第295話 経済侵略?お互いが幸せなら良いかと思います
本文改稿に伴い、第294話から内容が変更されています。
ご迷惑おかけ致しますが、よろしくお願い致します。
「王の最期に関しては分かりました。その他の部分は如何ですか?」
私を抱きしめていたロスティーが席に戻る。
「ふむ。衝撃が大きかったので、そこが中心になったな。宰相に関しては儂が就くと言う事で新王陛下より裁可を頂いた。元々叔父の関係故、そこはすんなりと通してくれた」
ここ、結構重要なので、良かった。これでロスティーが就いてないと影響力が無くなる。
「組閣に関しては如何ですか?」
「組み終えた。儂は外務大臣兼務だな。ノーウェよ、副大臣の座は空けておる。さっさと伯爵に慣れて、こちらに来い」
「分かりました。父上。しかし、閣僚ですか……。陞爵早々で忙しい話ですね」
ノーウェが若干うんざりした顔で言う。
「国境上、お前がならずに誰がなる。元々東と交流を持っておったのはお前だろうが。儂が忙殺されるわ」
苦笑を浮かべながらロスティーが一喝する。重い話をして落ち着いたのか憔悴した様子も少しましになっている。
「結局、愚王では無かったと言うお話ですが、財政上の問題点は有りますか?」
「無い。と言うよりも、お前の領地の特需で湧き上がっておる。来年度予算も確定した故な。固い案件から入れ食いだな。入札管理の方は手一杯だ」
ふむ、今年度中はバブルの特需は続くか……。この間に貨幣価値の上昇に伴う景気浮揚策は打ちたいな……。
「貨幣安に伴う輸入の不均衡が解消されましたが、輸出の部分は東の国側で受け入れにくいのは変わらないでしょう。そこに関してはどのような策をお考えですか?」
「加工品の生活必需品はこのまま進める。特許もこちらが握っている物が大半故、我が国より輸入せねば立ち行かぬ。開発を進めるにせよ、時間がかかる故な。また開発を進められる程の余裕が有るかと言う話だな」
煙もくもくの国みたいにデッドコピーを大量生産してくるとかは無いのか?まぁ、神明裁判が有るしな。裁判になって負けるの確定している手は使わないか。と言う事は一方的に原材料輸入、加工品輸出で益を出し続けられるのか。
「他国への輸出は如何致します?」
「国境を接していない故、そこは東頼りだな。現状は東が税を付けて他国に流しておる」
ふーむ……。販路拡大が陸路だけだと、どこかで頭打つな。領地は切り取り放題だろ?いっそ食い千切るか。
「海路での直接輸送は考えられませんか?」
「海か?」
ロスティーが腕を組み、思案し始める。
「あぁ、お嬢の家の件か。良いんじゃないの? 大型船、作ってもらえば。あそこの領地の景気浮揚になるし、うちの木材も売れるしね」
ノーウェが軽く言うが、自分の所の利益もちゃっかり入れてくる。
「しかし、大型船では港が必要となるが?」
ロスティーも船は見た事が有るのか、的確に確認を入れてくる。
「地図を見ていないので何とも言えませんが、海岸線の詳細地図は今後人魚の方々に任せるつもりです。また、私の領地で今後扱う大きな資源は塩ですので、大型船に小型船を乗せて、陸地まで輸送してもそう労力は変わりません」
ロスティーが思案顔のまま頷く。
「領地切り取り放題は他国にも通用しますか?」
そう言うと、ロスティーの思案顔が解ける。
「人類生存圏の拡大は人類の悲願故、領地化出来る場所は領地化しても良いが……。まさか?」
「はい。将来的に港を各国に作ります。防衛は人魚さんに任せます。まぁ偵察ですか。問題が発生したら、船で援軍を送り込むだけです。今後、各国が船を製造したとしても、人魚さんを押さえていますので、一方的に海側から襲えます」
火薬も無い。大砲も無い。基本的に衝角でぶつかって乗り込む程度しか出来ないだろう。こっちは人魚さんが船底に穴を開けてくれるのを待つだけで良い。一方的に思考する魚雷を打ち込み放題だ。
この世界、まだ重商主義の萌芽は見えていない。ただ、ギルドなんて国家を跨ぐ組織が存在するし、人間には欲が有る。冒険者ギルドの先例も有る。やられる前にやっちゃって良いだろう。
「海で人魚を相手には出来ないね……。君、そこまで考えて領地に引き込んだの?」
ノーウェが首を傾げる。
「いえ。将来的に海洋進出を考えた場合に有利になるかな程度は考えていましたが。海路が開発されていないので有れば、輸出拡大の機会でしょう」
最悪東の国と喧嘩しても、他の国と仲良くすれば良い。きちっと経路が有るなら、遠交近攻でも問題無い。
「後は鉄ですね」
「あれ? 露天鉱床は後回しにするって言って無かった?」
「はい。予算が少ない間は塩が優先です。今回じゃぶじゃぶに有るので、ちょっとやりたい事が増えました」
結局予算を回すのに一番手っ取り早いのがインフラ敷設だ。ローマ街道に並行して、鉄道馬車用の軌道敷設までやりたい。蒸気機関はまだ先だが、この世界のUMAなら十分初期鉄道の代替になる。
そうなれば、バブルは続く。塩と言う、無から有を作り、それを他国の富の収奪に使う。利益は国内で消費して景気浮揚に使う。まぁ、経済侵略か。この世界に概念有るのかな?どちらにせよ、まずは私の民、この国の民に益をもたらさなければならない。その為に先を見ておいても損は無いだろう。
「君がそう言う事言い出すとちょっと怖いんだけど。ちゃんと計画書見せてね?」
「まだ草案にもなっていません。後で書きます」
そう言うと、ノーウェが苦笑を浮かべる。
「まぁ、王より頂いた最期の命です。民を富ます為に手段を選ぶつもりは無いです」
私がそう告げると、やや切なそうなロスティーが口を開きかけて、閉じる。
「ふむ。まぁ、その辺りは後で聞こう。安心した故か、腹が減った。良く考えると、帰路、碌に食べてもおらんかったわ。いや、やっと安堵出来たと言う事か……」
ロスティーが腹に手をやり、呟く。それを聞き、2人して吹きだす。あぁ、やっと食欲も戻ってくれたか。
「用意は出来ております。食事にしましょう、父上」
ノーウェが笑顔で告げる。
「うむ。旅装を解く。先に食堂に行ってくれ」
ロスティーが苦笑しながら告げる。2人してソファーを立ち、部屋を出る。扉が閉まった瞬間、ほっと息を吐く。
「後悔しているかな?」
ノーウェがこちらを見ながら聞いてくる。
「何をでしょう?」
「はは。まぁこの場合だと、こっちの誘いに乗って男爵になった事かな? そうでなければこんな事に巻き込まれていなかったからね」
ノーウェが悪戯混じりな顔で問うてくる。
「冒険者では頭打ちでしょう。商人と言ってもどこかで権力者に吸収あるいは殺されていた可能性が高いです。そうなると為政者程度しか選択肢は無いですよ」
「はは。為政者程度か。いや、こんな思いをしても程度で済ませられるか。いやいや、立派な為政者になったよ、君は」
ノーウェが楽しそうに、すこし切なそうに笑う。
リズを家族を仲間を民を守る。豊かにする。その為には、手段は選ばない。もう王の首は掛け金としてテーブルに上がった。上がってしまった。名も顔も知らぬ賢王の、その人生に恥じない利益を生み出し、国へ還元して初めて供養となろう。私はそれに邁進するだけだ。