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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第316話 住処が変わるとやはり不安です

 家に戻り、帰宅の挨拶をして、部屋に戻るとタロが拗ねていた。拗ねていると言うか、新しい空間に慣れていないのに誰もいないのが寂しい感じだろうか。


『まま、いないの』


 キューンに近い鳴き声を上げる。悪い事をしたなと思い、キッチンのリズに聞いてみるが、お昼をあげた時には普通にしていたらしい。少しずつ寂しさゲージが上がったか?


 部屋に戻り、首輪を取り出すとバっと立ち上がり、ハフハフしだす。


『さんぽ!!ままといくの!!』


 くるくると大きくなった箱の中を回るタロに首輪を着けて、キッチンに散歩に出る旨を告げて、玄関を出る。まだ夕日は残っている。少し短いが散歩にはなるかなと思う。うーん、カビアと話し込み過ぎた。

 もう慣れた道なので、さくさくと前に進む。少しだけ芽を出した植物を見つけては確認にクンクンして、てくてく進む。外周を歩いていたと思えば、村の市場の方に歩き出す。夕飯の匂いに惹かれたのか少しだけ速度が上がる。

 いつも通り、肉屋の前に来ると、しゅたっとスタイリッシュにお座りをする。


『まま、まつの』


 人影に気付いたのか、店主のおじさんが出てくる。


「おぉ、タロちゃんか。久々だね。最近来ないからちょっと心配してたんだよ。町に行ってたんだって?」


 おじさんがイノシシの肉をいつもより心持ち厚めに切り、タロに投げ渡す。器用にキャッチし噛んだ瞬間、ちょっと驚いた顔をする。


『おおいの!!いいこなの?まってたの、いいこなの?』


 留守番のご褒美と思っているらしい。食べ終わったのを見て、頭を撫でると気持ち良さそうに目を細めて擦りつけてくる。寂しかったか。そう思いながら両手で顔をふにゅふにゅする。


 その後は機嫌が良くなったので、ゆっくりと散歩をする。太陽は沈み、残光が深い藍色に染まりながら、徐々に黒に変わり始める。風も緩やかに温度を失っていく。


『家に帰る?』


『まま!!かえるの!!』


 一緒に散歩が出来て、ご褒美も貰えて満足したのか、家に向かって素直に歩き始める。ランタンが必要になる程の暗闇になる前に家に着く。扉を引くと開く。と言う事はアストが帰って待っているのか。

 帰宅の挨拶を叫び、リビングを覗くとアストが座っていた。改めて帰宅の挨拶をして部屋に戻る。


 箱に入れるとまだちょっと慣れないのか、箱の中をうろつく。皿に水を生み置くと落ち着いて飲み始める。そろそろ夕ご飯かと立ち上がると、タロが見上げてくる。


『まま、いくの?』


 また寂しい思いがぶり返したのか、タロがキューンに近い鳴き声を上げる。まだまだ子供だ。環境が変われば不安にもなるか。そっと抱き上げて胡坐の真ん中にぽすっとはめる。

 体中を指先でくすぐる。あふあふ言いながら、体を捩り、逃げようとするが、胡坐にはまって逃げられない。思う存分暴れるままに撫でまわす。ハァハァと荒い息を吐く辺りで、肉球を押していく。散歩したので疲れたのか、ちょっとだけ硬い。揉み解すのをイメージしながら押す。


『まま、きもちいいの』


 はっはっと荒い息が落ち着いていき、体を擦り付けてくる。十分に擦り付けて堪能したのか、箱をかりかりしだす。戻すと毛皮の中に潜り込み丸まる。もう大丈夫かな?くわっと欠伸をする姿を見送り、リビングに向かう。テーブルには食事が並んでおり、待ってくれていたようだ。


「すみません、遅くなりました」


「タロの相手だろ? 家族だ、構わん」


 アストが言いながら、食事の挨拶をする。皆で食べ始める。


「リズ、手伝いの方はどう? 順調?」


「聞かないで……。大変、倒れそう」


「何言っているのよ。そろそろ向こうに移るんでしょ? まだまだ教える事、有るわよ?」


 リズが突っ伏しながらぼそっと答えるのに、畳みかけるようにティーシアのお言葉が伸し掛かる。


「うぐぅ……。辛い……。覚えきれない……。多い……。眠い……」


 最後は欲望っぽいが。私と結婚するのが原因なので、そこは申し訳無い。


「あの、『リザティア』に移ってからも時間が有る訳ですし、そちらで教えると言うのは如何(いかが)でしょうか?」


「アキヒロさん。向こうに行ったら、侍女もいるでしょう? その子達に、この子の無様を晒すのは家の恥よ。何も憎くて言っているんじゃないの。この子が侍女達に舐められないようにと言っているの」


 正論を言われて何も言えない。そっと視線を向けると、リズが口パクで頑張れーとかもう少しーとか言ってそうだが、無理だ。


「ボロが出ない程度に程々にと言うのは無理でしょうか? そこから改めて教えていくとか……」


「アキヒロさん。ボロが出ない程度の付け焼刃なんて見抜けるの。本当に覚えないと意味が無いの。この世界舐められたら終わりなの。侍女も制御出来ない奥なんて意味が無いの。だから、体の芯まで叩き込むの。分かって頂戴」


 ティーシアが言い切る。私はもう何も言えない。大人しくシチューを頬張る。横でリズが口パクでへたれーとか甲斐性無しーとか言ってそうだが、無理な物は無理だ。正論には勝てん。食事を進めているとリズが諦めたのか、ぱたりと倒れる。


「リズ。行儀が悪いわよ?」


「はい。お母さん」


 しゃきーんと背筋を伸ばし、上品に食事を食べ始める。ただ、顔は非常に固まっており、無表情で、疲労困憊で、痛々しい。何と言うか、美味しそうじゃない。不憫だ……。申し訳無い……。


 食事を終え、樽にお湯を生み入浴が始まる。


 部屋に戻ると、垂れたあいつのようにベッドにぐでぇとなっているリズがいる。タロのご飯はあげてくれたみたいだ。


「大丈夫?」


「弱い、ヒロ、弱い」


「いや、頑張ったよ? ティーシアさん、正論だし、何も言えないよ、あれ」


「もうちょっと援護欲しいよ……。きつい……。機織りの知識とかいらない、絶対に使わない……」


 あー、そこまで教えちゃうかぁ……。それはきつい。手に職を付けた状態まで持って行きたいのか。ティーシア、それベリーハードだ。家事辺りまでで収めてあげて欲しい。流石にキャパシティーをオーバーする、それは。


「機織りは、ちょっと使わないかな……」


「ヒロも思うよね? 思うよね?」


 リズががっつりと噛みついてくる。


「もう、石鹸の作り方から、イノシシの処理の仕方から、機織りから、私が全部やる訳じゃ無いのに……。辛い……」


「でも、指示するにせよ、ある程度やり方を覚える必要は有る……かな……なんて……」


 言いながら、リズの目が座ってくるのを見て、声が出なくなる。


「お母さんの……味方?」


 やばい、このセリフはやばい……。踏んだ。間違い無くカチって音が頭の中で鳴った。面倒だ。死ぬ程面倒な地雷踏んだ。


「いや、リズの味方だよ……」


「どうして棒読みなの?」


「そんなことないよ。心底リズの味方だよ」


「でも、お母さんの味方でも有るんでしょ?」


 がー、面倒臭い……。こうなると女の子は難しい。どう攻略して良いか糸口も分からない。しょうがないこう言う時は話題を変えるか……。


「そう言えば、聞きたい事が有った」


「何?」


 いやぁぁぁ。機嫌が斜めよー。


「ティアナなんだけど、結論から言うけど、カビアに気が有る?」


「んー。分からないかな。好きか嫌いかで言えば好きかも。でもどうして?」


 と言う訳で、本日の手紙と内容を説明する。この時点でお湯の追加の依頼が有ったので、追加して戻ってくる。


「何だろう。普通、そんなに遅くならないの分かっているから手紙なんて出さないよ。その為にレイさんが走った訳だし」


「だよねぇ。と言う訳で、カビアも困惑している状況」


「ヒロが……聞くのは無理だよね?」


「答えない、否定する、罵倒する、どれだと思う?」


「どれも有りそうだよね……。明日ちょっと聞いてみようか?」


 リズが思案顔から絞り出すように言う。


「助かる」


「でも、はっきりと分かるかは分からないよ? 他の子だったらまだ分かるけど、ティアナは分からない。隠すと言うより、自分で自分の気持ちに気付いていない気もする」


 あー、やっぱりそう言う印象か。同意見だ。だから厄介だ。このままだと、感情に振り回される。


「そう言う意見になるかぁ。私も同感。あの子、ちょっと危ないかも」


「ふぅぅ……。ちょっと荒療治だけど、きちっと自分の感情に向き合ってもらわないといけないかな……。でも、難しいよ? 人に言われてどうこうなる物じゃないし」


「だよねぇ。出来る限りで良いから、お願いして良いかな?」


「少しずつ、認識させて、引き出して、納得させるしかないかな。忙しいタイミングで、忙しいね」


「同感だよ」


 そう言いながら、二人で溜息を吐く。丁度ティーシアがお風呂から出たらしい。


「タロの面倒は私が見るよ」


 今日の寂しそうなのを見ていたら最後まで面倒を見た方が良い気がする。


「分かったよ。先に入れて寝かしちゃう?」


「じゃあ、一緒に行くよ」


 広くなった箱の中をいっぱいに使って咥え紐で遊んでいたタロを抱き上げる。


「ほら、タロ。お風呂だよ」


『ぬくいの!?ぬくいの!!』


 キャンキャンと短く吠え、しっぽを激しく振る。夏場は暑そうだが、ぬるい風呂にしたら納得するのかな?でも汚れが落ちないしな……。


 そんな事を思いながら、いつも通りタライ風呂で揉み洗う。


『まま、すき……』


 『馴致』から安心したような感情が伝わり、そして眠る。


「ん。寝たっぽいかな。布欲しい」


 リズにお願いすると、大きめの布を渡してくれる。くてぇと垂れたタロを拭い、ブローで乾かす。リズが脇を突くとぴくっぴくっとタロが反応する。


「やっぱり柔らかい。ふふ。可愛い」


 タロが起きない内に樽にお湯を張る。


「じゃあ、戻しておくね」


「ありがとう」


 タロを抱えて、部屋に戻る。箱の中の毛皮を掻き分けてタロを寝かす。もぞもぞと丁度良い位置を自分で調整する。動きが収まったところで毛皮を被せる。


 タロの寝息を聞きながら、書類を読み進める。今日カビアから貰った人員分の確認が有る。特に温泉宿のオープニングスタッフは、その後各所の指揮官として配属される。テディの考え方に納得して働いてもらわないといけない。今の宿屋の人員も全員でなくても連れて行くだろう。その辺りを相談しつつ考えないと駄目だな。


 そんな事を考えていると、リズがそっと部屋に入ってくる。


「ヒロ、お風呂どうぞ。お先、ありがとう」


「どういたしまして。じゃあ、入ってくる」


 さっと頭と体を洗い樽に浸かる。ぼへーと今日の出来事が浮かんでくる。


 取り敢えず、ダイアウルフのオークション代はちょっと面倒だけど明日きちっと話はしよう。

 木工屋とネスとは話が出来たし、部材も回収出来たので、それはOKと。

 ロスティーもノーウェもベティアスタも旅だった。無事を祈る事しか出来ない。

 テディの件は僥倖だった。本当に助かる。サービスの概念は有るが、結局魂の無いサービスなんて何の意味も無い。

 後は、ティアナの件か……。これは、リズに任せよう……。


 そんな事を考えていると、本気で茹って若干くらくらし始めた。やばい、湯あたりっぽい。


 さっさと上がって、後片付けをする。久々なので、リズとゆっくりとしたいなと思いながら部屋に戻ると、布団に潜りこんでぐっすり眠ったリズがいる。

 疲れ切った姿を見ていると起こすのも忍びない。まぁ今晩は良いかと思いながら、蝋燭の火を消す。明日はもう少し手加減して欲しいなと何かに祈りながら、瞼が落ちるに任せ眠りについた。

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