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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第307話 旧型品を流して儲けて、国内を新型品に置き換える流れです

「しかし、父上。助かりましたが、横から言うのはやや無粋です。結果の後でお教え下さい」


「ははは。すまぬな。あまりにも奇妙な手だったのでな。どうしても納得がいかんかったのだ」


 ロスティーがにこやかに笑う。まぁ、マナー違反と言われればそうだが、目くじらを立てる程でも無い。慣れてもらうには必要な行為だ。


「しかし、手を読まれましたのは冷や冷やしました。よく展開がお見えになりましたね?」


「序盤の動きは何らかの定跡のようなものが有るのだろう。通常の軍では良く分からぬ動きだからな。ただ、ある程度要素が減れば、何を狙い合っているかは見えてきた。ノーウェが餌に食いついたのは見えた。あぁ、これは本命にやられる指揮官の典型だなとは思うた」


 涼しい顔でロスティーが言うが、舌を巻く。この爺ちゃん。生粋の為政者、軍権の長だ。よく見ているよ。幾ら軍議で駒を動かしながら、虚々実々をやり合ってると言っても、これは別のゲームだ。怖いわ。


 そんな事を言っている間に、馬車は緩やかに休憩地に入り、止まる。


 執事が先に降り、ロスティーやノーウェの手を取り、地面に誘導する。私はそのまま飛び降りる。


 ノーウェの家臣団がお茶の準備をしていたので、お湯を生んで渡す。そのまま馬用のぬるま湯を生み続ける。今回は数が多い。積載の樽に満水にしていき、一気に行き渡らせる。各御者はそれぞれの馬の面倒に付きっ切りになる。レイを始め、どの御者もマッサージ地獄で機嫌を取っている。


「しかし、お前も忙しいな。魔術師、それも水魔術が使える人間はどこに行っても重宝されるが……。お前のは凄まじいな。中々その歳では修行をしていても過剰帰還が来そうだが」


「水はもう慣れました。日々風呂で湯を生んでいれば、嫌でも慣れます」


 草原に敷かれた大きな布に皆と車座になっているロスティーから声がかかる。


「はは。それも修行か。良いな。人を幸せにする魔術か。領地に戻れば少し人を探すか。そのような思いで働きたき者もおるだろう」


 ロスティーがにこやかにカップを傾け、茶で口を湿らせる。


「ふむ……? この茶も何か違うな……。どこか柔らかい。空気の所為などでは無いな……。尖った感じがせん。いつも飲んでおるが故か? 何だ、これは」


「水にも硬い、柔らかいが有ります。地下の長い経路を水が通って汲み出されます。その際に、色々な物が溶け込みます。それが硬さの原因になります。些細な差ですが、良くお分かりに」


「博識よのう。そう言う意味か……。理には適っておる。ふむ。地下の物が溶けだしてこのような影響を与えると言うのか。面白い。勉強になった」


「水を生む際の意識の違いでしょう。まぁ、些細な差です。お気になさらず」


 ロスティーの元を辞去し、リズの元に向かう。


「そっちは大丈夫? 問題は無い?」


「うん。皆でリバーシで遊んでいるよ。ベティアスタさんも大分慣れてきた」


「これは面白いな。遊べば遊ぶ程、新しい発見が有る。このような物が開発されておったとは……。留学など行く物では無いな」


 ベティアスタが滅茶苦茶を言っている。この人少しずつ本性が露呈してきた。いや、仕事は真面目に優秀なんだろうけど、私生活はちょっと微妙な人だ。いや、仕事を十分こなしているんで良いんだろうけど……。何と無く納得しにくい。


「リナも平気?」


「某も横からみておるので、お気になさらず。楽しんでおります」


「カビアは?」


「頂いた承認書類の再確認です。やる事は有りますので、ご心配無くお願い致します」


 目礼が返ってくる。ふむ。大丈夫そうかな。


 タロはリズがリードをつけて、お茶の後はお散歩らしい。周囲に興味津々でクンクンと嗅ぎまわっている。


 後は馬達の為に、水を生み出し続ける。私の馬車の馬は誰が水をくれるのか分かっているので、わらわら寄って来て、すりすりと言うか体当たりをしてくる。親愛の証だと思うが跳ね飛ばされる。


 休憩も終わり、再度馬車が進み始める。次はお昼ご飯か。


「さて、遊びもこの程度にして、若干今後の方針に関して話をしようか」


 ノーウェがクッションの上に座ってにこやかに微笑む。


「東の国の件ですか?」


「うむ。話を聞く限り、やり過ぎてしまいそうでな。どの辺りが落とし所かは決めておかねば、外務、政務も困るのだ」


 まぁ、経済的属国と言うのはやりすぎだろう。ただ、そう言う状況に持って行けるんだと言うのは抑止として重要だ。


「どの程度を落とし所として現状、見ていらっしゃいますか? 私の意見は補足の方が良いと考えます」


 そう言うとロスティーが瞑目し、思案する。


「そうだな。条約の締結、これは確定事項だ。東の国に流入させる産物はノーウェが地理的に仲介出来る。そこで調整だろうな。流入量が増えれば向こうが悲鳴を上げるのも早まる。気付かない間に主要産業の根元に(しがらみ)を絡ませる辺りか」


 うん。妥当だと思う。大企業の生産品に対して主要部品の製造部分を外部に委託させてそこを掴んで行くのに似ている。


「それだけでは弱いと言うなら、お前の言っていた塩か? 生活必需の一部を掌握する。その辺りで上は気付くだろう。無制限に流入する物で国内産業がどのような影響を受けるのか。それを認識させた上で、流入品目毎に譲歩を求める形か? これならば元の状況に戻るのに対して益が生まれて来る」


「はい。そう言うバランスで問題無いと考えます。出来れば塩に関しては、引き続き、首に嵌まった縄として機能させたいので、譲歩の対象に含めないで頂きたいですが」


「分かった。小麦辺りも豊作不作が如実に出るのでな。その辺りも税無く融通し合えれば、ワラニカ王国としても助かる。値段が固定故な。市場が広がれば豊作の際にも販路が広がり、損を防げる。他の作物も同様だが」


「と言う事は加工品周りをどうするか辺りが争点ですね。既製品に関しては該当品目毎に譲歩しつつ、譲歩外の新型に置き換えて行く。譲歩すればする程、傷は広がるでしょう」


「研究所の研究計画に合わせて、そこは考えるよ。旧式品を吐き出すゴミ箱にしつつ、こっちは新型に置き換えていけば良い。中継地点としての『リザティア』も重要になるね」


 例えば、馬車もワラニカ王国内はこの新型に置き換わっていくだろう。でも既存の馬車は行き場が無くなる。それを東の国に売ってしまえば良い。品質はワラニカ製品の方が上らしいので喜んで買うだろう。その金で新型を揃えて行けば良い。


「その辺りは、大規模な集積場を建設しましょう。出来れば国策なので、予算は国でご用意頂きたいですが」


「職員が住める場所が有るから、それだけで楽が出来る。流れとしてはこっちで精査して、物流の拠点は『リザティア』に任せる感じかな?」


「そうですね。管理業務までは手が回りませんので、そこはお願いしたいと考えます。あくまで職員の居住までですね。運用管理はお任せします」


「計画書だと、南側は結構土地が余っていたよね。畑も西側に拡張するつもりみたいだし。南側に建てさせてもらおうか」


「街道を挟んだ先ですよね? 今は予定は無いので良いと考えます。どうせ雨風を凌げる倉庫ですよね。何か有れば移設しましょう」


「分かった。では、条約締結後の動きはこの辺りを方針とする。書面には起こし、国王陛下及び開明派の上層部には開示する。条約の対象変更に関しては、外務大臣と内務大臣の決裁が必要とする旨で進める。まぁ、おまけで色々搾り取れば良かろう」


 あぁ……。ロスティーが黒い……。為政者だし、兄を犠牲にした話だ。搾れるだけは搾るんだろうな。それで気が済むなら良いかな。バランス感覚は失っていないだろうし。


「じゃあ、難しい話はこのくらいで。続きをしようか。父上も横からでは無く、説明しますので共に入って下さい」


「うむ。序盤の定跡を教えよ。そこが分かれば遊べそうだ。中々に血が騒ぐ」


 ロスティーの楽しそうな顔を見て、戦慄が走る。嫌だ、この人本気だよ。あーあ……。チェスももうそろそろ負けかな。元々そんなに強く無いのに。はぁぁ……。

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