第264話 昔、気になって胸の大きな子に聞いてみましたが、予測すると答えられました
旅の疲労と昨夜の事も有ってか、若干寝過ごした。窓を開けると太陽が半ば以上顔を出している。昨晩見た通り、雲一つない。2月8日は晴れだな。リズもタロもまだ寝ている。
キッチンに向かうと、もうティーシアが朝の支度をしていた。
「あ、肉屋の仕込みで捨てる内臓を貰って来たわ。タロにあげてね」
配達を含めて、もう肉屋まで行って帰ったのか……。流石主婦。朝も早いし、行動も早い。
「ありがとうございます。リズは起こしますか?」
「あ、お願い出来るかしら。あの子もそろそろ自分で起きて欲しいのだけど」
「あはは。まぁ、旅の疲れも有りますから。では起こしてきます」
タロの朝ご飯を皿に盛り、部屋に戻る。リズが起きないのは理由が有るので、何とも言えない。
部屋に戻り、タロを起こす。昨日のごたごたの所為かタロもちょっと疲れ気味なのかな?待て良しで食事を与えて、リズを起こす。
「ぬぅぅぅ。眠たい……。えぇ……もう朝ぁ……? 寝た気がしないよぉ。ふぁぁぁ」
大きな欠伸をしながら、リズが目をトロンとさせて答える。可愛いけど起こして来いと言われたので起こす。
「ほら、ティーシアさん待っているよ? また怒られるよ?」
「あー、それは嫌だー。起きる……。ちょ、くすぐったい……。ずーるーいー、くすぐるの無しー。こらっ。ヒロ!!きゃー、分かった、起きる、起きるー」
色々さわさわしていたら、起きてくれた。簡単に身支度を済ませ、リズがキッチンに向かう。
タロの皿に水を生み飲ませる。飲み終わると、遊んで?と言う顔でこちらを見上げてしっぽを振る。くっ……媚びを売る雄狼に育つなんて……。折角なので、服飾屋で結ってもらった引っ張り紐を取り出して体に擦り付ける。タロがきょとんとした顔をしているが、目の前で揺らすと噛みつきにかかる。それを避けると、もう本気だ。前脚も含めて噛みついてくる。噛みついたら、引っ張り合いになる。歯を傷めない程度に引っ張り合ってタロが音を上げるのを待つ。程無くして諦めたので渡すと、食いちぎる感じで遊んでいる。歯磨きにもなって丁度良いかな。結構丈夫に結ってくれたので早々には壊れないだろう。
リズの声が聞こえたので、リビングで食事を取る。
「じゃあ、また出て行くのかしら?」
ティーシアがノーウェの町に出向く旨を伝えると、聞いてくる。
「はい。今回はそう長くは無いです。どう見積もっても6日はかからないと思います」
「忙しいのね。体には気を付けてね」
若干の苦笑を浮かべながら、ティーシアが言ってくれる。アストも黙々と食事を取りながらも気にはしてくれているようだ。
食事を終えて、アストを見送り、リズの準備を待つ。
「結局昨日は採寸出来たの?」
「うん。あの後、宿で採寸までは終わらせたよ。リナも一緒に。ドルも最終はベルトで調整するから大丈夫って言ってた」
「そうか。いや、先に採寸に行かないといけないかなと思っていたから。助かったよ」
「朝からバタバタするの面倒だしね。ん、準備出来たよ」
そう言って、装備の装着を完了したリズが立ち上がる。グレイブと槍、腰の銛もどきは用意済みなので、荷物を背負い、タロの箱を抱えて玄関を出る。
「では、行ってきます」
見送るティーシアに手を振り、ギルド前に向かうと、リナが準備完了で待っていた。
「おはよう、採寸も無事完了したって?」
「おはようで御座る。某の胸だとかなり形状がややこしいかと思ったで御座るが、腹側と背中側で調整してくれるとの事。あまり余裕を持たされると、下が見えぬので御座るよ」
あー。巨乳あるあるだ……。ある一定値を超えると、下が見えない。偶に巨乳の子が何も無さそうな所で転んだりするが、ドジっ子では無く、本当に見えずに躓いている。
そんな感じで採寸の話や重装のデザインで盛り上がっていると、馬車が近付いてきた。
「おはようございます。男爵様。本日もお元気そうでなによりです」
レイが馬車を止め、御者台から降りて目礼をしてくる。挨拶を返し、馬車の入り口側に回る。
「おはようございます、ベティアスタさん。昨晩はゆっくり出来ましたでしょうか?」
「おはよう、アキヒロ殿。野営が続いておったので、久方ぶりにゆっくりと暖かに休めた。これも送ってもらった故。助かった」
目礼をしてくるので、それを止め、馬車に乗り込む。
「では、参ります」
レイが馬の上で軽く鞭を鳴らす。緩やかに村の中を進み始めた馬車は一旦村を突き抜けて、旋回して、ノーウェの町に向かう。
「しかし、昨日も思ったが、この新型は良いな。揺れが緩やかなのは本当にありがたい。後、この柔らかい、クッションと申したか? これも助かる。湯たんぽか? これもそうだ。馬車の旅など狭い中での苦痛との勝負と思っていたが、中々快適だ」
「この馬車もノーウェ子爵様よりの賜り物ですので。積載と走行距離も増えるとの事で、今後はこの規格で量産を進めるとの事です」
「あぁ、ノーウェ子爵は王立研究所とも懇意だったか……。やはり知識は力か。父も、もう少し目線を上げてくれれば良いが。難しい物だな」
「海への進出、新規の船の造船等、ご活躍の噂はお聞きしておりますが?」
「あれも苦渋の決断だ。南側は作物の植生が違うので、麦類も既存のやり方が中々通用しないのだ。先住の貴族も開明派以外で情報も貰えぬ。細々と知識を貯めながら、魚で飢えを凌いでいる状況だな」
「そうですか。ご苦労も有るのですね。しかし、造船は大工の質を上げるには最適かと。建築関係には色々と良い影響が出るでしょうね」
「聡いな……。ノーウェ子爵が要とするにも理由は有るか……。船に関しては水が漏れぬように仕掛けを施す。その辺りが北方の家作りの際に好評でな。ロスティー公爵閣下には懇意にして頂いている」
あぁ、木造住宅の気密性を上げるか。木組みと塗装技術か。外壁を塗れない家でも塗装でカバー出来るなら安価で暖かい家が建てられる。爺ちゃんも考えているな……。
「しかし、昨日もこそこそと色々隠しておったようだが、盗みはせんよ。どうせノーウェティスカまで丸1日の旅程。気楽に構えれば良い。特許は出しておるのだろう?」
「はは。分かりますか? 折角ですし、少し遊びますか」
流石に急いで隠したのはバレるか。まぁリバーシは国内でも流通が始まっている。チェスもそろそろノーウェが出し始めるだろう。このくらいなら出しても構わないか。
荷物から、リバーシとチェスを取り出す。チェスはリズ達に、リバーシはベティアスタの前に置く。
「ロスティー公爵閣下にお渡しした、リバーシの原案がこちらになります。どうです、少し遊びますか?」
「ふむ。話には聞いていたが、これが実物か。しかも発案がアキヒロ殿とは。確かに閣下の紋章は入っておらぬか。引き出しが多いな」
「いえいえ、それほどでも。では遊び方を説明致します」
上手く興味を逸らせたようで良かった。嘘ではないが全部でも無い。『リザティア』の為に、ここで披露する訳にもいかないので、程々にと言う感じだろう。
合間合間にカビアと報告書の確認と調整をお願いする。ベティアスタも頭が良いのか先を読む為、長考が多い。その隙間にカビアと話をする。リズ達は黙々とチェスを楽しんでいる。2人ともトランプやバックギャモン派なので、新鮮に楽しんでいるようだ。
「ふぅむ。良く出来ておる。遊ぶ感覚と言うのも久方ぶりで楽しいが、考えても先が読めぬのが楽しいな。これは確かに売れる。ノーウェ子爵も良い子を持ったな」
ざっと3戦程しての感想だった。馬の休憩を挟み、昼食も軽く済ませ、順調にひた走る。ベティアスタもリバーシに慣れたのか、徐々に長考からビシビシと指し始める。これならノーウェも新しい相手が出来て喜ぶんじゃないかな?まぁ、先に解決しないといけない事は多いけど。
そうやって、時間を潰していると見覚えの有る景色が近付いてきた。雪は残っているが、間違い無いだろう。
「男爵様。そろそろ町に到着致します。領主館の前に着けますので、もう少々お待ち下さい」
「ほぅ、もうそんな時間が経ったか……。時間を忘れておった。これは危ないな……」
若干ベティアスタが呆然とした顔で呟く。まぁ、娯楽に慣れていない人間だとこんな感じだろう。
「レイ、寒い中悪いがもう少しだ。よろしく頼む」
そう声をかけると、前方を向いたまま目礼が返ってくる。さて、視察旅行以来のノーウェだ。色々現況も確認したい。時間が空いていれば良いが。まぁ、先触れで調整してもらおう。
暫くして、町の入り口に到着する。手続き後門をくぐり、ちょっと懐かしい領主館前でカビアを先触れに出す。
さて、交渉の始まりかな?