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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第一章 異世界に来たみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第26話 まずは足を殺す!!

 口元の違和感で目を覚ます。

 瞳を上げると、リズがが覆い被さり、口づけしてきていた。


「おはよ」


 チェシャ猫のように、にやにやしながら朝の挨拶を告げて来る。


「おはよう。びっくりした」


「ふふ。昨日より、今日。今日よりも明日。どんどん愛おしく感じていくわ」


 その表情を見ていると、ティーシアさんと親子なんだなと思った。


「支度に行ってくるわね」


 ベッドから抜け、立ち上がろうとした瞬間、背後から抱きしめる。


「ふふ。甘えん坊さんなの?」


 振り向きざまに、キスをする。


「自分では分からなかったけど、そうなのかもな」


 腕をすり抜けてリズが扉に向かう。


「いつも、料理ありがとう」


 こちらを向き直ると、微笑む。


「ふふ。ありがと。でもほとんどお母さんなのよね。練習頑張るね」


 リズが扉を開け、キッチンに向かう。


 窓を開けると、今日は快晴だった。


 服を着替える。服に関しては何着か借り、夜の残り湯と家の近くの川で洗濯をしている。


 この村だが、流石に下水は無いが川の支流から水を引いており、ある程度の区画に流されており生活用水として使われている。

 森が近い為か井戸の湧出はかなり有り、数も有る。水質も高い為、飲料水と生活用水が明確に分けられている。


 手押しポンプくらいなら公開しても良いのかな。スマホの百科事典で概念図と簡単な設計図も分かる。この文明がどの程度の工作レベルかは分からないけど、鋳造で量産も可能だろう。

 特許の概念が有るかが分からない為、収入になるか分からないが井戸の水汲みは結構重労働なので、自分がやりたくない。


「仕事終わったら、武器の価格の確認がてら鍛冶屋に行ってみるか」


 リビングに向かう。


「おはようございます」


「あら、おはよう」


 ティーシアが答える。   


「水汲みに行ってきますね」


「あらあら、悪いわね」


 甕を持ち、水汲みに向かう。

 今日も井戸端は会議の場になっていた。挨拶をした後、当たり障りの無い会話をし、アスト宅に戻る。

 筋肉痛は大分落ち着いて来ていた。


「戻りました」


「あら。ありがとう。何時もごめんなさいね」


「いえいえ。居候させて頂いて居るだけで有り難いです」


 朝食はライ麦粥にベーコンとキャベツ、根菜の炒め物だった。鳥ベースのスープも付いていた。


 朝食を済ませ、2人が猟に向かう。


 ティーシアと二人きりになった際に、端切れに包んだ5,000ワール硬貨を手渡す。


「何かしら、これは?」


 きょとんとした表情で聞いてくる。


「お世話になっておりますので、せめて受け取って下さい」


 宿代で5,000ワールだったし、色々お世話してもらっているので、これでも足りないくらいだ。


「そんなの。お客様よ?それに娘の婚約者だわ。受け取れないわ」


「居候の間だけでも納めて頂ければ幸いです」


 押し問答の末、受け取って貰える事になった。


 お昼ご飯を受け取り、冒険者ギルドに向かう。

 依頼票を確認する。今日もヴァズ草の価格に変動は無い。かなり枯渇しているんだな。


「おう、『薬草』の」


 見た事も無い、革鎧を着込み長剣を腰に佩いた長身の男性から、声をかけられる。

 表情を見る限り悪感情は無い。


「最近入った新人が、ヴァズ草で荒稼ぎしてるって噂になってる。お前さんだろ?」


「はい。そうだと思います」


 意図が分からない為、及び腰になる。


「あぁ、いちゃもんつける訳じゃねぇ。俺ら等級が上がると討伐がきつくなる。傷治せる神術士なんざ数いねぇからな。傷薬は死活問題なんだわ。最近結構品切れ気味で価格も高騰しててな。だから、皆ヴァズ草を採取してくれている奴に感謝している。んで、『薬草』って呼んでんのよ。助かってる。今後とも頑張れよ」


 振り向き、手を振りながら去っていく。


 嵐みたいな人だったな。まぁ、悪感情を持たれず重宝されているのなら余計な諍いに巻き込まれる事も無いか。


 北の森に向かいながら、ぼけっと考えに浸る。

 田舎の濃密な人間関係だと、否応無しにやり取りが増える。正直コミュ障気味なのが自己判断だが、折れるしかないか。大分ストレスだが。


 沼沢地に着く。ざっと見渡すが、流石に収穫可能なヴァズ草は減ってきている。


「もう少し、奥に進むか」


 今までと同じく5m間隔程度毎に1と矢印を刻んで行く。

 この辺まで来れば、野生動物のテリトリーとも大分被るだろう。周囲の警戒は怠らず、ゆっくりと進む。

 道々に生えている手頃なヴァズ草は摘んでいく。

  

 瞬間、ぞくっとした感覚と共に、何かの気配を感じる。『警戒』の効果か?

 音を立てず藪に隠れ、慎重に周りを調査する。


「いた。あれか?」


 ゴブリンが2匹、槍を放り出し、しゃがみ込んで何かを咀嚼している。兎のような小動物だ。


「見つかって不意打ち受けるのは嫌だな。魔術も有るし、各個撃破かな」


 グレイブもどきを構える。


 直径20cmの球体の風の塊を5mmくらいまで圧縮するイメージを浮かべる。


「属性風。圧力定義。形状は頭の2mmが凹んだ半径5mm高さ7mmの円錐。右手人差し指前方10cmに固定。前方に向かい射出、速度は時速150㎞……。


 小声で詠唱を始める。対象は近い方のゴブリンの背中だ。藪の蔭からそっと人差し指を向け照準を定める。


「実行」


 詠唱の完了と同時に、グチャッという音と共にゴブリンの背中が刹那凹み胸側が膨らみ、破裂する。胸元は完全に穴が開き、即死しているのを感じる。

  

 <スキル『獲得』より告。スキル『獲得』の条件が履行されました。対象の持つスキル『警戒』0.01。該当スキルを統合しました。>

 

 『獲得』先生の声を聞きながら、残ったゴブリンの様子を窺う。


 いきなり横のゴブリンが原因不明に死んだ事にパニックを起こしているのか、驚愕の表情のまま佇んでいる。


 直径10cmの球体の風の塊を5mmくらいまで圧縮するイメージを浮かべる。


「属性風。圧力定義。形状は半径5mm高さ1cmの円錐。右手人差し指前方10cmに固定。前方に向かい錐もみ回転を加え射出、速度は時速150㎞……」

 

 再度小声で詠唱を始める。対象は残ったゴブリンの左膝だ。そのままそっと人差し指を向け照準を定める。


「実行」


 クチャッと言う音と共に、残ったゴブリンの左膝に5cm程の穴が開く。


「ギ、ガァァァァァァァ……」


 痛みに耐えかねたのか、叫ぶ。膝を押さえ、蹲ったまま震えている。


 周囲に仲間がいるのか分からない。一気に藪から走り出し、グレイブもどきで背後から袈裟懸けに切り付ける。

 まだ生きているのか、首を回して来ようとするのを、腰の鉈を引き抜き首を斬りつける。

 ヒューヒューと風の音のような物が喉元から短時間流れ、絶命する。


 あれ?『獲得』先生から、報告が無い。


 <解。彰浩が持つスキルの上位技術を持たない為、譲渡は有りません。>


 周囲を見渡してみるが、他にゴブリンはいない。

 10分程、声に誘われて援軍が来ないか隠れていたが、それも無い。

 思ったより、頭悪いのかな。前回のゴブリンも斥候と言うよりはぐれだったんじゃないのかな。


 討伐対象の鼻を削ぎ、四肢を刻み藪に隠す。沼沢地からは結構離れている為、隠蔽工作が杜撰になるのはしょうがない。

 血の匂いに誘われて、肉食獣が処理してくれる事を期待する。


 術式による頭の怠さは感じない。この程度の戦闘で使うのなら、可能か。連戦は考えたくない。

 出力を最低限にするのも、不測の事態を防ぐ為だ。

 足を狙うのも、動きさえ止めれば、長柄が圧倒的に有利だし。

 

「頭を狙えれば一発なんだけど、討伐部位を考えると迂遠になるな。まぁ、しょうがないか」


 血痕に土を撒き、最低限の隠蔽工作を終え、先に進む。 


 北に進むと沢が見えてきた。ヴァズ草も繁茂している。


「おぉ。ここならちょっとの間は枯渇を免れそうだな」


 少し嬉しく思いながら、先程の返り血を沢で流す。


「緊張した。疲れた。ちょっと休むー」


 手頃な岩に座り込み、水筒の水で喉を潤す。

 思ったより緊張していたらしく、水を甘露のように感じた。

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