第296話 別に口調がそうだと言って、綺麗に興味が無い訳無いです
本文改稿に伴い、第294話から内容が変更されています。
ご迷惑おかけ致しますが、よろしくお願い致します。
リズを迎えに部屋に戻る。
リズのドレスのひらひらした部分がタロを引き寄せるのか、異常に興奮したタロがリズを狙っている。
「あ、ヒロ。助けて、タロが」
タロをひょいと抱き上げて、箱に戻す。
『まま!!あそぶの!!ままと!!』
タロが箱の中で小さく、くるくる回る。引っ張り紐で興奮を鎮める。少し遊んだら満足して忘れたのか、ちょこんと大人しく座る。
「良かった。抱き上げるにも毛が付いちゃいそうだから。触れなくて、避けてたら、どんどん興奮するし、どうしようかなって」
リズがほっとした表情で、スカートを伸ばしてソファーにゆっくりと腰かける。
「ごめんね、話が長引いて。ドレス姿で大変だったんじゃないかな」
「私は大丈夫だけど。ちょっと腰が痛くなってきちゃったかな……。背筋を伸ばし続けないといけないから」
「はは。大変だ。昼の用意が出来たって。公爵閣下もちょっと余裕が無かったからあれだけど、綺麗だからきっと喜んでもらえるよ」
「そうかな……。うん、そうだと嬉しいな。きっと大変だったと思うから、少しでもお慰め出来れば嬉しい」
リズが微笑みながら言う。あぁ、良い子だ。本当に良い子だ。
そんなほっとする一時を過ごし、リズをエスコートして、食堂に向かう。
席に着いた段階では、ロスティーがまだ食堂に現れていない。ベティアスタは相変わらず、髪の毛を弄っている。変な癖がつきそうだが。
「髪の毛、気になられますか?」
「ん?あぁ、すまぬ。そうだな……。ここまで変わると思っていなかったからか。何とも気になってな。ふふ。嬉しい物だな」
ベティアスタがにこにことする。いつもは結構キリっとした顔が多いので、少し可愛い印象だ。
「石鹸とお酢ですが、少しお湯を多めに沸かせば、流す事も出来ます。持ち帰られますか?」
そう言った瞬間、瞬間移動か!?と言う勢いで、目前にベティアスタの顔が迫る。勢いに押されて、腰を残し、仰け反る。
「え……えぇと……?」
「良いのか? と言うか、そんなに数は有るのか?」
「村に戻れば生産しておりますので。ただ、香油入りの物は数が少ないですが……」
「ふぅむ……。トルカだったか……。あのような村に存在するとは……」
「あ、いえ。開発したのは私ですが……」
「そうなのか!! ふむ、帰りの際に寄る事にしよう。是非、買い求めたい」
鼻息荒く、ふんすと言う顔で、ベティアスタが席に戻る。何を考えてか、にまにましている。まぁ、お客様1名様ご案内と言う感じだろうか……。買い占め無いよね?
何か、詳細をリズに聞き出している。凄い迫られているけど、百合百合しい。美味しいです……。眼福。
そんな感じで時間を潰していると、旅装を解いたロスティーがややゆったりとした格好で食堂に現れる。
「待たせたな。さて、食事にしよう」
ロスティーが席に着き、宣言した瞬間、給仕が食事を並べ始める。
流石に、疲労が蓄積しているのか、ロスティーはメインに手を付けず、スープと軽くパンをゆっくりと食べている。一段落したのを見計らい、声をかける。
「ロスティー様。御贈り頂きましたドレスが出来ました。ご覧頂けますか?」
そう言うと、ロスティーがリズの方に改めて向き直る。
「おぉ、やはりか。見違えた、綺麗になったのぉ……。立ってくれぬか、しかと見たい」
にこやかにロスティーがリズに告げると、リズがゆっくりと立ち上がり、くるりとその場で回る。
「おぅおぅ……。よう出来ておる。我が孫娘は美しいのう……。ふむ、その首の石は?」
「こちらは、ヒロが用意した石になります。南の海、人魚よりの献上品になります」
「ほぉ……。何とも言えぬ柔らかな輝きだ……。石と言えば色に合わせたきつい光を放つが、何とも言えず儚い……。まるで夢の中を揺蕩うような光よのう……」
「南の海の貝が長年をかけて作り出した美です。幾重にもその身を石にまとわりつかせた結果ですね。厳密には宝石とは違いますが、負けず劣らずかと考えます」
フォローを告げるが、ロスティーの目は真珠に釘付けだ。
「まだ、残余は有ります。ネックレスと言わず、耳元や指輪などの加工でも美しいかと思います。奥様の為、ご用意致しましょうか?」
「お……おぉ……。そうか。いや、すまぬ。あまりに変幻する光に心が奪われておった。これは、美しくも儚い。何とも言えぬ思いが心によぎる……。美しいのう。よう似あっておる。大切にせよ」
ロスティーが夢から覚めたように、呟く。
「ふむ。お嬢も随分と感じが変わったな? この短期間で何が有ったと言うのか?」
ロスティーが食卓周りを見回し、不思議そうに言う。
「アキヒロ殿より、お風呂と言う物を体験させてもらいましたが、それが要因かと。私も変化には驚いていますよ」
ベティアスタがロスティーに答える。
「ふむぅ。特許の件でも四苦八苦させおったが、まだまだ引き出しが有るか。我が孫は多才よのう」
ロスティーが高笑いをする。腹に物が入り、少し落ち着いたのか、憔悴の色は引き、血色も良くなってきた。若干険のあった瞳もいつもの柔和なものに変化している。
初めは静かに進んでいた食事もロスティーが落ち着き、話し始めたのを切っ掛けに、賑やかなものに変わる。その雰囲気に合わせ、ロスティーも徐々に穏やかな雰囲気を帯びていく。
話を聞くと、湯たんぽとクッションは使ってもらえたようだ。
「湯たんぽは良いな。流石にこの歳になると、寒さが堪えてな。馬車での移動の際は節々が痛むが、暖かいと言うのは本当にありがたい。クッションは馬車の折もそうだが、もう寝る時は欠かせぬな。本当に助かった」
ロスティーがリズに向かって、クッションの礼を述べる。少しはにかみながらリズが頭を下げる。リズが嬉しそうに、顔を向けてくるので、頭を軽く撫でる。それに合わせてリズが瞳を閉じる。ふふ、タロみたいだ。
食事が終わり、席を立つ段になった時、ロスティーより声がかかる。
「我が孫よ、偶には一局付き合わぬか?」
リバーシのお誘いか?親子でよく似ている。若干の苦笑が浮かびながら首肯する。リズにはドレスを処理してからタロの世話を頼んだ。さて、どのような話をしたいのやら……。