第257話 外人さんの浴衣がはだけていると、直したくて気になります
そのまま抱き寄せて、腰に手を回し、密着して、強く唇を吸っていると、ノックの音が。
「はい、なんでしょうか?」
ざっと離れて、声を返す。
「ん?どしたのリーダー。食事、そろそろ行こうかって。超お腹空いたー」
フィアの呑気な声が聞こえる。むむむ、惜しかった。もう少しで……。
「ちょっと待って、タロが……」
と、振り返ると、タロが骨を抱きしめてそのままスヤァと寝ていた。お腹いっぱいで遊んだら、寝るか……。骨を抜いて、毛皮をかけ直してあげた。
「ん、出るよ」
鍵を取り、リズと一緒に部屋を出て、フィアを見た瞬間、顔を覆って下を向いた。おぉぃ、はだけ過ぎ。何が有った。横を向くとロットも同じような状況。しかも、ロットからリズと同じ香油の香りがほのかに香る……。あぁ、こいつら……。この短時間でこん畜生……。
「リズ、この服の着方覚えた?」
「うん、大丈夫」
リズが頷く。
「ごめん、フィアを直してあげて」
「え? 直せるの? 良く分かんないからどうしようかなって」
フィアが朗らかに笑う。私はロットを引き連れてロットの部屋に戻る。まぁ、確かにいつもと違う格好にむらむらするのは分かるけど……。
「一回、腰の紐を外して、そう。で、布を内側に巻き込んで反対側で押さえて、そう。そのまま巻き付けた状態で、紐を縛る。どう? そうそう」
「なるほど……。これは楽ですね。いや、先程はもうささっと着せられてしまったので、何が何やらで」
ロットも朗らかに笑う。この2人、似た者同士になっているんだが……。副リーダー、大丈夫か?
ロット達の部屋を出て、私達の部屋をノックする。
「リズ、どう?」
「大丈夫、直した」
そう言って、きちんと整ったフィアと一緒に出てくる。
「これ、着るの簡単だし、超楽だね。欲しいかも」
えー。これもお土産物屋さんに並べるの?何かお土産物屋さんが混沌としてきた。仕入れとかの目的はシャットアウトしないと駄目だな。100着くれとか。
その後は各部屋をノックし、皆を呼んでいく。何というか、浴衣にブーツって合わんな……。やっぱり下駄も開発しないと駄目か……。スリッパは面倒だ。布スリッパなら良いけど。使い捨てだしなぁ。
ちなみに、水虫も神術で治るっぽい。私は水虫ではないが、湿地帯メインの冒険者の人に聞いたら、やっぱり感染、発症するものらしい。ただ、きれいさっぱりすぐに治るので、さっさと教会の門を叩けとの事だった。
皆でぞろぞろと食堂に向かう。途中で職員の人に会ったので話をすると、誘導してくれた。中規模の個室に案内された。20人程度用で設計したが、丁度良い感じかな。
「すみません、日替わりになりますがよろしいですか?」
厨房のスタッフが申し訳無さそうに言ってくる。
「内容は何でしょうか?」
「本日は鳥ベースのニンジンのスープと、イノシシのソテーですね。パンは小麦です」
皆がそれを聞いて、ふんふんと頷く。
「はい、それでお願いします」
そう答えると、畏まりましたと頭を下げて、すっと厨房の方に向かう。ふむ。接客は大丈夫そうかな?マニュアルからは外れているけど、まだ教育は始まっていないのか、厨房スタッフなのかも知れない。
待つ間は、お風呂の話で盛り上がる。
「熱くてちょっと倒れそうでした」
珍しくロッサが口火を切る。
「建物の中のお風呂かな?」
「はい。皆さん普通に浸かっているんですけど、もう、倒れそうでした」
リズも熱いって言っていたな。やっぱりちょっと熱すぎだ。
「私は丁度良かったわよ?」
ティアナは平然と答える。まぁ、サウナ慣れしているし、熱いのは大丈夫なのかな?
「うちも駄目です。外のお風呂は良かったんですけど」
チャットも突っ伏して、手をひらひら振っている。駄目らしい。
「某はサウナが駄目で御座ったな。毛の中が熱くて堪らぬ。途中で倒れるかと思ったで御座る」
リナも苦笑しながら話に混ざる。
「カビアも熱いのは苦手っぽいかな? でも町だとサウナに入っていたんじゃないの?」
「いえ、浴場に行く事はほとんど無いです。家でお湯で清めるのがほとんどです」
元々あまり浴場自体も好きではないらしい。ほもぉな感じで危険なのか?でも、この世界で同性愛者ってまだ会った事は無いな……。
「しかし、露天風呂か? あの解放感は良いな。空の下、樽とも違う広々とした風呂に浸かるのは良い」
ドルは露天風呂を気に入ったか。チェアに座っては風呂に入るを繰り返していた。
「あ、露天風呂は良かったです。気持ち良かったです」
ロッサがそう言いながら、ドルと露天風呂の良さを語りだした。
暫くすると、スープとパンが先に出てきた。
「まぁ、折角の機会なので、ゆっくりしましょう。では、食べましょう」
そう告げて、紅っぽい橙色のスープを掬う。固形感は全く無い。これ、裏漉ししたのか。口に含むとニンジンの青く甘い香りが一瞬来た後に、濃厚なトリガラの出汁の香りが来る。それも沸騰させずにじっくりと香味野菜と合わせて出汁を取ったんだろう。雑味も無い。青空亭のニンジンポタージュも美味しかったが、これは全く違う。はぁ、レシピは書いたけど、きちんと完成させるもんだな。
「これ、美味しい。青空亭のよりも美味しいかも」
リズも思い出したのか、驚いている。
「え? あの宿こんなの出してくれるの? 食べた事ないよ?」
フィアがえーって感じで言うが、特別な一品だ。普通には出ない。
「大切な日専用だからだよ」
そう答えると、リズが頬を染めて俯く。
「しかし、ニンジンだけでは無く鳥の味もするで御座るが……。具は無いのに満足感は有るのが不思議な感覚で御座るな」
リナはポタージュは初めてなのかな?
パンもお昼と同じく、焼き立てっぽい。パン窯も作ったので、それの試運転も兼ねているのかな。そうこうしている内に、メインが出てきた。
「うわ……。立派ね……。中まで焼けるのかしら……」
ティアナが思わずと言った感じで呟いた。何というか、分厚いイノシシのソテーがでんと皿に乗っていた。
取り敢えずと思って、フォークを刺すと何の抵抗も無く刺さる。え?ナイフもすっと入る。あー、これ周りを焼き固めて蒸したな……。しかも大分脂も落としている。それから香辛料を付けて焼いたか……。確かに蒸し料理のレシピは書いたが、応用もしちゃうか。やるな、あの子。
そう思い、一口大に切り分けて、口に含む。野趣溢れるイノシシの匂いが一瞬通った後に、香辛料の一つ一つが主張し香りを上げる。その後に脂の甘みと塩気が来る。噛むと閉じ込められた後に蒸されて蕩けた脂と肉汁が合わさった物がじゅわっと口に広がる。煮豚ともまた違う何とも言えない食感だ。
「美味しい……です……」
思わずと言った感じでロッサが呟き、呟いた事に驚いた顔をしている。
うん、美味しい。驚いた。脱帽だ。豚ではこの味は逆に出せない。もっとのっぺりと平坦な味になる。イノシシだからこそだ。
「ソテーよね? 全然違う料理を食べている気がするんだけど……。ここの厨房もリーダー仕様にするつもりかしら?」
ティアナが苦笑しながら、こちらに呟く。
「レシピは渡したけど、これは応用だよ。良くやるよ。私も驚いた。この調理法は教えていない」
そう言いながら、皆でワイワイとこの旅や人魚達、お風呂の話題に花を咲かす。酒を飲んでも良かったが、まぁ、そんなサービスまで求めるのは酷だし、村に戻れば飲める。
美味い食事を楽しみながら、ここ数日の疲れを癒す。人魚達との晩餐とも違った、優しい雰囲気に包まれて、ゆっくりと楽しく夕ご飯を楽しめた。