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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第271話 悲しい時に飲むお酒は悪いって言いますが、飲まなきゃやっていられない事も有ります

 若干の雑談と、今年の予算会議の内容などをロスティーから聞く。


「我が孫の領地分で、国中の金が動いているからな。どこも増収増益だ。西側の一部までは恩恵が行っておらんが親の方には儲けは入っている。それを回して機嫌は取るだろう」


 ロスティーが先程までの張り詰めた顔では無く、若干緩んだ顔で言う。


「そこまで影響が出ますか? 木材、石材辺りの材料関係の領地には影響が出ると見ていましたが」


「あぁ、それは簡単。落札した商会が色んな領地から態々(わざわざ)材料を集めている。景気浮揚策って分かっているからね。その辺りも含めて予算は多めに用意されている。今回の場合は飛び抜けちゃっているけど」


 ノーウェが若干苦笑いで言う。


「貨幣の価値が相対的に上がった所為で、他国の産物も安く入ってきている。そう言う意味では、それを加工して外に売る故、儲けは大きくなるな。このままの流れなら、財政は大きく回り始める。やっと一息吐けるな」


 ロスティーがやれやれと言った顔で、溜息を吐く。確かに、バブルだけでは心許無いが、加工品の輸出と言う柱が有るので、このまま貨幣価値が上がって例えバブルが弾けても、ソフトランディングは可能だ。


 その後も色々と近況などを聞いていたが、扉が叩かれ執事が入って来てノーウェに耳打ちをする。


「父上、政務と軍務が集まったようです。至急会議を開きます」


 ふむ。先程の話の続きか。私は出て行った方が良さそうかな。


「では、私は部屋に戻ります」


「うむ。ベティアスタには儂から話はしておく。どうも気にしておったようだしな。それにあそこの息子はまぁ、それなりに切れる。良い男だしな。ベティアスタも喜ぶだろう」


 確かにベティアスタも政略結婚の話をする時にあまり悪い印象を感じなかった。ふむ。好き合ってるなら良い話じゃ無いのかな。父殺しになっちゃうけど。まぁ、そこはロスティーに被ってもらう。


「分かりました。よろしくお願い致します」


 そう告げて、辞去する。部屋に戻る際に窓を見たが、もう夕焼けだった。結構、長い時間話したな。

 部屋の扉を開くと、ベッドの上で、リズとタロがじゃれ合っていた。きちんと足は拭いているから、良いかな。


「あ、ヒロ。おかえり。話は済んだ?」


「うん。取り敢えず解決案は出してきた。詳細は後で話すけど、1点だけ。法衣だけど子爵になるって」


「へ? あれ? まだ、男爵のお仕事もしてないよね? 何故、子爵なの?」


「んー。法衣だから、領地はそのままだよ。ちょっと国の政治に絡む仕事をしないといけないから、法衣子爵になれって」


「はぁぁ……。凄いね……。んー。私も色々しないと駄目?」


「今、特別に何かは無いよ。それに貴族の配偶者って、基本的に内向きの仕事ばかりだよ。政務は私がやるし。有るとしたら、お客様の対応とかかな?」


「それも覚える事多そうだね……。あー、お母さんのでもう、頭沢山なのに」


「はは、まぁ執事や侍女がいてくれるから、程々からで大丈夫だよ。さて、夕食まで少し時間が有るから。散歩に行こう」


 そう言って首輪とリードを取り出すと、タロのしっぽがマックスに振られる。


『まま!!さんぽ!!いぬ、いる?』


『犬はどうかな、居ないと思うよ』


『うー、ざんねん』


 おぉ。残念とか覚えたのか……。いつの間に……。まぁ、偶に変な言葉教えたりしてたか


 首輪を嵌めて、リードを持ち、領主館を出る。『警戒』で見ると、すぅっと侍女が部屋に入ったので、タロの敷布洗ってくれるのかな……。良いのに、気を使わなくても。


 領主館を出て、昨日とは違うコースを歩く。タロは興味深そうにクンクンと嗅ぎまわる。


『まま、ここ、はいるの、だめって』


 柵の柱を嗅いでいたタロが、キャンと鳴く。抱きかかえてやや移動してから、そっと下す。そのまま、また進んで行く。


「偶にタロを抱きかかえるけど、どうしてなの?」


「他の犬か狼が自分の縄張りを主張しているからかな。それを通り抜けるまで抱えているよ」


 まぁ、そのまま引っ張っても良いんだが、タロに変なトラウマが残るのも嫌だ。

 と言うか、足を上げて尿をするのはかなり先か……。昔飼ってた犬も1歳を超えてからだった記憶が有る。


 リズと話しながら、のんびりと歩く。太陽が緩やかに静かに沈みながら、赤を強く輝かせる。世界が赤に染まる中、リズとタロが浮き上がって見える。あぁ、ゆったりした時間って幸せだな。


「どうしたの? 優しい顔しているよ?」


「ん? いや。リズ達とゆったりした時間を過ごせるのは幸せだなって」


「そっかぁ……。ん。ありがと。私も、幸せ。ヒロと一緒に居られて幸せ」


 そう言って、微笑み合う。暫く町の外周を歩き、暗くなる前に領主館に戻る。


 部屋に戻り、タロを箱に戻し、リズと暖炉の前で今日の話を掻い摘んで説明する。 


「んー。難しい部分は分からないけど、王様は変わっちゃうんだね」


「そうだね。公爵閣下の兄上だけど、今回の失態は取り返しがつかない。このまま行けば、東の国と終わりの無い戦争をする事になる。それは避けないといけないから」


「そうなんだ……。でも、公爵様……切ないね。お兄様が殺されるって。私もアテンお兄ちゃんが死んだら、悲しいよ……」


 私だって、妹が死んだりしたら、悲しいじゃ済まない。それをロスティーに強いたのだ……。


「うん。きちんと、公爵閣下には謝っておく」


「ヒロが悪いのかな……。難しい。でも、ヒロも悲しい顔をしている……。ヒロの所為じゃ無いのにね……。これからヒロは、そうやって、ヒロの所為じゃ無い事で悲しみ続けるのかな……」


「かもしれない。でも、それでもリズと幸せな世界で暮らしたいと思っている。だから、悲しもうが前に進むよ」


 そう言いながら横を向き、リズに口付ける。


「もう、そう、決めたから。だから、一緒に居て欲しい、リズ」


「ん。私も支える。ヒロに悲しい顔をさせたままにはしない。帰れる場所になる」


 あぁ、女の子ってやっぱり強いや。敵わないな……。


 そうして雑談をしていると、ノックの音が聞こえる。侍女より夕食の旨が伝えられる。


 食堂には、ロスティー、ノーウェ、ベティアスタがいない。まだ会談中か。


 仲間と共に、夕食を楽しむ。今日もまた豪勢だ。本当に気を使われている……。


 部屋に戻り、タロに食事を与える。水を生み、飲ませていると、リズが欠伸をする。


「ん? 眠い?」


「んー。暖かいからかな。眠くなっちゃった」


 暖炉は赤々と燃えて、温もりを広げている。体は清めたので、ベッドにリズを寝かしつける。


「ん? ヒロは?」


「少し資料を読んでから寝るよ。先にお休み」


 リズの頭を撫でて、手を握る。暫くすると安心した顔で寝息をたてる。


 トイレにと思って部屋を出る。戻ってくる際に、ふと『警戒』で探すと、ロスティーが一人で応接室にいる。ふむ、少し話はした方が良いかな。


 応接室の扉をノックすると、ロスティーの応答が聞こえたので、中に入る。


「夜分遅く失礼致します。ロスティー様お一人ですか?」


「ふむ。少しな。まぁ、座れ」


 ソファーを勧められたので、そのまま座る。テーブルにはワインのボトルと杯が置かれている。珍しい、確かロスティーは好んでは飲まなかった筈だ。まぁ、そうか、好まない状況か。

 そう思っているとロスティーが合図を送り、執事が新しいボトルと杯を持ってくる。

 手酌で注ぎ、杯を上げる。


「今日は世話になった。話を聞いた時は今後の長き泥沼も覚悟した。打開案を出してもらって本当に助かった」


 ロスティーが杯を空けると吐き出すようにそう言う。ボトルを傾け、ロスティーの杯を満たす。


「私は何も考えず、案を言っただけです。その所為でロスティー様の兄上様を……」


「それ以上は良い。その気持ちで十分だ。それは儂が背負い、墓場まで持って行くものだ。アキヒロ、お前が背負うものでは無い」


 ロスティーがそう言うと、杯を傾けワインを含む。私も杯を傾ける。


「兄上はな……。昔から自信家で、嘘をついては皆を困らせていた。しかしな、2人の時は面白おかしい話をしては笑わせてくれたものだ……」


 ロスティーが何かを思い出すように、目を瞑り、話し始める。


「儂は昔から政治に携わるのだと諦めて、政務に励んだ。面白かろうが、面白く無かろうが、それが儂の使命だと思っておった。兄上は天真爛漫に遊び呆けておったな。劇場に行っては新しい芝居の話を、湖に行っては、女子(おなご)の話を。ふふ、常に人生を楽しんでおられた」


 ロスティーの表情がやや柔和な微笑みに変わる。


「夜毎に語る兄上の話は本当に愉快であった。あのように生きられればと思う事が無い訳では無かった。まぁ、叶わぬ夢と諦めた。儂が北に赴任してな。北の地はそれはそれは難儀でな。小麦の一粒でも宝石の一欠けらのようなものだった……。もう何年だろうな、今日死ぬか、明日死ぬかと思いながら耐え忍び、生き長らえ、ここまで来た。今となってはあそこを治められるのは儂しかおらん」


 ロスティーが肩を落とす。


「そんな時だな。父上に病が見つかったのは。もう手が付けられんと言う話でな、後継を決めねばならなくなった。儂か兄上か。兄上は儂を推したが、北の地が有るのでな。国として手放せん。故に兄上が王となった。不本意であっただろうな……。あの自由の塊がディアニーヌ様の教えに従う訳が無い。はは。案の定、碌に話も聞かず、そのまま王になった。本当なら落第だがな。儂らが担ぐと言う事で許して頂いた……。あれから兄上なりに王として生きてきた……。やりたい事も我慢し、やりたくも無い事をやってきた」


 ロスティーが杯を置き、両手で顔を覆う。


「暗君か……。すまんな……。全て我らの所為なのだろう……。しょうがなしで担ぎ上げられた兄上の所為では無い。担ぎ上げられねば、役者にでもなって幸せに生きておったのかも知れぬ……。それを追い詰めた……。兄上が王になっておらねば、幾十万の民をより豊かに出来ていたのかも知れぬ。それを許したのは儂らだ……。本当に、今の民に申し訳が立たん……。それでも、それでも、兄なのだ……」


「ロスティー様。この件を献策致しましたのは私です」


 腰から鉈を抜き、テーブルに置く。


「私は妻と添い遂げると約束しました。だが、それが祖父の兄を殺し、作られた道と言うのなら。祖父に殺されるのであれば、申し訳も立ちます。どうぞ、一思いに」


 そう言って、下を向き、首を差し出す。


「アキヒロ……。我が孫よ……。そうでは無い……。そうでは無いのだ。その気持ち、痛い程分かる。自分が許せぬのだろう? また、儂を思うてくれる、その気持ち、ほんに、ありがたく思う。だがな、こればかりは何をしようと晴れぬのだ。これが(まつりごと)、これが為政なのだ……。アキヒロ、生きよ。生きて妻と添い遂げよ。そして、その子を儂に見せてくれ。儂は、その未来を夢見(ゆめみ)て、兄上を切る。それが、儂の、為政者としての生きる道なのだ」


 首を上げると、ロスティーの覆った手から、零れ落ちるものが見える。


「すまぬの……。今日だけは、許してくれ……。あぁ……兄上……兄上……申し訳ありませぬ……。ほんにご苦労をおかけ致しました……」


 ロスティーはそう言うと、声も無く、ただ静かに佇み零れ落ちるのに任せ体を震わせる。 


 暫くの時が経ち、静かに覆った手を外す。懐よりハンカチを取り出し、顔を拭う。


「弱い所を見せた。不安にもなろう。すまんな……。しかし、儂も人でな。助かった。少し、気持ちが晴れた。このような事、ノーウェには話せぬ故な。はは、孫に話す話でも無いか……。ありがとう。例えお前が儂を試したとしても、その気持ちはありがたく受け取る」


 顔には出さないが、その台詞に舌を巻いた。ばれていたか……。正直、兄を殺す献策をする部下だ。どこかで復讐をされる恐れは有る。故にこの場で白黒をはっきりさせようと考えたが、お見通しか……。敵わんな……。


「いえ、試す気は有りませんが、思う所は有ろうかと思いました。それでも先を見て頂けるのであれば、祖父として今後も尚お尽くし致します」


「そのように固い話では無いわ。儂の子はどれも子を作らん。折角出来た孫ぞ。お前が子を為せば曾孫だ。儂にも人並みの欲は有る。それを望む事ぐらい楽しませよ」


 ロスティーがそう言うと、強張った顔を微笑みに変える。


「さぁ、飲め。酒は好まぬが、今日くらいは飲んでも良かろう。兄上を弔うとしよう」


 そう言うと、ロスティーが杯を上げる。私も合わせて、杯を上げる。


「残念ながら、一度もお会い出来ず仕舞いでした。それでも、許されるなら、弔いとして」


 お互いに杯を合わせ、そのまま飲み干す。


「はは。孫と杯を交わすか。夢が一つ叶ったな。曾孫と交わすならばもう一つか。期待しとるぞ」


「今年中は難しく思います。まぁ、来年ですね。生まれれば一番にお知らせします」


 そう言いながら、それぞれの杯に注いでいく。


「おぅおぅ、楽しみだ。もう妻も歳でな。また赤子の顔を見られる機会が来るとはな。楽しみにするぞ」


「はい。頑張る事に致します」


「まぁ、焦るな。儂とてまだまだ引退する気は無いのでな。男爵領の話は聞いた。かなり愉快な事になっておるそうだな。はは。そうやって新しい愉快な物が出来るのだ。早々に引退などしておられん」


 そう言うと、杯を呷る。合わせて私も呷る。


「のう。一つ、仮定の話をする」


「はい。何でしょうか?」


「ノーウェが、儂がこの国におらねば、お前はどうしていた?」


 それぞれの杯に注ぎ直し、答える。


「妻を連れて出奔していたでしょうね。少なくとも、面白き事無き国でしょうから」


「ははははははは!! そうか!! 僥倖よのう。儂は幸せなのだな。お前を、アキヒロを我が孫と出来た事が」


 ロスティーがそう言うと、再度杯を上げる。合わせて、私も杯を上げる。


「どうか、末永き時を共に有らん事を。血よりも尚濃き、この出会いに杯を捧げん」


 ロスティーが謡うように囁く。


「遍く神にこの出会いを感謝致します。どうかこれよりの働きにより、その導きの正しさを証明致しましょう」


 私も神への感謝を謡う。


 そうして、祖父との杯の交わし合いは、終わる事無く続いた。杯を重ねる毎に払拭される悲しみに、杯を止める事なんて出来なかった。ごめんな、爺ちゃん。悲しませちゃったよ……。ごめん……。

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