第23話 空を自由に飛べるのか?
ソファーに腰かけお茶を飲んでいると、頭の怠さと気持ち悪さが徐々に回復し始めた。
「これ、連発出来ないな」
ふらつく頭を押さえながら、呟く。
「『術式制御』が上がれば、魔力の変換効率と共に精製度も上がる。そうすりゃそこまで体力を削られる事もねぇよ。後、どんなイメージしやがったのか分かんねーが、風であの圧縮は無茶だぞ。的に当たった瞬間、貫通しながら異常に解放されてやがった。密度と速度が有るから的に潜り込むし、圧縮開放が有るから、内部で爆散してやがる。あんなん頭に当たったら、形も残らんぞ」
貫通性能より面への影響を上げようと思って平らにしたけど、ホローポイントみたいに、凹ました方が良いのかな。
「まぁ、これが初歩の初歩の単術式だ。多重術式やら並行術式やら継続術式やらも有るが、お前さんにはまだ早い。他にも色々有るらしいが、俺も魔法学校中退でな。いきなり徴兵された身分なんでな」
「多重術式?」
「将来の為のお勉強か。ちょっと待ってろ、用意する」
パーディスが新しい的を立てる。
「属性土。単位5g。形状は直径5mmの球状。具現数を10に固定。右手上部20cmを中心に円周に固定。前方に向かい射出、速度は時速150km。接触後1秒にて魔素に変換。実行」
バースの右手の上に10個の石が浮かんだかと思った瞬間、バガンッと言う派手な音と共に的に綺麗な円周の穴が開いていた。
「俺が得意なのは土でな。実家が石工業だったんだわ。単術式だと具現する事象は単数だが、多重術式なら数を作れる。単体毎に挙動を変えたりも出来る。今回は面倒臭かったからそのまま円周で固定したがな。パーティーだと背後から撃つ時は曲げたり、複数対象に同時に当てたりと必要なんでな」
何だろう、今の状況だと頭が追い付かない。新人類の人っぽい才能が必要なのか?
「並行術式は他の術式と並行して発動が可能だ。ただこれは無詠唱が前提になるな。継続術式はそのままだ。終了条件が適用されない限り効果を発揮する。風なら昔、空飛んでた奴がいたな」
操縦桿2本で遊ぶロボットゲームみたいな挙動が出来そうな気がしてきた。
「まぁ、当面は単術式で自分の限界を図りながら、『術式制御』を上げれば良いさ」
結構まともな先生をしてくれる。
「授業料はどれくらいなんだ?」
私塾だから結構取られそうな気がする。
「生業はなんだ?傭兵とかか?」
「冒険者。10等級だ」
「駆け出しかよ。そんなんから金なんて取れんよ。せめて8等級超えれば受け取ってやるが。仕事が空いている時は相手してやる。それで良かったら、また来い」
気持ちの良い兄さんだった。
「これからよろしくお願いします。師匠」
「ははは。柄じゃねぇ。パーディスで構わん。若く見えるが歳はそう変わらんだろ?」
「じゃあ、パーディスさんで」
「おう、よろしく。面白ぇ新人だな」
「ありがとうございました」
辞去してから何をするか迷う。村の中で出来そうな依頼が有るか、冒険者ギルドに向かう。
扉を開けると、結構人が屯していた。雨の時は皆考える事は一緒か。
依頼票を確認しようと掲示板の方に向かうと、
「ちょっとあんた!」
赤髪のきつい目をした女の子が声をかけて来る。
面倒臭いので無視しようかなと思っていると、袖を掴んでくる。
「あんた、魔術士でしょ!?」
結構失礼だなこの子。
「あの……。すみません……」
か細い声で、横から黒髪の女の子が現れる。かなりおどおどしている。
「魔素と魔力の循環がきれいなので……魔術士の方かと思いまして……」
見てみると、確かにこの子も周囲の魔素と取り込み魔力に変換、発散しているのが朧げに見える。
「いや。違います」
厄介毎に巻き込まれたくない。
「あんた!私が、7等級のアリエが声をかけているのよ?ちゃんと話を聞きなさい」
「私10等級なので、お仕事を一緒にする事も出来ないでしょう。なので、お断りします」
まだごちゃごちゃ言っているのを黒髪の女の子が宥めているようだ。
取り敢えず君子危うきに近寄らないで、依頼票を探す。
正直、皆同じ事を考えるので目ぼしい依頼は全く無かった。
しょうがない。気を取り直して村外の空き地を探して、魔法の練習をしよう。
ギルドから出ようとすると先程の赤髪の女の子に物凄く睨まれた。
何なんだ。
ふぅ、雨も降っているし今日は興が乗らないな。