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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第283話 全き青い世界への自覚的な小さな、小さな一歩

「それでも、痛みは感じ続けるのでしょう。それでも、前には進みます」


 私は顔を上げて、ノーウェの目を見つめ、静かに、そう告げた。


「うん。それで良いんじゃないかな? 痛みを感じない怪物になれなんて言う気は無いよ。こっちだって痛いものは痛いし、悲しいものは悲しいよ。それは当たり前の感情だよ。大いに感じれば良いさ。ただ、抱え込まない。適切に処理する。その為に親はいるし、リズさんも仲間もいるんだしね。吐き出しても良いと思うし、泣いても良いと思うよ。でも躊躇はしない、歩みを止めない、自分の愛する者の幸せの為に邁進する。これだけは気に留めよう。為政者だって人だ。(あやま)つ事は有るし、悲しみに泣き濡れる時も有るよ。それでも為政者は前に進むしかないんだからね」


 ノーウェもいつものニヤニヤが混じった笑いでは無く、自然な微笑みを浮かべる。


「今までと何処が違うんでしょうね……」


「君、自分で気づいていないのかな? 献策の後、酷い顔していたよ。笑っているけど、痛々しくて見ていられなかったね。あれ、隠しているつもりだったの? はは。辛いのなら吐けば良いよ。抱えるなと言うのはそう言う事だね。吐いてくれれば君の悩むべき事では無いとはっきり伝えられるしね。もう良い大人なんだから、他人に気を回されるのも嫌でしょ? それにそんな顔、民に見せたら怯えるよ? 父上も泰然自若に待てと言ってたでしょ? そう言う事だね」


 あぁ……。あの時、そんな顔をしていたのか……。聞いていると、恥ずかしくなる。


「君の善性と言うべきものはとても好ましい。個々の人として見た場合は魅力的ですらあるね。でも、為政は善では回らない。不善を為す必要も有る。いや、これも取り(つくろ)いかな? はっきり言って悪を為す時は必ず来る。でもね、それを躊躇しては、為政は回らない。先程も言ったけど、君の献策は大逆を為す事を前提とした策だ。まぁ、大罪だ、最もたる悪だね。あれを聞いた瞬間、驚いたよ。あぁ、こんな手を考えつくんだって。大きな罪だけど、これならば大切な民を救う事が出来るってね。でも、君はその救われる大切な民より、不善を為す事、そしてその不善を為す人間が傷つく事を見ちゃうんだろうね。それはよろしく無い。あまりに天秤が偏りすぎている」


 ノーウェが苦笑を浮かべる。あぁ……。リズにも言われたな……。成した事の利益より、それによって生まれる犠牲や悲しみを見るって……。


「んー。人を見るのはあまり得意じゃ無いけど、君に関しては子だからね。そうも言っていられないか。結論から言うよ。君の正義は(いびつ)だね。何処か(ゆが)んでいる。何かを傷つける、あるいは殺す事に重度の忌避感が有る。でもね、人はどんな紛争でも、争い、傷つけあう。何かに勝つと言う事は、負けた相手を傷つける行為だ。でもね、人は生きている限り争い続けなければならない。為すべき時に為さなければ、傷つけられ、或いは殺されるのは君だ。君だけじゃ無い、それは君の民で有り、仲間で有り、リズさんでも有る。君はそれを許せるのかい?」


 為すべき時に為せ……か……。アレクトアにも言われたのに、腹に落ちていなかったのか……。


「はは。どちらも言われた事が有るって顔だね。うん、皆、思っちゃうだろうね。君の潜在する能力はきっと計り知れない。でもね、それを扱う君が潰れちゃったら、何にもならないんだ。何も為せない。為政とは(まつりごと)()す事だからね。為さねばならぬ事は為すしか無いんだ。それを肝に銘じて。それが為政者、それが青い血の流れる者のたった一つの義務なんだから」


 青い血か……。きっと地球、日本でも明示的に血を流さなくとも、ありとあらゆる争いは発生していた。アレクトアもそれは肯定していた。

 私はそれに目を瞑っていただけなんだろう。どこかで清く明るい道をひたすら進めば、民は仲間はリズは幸せになれると思い込んでいた。でも、それは幻想だ。幼い子供が夢見る、奇跡の欠片なんだろう。

 人を導く、人の人生を預かる為政者は心から青い血を流しながらも痛みに耐え、それでもただひたすらに前に向かう者だ……。今、本当に分かった。私は三千世界の烏を殺すと決めた。屍山血河を築くと決めた。でも実感は伴っていなかった。それはきっと、私の心から流れた青い血に塗れた青一色の世界なのだろう……。それでも、良い……。それが、良い……!!


 <告。『勇猛』が2.00を超過しました。>


 <告。深刻なエラーが発生しました。例外領域へのアクセスが試みられています。例外領域へ適切なアクセス権が無い為アクセスを遮断されました。>


 久々の『識者』先生の声だ……。深刻なエラー?例外領域?何だそりゃ?

 それに『勇猛』の上昇かぁ……。そこまでストレスだったのか?何かの決意の度に上がっている気がする。まぁ、日本人が何かを決意するって結構大仰だし、しょうがないのかな。


「良かった……。目に力が戻ったね。はは、やっと君に為政者とは、を教えられるね。正直、昨日いや先程までの君には為政者は無理かなとも思っていたからね。完全に法衣子爵として政務に就いてもらう選択肢も考えていた。でも、今の君なら大丈夫だろうね」


 ノーウェが立ち上がり、机に向かう。数枚の書類を取り、ソファーに戻ってくる。


「いやぁ。春蒔きの件も有ってね。父上があれでしょ? 北の領地の対応も任されちゃってね。そう言う意味では手一杯だよ。はは。子の君が折角解決案を出してくれたのに、こっちがこんな調子だと怒られそうだね。まぁ、具体的な領地経営の部分から、教えていこう。税制周りは王国法を読んだよね? それを前提に領民の権利と義務に関して、法制上で分かり辛い部分を念入りに説明していこう」


 優しい顔で微笑みながら、ノーウェが言う。本当に嬉しそうだ。あぁ、成長を喜ばれるなんて体験、どれだけぶりなんだろう。会社でも、上司なんてもう何年も決裁マシーンだったしな。はは、苦笑が零れそうだ。まぁ、前向きな話が出来るのはありがたい。

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