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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第285話 現地からの一報

 そこからの日常は淡々と進む。領主館で、私はノーウェの教育を受け、リズは淑女教育を受ける。カビアからの資料は建築済みの家屋や店舗の完了証明が主体になった。現地確認の決裁は大手の建築商会が押印しているので、問題は無いと考える。もし問題が有った場合はこの押印の下位から責任が発生するからだ。『リザティア』の地図と照らし合わせながら処理を続けていく。人間が住むには最低限の環境は整ったか……。畜舎も建築済みだ。領主館はもう少しかかるとの事だ。


 タロは日に日にすくすくと大きくなる。どんどん賢くなっているのが分かる。実は侍女の間でも人気らしい。背中を撫でると可愛くペロペロ舐めるのが気に入られている。女殺しなのか?雄だから良いか。身体能力も上がってきているが、制御もきちんと気にしているのでそこは不安視はしていない。躾も『馴致』が有る為か順調だ。どうも最近小動物が気になるらしい。外周を回っていて、稀にウサギ等がひょっこり顔を出す事が有る。タロの野生に火が付くのか『うさぎ、うま?』と思いながら狩りに行こうとするのを引き留める事も有る。村に戻ったら本格的に狩りの訓練もし始めよう。


 リナも監視業務と合わせ、練兵室で体作りに勤しんでいる。ノーウェの兵の間では結構有名になっている。見た目25歳程度の美人で超巨乳だ。しかもサバサバした性格で、姉御肌だ。あれ?言っているとハイスペックな気がする。何というか、高嶺の花と言う感じでは無く庶民派アイドルみたいな位置付けで人気らしい。本人的には子供ばかりで勘弁して欲しいようだが。


 村の様子はレイに聞いたが、ロットが主体になって北の森で狩りを続けているらしい。ゴブリンなんかの小物が中心だが、勘が鈍るのを恐れての訓練なので、それで良い。度々(たびたび)森の中の簡易宿泊所まで行っては帰るみたいな訓練も交えている。フィアは儲けが少ないのに文句を言っているようだけど、まぁご愛嬌だろう。


 レイもリナの訓練に付き合ってくれている。格が違うが、その相手と戦う事によりリナの能力も飛躍的に上がっている。考え方そのものが変わってきているのが動きでも分かる。リナのスキル回りも異常に上がっているし。『隠身』を積極的に攻撃にも()ぜるようになったのか、訓練を見ていると、ちょっと気持ち悪くなる。その場にいる人間の気配が希薄になり認識し辛い状態でやり合っているのを見るのはきつい。


 そんな感じで過ごしていると、19日のお昼ご飯が終わって少し経ってからノーウェの執務室に呼ばれた。


「父上より書状が届いた」


 ソファーに誘導され、開口一番そう告げられた。


「16日に王都入りの予定でしたよね? あまりに早くないですか?」


 鳩の速度は時速40から50km程度だ。1日4時間強飛んだとしても、200km弱。2日で400kmぎりぎりだ。16日に王都に入って17日に事を成し、その場で鳩を放った計算になる。


「段取りは進めていたからね。詳細は戻ってからの話になるけど、目的は達したらしい。鳩を放ってすぐに後片付けをしてこちらに戻る予定との事だね。王権神授の対応や式典込みで4日程度かな。こちらに戻ってくるのは25日辺りだろうね」


「そうですか……」


 自分の献策が半分成ったが、実感は湧かない。人の生き死にの部分に関しては余計だろう。チクリと心のどこかに穴が開いて何かが流れる感じはするが、それでも我慢が出来ない話では無い。もう覚悟した話だ。


「まぁ、早々に変わると思っていなかったけど、ましになったかな。うん。父上が無事、事を成し帰ってくるんだ。喜ばしい事じゃ無いか。まずは成功を祝おう」


 ノーウェが自然な微笑みを浮かべる。


「はい。では、大きな混乱も起こってはいないのですね?」


「鳩の書簡だからね。詳細までは分からないけど、何か有れば書いてくる筈だから。少なくとも民の動揺も無いし、王家派の動きも無さそうだ。まぁ、それに関しては、各地の動きをもう少し見ないと何ともいえないけどね」


 ノーウェが天井を見上げて、両手を肩まで上げる。


「見える範囲での動きは有りますか?」


「一番近場の王家派でも動きが有ったとしても、鳩で1日はかかるからね。明日か明後日に連絡が無いのなら、一旦は安心して良い」


 ノーウェが顔を真剣な物に戻し、告げる。


「君はどうする?教育の方ももう少しで形にはなるかな。後は実施しながら不明点を確認する形なのが多そうだけど」


「そうですね……。個人的にはロスティー様をお迎えしたくは有ります」


「そうか。うん、分かった。まぁ、教え始めたら教える事は幾らでも有るしね。そんな事をしていたらあっと言う間だね」


 そう言いながらノーウェが笑う。


「さて、これにより、東の国との外交政策は転換期を迎える。今までの曖昧とした関係をはっきりとさせて、国同士の付き合いが明確化するね。婚姻政策が成った暁には結びつきも強くなるから、貿易関係も強化されるだろう。君の領地の価値がまた上がるね」


「それを狙っての献策では無かったですが……」


「はは。それは分かっている。あの場で腹芸が出来るなら、そもそも諭したりしないしね。うん。結果的に君の領地は望むと望まざるに拘わらず重要な地となる。私の子だから全力で支援する。でも、君も頑張らないといけないね」


「はい。それは当初より覚悟の上です」


 お互いに笑い合い、雑談に移る。お茶を飲み終わるのを合図に辞去する。


 部屋に戻ると、伏せた状態からひょこっと首を伸ばしたタロがこちらを見上げる。しっぱがぱたりぱたりと緩やかに揺れる。


「お帰り、ヒロ。用件は終わったの?」


 ソファーで座っていたリズが開いた扉に気付き、こちらに声をかけてくる。


「うん。ロスティー公爵閣下が事を成したって。今回の件は解決かな。後片付けをして25日には戻ってくるって」


「わぁ……。良かった……。お爺様、ご無事なんだね……。本当に良かった……」


 リズが聞いた瞬間、その瞳を潤ます。ずっとどこかで心配していたから、無事の一報は何よりだったのだろう。


「うん。ご無事のようだよ。リズが心配して祈っていたからだよ。良かった」


「ふふ。帰って来られたら、お祝いしないと駄目だね……。無事で良かったですって」


「リズが喜んでくれるのが、一番効くんじゃないのかな?」


 リズを抱きしめて、一緒にロスティーの無事を喜ぶ。リズも少しずつ品の良いお嬢様っぽい部分が出始めてきた。でも、こうやって喜んでいる様は年相応だ。そんなところが可愛くてついつい抱きしめるのに力が篭る。


「ヒロ、どうしたの?」


「ん?あぁ。最近、リズがどんどんと魅力的になっていくけど、そうやって喜んでいる姿は、やっぱりリズだなって。そう思ったら愛おしくなってきた」


「もう……。そう言うところは子供っぽいままだね。でも、良いよ。嬉しい。ヒロ、大好きだよ」


 勢いづけてこちらに迫ってくるリズの勢いに負けて、ソファーに倒れ込む。目の前にリズの微笑みが見える。


「リズ、愛している」


「ヒロ、私も」


 口付けを交わすと、横に気配を感じる。タロがじっとこっちを見上げている。


『まま、あそぶの?』


 じゃれ合っているのと勘違いしたのか、タロも混じりたそうな顔をしている。タロを抱き上げて、体中を指先で撫でまわす。


『うひゃー、まま!!まま!!』


 くすぐったいのか、身を捩りながらも楽しそうだ。


「さて、散歩に行こうか」


 タロに首輪を嵌めて、愛する人に手を伸ばす。その温かな手の実感に幸せを感じる。

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