第299話 にくきうを揉む簡単なお手伝い
本文改稿に伴い、第294話から内容が変更されています。
ご迷惑おかけ致しますが、よろしくお願い致します。
部屋に戻ると、ドレスを脱いで普段着になったリズとタロが一緒に遊んでいた。癒される。
「あ、おかえり。疲れてる?」
「大丈夫。ロスティー様もお元気そう。タロの方は問題無い?」
「うん。ご飯も食べたよ。何だかすごく元気で遊びたそう」
タロを見ると遊んで!!遊んで!!と言う感じで、オーラを出している。ご飯を食べてちょっと時間が経っているから食休みも終わりか。
床に胡坐をかくと、飛んで来て隙間に潜り込む。私の定位置!!と言う感じで丸くなる。
『まま、もみもみ?』
疑問か要望か不明だが、お腹を向けて足裏を出している。肉球を揉んで欲しいのか。
「リズ、タロの足の裏、ぷにぷにして気持ち良いよ」
「そうなの? 触った事無いよ。触って良いのかな?」
「押すと気持ち良いらしいから。押してあげて」
そう言うと、リズがタロの肉球を押し始める。タロも気持ち良いのか、大人しく押されている。
「何だろう。何とも言えない弾力としっとり感だね」
リズが神妙な顔で、ぷにぷにと押している。何だろう。健全な絵面なんだけど、何と無くエッチな感じがする。私だけか?この感じは。
ある程度揉まれると満足したのか、ひっくり返り、玩具を取りに行く。目の前に落とすので、拾い上げて、ぽーんと放物線を描く形で放り投げる。狂喜してキャッチしに走る。
何度か繰り返し、リズと紐の引っ張り合いをして流石に疲れたのか、箱で水を飲んで丸くなる。
『まんぞく!!』
あはは。新しい言葉も覚えたか。頭を軽く撫でて、ソファーに腰かける。リズは、歴史の書籍の続きを読んでいる。
「リズ」
「何?」
「祖父が出来たよ」
「……え?」
本から顔を上げたリズが驚いた顔でこちらを見る。
「今後、他の権力者からの防衛を考えた場合、ロスティー様の孫になるのが良いと言う話を頂いた。それを受けたよ」
リズの瞳を見ながら、一語一語ゆっくりと発音する。
リズが、少しだけ考えるように瞳が揺れた後、ふっと微笑む。
「そっかぁ……。じゃあ、公爵様は本当にお爺様になったんだ……。うん、ヒロが決めたんだよね。良いよ、それで」
立ち上がったリズが、ソファーの裏に回り、そっと首に腕を絡めて抱きしめてくる。
「目を見る限り、無理はしていない。私の為とか考えているんだったら怒ろうかと思ったけど、違うね。きっと、望み合って、そう決めたんだよね」
回された腕に触れる。
「言ったよね。私、お爺様って会った事無いって。だから、嬉しいよ。守られるだけじゃ無くて、一緒にお爺様の為に何か出来たら良いね」
「そうだね。でも、もっと驚くかと思った」
「驚かせるつもりだったの?」
「いや。そう言う訳じゃ無いけど」
「ふふ。驚いたよ。でも、きっと、いつかって感じてたから。だから、ヒロが決めたなら、良いよ。お爺様、喜んでくれた?」
「どうなんだろう。でも、喜んでもらえたら嬉しいかな」
「うん。あは、お父さんもお母さんも驚くかな。少しだけ楽しみ。ヒロもきちんと説明に付き合ってね。信じてもらえないかも知れないし」
触れていた腕を掻き抱く。
「勝手に決めてごめん。でも、きっと必要な事だったと思う」
国内の動きも読めない。実は庇護者だった前王は私の失策で失われた。国内での立場は不安定だ。ここで、足場を作らないと、横合いからの影響で倒れかねない。知らない人間の欲なんてどこから何をするか分からない。それは、ロスティーの話で理解した。この世界も優しいだけの世界じゃ決してない。
「んー。ヒロの人生だから、ヒロが決めれば良いよ。私はそれを支えるから。私の人生は私が決めるから。だから、心配しなくて良いよ。私も好きだから、お爺様」
リズが耳元で囁く。その言葉に力が抜ける。
「そう……か。ありがとう」
「心配し過ぎだよ。悪い事では無いし。私が何か言うと思ったの?」
「勝手に決めてとか言われるかなって」
「今更過ぎるよ? いつも勝手に色々決めているのに」
軽い笑い声と共に、リズが離れる。ソファーの横に座り、肩に頭を乗せてくる。
「あまりヒロの家族のこと聞かないから、ちょっとだけ心配していたの。ヒロこそ良かったの?」
「必要な事って言ったら、また怒られるかな。そうだね、良かったんだと思う」
リズの頭の上に頭を重ねる。
「なら、良いんじゃないかな。また、家族の事、聞かせてね」
「うん、またね」
結婚か……。リズの記憶が修正されると言っても、会わせてあげたい……。私も報告はしたい……。もう少しだけ、これに関しては悩むか。
ゆらゆらと揺れる暖炉の火を2人でじっと眺める。どこか疲れていたのか、心の何か固い物が少しだけ柔らかく解けた感じがした。
『まま』
ふと足元を見ると、仲良く一緒にいたのを羨ましがったのか、寂しがったのか、タロがお座りしていた。
そっと肩を上げると、リズが離れる。タロを抱き上げ撫でる。
「寂しがりだね。誰に似たのかな」
リズがそっと頭を撫でながら聞く。
「フィアの話だと、リズじゃないの?」
「私の経験からはヒロだと思うよ?」
2人して、顔を覗き合いながら、呟く。その絶妙な間に笑いが込み上げてくる。2人で揃って笑っていると、タロが不思議そうに首を傾げた。