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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第259話 貴族の子供だからと敬う必要は無いですが、何かの重要ポストに就いている可能性は有ります

 そのまま、ポカポカとお布団に潜り込み、就寝する。リズも移動で疲れているのか、布団に入った瞬間、意識を失っていた。私も書類を見る気も無くなっていたので、布団の中で即座に意識を飛ばした。


 部屋の寒さに目が覚める。従業員部屋なので、暖房器具も無い。流石に温泉効果も一晩はもたないか。窓を開けると、小雪が舞っていた。2月5日は雪かな。レイに苦労をかけるな……。そう思いながら丸まっているタロの毛皮を直そうとすると、丁度起きてしまった。


『まま、あそぶ?』


 しっぽを振りながら箱から前脚を出して、抱っこをせがむポーズだ。甘えん坊になっちゃったな。人魚さんの子供達にはお兄さんぶって遊んであげていたのに。そのまま引きずり出して、引っ繰り返し、お腹をわしゃわしゃっと撫でまわす。


『あふ……まま、もっと……』


 しっぽを最大限に振り、おかわりを要求してくる。しょうがないので、落ち着くまで続ける。くたぁとなって大人しくなったので、箱に戻す。


 食堂に向かうと従業員の皆さんは既に活動中で、忙しなくパタパタと働いていた。通りかかった子にタロの食事の旨を告げると、用意をするので少々お待ち下さいと言われたので、席に座って待つ。その間暇なので、矢立てを取り出し、温泉宿に関する改善案の加筆修正を行う。暫くすると、昨日も顔を見た従業員が色々満載な皿を持ってくる。


「おはようございます。男爵様。飼われている狼の食事ですね。お待たせ致しました」


 そう言いながら、血液と内臓系とイノシシっぽい塊、鶏頭の炊いたのをくれる。鶏頭までは話をしていなかったと思っていると、視線を感じたのか答えてくれる。


「犬を飼っております者に聞くと、成長期には必要と聞きましたので。今回ご用意致しました。鶏も大量に扱っておりますので、お気になさらず」


 聞きながら(くちばし)を指で摘まむとぶちゅっと潰れる。また、丁寧に炊いてくれている……。面倒をかけた。


「ありがとう。助かる」


「いえ。そろそろ皆様、ご起床でしょうから、食事の準備も始めるよう致します。半時(はんとき)程後でしたら、温かい物をご用意出来ます」


 そう言うと、従業員が頭を下げる。お礼を告げて、皿と骨を預かる。部屋に戻ると、匂いを感じたのか、タロがそわそわと箱の端で、こちらの様子を伺う。皿を置き、タロを箱から取り出し、お座りを宣言する。


 <告。『馴致』が1.00を超過しました。>


 ありゃ?また、いきなりな。今のお座りか?まぁ、徐々に上がっていたからいつかはと思っていたが驚いた。タロが不思議そうにこちらを見るが大人しく座っている。


 良しと伝えると、皿に近付き、食べ始める。


『いのしし、ち、うまー!!しゃくしゃく、うまー!!』


 今日はイノシシの処理中に出た血も含まれているのかな?鳥頭の水煮は本当に気に入った。食感が好きらしい。便も白っぽい物では無いので、カルシウムの量も過剰ではないと思う。

 海の村を出た辺りからか、毛並みの感じも変わった。ちょっとモフモフ感が増えた。食生活が改善したからか、体格に伴って、色々と変わっている。


『はぅぁ、とり!!とり、うまー!!』


 まぁ、本人の性格は全く変わっていないので、感覚は子犬のままだが。ただ、甘噛みにせよ何にせよ、手加減もきちんと出来るので良い子にはなっている。そろそろ本気でおもちゃを噛むと噛み砕きそうな気もする。

 結局皿まで舐めて、水を飲むと落ち着いた。また、背後からひょこっと白い物を出して、引っ込める。


『ほね!?』


 しっぽが振られる。飽きないな、タロも。骨大好きっ子だ。渡すと、箱の中で、もうどたんばたん楽しむ。その音で目が覚めたのか、リズが起き上がる。


「おはよう。あぁ、宿だった……。起きるの遅かったかな?」


「大丈夫。今、朝ご飯を作ってもらっているから。ゆっくり休めた?」


「うん。大丈夫。凄い、まだほかほかしている感じがする」


 リズがそう言いながら、自分の体を抱きしめる。この世界の人間は寒さにも慣れているか……。私は寒くて起きちゃったけど。


「温泉の成分的に、温まった状態が長く続くから、そう思うのかも。さて、食事がそろそろ出来る筈だから、皆を起こしに行こうか」


 そう言うと、リズが頷く。私はロットやドルやレイ達を起こしにノックする。皆、きっちりと浴衣を着こみ直している。昨日食事中に改めて着付けは説明した。


「さて、朝ご飯を食べよう」


 皆で連れだって、食堂に向かう。食堂では丁度、総責任者達も食事をしていたので、皆を先に座らせ食事を頼む。


「おはようございます」


「おぉ、おはようございます。男爵様。ゆっくり休めましたでしょうか?」


「えぇ、助かりました。あぁ、そう、今回拝見して、ちょっと直して頂きたい事が」


 改善案を記載した紙束を総責任者に手渡す。それを総責任者が失礼と呟きながら、ぱらぱらと見始める。


「ふむふむ。いや、助かります。細かい部分は注釈でも不明な部分が多かった為、後に回しておりました。はい。頂いた内容を元に改善を行います」


「お手数をおかけします。よろしくお願いします」


 そう言って、握手を交わす。席に戻ると、丁度配膳が始まっていた。


「ん? どうかしたの?」


 リズが、首を傾げる。


「宿泊して見つけた問題点を総責任者の人に渡してきただけだよ。さぁ、食べようか」


 配膳が完了し、皆で食事を始める。朝からしっかりと肉、野菜も食べられて幸せだ。やはり、交易の中心として栄えさせて行きたいな。


 皆が食事を完了したのを見計らい、今後の予定を説明していく。


「基本的には、荷物を片付け次第、村に戻る。そこで一泊し、私は子爵様に報告の為、町に出る。皆はその間完全休養となるけど、訓練等は推奨する。また、等級の低い依頼なら好きに受けてくれれば良いよ」


「もう、結構稼いでいるから、低い等級のは良いかな……。熊も寝ている最中だし。会ったら逆に超危険だと思うし」


 フィアがうんざりした顔で言う。


「はは。そこは任せる。特にドルに関しては、重装の開発を続けて欲しい。もしかすると、リナも一気に重装化した方が良いかも知れない」


 そう言うと、リズとドルが頷く。


(それがし)もで御座るか?」


「んー。装備的に重さを感じていないでしょ? それにまだまだ余裕が有るなら、危険は下げた方が良いよ」


 若干苦笑を浮かべながら、答える。リナは色々考えて、やがて頷く。


「まぁ、胸が何とかなる鎧で御座ったら、問題無いかと」


 そう言った瞬間、ティアナとチャットがじっとリナの胸を見て、自分の胸を見る。いや、チャットはともかく、ティアナは問題無いかと。チャットは種族特性的な……。


「カビアはフォローを頼めるかな? レイは休み無しで申し訳無いけど、よろしく頼む」


 2人はにこやかに頷く。


「では、動こうか」


 席を立ち、そう告げる。皆で部屋に戻り、荷物を持って温泉宿の入り口に出ると、レイが馬車を回してくれる。荷物を載せ始めると、総責任者達が現れる。


「戻られますか。子爵様へのご報告と思いますが、どうぞよろしくお願い致します」


 総責任者が頭を下げて告げてくる。


「はい。皆さん頑張って下さっている旨、お伝えします。引き続き、よろしくお願いします」


 そう言うと、皆が頭を下げてくる。


 馬車に乗り込み、幌から顔を出して、手を振る。次に来る時は引き渡しの時かな?まぁ、また会えるだろう。そう思いながらにこやかに手を振り続ける。


 馬車は一路、村に向かって進みだす。小雪の中、積雪を器用に避けながら、スピードを上げて行く。補給はレイが行ってくれている。予定通りなら、村まで3日後だ。アスト達に会うのも久々な気がする。楽しみだな。


 5日、6日と問題は無かった。雪の中なので、採取や狩りは難しく、在庫から食事を作っていく。最低限タロ用の狩りだけはしている。羽を毟ったら、もうそのまま齧りつくようになった。胃や腸の中身も狼にとっては重要な栄養素だ。首の細い骨なども器用に噛み砕いて食べていく。


『とり、うまー!!』


 うん、喜んでいるようで良いか……。ちょっと食べる量が多めなのが気になるが……。成長期とは言え、太りそうな気がする。その分、ホバーで延々散歩をするようになった。成長して散歩の距離も伸びた。km単位でてくてく出来るようになった。ただ、将来的には30kmとかになるのかぁ……。


 そんな感じで7日の昼過ぎだろうか。


「男爵様。前方3km程に不審な人間が数人待機しています」


 レイが馬車の速度を緩めながら、言ってくる。


「数人? 盗賊にしてはかなり少なくないか?」


「はい。気にして追っておりましたが、方角としては道の真ん中ですね……。何かの問題の可能性が高いです」


 また、もう町の傍と言うのに珍しい。皆に注意を促し、幌から前方を確認しながら進む。


 現場に辿り着くと、車側の整備が悪かったのか、車輪が破損している馬車が路肩に止まっていた。


「おぉぃ。大丈夫か? どうした?」


 声をかけると、馬車の裏から男女数人が出てくる。警戒は解いていないが、周囲に伏兵もいなさそうだ。


「貴族様ですか? 道の邪魔をして申し訳無いです。行商の途中でしたが、馬車が壊れてしまい、困っております」


 責任者らしき男性が、代表して話しかけてくる。車内の人間に襲撃の警戒は続けるように手振りで指示をして、馬車を降りる。レイと武装済みのリナが一緒に降りてきた。まぁ、『認識』先生に聞いても一般人だ。護衛役なのか1人だけ、冒険者か傭兵っぽいのがいるが、リナ1人で制圧可能だろう。


「素性と、いつからこの状態で、どのような対応をしたのか教えてもらっても良いかな?」


「はい。(わたくし)共は、行商の者です。車輪の異常は今朝からです。破損に関しては二時程前でしょうか。修理するにも部材が切れて対応が出来ない状況です」


 4日程度の距離とは言え、迂闊な。見た感じ、そこまで金が無い感じでも無い。命を左右する物に金をかけない程貧窮しているようには見えないが……。


「レイ、歩きだと村までどの程度かかりそうかな?」


「そうですね……。急ぎ足で1日程度ですね」


 この馬車で後3時間以上かかる。朝から歩いて夜遅くと言ったところだろうか。それを聞くと、責任者の顔が曇る。


「部材などが余っておりましたら、お売り頂けますでしょうか? 仮の車輪でも有ればそれで村までは向かえますので……」


 頭を下げてくるのは良いのだが、そもそも用意出来なかった、しなかった理由は何なのかが気になる。


「ここの道は4日か5日はかかるのは分かっていた筈だが、予備の部材は無かったのかな?」


 そう聞くとばつの悪い顔で責任者が答える。


「いえ、何度かこの道は通っておりますので、油断しました。荷物の積み込みを優先し、修理部材を忘れておりました……」


 荷馬車の下を覗くが、保守に出しているのかも怪しい。車軸も当たる部分が削れて歪んでいる。なんだこりゃ?行商人って、もっと注意深いぞ?何者だ、こいつら。


「レイ、ちょっと見て欲しい」


 レイを車体の下に呼んで小声で話をする。


「これを見てどう思う? 普通の行商人ならこんな使い方はしないと思うんだが」


「これは……。推測ですが、かなり長い旅を保守も無しで続けていますね……。まともな商人なら、こうはなりません。その前に手入れをするでしょう。事故が起きれば命に関わるのですから」


「だよなぁ。何者だ、こいつら? 全く分からんのだが」


「手練れも見るところ、1人。それもそこまでの相手では無いでしょう。男爵様のお仲間であればどなたでも制圧出来ます」


「となると、ますます正体が分からない。この道を抜けると考えたら、正規の護衛なら3人はいないとおかしい。雇えないなら、大きな隊商に混ざる筈だ。なんだかちぐはぐだ……」


「どうなさいますか?」


「んー。どこの領民かで問題になりそうだが、怪しすぎる。厳密には権限は無いけど指名権は有る。ここも子爵様の領地に入っているが警察権は子の私も事後承諾で振るえる。男爵の権限で臨時検査扱いで制圧するしか無いか……」


「畏まりました、私は馬車の中にその旨を伝えます、行動の際にご指示をお願い致します」


 そう言うと、レイが馬車の下を抜けて、幌に向かう。


「責任者の方ですか? これ、車輪を代えてもすぐに壊れます。そもそもいつから修理に出していないですか?」


「それは……」


 責任者の額に汗が浮かぶ。ますます怪しい。こちらの馬車の方で武装の音が微かに聞こえる。それに気づいたのか、手練れ一人が剣を抜く。


「馬車の様子がおかしい!!お嬢様を守れ!!」


 そう叫ぶなり、女性を背後に押し込む。責任者も飛び退って、女性の警護に回る


「私は男爵です。これに関しては馬車を見て頂いたら、そのままそうです。で、貴方方(あなたがた)は行商と名乗っているが、実態が伴っていない。私もこの子爵領の元で働いています。嘘を吐く相手に容赦は出来ないんです」


 そう言った瞬間、馬車から仲間達が走り出し、周囲を取り囲み、じりじりと包囲を縮める。


「本当の事を言うなら良し。このまま押し通ると言うなら、容赦無く制圧します。決断しなさい」


「もう良い」


 こちら側が制圧を仄めかした途端、背後の女性が顔を隠していたフードを上げて前に出る。歳は20を超えた程度か?まだ若い感じだが、目は大分荒んでいる。


「男爵と申したか。ここはノーウェ子爵領の筈。と言う事は、最近名が売れているアキヒロ殿と見受ける」


 んー。この喋りだと、向こうが高位の貴族か?


「テラクスタ伯爵が一子、ベティアスタだ。東の国にて留学しておったが、故あって伯爵領に戻る最中だ。制圧の必要は無い」


 そう言うと懐から紋章を取り出す。海の時に紙に書かれたのを見た覚えが有る。カビアも確認し、頷く。右手を上げて、包囲を下げる。


「ベティアスタ様ですか。この方角ですと子爵様の村、町に着きますが。どのようなご用件かお伺いしてもよろしいですか?」


「故あってと答えたが? まぁ、この状況では仕方あるまいか……。子爵、いやロスティー公爵閣下に関わる話だ。」


「お聞きしない方が良いですか?」


「聞かぬ方が身の為かもしれぬ。馬車は駄目か?」


「はい。車輪の予備などこちらにも同規格の物は有りませんし、代えてもすぐに軸が折れます」


「無理が祟ったか……。荷物を馬に乗せ換えろ。必須の物のみで良い。残余は馬車に残せ。林の奥に車体ごと詰めて置け。後日子爵に対応を任す。アキヒロ殿、1点願いが有る」


「願いと仰いますと?」


「急ぎで子爵と面会したい。馬車に乗せてくれんか? 礼はまた後程する。後続はこのまま馬で移動させる」


「予定では、本日中に村に到着。一泊後、明日町へ移動し、夕方辺りに到着予定です。その期間で間に合いますか?」


「重畳。こちらの馬車では後4日か5日を予定しておった。公務の最中済まぬが、こちらも火急の要件でな。私1人で構わん。兎に角子爵と話がしたい」


 んー。伯爵と言っても子供に権利なんて無い。ただ、信用がおけるのと教育が出来ると言う事で、子供を部下に使っている場合も有る。略式じゃ無く、紋章も出されたし、徴用されたのと一緒か。まぁ、ついで仕事だ。犬に噛まれたと思って諦めるか。


「公務と言っても、視察明けで報告に戻る最中です。狭い馬車ですがご容赦を」


「ふん、下らん冗談だな。先程の兵の練度といい、噂には違わぬようだな。では、失礼する」


 そう言うと、ベティアスタが足をかけ、馬車に潜り込む。


「ん? 靴を脱ぐのか? また珍しいな。まぁ、良い」


 いそいそと靴を脱ぎ、ベティアスタが座り込む。


「では、頼む」


 そう言われたら、しょうがない。向こうの人間とはレイとカビアが話をしてくれたようだ。馬車も片側に重心を乗せて、なんとか林の開いた奥に押し込んでいる。


 用意が完了し、レイが御者台に座る。


「では、出発致します」


 そう言うと、緩やかに、スムーズにスピードを上げて行く。


「ほぉ、これが子爵領の新型か。面白いな」


 ベティアスタが呟く。あぁ、何か面倒ごと拾った気がする。ノーウェ、ごめん。

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