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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第274話 耳に痛い話と言いますが、自分を思ってくれる話なら痛くも有りません

 部屋に戻ると、消化したのかタロが暖炉から嬉しそうに駆け寄ってくる。ちょっと寂しかったのかな?軽く撫でてあげてから、ベルを鳴らす。訪れたいつもの侍女にお湯の用意をお願いする。

 んー。人間を各所に張り付けるのは無理では無い。雇用促進にもなるから、ローテーションさせる感じで監視員を置いて、何か有った時に連絡する体制は作れるか……。例えば、今みたいに訓練をしていたら、戻るタイミングを見計らってお湯の準備をしたりは出来るな……。おもてなしは日本のお家芸だ。この辺りを要件として組み込んで感動を生むか。3階以上の顧客を相手に限定してでも良いからやってみるか……。労力次第では温泉宿全体に広げても良いな……。


 そんな事を考えながら、リズと一緒にタロの相手をする。そう言えば、お手とか伏せとか取ってこいが出来るようになった。『馴致』の効果なのか、タロが賢いのか、相乗なのかは分からないが、このまま行けば良い猟犬として働いてくれそうだ。タロ、可愛いだけでは無く、自分で食い扶持を稼げるようになるのか……。良い子だ。


 扉が叩かれて、部屋にタライが運び込まれる。侍女達が目礼をして部屋を出て行く。外ではもう2組がタライを持って待機してくれている。リナとレイ用か……。自発的なサービスは出来ないが、指示に対しては応用し判断は出来る、か。優秀な部下だな……。やはり感動を生むにはもう一歩前に出ないと駄目だな。うん、方向性は間違っていない。


「なんだか、お昼から体を清めるって、勿体無い気がするよ……」


 リズが恐縮したような顔で言う。


「でも、汗をかいたままだと風邪引いちゃうよ?拭くだけなら、清めちゃうのも同じ労力じゃないかな? さっぱりするし」


「時々ヒロって貴族様みたいな事言うよね……。薪だってお金かかるよ? うわぁ……贅沢な生活に慣れたら怖い……」


 リズがずーんと言う感じで、ソファーにもたれる。日本のシャワー感覚でいるけど、沸かすのに薪はいる。まぁ、自分でお湯は生めるけど、侍女の仕事を奪うのもあれなので頼んでいるんだが……。正直、頼らなくても全く問題無く生活は出来るが、こう言う時頼るのも為政者の仕事と言うか、お客側の義務っぽいのでしょうがない。侍女も待機しているだけでコストがかかる。働かしてあげないと評価にならない。その働きをノーウェに伝えてあげたら良いだけだ。


「はは。流石、リズ。個人で生きている限りは美徳だけど、この手の施設だと、使用人の人を使って色々してもらうのも大事だよ。それを目的として働いているから、全部私達がやっちゃったら、お仕事無くなっちゃうよ?」


「そうなのかなぁ……。これに慣れないといけないのかなぁ……。ちょっと心配だよ」


 少しだけリズが暗い顔になる。汗に濡れているけど、そのまま抱きしめる。


「その資質は正しいし、素晴らしい。リズがリズで有る事。それはとても尊いものだよ。でも、人を使う事はちょっとそれとは別の視点が必要になっちゃうんだ。だから、もうお仕事だって割り切って命令してあげよう。そうしたら、相手も気持ち良く動けるから。だから、気にしないで」


 そう言うと、少しだけリズの暗さが晴れる。


「そっかぁ……。そんな世界で生きるんだね……。うん、ヒロの傍にいるって決めたからにはきちんと考え方を改める。でも、自分で出来る事は自分でやりたいな……」


「うん。全部が全部任せる必要は無いよ。それがリズの負担になるなら、本末転倒だからね。でも、少しだけ意識に含めてもらえると嬉しい。なるべく私が表には立つし、リズの負担にならないようにするよ」


「んー。また、何か抱え込ませてる?」


 リズがソファーにもたれかかりながら、上目遣いで聞いてくる。


「これに関しては、しょうがないよ。意識の持ちようだから。上に立つなら、通る道だし。ただ、慣れるまではフォローすると言うだけの話だから。気にしなくて良いよ」


「ん。ありがとう。そうだね、折角だからさっぱりしちゃおう。勿体無いよ!!」


 リズが、そう言いながら、装備を外していく。


「手伝う?」


「悪い事しない?」


「信用無いね……」


「いつも、胸とかお腹とか触るよね? 好きなの?」


「嫌いな人間はいないと思うけど」


 そう言いながら、リズの防具の各箇所のベルトを緩めていく。万歳させて、革鎧を脱がす。重装部分はリズが屈んで、ベルトを緩め、引き抜く。


「ふぅ……。すっきりした。ん、ヒロはあっち。さっぱりして、お昼食べよう」


 部屋の隅を指さされたので、タライを持って移動して、体を清める。


 服も洗濯済みのものを着込む。洗濯物は籠に入れていたら侍女が持って行ってくれる。竹籠とか今後売れたりするのかな……。職人さん、紹介して欲しいかな。


「さぁ、参りますか、姫様」


「苦しゅうない。ふふ。駄目だよ、甘やかすと、つけあがるよ?」


「リズがつけあがるのは想像出来ないかな、私の可愛いお姫様。さぁ、参りましょう」


 エスコートに左腕を差し出すと、右腕を絡めて来る。


「ヒロ、ありがとう……」


「リズ、私こそ、リズがいてくれて嬉しい」


 そんな事を話しながら、侍女に先導されて食堂に向かう。


「おぉ。こんにちはだな。食事かな?」


 ベティアスタが食事を終えたのか、食堂から出て来るのに鉢合わせる。


「もうお食事は終えましたか?」


「うむ。アキヒロ殿の献策を実行可能なものに変えなければならないのでな。その辺りの手伝いをしている故、食事はさっさと済ませた。ノーウェ子爵はまだ中におる。ではお先に」


 そう言うと、侍女と一緒に部屋に戻っていく。ベティアスタも忙しそうだな……。まぁ、私の所為か。


 食堂に入ると、ロスティーとノーウェが向かい合わせで食事を取りながら、話をしている。


「おぉ、我が孫か。丁度話が有った。まぁ、座れ」


 ロスティーに誘導されて、席に座る。隣にリズが腰かける。


「リズも聞いて良い内容でしょうか?」


「政務の話では無いからな。まぁ、良い。奥方も知っておいた方が良いだろう。ノーウェ」


「はい。父上。これって気を悪くしないで欲しいんだけど。君って、ちぐはぐなんだよね」


 また第一声から、厳しい言葉だ。ちぐはぐ?目の前に食事が並べられる中、話に耳を傾ける。


「今回の献策は見るべきものが多い。と言うか、この発想はこの国で為政をしている限り生まれない。まずそこに興味は有る。でも、それ以上に何というか、解決策は知っているけど、過程を知らないと言う印象を強く受ける。これ、何らかの教育を受けた人間に良く有る特徴だ。と言う事は、君がそう言う高度な教育を受けたのだろう事は分かる。ただ、それがそのまま為政に反映出来るかと言えば否だ。現実はもっと複雑だからね」


 ノーウェが食事を取りながら、言ってくる。ロスティーも頷いていると言う事は同意見か。リズはちょっと反応出来ていない。


「そうですね。私は為政者の経験が有りません」


「うん。男爵だからね? 為政者経験が有ったらおかしいけど。はは。まぁ、そう言う意味で現実と君の中の知識を擦り合さないといけない。これがまず一つ」


 ノーウェが指を1本立てる。


「次に父上から聞いたけど、首差し出したよね? 聞いてびっくりしたよ。父上は優しさって言ってるけど、個人的には甘さ……いや、甘えに映る。これ、こっちが手を出さないって思って試したでしょ? 切るなら切るでこっちの感情が晴れると思ってたでしょ? 何でそんなもの抱え込むかな? 陛下の身内は父上だよ? 君に関係は無い。献策した責任は有るかも知れないが、それは呑んで実行するこっちの責任でも有る。前にも手紙で書いたけど、君は子だ。父上にとっては孫だ。そこは信じて良いよ。他人を無条件に信じられない人生を送っていたのかもしれないけど、そこは信じて欲しい。これも一つ。いや、抱え込みの問題も有るから二つかな」


 ノーウェが指を3本立てる。


「最後に、これは各所からの報告だから、ちょっと曖昧だけど。君、奥方に甘え過ぎ。と言うか、彼女も人間だよ? 神様じゃないんだから、何を崇め奉っているの? 夫婦の話だから口出しはしたくないけど、これから為政者としてお互いに助け合わないといけない場面は幾らでも出て来る。まぁ、結婚していない私が言っても説得力が無いけどね。それでも、信頼してあげなよ。君が選んだ伴侶だろ? 報告を聞いている限り、君のは何と言うか、縋り付いている感じがする。それは健全じゃ無い。これで四つかな」


 ノーウェが指を4本立てる。


 最後の言葉を聞いたリズが少し俯き、眉根に皺を寄せる。怒っていると言うより、困惑して、後悔している感じか。うん、依存か……。そうだね、愛と依存の境界線は酷く曖昧だ。でも、依存している部分は有るな……。


「耳が痛いですが、はい。お聞きしている限り、自覚は有ります」


 神妙な顔で答える。


「うん。まぁ、直していけば良いだけだしね。これから子として活躍してもらう。そう言う意味で稀有な才能、有能さは既に発揮してきた。でも、そこと現実に乖離(かいり)が有る。こっちが後ろに立てる時は良いけど、君一人で立ち向かう時に絶対大きな後悔を生む。そんな未来は見たくないんでね。なので、ちょっと教育させてもらう事にする。これは強制。否は無し。飲む事」


 ノーウェがいつものニヤニヤ笑いで言う。しかし、はぁ、もう35歳にもなって、ここまで人間として小さいか……。そこにはちょっと絶望しそうだ。


「アキヒロよ。まぁ、人なぞ一朝一夕で成長する訳では無い。お前もまだ男爵未満ぞ。これを機会とせよ。儂らもお前の献策の処理で詰めねばならぬでな。教育の良い機会だ。明日以降は時間を貰う」


 ロスティーが苦笑いをしながら、食事を進める。


「あの……」


 そんな中、リズが声を上げる。


「ん? 何かな? リズさん」


 ノーウェが優しく声をかける。


「ヒロは……そんなに為政者として、ふさわしく無いのでしょうか? 無理な事をしているのでしょうか? 私の為とは申しません。ただ、無理をしているので有れば、色々考える事も有ります」


 あぁ……。この話だと、心配するよな……。正直会社でこの程度の話は慣れているので全く気にしなかった。是正対象を明確に提示しただけだ。叱責でも何でもない。と言うか、ノーウェ、気を使いすぎ。


「いや。全く。無理をしているかは本人次第だけど、あまり無理している感じでも無いよね? ふさわしいかふさわしく無いかで言えば、ふさわしいよ。うん、それは私が保証する」


「ならば……」


「うん。ただ、場数が足らないのと、ちょっと考え方に偏りが有るのが問題なんだ。そこをきちっと自覚しないといけない。それはリズさんの為でもある」


「私の……ですか?」


「うん。君が良い女性なんだろうね。それに頼り過ぎちゃっているんだ、彼は。それは是正しないと、どこかで共倒れになる。リズさんがいなくなったら死んじゃうなんて言う為政者は怖いしね」


 ノーウェが苦笑いで言う。


「はぁ、まぁ言いかねないと思われても仕方ないですね」


 私も苦笑いで答える。


「ヒロ!! そんな事考えているの!?」


 リズが激昂する。


「物の例えだよ。大丈夫。でも、リズを失いたくないのは本当だから」


「もう……」


 膨れながらも、落ち着きを取り戻す。


 そこからは雑談をしながら食事を進めていく。いやはや、自分の悪い所を明確に言われるなんて久々だな……。ありがたい話だ。きちんと矯正していこう。そう思いながら豪華な食事を楽しんだ。

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