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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第306話 抑止力は使わないから抑止になりもします

「では、予定通り、我々が先導となります。公爵閣下におかれましては、御心やすくお願い申し上げます」


 レイが御者台に座って、告げてくる。


「構わぬ。信じておる。出すが良い」


 ロスティーが諾の旨を返すと、馬車がゆるりと進み始める。


 私の馬車が先導してレイが索敵を担当する。その後ろにノーウェの馬車群、そしてロスティーの家臣団を乗せた馬車群が後を追う。


 馬車の中には、私とノーウェ、ロスティー、ノーウェの執事となる。馬車の座席中央にアタッチが有り、簡易テーブルを接続している。ただ重心が高くなるので、揺れの影響は大きい。

 チェスを生み出し、試そうとしたが揺れる度にずりーっと流れていく。もう、イラっとして盤表面と駒の裏にマット処理に近いざらつきを持たせた。盤が滑るのはもう諦めて手で止めている。


「ふむ。ノーウェに聞いて興味は有ったが、中々身近で見る事がのうてな。遊び方が具体的に分からん。進めてくれ」


 ロスティーがクッションまみれで床に座って、テーブルを見ている。この馬車、どう考えても簡易ベンチに座るより、クッションにまみれて床に座った方が楽だ。仲間の皆が寝そべって遊んでいるのも分かる。


 ノーウェがポーンを出し、ビショップの道を開ける。本当にこの手、好きだよな……。トリッキーと言うかコスト対比を考えた場合に、駒の機動力をそのまま点数化している節を感じる。


「しかし、父上が言っていたけど、快適だね。湯たんぽだっけ? これ、利権に出来たよ? 父上には悪いけど、北なら飛ぶように売れるよ」


 ノーウェが残念そうに言う。鍛冶ギルドに権限を渡したのは伝えた。


「将来的に火傷の問題が出て来ます。温度が高く無い物でも、長時間触れておりますと火傷となります。そんなものの損害賠償など相手にしていられません」


「へー。そう言う問題も有るのかぁ……。でも、これ、それだけじゃ無いよね?」


 ノーウェが悪戯を思いついたような顔で言う。


「夏場は冷水を入れれば涼が取れます。風邪など高熱が出た場合は、首元を冷やすなどにも使えます」


 まぁ、氷枕かな。薄目に作れば、代わりにはなる。


「君の作る物って、単純だけど多機能だよねぇ……。違うか……。何と言うか長年使い込んだ匂いがする。まぁ、良いけど。出来れば事前に相談は欲しかったかな」


 こちらの手に合わせて、ナイトが前に出てくる。ふーむ……。ナイトをあんまり使わなかったのが、最近良く走る。嫌だなぁ。手が研究されるのって。


「今年の冬に村の暖を取るのが目的です。急ぎの為、ご相談する暇も無かったです」


 1対1で足止めしている間に、ポーンを出して、圧力をかける。


「んー。悔しいね。鍛冶ギルドごときに渡しちゃうのは。輸出品目にも出来そうなのが残念だ。構造が単純だから、量産も容易だしね。まぁ、賠償リスクをギルドに被せたと思えば胸もすくか」


 キャスリングで軸をずらされる。んー。ここでずらすか……。長丁場になりかねんな。主戦場がちょっと遠い、圧力をかける場所がずれたがこのまま圧殺しきる方がリスクは少ないか。


「開発者の心情的にも、早めに提供したいと言うのが有りましたから。モチベーションを維持するのも大事です」


「そっかぁ……。で、話は変わるけど、東の件。父上から話はある程度聞いた。君、えげつないよね。永遠に食い物にする気なの?」


「人聞きの悪い。民もギルドも喜ぶでしょう。ワラニカ王国の産物が安く入ってくるのですから。それで商家が潰れようが、ワラニカ王国が買い取っていけば良い訳ですし」


 こちらのビショップを誘い出しに中央付近に置く。ここで睥睨されると動きが著しく制限される。落としに来るだろう。その状況で本陣をどう守るか見える。


「生かさず殺さずかい? 君、本当に怖いよね。覚悟が無いのかと思えば、数十万の相手の首を縊ろうとする。どっちが君か分からなくなりそうな時が有るよ」


 キングを下げて、ルークを前に出した。ふぅむ……。クィーンが嫌な場所にいるんだよな……。等価交換出来るのがいない。こっちの戦術の幾つかが削られる。くそ、読まれているな、これ。もう、棋譜研究するの本当にやめて欲しい。ここは正攻法だな。再度別のポーンを前に出し、圧力を強める。


「そこのバランスはロスティー様にお任せします。口では永続的に搾取すると言いましたが、現実的な落とし所を両者で模索するでしょう。そうしなければ、戦争です。なので、十分な益が出せる状態で抑止力としてちらつかせ、あらゆる方面に譲歩をさせていく形が望ましいです」


 ん?ここで再度ビショップを前に出すか?それ、愚策だぞ……。中途半端だ。あぁ、こっちの捨て駒を本命と見たか。確かにそちらでもチェックメイトまでの筋は有るけど迂遠だ。好機だな。ナイトを右前に打ち出す。


「ん? ノーウェ。今の手だが、おかしいぞ」


「何がでしょうか? 父上」


「儂も詳しくは分からん。が、見ておったのはこの軍の動きだろう? これ陽動ぞ。本命はこの軍だ」


 ロスティーの言葉に背中から冷汗が吹き出す。表情には出さなかったが、正しい。この爺ちゃん、本質を見抜くの本当に上手い。


「あ……。あぁ。君、えげつないよ……。そうか、これ捨てたね。騙された。37か43手でチェックメイトかな?」


 ノーウェに言われて、数える。


「いえ、最短なら21手です。これが動かないと読んでいますが、ここがこう動いて、こうして、ここを押さえると」


「あぁ……。確かにこっちのクィーンが封殺されるか……。牽制が無くなるから、そのまま中央の圧力が生きて、ナイトでチェックメイトか……」


「はい。流石に読まれ始めていますので、色々策も弄します」


「はぁぁ。結構研究したつもりだけど、まだまだ翻弄されるね……。そこが面白いけど」


 駒を並べ直していると、レイから声がかかる。最初の休憩地らしい。ゆったりと速度が落ちる。肩が凝った。ちょっと外で体を動かそう。

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