第24話 初めて黒魔でパーティーに入った時に基本座ってて下さいと言われた絶望
直径30cmの球体の風の塊を5mmくらいまで圧縮するイメージを浮かべる。
「属性風。圧力定義。形状は頭の2mmが凹んだ半径5mm高さ7mmの円錐。右手人差し指前方10cmに固定。前方に向かい射出、速度は時速300㎞。実行」
直径30cm程度の木の中程に当たった瞬間、グギャッっとくぐもった音が聞こえ、破片が舞い散る。
ここは北の森に向かう途中に有る林。薪炭木も無い為、練習場に使わせて貰う。
近づき、風弾が当たった部分を確認する。
表面は10cm程度の穴だが、中の方に指を差し込むとその倍以上が抉れている。
圧縮から解放された風が逃げ場が無い為なのか、奥の穴全体から、罅が広がっている。
「これ、対人戦じゃ絶対に使えないな。スプラッターだ。何かあった場合の切り札にしよう」
先程と同じ圧縮イメージだが、そこまで頭が怠いという感じはしない。
これが、パーディスの言っていた慣れなのかな。
検証してみるか。
「自己認識を実行する」
◇スキル情報◇
『識者』
『認識』
『獲得』
『隠身』0.12
『勇猛』0.20
『フーア大陸共通語(会話)』0.23
『フーア大陸共通語(読解)』0.07
『フーア大陸共通語(記述)』0.01
『槍術』0.18
『警戒』0.34
『祈祷』1.20
『術式制御』1.12
『属性制御(風)』1.33
『警戒』がかなり上がっている。採取の際の襲われないように注意しているのが出ているのかな。
『祈祷』がたった一回で結構上がっている。あれだけフランクに話してれば、それも有るか……。
『術式制御』も上がっている。きちんと教えて貰いながらだと上りも良いのかな。
『属性制御(風)』はかなりの上昇。風しか使えないからだけど、頑張った分が返ってくると嬉しいな。
「自己認識を解除する」
取り敢えず、慣れと『術式制御』の両輪で鍛えるしかないか。
ちなみに、他の形状も試してみようかな。
直径10cmの球体の風の塊を1mmくらいの球まで圧縮するイメージを浮かべる。
「属性風。圧力定義。形状は厚さ0.5mm縦10cm横40cmの板。右手人差し指前方10cmに固定。前方に向かい射出、速度は時速100㎞。実行」
先程とは別の木に向けて、放ってみる。
カコンっと高い音が聞こえる。折れたりはしない。近づいて見ると木の半ばまで切れ込みが入っている。
「斬撃も可能なのか。でもこれも対人だと大分危ないな。生身だと間違い無く切り飛ぶ」
ふと頭の怠さが出てくる。先程まででは無いが、きつい。
「魔術士の人大変だな。後衛職は弓とかで魔術士はここぞの固定砲台扱いじゃないと、使い物にならないな」
昔のMMORPGの魔法使いのMP管理を思い出した。休憩していて良いよって言われたけど、忙しい性格なのでもやもやしてたな。
時計を見るとお昼を過ぎていた。思ったよりも練習に熱中していたようだ。
取り敢えずお昼ご飯を食べに行き、アスト宅で牽制魔法とグレイブの練習でもするか。
村に戻り、酒場以外では唯一の食堂に向かう。
「いらっしゃいませ」
元気な女の子が出て来る。
お昼は決まった定食だけっぽい。
お願いすると、直ぐに出てきた。
鳥腿のソテーと色々なクズ野菜のスープ、小麦パンだった。
ソテーはこんなものかなと。スープは野菜だけかと思ったら、ベーコンがちょろちょろ入っており出汁が利いていた。
小麦のパンは久々に食べるが、発酵が足りないのか酵母の所為なのか、ちょっとパサパサとして食べにくいのでスープに浸けて食べる。
お腹一杯。満足です。
「ごちそうさまです」
「はーい。お愛想ですね。600ワールになります」
5,000ワール硬貨を渡し、1,000ワール硬貨4枚と、100ワール硬貨を4枚受け取る。
「ありがとうございました。またのご来店を」
元気な女の子に見送られお店を出ると、晴れ間が広がり始めていた。
雨の中、訓練の続きをせずに済むのは助かる。
そのままてくてくと、アスト宅に戻る。
「ただいま戻りました」
ドタドタとリズが出迎えに出て来る。
「おかえりなさい。どうだった?教えて貰えた?」
「うん。良い先生だったよ。教えて貰って良かった。助かったよ」
「そっか、良かった。後で、見せて貰っても良い?」
「アストさんのお手伝いは、どうしたの?」
「あは、あははは。頑張ってきます……」
トボトボと納屋の方に戻っていく。
さてと、まずはグレイブもどきの訓練からかな。
庭に出ると、一昨日と同じく米をイメージしながら素振りを繰り返す。
無心に素振りを繰り返していると、人の気配を感じる。ふと顔を上げるとリズがこちらをぼーっと眺めていた。
「おーい、手伝いは?」
ちょっと呆れ気味の苦笑で、聞くと赤い顔をしながら近づいてくる。
「うん。やっぱり頑張ってる姿は格好良いよ」
にこやかに微笑みながら触れるようなキスを置き土産に、また納屋の方に戻っていく。
うん。この甘やかさは青春だな。もう20年以上前に置いて来たけど。
取り敢えず、改めて素振りに没頭する。体中から汗が噴出し、腕もガクガク。でも今回は50分程は耐えられた。
これが覚悟を決めた男の生き様か。20分延長しただけだけどね。
納屋にいるアストさんに何枚か廃材を貰い、的にする。
取り敢えず、牽制と言う事は必殺を望まず手足に当てて動作を殺せば良いと。
小さな礫が撃ち込まれるだけで、動きが鈍るしな。
直径10cmの球体の風の塊を5mmくらいまで圧縮するイメージを浮かべる。
「属性風。圧力定義。形状は半径5mm高さ1cmの円錐。右手人差し指前方10cmに固定。前方に向かい射出、速度は時速300㎞。実行」
厚さ5cmの廃材の半ばまで穴が開いている。んー。ちょっと威力が不安か。イノシシの皮を抜いて脂肪で止まる感じだな。
ここはライフリングを試してみるか。
直径10cmの球体の風の塊を5mmくらいまで圧縮するイメージを浮かべる。
「属性風。圧力定義。形状は半径5mm高さ1cmの円錐。右手人差し指前方10cmに固定。前方に向かい錐もみ回転を加え射出、速度は時速300㎞。実行」
バスッと抜けた音が聞こえた。廃材を見ると、貫通している。
後は、形状や飛ばし方、速度を変えながら微調整を繰り返していった。