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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第313話 一つ事が成るかと思えば、次が出そうです

 家に着き、ついでに買ってきた大きい箱にスノコに敷布を巻いたのを敷く。そろそろ体も大きくなってきたし、出すものも増えてきた。このままだと箱の底が腐りそうなので、スノコ層を作ろうかなと。

 元々箱にしたのは、扉の後とかで遊んでいてドアアタック→全面戦争を避ける為だったが、まぁ、もう少し大きくなるまでは箱でも良いかなと。もう一匹増えても大丈夫なように大きいのを買ってきた。

 そろそろ犬小屋にして、トイレを別に用意しても良いかなとも思うが、もうちょっと先かな。まだ寒いので箱の方が(ぬく)そうだ。


 後ろではタロが興味深げに作業を覗き込んでいる。


『まま、す、ちがうの?』


『大きいのに変えるよ』


 箱を巣と認識しているか……。確か狼は巣穴を作って子作り、子育てをした筈だ。その記憶が少しでも残っているのかな?

 残っていた毛皮も入れて、完成とする。もうちょっと毛皮の残りを貰ってきても良いかな。ちょっと薄い。


 タロを抱き上げて、中に入れると、クンクンと箱を嗅ぎだし、体を擦り付ける。


 その間に、鎧かけを設営してしまう。何と言うか、細い木人型ハンガーなのだろうか。後で、リナの所にも持って行こう。


 振り向くと落ち着いたのか、毛皮の中にごそごそと潜り込んだタロがむふーと言う顔で伏せている。

 環境が変わるとストレスになるかと思ったが、実際自然だと何か起きれば巣が変わるなんて良く有る話だし、気にし過ぎたか。頭を撫でて、キッチンに向かう。


「リズ、鎧かけ新しいの買ったから、そっちを使って欲しい。後、お昼は外で食べるからいらないかな」


「分かった。後で見ておくよ。いってらっしゃい」


 リズがパタパタとティーシアの指示でお昼の支度をしながら、掃除の特訓をしている。ティーシアが怖い……。


 巻き込まれないように、さっさと家を出る。天気の良い中をてくてくとノーウェの屋敷に向かう。そろそろ出る準備も出来た頃だろう。


 屋敷では、兵の指揮官含めて、最後の打ち合わせが行われているようだ。ノーウェがこちらを見つけて手を振ってくる。


「おはようございます、ノーウェ様。そろそろ出発ですか?」


「打ち合わせが終わったら出発だよ。流石にこの人数だからもうちょっとかかるかな。君は?」


「お見送りと思いまして。邪魔になるようで有れば出直しますが」


「いや。父上の方が大変なだけだから。こっちも父上が出れば出発するよ。あぁ、お嬢が探していたよ。石鹸の買い方が分からないって。湯たんぽは朝から手に入れたみたいだけど」


 あぁ、石鹸は家か。打ち合わせの時間次第かな。


「噂をすればか。おーい、お嬢。まぁ、打ち合わせももう少しはかかるよ。先に誘導してあげて欲しいかな。ずっと気にしているから」


 ベティアスタがこちらに気付いたのか、大急ぎで近付いてくる。


「アキヒロ殿。石鹸は、石鹸はどこで売っておるんだ? 雑貨屋かと思えば無いと。聞けば、猟師の家で販売しておると言う。どこか教えてくれんか?」


 ずいっと顔を近付けられて、腰を残して、引く。


「今、お世話になっております家で売っています。そちらをご案内致します」


「そうか、やっと手に入るか! このままでは間に合わんとやきもきしておった。助かる」


 ずいっと掴まれて、そのまま屋敷から引っ張って行かれる。


「で、どちらだ?」


 しょうがないので、手を放してもらい、家まで誘導する。


「あれ? 出たんじゃなかったの? あ、ベティアスタさん。おはようございます」


 扉を叩くとリズが顔を出す。


「うむ。話によるとリズさんの家で石鹸を扱っていると聞いてな。道を教えてもらった。売ってもらえるかな?」


 ベティアスタずずいと前に出る。


「どの程度必要ですか?」


「トルカに再度来るまでの分と言いたいが……。『リザティア』でも売り出すのだろう?」


 ベティアスタがこちらを向いて聞いてくるので、頷く。


「嫁に出てしまえば、自領に戻る機会より『リザティア』に向かう機会の方が増えるだろう。人一人がふた月消費する程度を貰えればよい」


「洗い方や頻度にもよりますけど……。毎日入っているうちで大体6個か7個程度でしょうか?お母さんに在庫を聞いてきます。あ、今回持って行った香り付きの物は数が無いので、香り無しになりますが良いですか?」


「洗う時に香りに包まれるのも心地良かったが、それは無しか……。残念だが、体を清めるのが目的だからな。それに香りは従来通り香油を塗れば良い。気にしなくてよい」


「分かりました。用意します」


 お母さーんと声をかけながら、リズが家の中に戻る。


「普通の家だな……。いや、それが悪いと言う話では無く、こんな所で石鹸が作られているのかと驚いた。何か、職人が作っている印象を持っていたが……。」


 ベティアスタが感慨深げに呟く。


「材料や作り方自体はそこまで難しい物では無いです。問題は配合比率でしょうか。慣れれば普通の家庭でも作れますよ」


「特許は取ったのだろう? 独占販売権の話は聞いた。出来合いの物が手に入ればそれで良いよ。効果が同じなら、それで良い」


 そんな事を言っていると、リズが納屋の在庫を持ってくる。紙に包んだ大きい方を7個を手にしている。


「ふむ。イノシシを焼いた後のような香りか。そこまできついと言う程の物でも無いな。良いな。助かった」


 対価を支払い、ホクホク顔のベティアスタが巾着に石鹸を仕舞う。


「あ、水場に置いていると溶けます。使った後は、なるべく乾燥した場所に保管して下さい」


「そうか。助かる。今日は休みと聞いた。すまんな。助かった」


 ベティアスタが目礼し、こちらに向く。


「じゃあ、お屋敷まで送ってくるね。夕方には戻るよ」


「いってらっしゃい。気を付けてね」


 リズが後ろで手を振っているのを感じながら、ノーウェの屋敷に戻る。


「しかし、村の民も皆、石鹸を使っているのか?」


 ベティアスタが聞いてくる。


「そうですね。売り上げは良いです」


「そうか……。いや、何と言うか女性が皆綺麗でな。何と言うか心が浮き立つ。私も頑張らねばと奮い立たせてくれる。こう言う環境は良いな」


 ベティアスタが微笑みながら言ってくる。

 女性視点だとそう言うものなのかなと思いながら、屋敷に到着する。


「その顔だと無事買えたのかな? 良かったね。そろそろ荷物の積み込みをお願い出来るかな。父上の方もそろそろ出るよ」


 ノーウェが中庭でベティアスタを待っていた。


「打ち合わせは終わりましたか」


「うん。ちょっと言いにくいけど、保守派が妙な動きをしているって鳩が先程着いた。詳細はこれから確認かな。父上も言っていたけど、侯爵は国王陛下の本当の姿を知っていたのに動いた。と言う事は、何かまだ別の問題が隠れている可能性も有る。君は隠しているから大丈夫だと思うけど」


 ノーウェが少し暗い顔で言う。


「妙、ですか?」


「結果的に組閣でも開明派寄りになっている。利害には聡いからね。父上も根回しはしているけど、やはりどこかで軋轢は生まれるよ。国王陛下もその辺りは分かっているから、走り回って下さっている。見たい物しか見ないって言われたけど、それを実感しているところかな」


 ノーウェが小さく溜息を吐く。弱っているノーウェなんて中々見ない。余程面倒な事になっているのか?


「あぁ、気にしなくて良いよ。上の方の話だから。下に波及するには時間がかかるよ。それに王都の方も父上が留守を任せているんだ。そう大きな動きは出来ない。父上がこの交渉を終わらせて戻ったら沈静すると思うし。兄を弑した人間が何かを企むって思っている時点で考えが卑しいよね。品が無いと言うか。あぁ、嫌だ、嫌だ」


 ノーウェが肩を竦めながら、ロスティーの元に向かう。それに着いて行く。


「おぉ、我が孫よ。見送りに来てくれたか。大儀だな。嬉しく思う」


 ロスティーがにこやかに迎えてくれる。


「ご用意はよろしいですか? 湯たんぽの湯も補充致しますが」


「案ずるな。その辺りはもう用意は済んでおる。この冬場の移動が楽になるだけでもありがたい。ふふ。苦労性よのう」


「習い性です。僭越ですが、無事の締結をお祈り致します」


「うむ。儂も無理はするつもりは無い。締結と将来の抑止、この2点のみに集中する。まぁ、うつけは演じねばならぬがな。それも楽しき事よ。兄上を思えば、この世で演ずる事が出来る。それがどれ程に儚く大切か」


 ロスティーが瞑目し、何かに思いを馳せる。


「湿ったな。お前の仕事はここで一旦は終了だ。『リザティア』の運営は任せた。兄上が望んだ夢の欠片だ。是非にも成せ。それが供養ぞ」


「畏まりました。砕身致します」


「気負うな。お前はまだ若い。為政者としては幼いと言える。ノーウェに頼れ。お前は頼らんのが欠点だ。それは美徳にはならん。結果を出す為には使い倒せ。許す」


「……お爺様」


「ふふ。何度聞いても愉快だ。儂に孫か。次は帰りに『リザティア』による際か? では出る。お前が上げた策が成るのを待て。お前はもう十分抱えた。担った。故にここからは儂の道よ。息災に待て」


 ロスティーが何かを振り切るように、豪奢なマントを翻し、馬車に向かう。ノーウェに後を託すその姿には国一つを担う、大宰相としての風格が滲み出ていた。


 軍の指揮官達が走り、村の外の騎兵達も畑を避けて村を大回りに移動を始める。 


 ロスティーの箱馬車が屋敷を回り、村の真ん中を抜ける。村の出口から若干離れた所で有機的な動きで編隊され騎兵が前と後に付く。


 どうか、無事のお帰りを。それだけを祈り、昼の光に照らされた精兵達の行進を見つめ続けた。

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