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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第277話 たった一人だけの英雄

 雪遊び、お散歩をしても夕ご飯までは暫くの時間が有ったので、お仕事タイムと言う事にした。


 私は特許関係でカビアが処理済みの書類を確認しながら、署名をして処理済み箱にぽいぽいと入れていく。リズは侍女に言って借りた物語を読んでいるようだ。


「その本、面白い?」


「テフィマイスト様のお話だよ。んー。トランプのクローバのキングの絵の人かな。ハートのクィーンがエチェルティルシア様だよ。奥様なの。有名なお話だと丘くらいあるワイバーンなのかな? そう言うのをお二人で倒されたの。その時のお話にもう少しで入るかな?」


 丘くらい有るワイバーンって、もしかしてドラゴンとかこの世界にいるの?。そう思うと目の前が少し暗くなる。やばい、きっと会いそうな気がする……。嫌だよ?ドラゴンスレイヤーとか、竜殺しの英雄とか。


「その大きなのが吐いた炎は一晩経っても燃え尽きず、空を駆けては村々を破壊していたの。それを憂えたテフィマイスト様が奥様と一緒に三日三晩かけて倒したの。その献身を認められて英雄として語り継がれているの」


 うわぁ……。スケール違うな。三日三晩も戦ってられない。どんな体力だ。と言うか、テフィマイストと言う名前のパーティーとか集団じゃないのか?地球の歴史でもそんな話有ったな……。


「英雄物語好きだね?」


「物語って、どうしてもそう言うのばっかりだからね。教会の勉強の時も物語は英雄様のお話か神様のお話ばかりだったかな? んー。ヒロの所の英雄物語も好きよ。面白いもの」


 そう言うと、華やかな笑みを浮かべる。あぁ、そう言うところはまだまだ子供か……。


「物語と言えば、ヒロ聞きたい事が有るんだけど」


「ん? 何かな?」


「朝、責任を取ってなのかな? 貴族を止めるって話を領主様がしていたけど、その後はどうするつもりだったの? やっぱり冒険者に戻るつもりだったの?」


 ん?何の話だ?貴族を止める……。あぁ!?首を差し出すって、辞職って捉えてくれたか!!


 笑顔を何とか維持して、顔色が変わりそうになるのを必死で押し止める。


 良かった……。物理で首を差し出したなんて話を聞いたにしては大人しいと思っていた。そりゃ、そんな事しているなんて思わないか……。良かった、ノーウェ、ファインプレイだ。ぼかしてくれて助かった。


「んー。そうだね。チャットは研究をしないといけないから出て行くかな。ティアナとドルも生活が目的だから引き留めにくいかな。他の皆で冒険者稼業かも知れなかったね」


「ふふ。それならそれでも良かったかな。私、男爵夫人とか自信無いもの。冒険者の方が気楽だよ……。んー、でも、ヒロが貴族を頑張るなら、支えるから。それは安心して良いよ」


 リズがにこやかなままで、本を閉じて、ソファーの上で腕をんーっと天井に伸ばす。


「このまま冒険者を続けていても、きっとヒロは英雄って呼ばれていたんだなって思っちゃった。今だって英雄だしね。ふふ。いつかはきっと物語になっていつまでも語り継がれるんだろうなって。私の旦那様はそんな人なんだよって叫びたい」


 リズが少しだけ濡れた瞳でこちらを見つめて来る。目を通しかけた書類を置いて、羽ペンを矢立てに戻して、ソファーにかける。


「私は私に自信が無いからね。世間で私がどのような評価かは良く分からない。でも英雄になんてなりたいと思った事は無いかな……。いや、一つだけ有るかな……」


「一つだけ?」


「たった一人。リズが私を英雄だって誇れる。そんな人間にはなりたいかな……。たった一人だけの英雄。私は、それで十分だよ」


 リズの瞳を見つめながら、淡々と告げる。その瞬間、リズの頬が染まる。


「えへへ。うん。ヒロは英雄だよ。私の、私だけの英雄。英雄様だよ」


 そう言って首に手を回してくる。


「じゃあ、リズは物語のヒロインだね」


 私も腰に手を回し、引く。顔が近付き、お互いが少しだけ顔を斜めに傾ける。そのまま唇が触れる。


「私も、エチェルティルシア様みたいになれるかな?」


「今でも十分なっていると思うけど。リズが思い続けるなら、なれるよ。きっと」


「うん……。頑張るね……。私もヒロのたった一人になれるように頑張る……」


 そうして、腰に回した手を徐々に背中に移動させて、前面に移動させようとすると……。


 扉からノックの音が聞こえて、ビクっとする。応答すると、侍女で夕ご飯の準備が出来たらしい。


「えへへ。食事だって」


 リズが手からすり抜けて、立ち上がる。うーん、なんか惜しい……。まぁ、良いか。

 私も立ち上がり、リズをエスコートして、食堂に向かう。


 ロスティー、ノーウェ、ベティアスタは政務の都合上、先に食事を済ませて、打ち合わせに戻ったらしい。調整で大わらわだろう。


「リナは寒いのは苦手なの?」


 食事を進めながら、最後まで雪合戦を見ていたリナに話しかける。


「必要が有るのならば我慢は出来るで御座るが、遊びでまで出たいとは思わんで御座るな……」


 耳をぺたんとしながら、そう答える。この世界の人は合理的と言うか、まぁ、生活に汲々としているから無駄な薪も使いたくないと言うのが本音か。


「あぁ、特に責めている訳でも無いよ。でもその考え方が一般なんだよね。冬場に働く人って大変だね」


「農家は冬場も仕事は有り申すからな……。(それがし)は無理で御座るな……。冬場は出来れば篭っていたいで御座る」


 リナが引きこもりの人みたいな事を言う。


「商家の人間も移動はするからね。まぁ、魔物も冬場は動きが大人しくなるようだし、根絶やしにするなら冬場に動く事も多くなりそうかな。男爵領の東の森の平定を考えるなら、そう言う動きが必要になってくるよ」

 

 そう言うと、リナが少しだけ嫌な顔をして、すぐに表情を戻す。


「先に言った通り、必要な事はするで御座る」


「うん。大変だけど、よろしくね」


 そんな感じで皆と話をしながら食事を終える。


 部屋に戻ると、扉の前でタロの食事を預かる。扉を開けるとタロが玩具と格闘していた。うん。良い子だ。暖炉の方で遊ばず逆の方できちんと遊んでいる。

 食事を与えると、遊んでいた分で疲れたのか、箱に戻すとすぐに丸くなる。


 雪遊びが思ったよりも疲労になっているのか、リズも欠伸をしている。


「今日はもう寝ちゃおうか?」


 聞くと、リズが頷く。


「少し疲れているのかな。雪の上で走るのって思ったり疲れるね」


「足が取られるからね。滑らないように踏ん張ったりしていると、気付かない内に体力持って行かれているからね」


 ベッドに誘導し、装備を外すのを手伝いながら、そんな話をする。


「ふふ。なんだか子供に戻ったみたい。遊んで、食べて、こんなに早く寝ちゃうなんて」


 リズがにこにこと呟く。


「リズもまだまだ子供だよ。あまり急いで大人にならなくて良いよ。ゆっくり成長したら良いよ。大人になっても良い事なんてそんなに無いしね」


 そんな事を答えながら、蝋燭を吹き消す。


「ヒロは、子供でも良いの?」


 暗闇に慣れない目でリズの方を振り向くと、唇に濡れた温かい柔らかい物が当たる。唇と感じ、そのまま抱きしめる。


「んー。大人が良いです」


「ふふ、ずるいんだぁ……」


 リズのほんのりと笑いを含んだ言葉を聞きながら、温かいものに溺れていった。

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