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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第312話 団扇は消耗品扱いです

 窓を開けると、まだ朝日も上がってはいない。闇の中だ。ただ東の方の空はやや黒から群青に移行している。空は雲一つ無い。

 2月27日は晴れかな?この時期、雨が少ないって言っていたし。暖炉も無い部屋だ。床は冷え切っている。そこは領主館の客間が恋しい。


 窓を開けた音で目が覚めたのかタロと目が合う。


『まま、遊ぶの?』


 くてんと首を傾げながら、キャンと鳴く。昨日早めに寝たから、元気いっぱいだな。

 水をあげて、咥え紐を渡すと、片方を振り回して、こちらに渡してくる。引っ張って欲しいらしい。引っ張ると、首を振りながらうーうー唸りながら、引っ張り返してくる。

 箱の中なので、ずりずりと箱がこちらに引き寄せられてきて、タロが愕然とした顔をする。何と言うか、こうびっくりした犬の顔ってちょっと面白い。笑う。

 そのまま咥え紐を渡すと、自分で押さえて引っ張ったりしている。後脚でけしけしするのは変わらないんだなと和む。


 騒ぎに気付いたのか、リズが目を覚ます。昨日は早かったから、すっきりお目覚めだ。


「うわぁ……。寒い……。おはよう、ヒロ。やっぱり領主様の館だと暖かかったけど。家は寒いね」


「おはよう。風邪とかは大丈夫?」


「うん。良く寝たし。快調。うわぁ、朝の手伝いかぁ。憂鬱……」


 リズの顔が絶望に染まる。そっと頭を抱きしめる。


「頑張ってくれるのは嬉しいけど、無理はしないようにね。体を壊したら元も子もないから。元気なリズが好きだよ」


 そう言うと、リズが腰に手を回してくる。


「うん。頑張る」


 そのまま手を取ってベッドから起こし、さっさと用意を済ませて、キッチンに一緒に向かう。


「あら、おはよう。早かったわね。偉いわ。じゃあ、そっちのお鍋の続きをお願い。アキヒロさんは、これよね」


 そう言うと、イノシシ肉の皿を渡してくる。モツの件を相談すると、昨日処理した洗ったモツが残っているとの事なので、それをもらう。ちょっと時間は立っているが、血合いを取り除いて洗ったものだ。気温を考えてもそこまで菌が繁殖して腐敗しているとは考えにくい。

 ティーシアが納屋から戻り、一部の腸をざく切りにして皿に盛ってくれる。


「すみません、商材を頂いて」


「良いわよ。家族の食べる物なんだから。さぁ、あげてきて」


 ティーシアに背中を押されて、部屋に戻る。

 部屋の中では、箱の中で遊ぶタロがばったんばったんしている。ふとイノシシの香りに気付き、はっはっと荒い呼吸としっぽを振り始める。


 箱から出してあげて、皿に移す。待て良しで食べさせる。


『ふぉぉ、こりこり?こりこり!!』


 内容物が栄養素にもなるので、領主館では新鮮な腸を中身も入ったままあげていた。そう言う意味ではちょっと味が違うかもしれない。でも、変わらず美味しそうに食べている。

 狼なんて、中々食べ物が手に入るか分からない生き物だ。そう言う意味では何でも食べられたらラッキーな感じなんだろうか。


 食べ終わり、ペロペロと皿まで舐めると水を生み、飲ませる。


『まま、ねんね?』


 かりかりと箱を引っ掻く。食休みをさせるがよいと言う感じの威風堂々さが可愛い。平常運転で欲望に忠実だ。敷布を変えて箱に戻してあげると、丸くなってドヤ顔で微睡む。


 私は敷布と領主館からの戻り分の洗濯を済ませてしまう。風に心地良い暖かさを感じる。少しだけ寒風からは抜けて来ている。春もそこまで近付いているんだなと感じた。


 リビングでは、ほぼ食卓の準備も終え、アストも席に着いている。私も座ると、リズがへろへろしながらスープ皿を持ってきた。


「大丈夫?」


「お母さん……厳しい……」


 ぼそりと言って、またキッチンに戻る。昨日の今日か……。仕方ないさ……。


 全てが揃い、食事が始まる。領主館の料理も美味しかったが、やはり家庭の味の方が安心する。にこにこと食べていると、リズが不思議そうな顔でこちらを見る。


「何か良い事が有ったの?」


「リズの手料理が食べられるって幸せだなって」


 そう言うと、顔を赤くして俯き、いつだって作るわよとぼそぼそと言っているのが可愛い。


「そろそろイノシシも妊娠の時期に入る。雄はなるべく狙っていなかったが、これから太り始めるのを待つ状況だな。雌は太っているが、腹の子が育てば痩せる。もう少ししたら鹿に移行するかも知れん」


 アストが呟く。リズとティーシアは普通に聞いているので、日常の情報なのか。イノシシの発情期が12月から2月辺りの筈だ。と言う事は、今は丁度受胎して育っている頃か。イノシシの雄はこの期間飲まず食わずで雌を探し続ける。やせ細って美味しく無い。徐々に戻っている時期かな。


 後片付けを終えアストを見送ると、リズはティーシアに引っ張られていった。主寝室の方なので、機織りとかそう言う話の教示かな。


 私は取り敢えず、ギルドに人員の移動の報告をしに行かないといけない。放っておくと怒られる。と言うか、ペナルティが来る。


 とぼとぼとギルドに向かい、職員に移動の旨を伝える。ハーティスが丁度下で事務仕事をしていたのか、目が合う。にこやかに近付いてくるので、逃げようかと思ったが、悪い話では無さそうだ。


「お待たせ致しました。前のオークションの件、やっと処理が完了しました。御引き渡し出来ます」


 んー?あぁ、ダイアウルフの件か。どうも国からの融資も入りやっと一息ついて、今まで滞っていた支払いにも動けるようになったらしい。と言うか、下手したら暴動物だったので無事に処理されて良かった。


「また、お仲間とお越しの際にでも処理下さい」


 それだけ言うと、ハーティスが去っていく。ふむ。ロッサとリナには悪いけど入る前の話だし。ちょっと憂鬱だけど、きちっと話をするか。


 次は木工屋か。鎧かけと団扇と牛鍬の件を聞きにいかないといけない。


「あ、いらっしゃいませ。お待ちしていました」


 そう言うと、調整済みの鎧かけを見せてくる。サイズ的にはリズとリナのサイズに有っている。これはこれでOKか。


「こちらが団扇ですか。かなり繊細ですが、このような形で大丈夫でしょうか?」


 骨に薄布を張っている。何度か扇いだが、しなるし折れない。まずは大丈夫そうかな?


「この団扇はどの程度量産可能ですか?」


「布次第ですね。骨はそこそこ数は作れますが、布張りで時間を食われます。乾燥も有りますので」


 ある程度、数は揃えてもらうか……。向こうで信用出来る職人を捕まえるまではここである程度数を揃えてもらうしかないか。


「少し期間はかかっても結構ですので、数を揃える事は可能ですか?」


「どの程度ですか?」


「300程でしょうか」


「また多いですね……。分かりました。即答は出来ないです。ちょっと調整させて下さい」


 で、最後に牛鍬を見せてもらった。ドルが鍬部分は作っているので、特に問題は無さそうだ。後は実際に牛に曳かせてテストか。うーん、村長を知らないし、カビアから調整してもらうか。


「はい。どうもありがとうございました。助かりました」


 そう答えて、今回の戦利品をまとめて、家に運ぶ。次は久々のネスだ。元気なら良いけど。まぁ、楽しみだ。ウキウキしながら家路を進む。

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