか?」


「いや。構わんよ。二人掛かりだ。直ぐに終わる」


 料理が出来るまで装備の点検と服の洗濯を進める。

 鉈の方もざっと洗って拭いただけなので、手元の方に血が残っている。

 研ぎが必要な程刃が毀れている訳ではないので、固く絞った布で手入れをし、乾拭きをする程度で済んだ。

 服に関しては、喉元を切り付けた際の返り血が有った為、必死で洗濯をする。

 絞り、干した辺りで、晩ご飯の準備が出来た旨をリズが伝えてくれる。


 晩ご飯は、キジとイノシシのハンバーグと内臓と葉野菜のミルクシチューとパンだった。

 やはり、若干パサつくはずのキジがイノシシの脂と合わさり、香りが立ち美味しかった。

 内臓に関しては臭みが有るのかなと思ったが葉野菜の甘さと香草の香りで臭みを感じず、食べられた。


「7等級の仕事か。ギルドのフォローが有るとは言え、若干心配だな」


 アストが眉根に皺を寄せ、呟く。


「7等級3人も付きますし、スライム自体がそこまで能動的では無いので、心配無いですよ」


「そうか」


 少し考え事がしたかったので、皿を片付け、部屋に戻る。


 ベッドに倒れ込み、今までの事を考える。


 まぁ、管理者の思惑は不明だが、この世界に飛ばされた。

 今まで、真剣に生きて来ず、学生時代からゲーム三昧。結果がこのメタボ腹だ。

 社畜、社畜なんて愚痴りながら、リーダーと言っても部下は派遣含めて8人。仕事も進捗管理と愚痴聞き。

 どうしようもない場合は、ワンマンアーミーだ。辞めたくても、この不況だ。再就職の恐怖を考えたらそんな勇気は無い。

 女房だって結局自分自身がへたれていたから、愛想を尽かされただけだ。

 この世界に来てからも、正直爺ちゃんが教えてくれた知識と偶然の産物だ。何か歯車が一つずれていただけで死んでた。

 神様に会ったと言っても死なない体を貰った訳でも無い。ただ、この世界で生きて良いとお墨付きを貰ってご挨拶しただけだ。

 貰った力も全力で1発撃ったら、ぶっ倒れるようなものだ。それすらある程度の鉄板すら撃ち抜けないだろう。


 目の前が徐々に暗くなっていく。


 怖い。

 知識チート?現状が把握も出来ないのに何が起こるか分からない。責任も取れない。手押しポンプだって、正直使い方によっては戦略物資だ。

 知識は人を殺すんだぞ?人間の理性に賭けて、一度試してみようと思っただけだ。賭け金は俺の命だ。


 怖い。

 鉈一本で、二足生物を3『人』も殺した。ゲームじゃねぇんだ。『勇猛』なんてアドレナリンの分泌と変わらない。恐怖が麻痺しているだけだ。

 効果が切れれば、こんなもんだ。誰にも言ってないが、何時までも手が血で塗れた感じが抜けない。幾ら手を洗っても洗っても洗ってもだ。


 怖い。

 管理者に貰った力、チートみたいだなって思っても、どこまでも『みたい』だ。説明書も無い、限界も分からない、本当に味方かも分からない。


 怖い。

 三流大学を出て、それからはIT土方一本だ。それ以外は爺ちゃんの教えてくれた知識に情けなく縋っているだけだ。

 この世界がどうなっていて、これからどうなるのか。分かるような頭なんて無い。

 

 怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。

 怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。


 恐怖で叫びそうだ。今すぐに日常に帰りたい。

 あのぬるい、愚痴言いながら仕事して、ゲームして、酒飲んで、親や友達がいる日常に。


 でも。


 でもだ。


 不意に目の前が明るくなる。


 好き、じゃない。好きどころじゃない。


 明るいアッシュゴールドの髪。


 あぁ、愛してる。


 瑞々しく潤んだ碧眼。


 くそが!

 死にそうになりながらでも助けた女だぞ?

 あぁ。愛しているさ。死にそうになっても飄々と生きている振りをしてた。

 でも、これだけは、これに関してだけは嘘をつけない。

 心の底から愛した。


「だから、ここで、今を、生きる」


 ふと、目の前にリズの顔が見える。


「あれ?リズどうした?」


「ノックしたけど返事が無かったから。心配したのよ?」


 そっと腕を首に回し、額を付けて来る。


「あのね?」


「何?」


「男の人の顔してた」


 頬を染めながら、呟いてくる。


 あぁ、心の底から笑えてくる。


「あははははははは」


「あー。何がおかしいのよ。何か納得いかない」


 そうだ、そうか。

 メタボだろうが、知識が無かろうが、体力が無かろうが、ただのサラリーマンだろうが。



 俺、『男』だったんだな。




 <スキル『獲得』より告。スキル『獲得』の条件が履行されました。『勇猛』1.00。該当スキルを統合しました。>


 『獲得』先生から声が聞こえてくる。無粋だな。


 こんな時は一言で良い。


「リズ、愛してる。もう手放さない。永遠に」

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